188 降臨せよ!
タールは盾をちゃんと活用して行動し始めた。最初からそうしてくれってんだ。するとその時だった、新光騎士団の連中が、後ろを振り向いては「おお!」とか「来たぞ!」とか、騒ぎ出したのだ。何が到着したのか、暗いし、雨風がすごくて見えやしない。
彼らの奥から、のそのそと現れたのは、でっかい蜘蛛だった。俺は小さい頃から蜘蛛が大嫌いだ。手を噛まれた事があるからだ。恐ろしい敵の援軍に、俺の両手はみるみるうちに震え始めた。
『なんでだよ、なんで蜘蛛なんだよ……』
しかも、何体もゾロゾロと現れやがった。戦闘用ボットなのなら、銃の本体に足がついているようなシンプルな、それっぽい姿でいて欲しい。どうして蜘蛛?きっとあれの開発者は変態に違いない。デザインには性格が出るものだ、わざわざ蜘蛛を選ぶなんて、独占欲が強くて、夢想家で、隠れスケベの人間に決まってる。俺は絶対にそう思うね。
と、考えていると、その蜘蛛たちは俺らに向かって突撃して来た。物凄い速さで、移動を開始して、タール達に飛びかかっている。
『やばいぞスコピオ!これはやばすぎる!』
ああ、そのようだ。防水防風防塵な上に、且つ耐衝撃のようだ。タールが足元に来た蜘蛛をハンマーで叩いたが、それはびくともしていない。しかもその後、タールは蜘蛛にタックルされて、吹き飛んでしまった。
新光騎士団の連中はそれを眺めて、銃撃をやめて楽しげな様子で観戦している。余裕そうだな、確かに、俺が相手だったら、ポップコーン片手に見守っていた事だろう。ダメかな、と思いながらも一応狙撃したが、銃弾が当たってもびくともしなかった。こりゃまずいわ。俺はウォッフォンに叫んだ。
『まずいです、まずいですとも!緊急です!謎のボットに襲われていて、かなりのピンチを迎えています!ジェーン様、お助けを!』
するとすぐに、ジェーン様の麗しい声が、兜のスピーカーから聞こえた。
『ボット……それはどう言った形でしょうか?』
『があああああ!』
しまった!俺の足に蜘蛛が噛み付いていた!いやいや、高所恐怖症の人間がユークにある遊園地のジェットコースターに乗ったらどうなる?はたまた、閉所恐怖症の人間が、棺桶に閉じ込められたらどうなる!?俺は今、まさにその状況なのだ!すぐに白目を向いた俺は、パニクってハンドガンの銃身で何度も蜘蛛を殴るが、俺の足に噛み付いて離してくれない。
『スコピオ!どうなさいましたか!?』
……ああ、彼は優しい人なのだ、俺は感動して泣いた。
『ジェーン様、俺はもうダメです。俺は短い人生、ジェーン様に会えてとても嬉しかった、刺激をもらえた。火山測定装置、あれはエンジェル。まるであなたの人格そのものを具現化したような、繊細で美しい機械です。あれを守り、繋ぎ、研究する。俺はとても幸せでした。』
『スコピオ、落ち着きなさい。まだあなたは死なない。』
『でもね、どうして』俺は泣いた。ボロボロと泣いた。『どうしてよ、どうしてキルディアなんかを相手に選んだんだ!もっと俺とかを選んだ方が、ストーリーが進んだでしょうが!こんな戦に顔突っ込まなくても済んだんだ!しれっと素材を集めて、しれっとさ、一緒に研究出来たんだ!どうして俺じゃダメなんだ、ジェーン様!』
『……何から申せばよろしいのか。あなた、正気ではありません。して、そのボットの詳細を教えなさい。』
『いやあああ俺の足が噛みちぎられる!なあジェーン様、俺の足が無くなったら、ジェーン様が新しいの作ってくれるのか?良いよなそれで!キルディアと同列の扱いしてほしいよ!俺だってソーライと業務提携結んでるグレンの所長なんだから!』
『お前さあ、さっきから俺が頑張ってんだから、笑わせんなよ……ふはは!』
横入りして来たのはタールだった。ハンマーで蜘蛛と戦いながら、俺の発言にツボっている。そんなの知らん!俺は今、もう死にそうなんだ!
