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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
囚われのパリピ編
177/253

177 元帥の過呼吸

 誰が来たのか兵士に聞くと、アイリーンだった。帝国研究所にいた時、僕の秘書だった女性だ。その前はジェーンの秘書だったらしいが。さっき会いに来た民というのは彼女のことだったか、と僕は彼女を部屋の中に招き入れた。


「チェイス様、お久しぶりです……コーヒーをこぼしましたか?」


「お久しぶり、これね、溢しちゃった。はは。」


 僕はコートを脱いで、適当にソファに放り投げた。中に来ている白いシャツは無事だったようで、僕は安心して袖をまくった。


「どうぞどうぞ、ソファに座ってよ。」


「それでは、遠慮なく。」


 アイリーンが僕のコートが引っかかっている方のソファに座った。後からメイドが入ってきて、僕たちにお茶を持ってきてくれた。僕はそれを受け取り、ドアを閉めた。コーヒーテーブルに置いて、僕は彼女の正面に座った。


 綺麗な人だ。優秀で、彼女も僕と同様の技術を持っている、はず。まあ彼女の論文は読んだことはあるが、検証している実際の姿を見たことはないからだ。そんな疑ったらかわいそうか、と一人で笑った。


「チェイス様、お話があります。」


「離間は出来なかった、ってことが言いたいのかな?」


「……力不足で申し訳ございません。」


 スーツ姿の彼女は顔色変えずにそう答えた。まあ、予想はしていた。


「そうか、君の力でもってもだめか。ジェーンとキルディア、あの二人は、どういう訳か、強固な絆で結ばれているね。それを崩す事は出来なかったか。まあそうとなれば、僕は戦いで勝つしかない。そうすれば二人は永遠に離れた檻に入れることが出来るから、二人は二度と顔を合わせることが出来なくなる。」


「しかし、調査中に、興味深い出来事が。」


 僕はあまり期待しないで聞く姿勢をとった。ああ、今日は疲れた。


「シードロヴァ博士は、過去から来た人間のようです。LOZの皆は既に知っており、特にキルディアは最初の段階から、それを分かっていて、敢えて共に行動していたとか。あの地で確認出来るニュースから、私も知りました。その情報も使い、遺伝子研究の材料も使いましたが、私の誘惑は、彼らには通じなかった。」


「い、遺伝子……ってそれよりも、ねえ君、そんな事本当に信じているの?過去からきた?ふふっ、ちょっと笑わせないでよ。」


 僕はアイリーンの肩を叩いた。しかし彼女は至って無表情だった。いやいやいや。僕は呆れた声で言った。


「あのさ、そんな簡単に過去とか未来とか、移動出来る訳が無い!ジェーンが過去世界の人間!?だったら一体、いつの時代なんだ?何年前からやってきたんだ。」


「約二千年前です。ですから、火山内部の測定装置を修理することが出来たのです。これはグレン研究所のスコピオ博士の情報ですが、あのマイクロバルブの部分を、シードロヴァ博士が修理したようです。」


「えっ……ま、マイクロバルブ!?か、火山の!?ゴフッ!」


 むせてしまった。ちょ、ちょっと待って、今日は浮かれたり、落ち込んだり、笑ったり、心の底から驚かされたり、忙しすぎるんだけど、こんなことってあるのかな、今日で僕は死ぬのかな?


 いやいやだって、あのマイクロバルブは設計図が廃れていて、どこをどうやっても見れないんだよ?……僕だって、学生の頃はあれを、未知の方程式を考えるワクワク感のような、憧れのような、尊い気持ちで毎日ベッドで考えていたんだ。


 いわば魔工学界のブラックホール的な、そこに存在しているのに誰も到達出来ない領域に、僕は想いを馳せ続けていた。この歳になっても毎年毎年、グレン研究所の発表する資料の中で、火山測定装置に関する記述があったら、それを保存しているのに。いやいやいや。


「いやいや、ちょっと、」僕は激しい呼吸に、胸を押さえながら言った。「ジェーンがマイクロバルブを!?だから二千年前から来たって、ことなの!?た、確かに二千年前だったら、あれが作られた頃だ。ジェーンが関わっていても、不思議ではないけど。」


「関わっているどころか、あれを作成したのはシードロヴァ博士本人です。それに彼は、火山に閉じ込められた民達の為に、旧採掘道を案内しています。それは過去から来た彼にしか、知り得なかった事実。ですからその時点でLOZ地域には拡まった訳で……大丈夫ですか?」


 大丈夫な訳ないだろ。嘘でしょ……っ!?


