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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
救え!夜明けの炎と光編
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187 霊峰蒼雷戦

 これは、酷い天候だ。兵達は、ウォッフォンの位置情報を見る限り、順調に二つの山道を降下しているようだ。この豪雨の中、本当ならば、兵達には行かせたくは無かった。


 しかし今、このイスレ山で待機している我々の隊の総指揮権は、シルヴァ様にある。騎士団長とも言えど、大臣には従わなくてはならない。兵達が、この悪天候の中、外で戦の準備をしているのに、俺たちはイスレ山中腹の休憩地点に設置された、本部のテントの中にいる。


 やはり、俺は外で、前線で戦いたい。さすれば一気に、ジェーン、ギルバートの首を獲得出来るはずだ。今の俺には、あの武器がある。簡易的な机に足を乗っけて、つまらなそうにPCを眺めているシルヴァ様に、俺は頭を下げた。


「シルヴァ様、」


「何だ?」


「俺も、戦わせてください。」


「駄目だ。お前はここに居て、私の護衛をしろ。それに、お前が出しゃばっていたら、いつまでも兵が成長しないだろうが。」


 ……悔しいが一理ある。しかし護衛って何から守るんだ。訳が分からんが、従うしかないか。ならば、と俺はまたシルヴァ様に聞いた。


「少し、そこの展望所から、下の様子を見ても宜しいか?そこからですと、下が見えやすい。」


「施設の見張り台からだって、霧のせいで(ふもと)が見えない。どうせ霧で見えんだろう、お前はここにいろ。」


 シルヴァ様はPCに表示されていた地図を消した。何をするんだと見守っていると、何故なのか、彼女はネットを開いて、ブランド傘のページを閲覧し始めたのだ。こんな時に、傘か?雨だから欲しいのか?俺は少し、頭が混乱した。


「どうして傘を?」


 その一言にシルヴァ様は、俺がPCを覗いていたことを知った。彼女は俺に怒鳴った。


「あのねえ、質の良い傘は人生を美しく彩るんだよ!私は傘が好きなの。それをお前だって知っているだろうに、放っておいて頂戴!兵達がさっさとLOZの先頭部隊を撃破したら、敵本陣に突っ込むよ。」


「そ、そうですか……。」


 辛いものだ。俺は仕方なしに、ウォッフォンで地図を表示した。これでも位置を確認出来るが、少しズレがある。どうやらLOZの位置測定システムは完璧らしい。あのジェーンがいるからだろう。この位置測定システムは、彼の旧作だ。惜しい人材が、向こう側に行ってしまったものよ。


 地図を見て俺は、目を見開いた。先程からルミネラ隊もハウリバー隊も、動きが止まっている。俺はルミネラ隊の兵に連絡をした。


「どうした?動きが止まっているが。」


『それが……LOZの部隊です。先程、この地点で交戦を開始しました。連絡が遅れて申し訳ない。現在、我が隊は水属性メインの銃撃戦になっています。歩兵は雨で道がぬかるんでいて……まだ山道の中腹あたりで、兎に角、時間がかかります!』


 それを聞いていたシルヴァ様が怒鳴った。


「何をしているんだい!それじゃあ急いで奴らを攻めた意味が無いだろうが!」


『す、すみません……』


「全く、折角チェイスから指揮権を奪って来たのに、なんて事……!」


 俺は眉を(ひそ)めながら聞いた。


「この作戦は、チェイス元帥がシルヴァ様に委託したものでは?」


「はあ、」シルヴァ様が、でっかいため息をついた。「ヴァルガ。確かにこの戦い自体は、チェイスが決めて、チェイスがこの地を指定して、チェイスがあの忌々しきLOZの連中を誘き寄せた。でも、私が此処へ来たのは、チェイスの指示じゃなくて、私が決めた事よ?考えてご覧なさい、もぬけの殻のユークを攻めるよりも、LOZの殲滅に一躍した方が、手柄だろう?だから私はユーク行きを断って、こっちに来たのさ。はあ、そんなことも分からないで騎士団長をやってるんだから、あんたはめでたい頭してるって言われるのよ。」