『……スコピオ』ジェーン様の冷静な声が聞こえた。俺は涙目を閉じて、耳を澄ませた。『簡略化して伝えます。私の相棒はキルディア一択であり、あなたを殺そうとしているボットの詳細が知りたい。援護をしますので、早く。』
『援護と言えば!』俺は叫んだ。『援護と言えば自警システム、自警システムと言えばドクタースローヴェン!あれも許せない……あれだって、俺よりも若いくせに、ユークのトンネルのシステムを一新するってプロジェクトを、あなたから任せられて!俺だって『選択外です。』選択外なんでしょうけれど!どうして俺は、あいつのサポートをしなければならなかったんです!?俺だって、俺だって……グレンの磁気砲を知ってるでしょう!?そうだ、そうだ!それを今、あの蜘蛛に当てます!だから、もしそれで、あいつがバグったら……ジェーン様、今後は俺と結婚してください!』
『ああ良いですとも、さあどうぞ。』
……え!?まじで!?結婚はちょっと奇抜な表現をしちゃったなと思ったけど、ジェーン様がそれで良いなら俺もそれで良いや!男同士っていうのが俺的にはネックだし、彼女には別れを告げなきゃいけないけど、ジェーン様と一緒に研究出来るってことは確定だろうし!俺は気合を入れて、部下からグレンの磁気砲を受け取り、それを、足をかじっている蜘蛛に向かって発射した。
しかし現実は切ないものだった。びくともしなかった。俺は、ちょっと悲しくなった。
『結果は?』
『……ダメでした。』
『でしょうね。まあ万が一、効いたとしても、あなたと結婚?はは、面白い冗談でした。私にはそう言う趣味はありませんし、あなたの家庭教師になるつもりもない。』
『じゃあさ、キルディアだって、ジェーン様と比べると劣っていますよ?彼女も選択外でしょう?』
『私よりも劣っている?馬鹿も休み休み仰いなさい。あなたは一枚の薄汚い定規しか持っていない、視野の狭い人間です。彼女と比べるまでもない。もしあなたがキルディアだったら、早くそのボットの特徴を述べていることでしょう。さあ早く、言いなさい。』
『薄いは分かるけど、汚いはつけなくても良かったでしょうに。もう良いです、蜘蛛型です……うえええ。』俺は泣いた。こんなに言われるなら、死んでも良いと思った。結構本気で。しかしジェーン様は、意外な一言を言った。
『よく出来ました。あなたを評価します。もう少し、その地で辛抱してください。あなたが頼りですから。』
『ジェーン様!?うあああああ!』
叫んでいる途中で、プツッと通信が切れた音がした。俺は、もう一度生きたいと思った。ジェーン様にもっと褒められたい。だから、俺に噛み付いているボットを何度も殴った。こんなとこで死ねない。
するとタールが駆けつけて来て、ハンマーで足元の蜘蛛をぶっ叩いてくれた。一瞬怯んで、その隙に俺は脱出した。足首のプロテクターは切断寸前でプラプラだった。危ない危ない!
『ありがとうタール!やっぱお前だけだよ!』
『お前ふざけんなよ、ジェーンに求婚してたくせによ!ははっ、まあ面白くてさ、励みになったよ!しかしまあ、このままだとまずいな。』
気づけば、辺りは蜘蛛ボットで陣を掻き回されて、めちゃくちゃ乱戦状態だった。加えて騎士の連中は、防弾シールドの隙間から射撃を開始している。撃たれて動けない奴もいた。明らかに状況が悪すぎる。俺は皆に言った。
『援軍が来るから、それまでなんとか持ち堪えよう!』
『そうだ!』タールの大声が聞こえた。『お前ら意地を見せろ!援軍が来るまで、ここを動くんじゃねえ!ボットがなんだってんだ!イッテェ!?』
その時、タールが肩を撃たれてシールドの影に倒れ込んだ。やばい、タールが抜けたら大変だ。俺が心配で見守っていると、タールは肩を押さえながら、再び立ち上がった。
『くそ……おい、誰も心配するなよ。俺は大丈夫だ。良いか!この地を相手に譲るってことは、ハウリバー平原を譲るってのと同じことだ!ハウリバーの意地を見せろ!』
『オオッ!』
タールが見事な鼓舞をし、兵達の士気が上がった。もう、彼が隊長で良いんじゃないかな。ひねくれた気持ちを持ちながらも、俺は応戦した。しかし俺たちは混戦の中で、なんとか耐えようとするが、けが人が続出して、だんだんと活気が消えていった。すかさず騎士はジリジリと迫り、押され始めている。もしや降伏も見えた、その時に、彼らはやって来た。
『お待たせちゃ~ん!』
『ああっ!マクレガァァアア!』
マクレガーらシロープの漁師達が、馬車で何かを大量に積んで、俺らの後ろに到着した。キラキラした目で俺は彼に近づくと、彼らは荷台の箱を開けて、その中に入ってた棒を俺にくれた。
『ほら!これで蜘蛛ボットはイチコロらしい!』
『これ~?本当か?』
俺はすかさず、こちらに向かって突っ込んできた蜘蛛に向かって、その棒のスイッチを押した。途端に、物凄い放電が発生し、大雨の影響もあって、電力が増幅されて、棒の先っちょからは、すだれ雷のような強力なものが放たれた。それをモロに食らったボットは回転した後、すぐに爆発した。俺は笑顔になった。
『よし!これでボットを破壊しまくるぞ!ついでに奴らの陣も破壊してやれ!さすがジェーン様だ……っ!?あああああ!』
あ。……降臨した。天を裂く光、閃きの大天使、俺は激しく瞬きをした。
『だ、大丈夫か!?』
『大丈夫だマクレガー。こいつ時々、急にこうなるんだよ。ったく、今かよ。』
俺は立て膝をついて、天に両手を伸ばした。聖詠なる方程式よ、雷光烈雨の刹那の間に、我の知恵と見識を糧にせよ!俺は、開眼した。そして、ウォッフォンで激しくメモを書き始めた。ふふっ、ふっふははははあ!ハアハア!
『またなんか閃いたのか?』
タールが電力でボットを壊しながら俺に聞いた。俺は頷いた。
『うん、閃いた。』
メモのついでに、さっき使ったその棒を見ると、こう書かれていた。
『ノーモアオヤジ狩り?なんだこれは。まあ良いや、これで俺は色々と得るものがあった。行くぞお前ら!ハウリバーの力を見せつけろ!』
『おおおおお!』
俺は積極的に敵陣に突っ込み、電力を放電しまくった。その間も、閃きは度々訪れ、俺はその度にシールドで隠れながらメモをした。気づくと俺らは、ボットを全て壊し、なんとか陣形を取り戻し、その場で交戦を続けることが出来たのだった。