 僕は目の前にあった紅茶を一気に飲み干した。ねえ嘘だと言ってよ、じゃあさ僕は、ジェーンの技術に憧れてたの?今そんなの必要じゃないんだよ、ねえ誰か教えて、誰か本当のことを教えてよ。あの憧れのマイクロバルブは、ジェーンが作ったなんて嘘だと言ってよ!馬鹿ァァぁぁ!


「う、嘘だ、嘘だ……う、う、ハアハアはあ!」


「チェイス様、大丈夫ですか?誰か、医師を呼んだ方が、」


「いや、」僕は首を振った。それから深く座って、シャツのボタンを二個ほど開けて首元を緩めた。「大丈夫、多分。はあっ……んっ……やばい、呼吸が、ああ、ああ。」


 どういう訳かアイリーンが、ゴクリと喉を鳴らした。それよりも、嘘でしょ。じゃあ僕が張り合っているのは、マイクロバルブの開発者なの?僕はその人を、オーバーフィールドで殺そうとしたの?


「アイリーン、それは本当なの?そうだとしたら、僕は……。って言うか、整理すると、その人が、時を越えて来た訳でしょ?その人が、キルディアと仲良くしている訳でしょ?その人が!」


「その人というのは、シードロヴァ博士ですね。」


「知ってるから!もう名前を言わないで!」


 僕は泣きそうになってしまった。僕の狼狽する姿を見たんだろう、さすがのアイリーンも見て分かるほどに、困惑しているようだった。僕はそんなこと、気遣えずに呼吸を荒らげた。


 だって、だって、もしそれが本当なら、僕の最愛の人をたぶらかしている人物は、僕が憧憬を抱いていた、あの技術の開発者なのだ。それもそうだが、僕がやっつけなくてはいけない人物は、魔工学界の宝と言っても過言ではない人物なのだ。あー……これをどうすべき?ジェーン、本当にやってくれるね。キルディアだって、彼に(なび)くはずだ。あ、いや……?


「ハアハア、う、嘘でしょ。ハアハア、じゃあ、はっ……!?そうだ、そうだ!彼には奥さんがいるっていうのは、過去の世界?」


「は、はい。いずれ、シードロヴァ博士は元の世界に帰るようですね。この時代に来れて、更に帰れるというのも、信じられないような技術ですが。」


 もうここまで来ると、僕はこの馬鹿げた話を信じてしまっている。いや、今思えば、彼は確かに非常に優秀だったから、その話だって納得出来るのだ。ああ……だからか、大人になって帝国大院に行ったのは。そんなくだらない学校なんか、すぐに卒業出来るわけだ。


 しかし彼は妻帯者、更にキルディアとは今生の別れが待っている訳か。僕の顔はどんどんと笑顔に傾いた。アイリーンは少し、いや多分、引いている。


「ふふっ、そっかそっか、なら、もし彼を捕らえられたら、その技術とか全部吐いてもらえれば良い訳だ。ならジェーン単体を誘拐した方が早かったかな。」


「その案も考えましたが、彼の周りは厳重です。常にキルディアが行動を共にし、夜にはシロープの戟使いが、彼の身を守っています。私には無理でした。あの研究所には、変な迎撃システムもありました。スローヴェン博士のやり口でしょうね。」