 俺は今にも、彼女のことをぶっ潰しそうになったが、何とか拳を握ったまま堪えることが出来た。もし彼女を殴って殺してしまっては、陛下に処刑されて、俺の人生の目的である、ギルバートを倒すことが果たせなくなってしまう。怒りを堪える俺を尻目に、シルヴァ様が何か閃いた。


「そうだ!ハウリバー山道を下っている隊に、あのボットを追加しよう。研究所時代のチェイスが隠れて開発していたボットを、実は私が見つけて、こう言う時のために内緒で大量生産していたのさ。」


「ああ、あのボット。元帥は大変反省しているとかで、しかも初号機は何処かに行ってしまったとか。その設計図をどこで?」


「あんたに関係あるの?あのね、あの男のPCなんて、こっちで触り放題なんだよ。あれは私の僕なの。でも一つだけ開けないファイルがあったのよねえ、何なのかしらあれ。仕事用のPCでいけないものでも見てるとか、やだねえ、男は皆、獣なんだから。」


「勝手に見ては、幾ら上司でもプライバシーがあるのでは……しかし、戦闘用のボットの生産は、帝国の自然保護条例に違反して」


 シルヴァ様が一気に態度を変えた。


「あんたは本当に疎いね!チェイスが何も反抗しないで黙って帝国に、のこのこやって来たのは、その隠し事があったからだろうが!まあその設計図を使い続けていたのは、彼には内緒だったが。でもこれで、戦いに勝利すれば、私の功績が上がる。最近はチェイスのことばかり見ていたネビリス皇帝だって、私のことを漸く見てくれるようになるのよ、ふふ。」


 シルヴァ様はウォッフォンで指示を出した。


「技術班、ボットの投入を急いでおくれ。ハウリバー山道を血の海にするのよ。」


『了解しました。』


 ボットで血の海か、シルヴァ様も恐ろしいことをするものだ。俺はため息をついて、シルヴァ様に頼んだ。


「少し、展望所から下の様子を見て来ます。ボットの動きも見たいのです。」


 本当はボットになんぞ興味はない。しかし、こう言えば俺が外に行くことを、彼女が許可してくれると思った。案の定、俺がボットへの興味を抱いたのだと誤解したシルヴァ様は、好感を持ってくれた様子で、少し口角を上げて、答えた。


「……ふふ、あんたも私のやったことの偉大さ、それに気づいたのかい。そこまで言うのなら仕方ないねぇ、いってらっしゃい。」


 全く、この場を離れるのにも一苦労だ。この戦、どうなることやら。俺は急いでテントの外へ出た。土砂降りの雨、そして足を掬われるような暴風、展望所に着いた俺は、霧に包まれている山の麓を眺めた。暗い上に白く濁っており、全く何が何だか見えない。


 しかし、一際大きな風が吹いた時に、ハウリバー山道とルミネラ山道が見えた。それぞれ交戦中で、銃撃のレッド、スカイブルー、グリーンなどの魔弾の筋が輝いていた。その位置は思ったよりも、彼らが陣を置いたと思われる、キャンプ場寄りだった。シルヴァ様も、中々やるな、と俺は顎を撫でた。


 思ったよりも我々は戦線を押している。そして霧が流れて、キャンプ場に奴らの陣があるのを発見した。奴らも、今日は晴れだと思っていただろうに、突然の天候に何も準備が出来なかっただろうに。シルヴァ様の出したフェイクの天候ニュースも、中々役に立ったか。


 キャンプ場と、このイスレ山道の間に流れる川は、ハウリバー山道の橋とルミネラ山道の橋の下を通っている。その川は今にも氾濫しそうに、濁った水がうねっていた。その時、ピカッと水面が反射した。


「何もまた、こんな時に……。」


 あいつらはどうでも良いが、下で戦っている、俺の部下が心配だ。彼らにだって家族がいる。こんなところで、死ぬ訳にはいかない。


 すると、少し下方の収容施設から、シルヴァ様が言っていたボットと呼ばれる蜘蛛みたいな機械が何機か飛び出していくのが見えた。動きがリアルで、犬のような大きさの蜘蛛みたいだ。気持ち悪いが、素早かった。あれできっと、相手は苦戦を強いられるだろう。それに、霧で隠れる寸前に見えたのは、ハウリバー山道の敵は、ルミネラ山道の敵よりも数が少なかった。


「……シルヴァ様の手柄とは不本意だが、これはハウリバー山道から押せるかもしれないな。」


 願わくば、これら全ての作戦が、チェイス元帥のものだと信じたい。俺は利己的なシルヴァ様なんかより、民の為、騎士の為、帝国の為に知略を尽くしてくれる、チェイス元帥を慕っている。俺にこの武器を作ってくれたのも彼だ。俺は彼の、大きな(つるぎ)になりたい。シルヴァ様がこの戦の手柄を取るのは、正直嫌悪感がある。


 霧が、下界の様子を隠してしまった。俺はそれからも暫く、その景色を眺めていた。


*********


『オラオラァ!どうした騎士さんヨォ!お前らの力はその程度かい!』


『タール!お前、もっと皆と一緒になって動けよ!ピョンピョコお前の動きが読めないから、後方の俺らが、お前のこと誤射するだろうが!』


『あーい!ごめんねスコちゃま!』


 小さい頃に見た、魔王というタイトルのオペラを思い出した。俺は、スコピオ。この状況だって、オペラにすることのできる男だ。そう思って、現実逃避しないと、どうして科学者の俺が、前線で必死こいて、ハンドガンを両手撃ちしてるのか、ちょっと扱いが悲しくなる。実のところ、俺はLOZ配下の地域の為に戦っているのではない。全てはジェーン様の為だ。


 ジェーン様は、あのマイクロバルブを開発されたレジェンドだ。しかも、彼はまるで生きる彫刻、それほどの美貌の持ち主だ。正直、どうしてあの……可愛げはあるが、ムキムキのキルディアと一緒にいることを選んだのか、ちょっと悲しくなる。


 彼は完璧な人間だ。そりゃあきっとマラソンとかは苦手だろうけど、才色兼備と言える人間を、俺は初めてこの目で見た。だからさ、話の合う俺といた方が、絶対楽しいのに。ちょっと悲しくなる。


 さっきの俺の注意で、タールはヘコヘコ頭を下げながらも一時は皆の動きに合わせたが、また奴は一人ででしゃばって、敵陣を切り裂こうとし始めた。新光騎士団は盾を構えつつ、射撃隊が主に攻撃を仕掛けている状態だ。タールは盾を構えながら突進をしては、敵陣を崩している。


 そしてハンマーで、騎士たちを殴打して、楽しげなのだ。楽しいのは分かったから、俺が銃を構えた先に、出現するのをやめろと言っているのに。


『おーい!タァァァァル!調子に乗るなって言ってるだろうが!このハウリバー隊の隊長は俺だ!俺の言うことを聞けって言ってんだよ!』


『あ~あ~博士は煩いな~はいはい!ちゃんと動きますって!』


 あろうことかあの野郎、無防備に、俺に手を振りながらそう答えた。それを敵が黙って見過ごす訳はなく、タールに向かって銃弾が向かっていったのを、俺は発見した。その瞬間に、全てがスローモーションになった。


『危ねえ!』


 俺は全身の筋肉をフル出勤させて、ハンドガンで連射した。すると、予想外にも、タールに向かって飛んでった銃弾を、俺の銃弾が相殺することが出来たのだ。それを見ていたタールは驚いた様子で俺を見たが、俺だって驚いていた。


『お、お前やるじゃねえか、一体どうしたんだよ、そんなに凄腕だってこと、黙ってたのかよ。』


『分からん分からん、まぐれまぐれ……はは。』


 後で、今の映像をジェーン様に見てもらおう。そしたらきっと、俺のことをめちゃくそに褒めてくれるに違いない。俺はそう、ジェーン様に褒められたいのだ。もう魔工学を認めてもらわなくても良い、どうにかして、なんでも良いから褒められたい。


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