「ああ、彼ね、確かに彼のやり口だろうね。それは厳しいなぁ。そっか。」


 ふふ、僕は落ち着きを取り戻した。確かに色々とショックな出来事には違いないが、彼はいずれ帰るのだ。しかもその前に、この世界で死ぬことも考えられる……迷うとこだが。


「チェイス様、」


「ん?」


 僕はアイリーンを見た。アイリーンは頬を染めて、僕をじっと見ていた。


「罰をください。私は任務に失敗しました。罰をください。」


「罰なんかしないよ、僕は。確かに任務は失敗したけど、それなら別の方法を考えるまでさ。僕はだって、あのジェーンと対等だと言われたこともあるんだ、僕の知略を侮らないでくれ、ふふ。」


「そ、そうですか。でも私は、罰を受けたいです。二人きりで。」


 アイリーンが前髪を耳にかけた。その耳も、先っぽまで赤くなっていた。その時に、彼女は僕に特別な想いを抱いているのではと勘付いた。僕は首を振って、拒絶した。


「僕、そういうの嫌いなんだ。ごめんね。任務、ご苦労様でした。それに、新たな事実も教えてくれてありがとう。陛下にも伝えたいところだけど、今は無理だろうな、僕の話は聞きたくないはずだ。アイリーン、あとはもう通常の任務に戻ってくれ。今の帝国研究所の所長が君を待っているはずだ。彼もまた、」


「所長はあなたほど優秀ではありません。そして、シードロヴァ博士はあなたほど、優しい心を持っていません。私は昔から、あなたが好きでした。私が本当に想いを寄せているのは、あなた以外におりません。私を、使ってください。何に使っても構いません。私を人形として、無下に扱ってください。あなたの指示する全てに、私は耐えられる覚悟があります。今回の任務のように、私を求めて、必要としてください。」


 どうやら本気のようだ、彼女は真剣に僕を見つめて、僕の回答を待っている。ああ、今までだったら、こういう申し出を突き放す事はしないが、今はそんな余裕も、欲望もない。僕は立ち上がり、部屋の扉を開けた。


「君の気持ちは有難いものだ。でも僕は、もう既に人形を持っているんだ。悪いが、今まで通りにまた、研究所の業務に戻ってくれ。それが僕からの、君への命令だと思ってくれて、構わない。」


「承知しました……。」


 伏し目がちになった彼女は、コツコツとヒールを鳴らしながら、僕の部屋から出て行った。僕は扉に鍵をかけた。もう今日は誰とも会話をしたくない。もう、この人形だけでいい。僕はソファに座り、汚れたコートのポケットから人形を取り出した。優しく微笑むキルディアの、頭の匂いを嗅いだ。


「良かった、汚れてない。でもちょっと、コーヒーくさいな。後で洗ってあげよう。あ!でも身体は見ないようにするからね……ね、キルディア。君は、」


「チェイス様!」


 ドンドンと扉がうるさい。あーもう!僕は叫んだ。


「何だ!?」


「陛下がお探しです!」


「ああああー……分かった。後少しで行くから、まだ僕のことが見つからないとでも言って、時間を稼いでくれ!」


「承知仕りました!」


 ドアは静かになった。僕はキルディアの頭に、唇を寄せた。急に抱きしめたくなって、堪らずそれを抱きしめ、そして彼女に囁いた。


「君は、ジェーンが帰ったら……ああ、彼が一体どのタイミングで帰るのか知らないが、もし彼が帰ったら、ブレインの失った、単純化したLOZを、僕は遠慮せずに飲み込むに違いない。でもどうにか君だけは、僕は助けたいと思っている。何をしてでも、君を助けるよ。そしたら僕を選んでくれるかな。でも、もしかしたら、ジェーンは最後まで帰らず、LOZとして最後まで戦い、僕を打ち負かすかもしれない。そしたら僕は死んでるから、これは無駄な思考だったかな、ねえ、変なことを言って、ごめんね。」


 もう少しだけ、こうしていたい。人形の、無機質の硬さが、ちょっと気になった。


 それから少し経った時に、僕はジェーンのプレーンの事実に気づいて、彼が過去世界のプレーンを持っていたことを悟った。全く構造の違うプレーンを持つヴァルガ騎士団長に、きっとだけど、ジェーンと同じような事をしてしまった、それをちょっとだけ後悔した。


 もういいや、そんなのもう、考えたくない。僕は人形をポケットに入れて、執務室を出た。

 

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