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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
囚われのパリピ編
171/253

171 ヴァルガの頼み

 もういいかな、分かったでしょ?あれは手に入らない物なのだから、さっさとここから去ってくれ。もう怖いんだ。


 しかし彼は、僕の前から動こうとはしなかった。暫くしてから、僕に質問した。


「そうか、そうか……。それ程に難しいものとは。しかし、そのプレーンのコピー自体は、人体に危険ということだけで、行うことは出来るのか?」


「難しいね。一度、帝国研究所で、それの実験をしたが、不本意な結果に終わり、それ以来、帝国研究所でも禁忌の技術として、誰も行ってこなかった。誰も出来たことがないんだ。僕は今でも、シードロヴァ博士がそれを、あの小さな研究所で行ったなんてことは、信じられない。それに、キルディアが持っていたのは、光の大剣。だが、彼女は闇属性だ。ああ、ジェーンは確か、光属性だったな……。」


 となると、この仮説は正しいのか?あのアームには本当に、プレーンのコピーが?だからジェーンのプレーンは傷ついていたのか?でもそうだとしたら、どうしてそもそも生きられる?一体どうして?


 僕は、もう一度ヴァルガ騎士団長に言った。


「誰も出来たことが無かったんだ。僕だって、出来ない。」


「それでは、プレーンを既に所持している人間が、新しくプレーンに魔力を教え込むことは出来るか?」


「理論上は、うーん。それをすると、その人間は魔力を多く放出するから、耐えられなくなって、すぐに身体が分離する。危険すぎて、無理としか言えない。」


「新しく作るのも無理ですか……それでは、それでは……。」ヴァルガ騎士団長は顎を手で触りながら言った。「今の技術でいい、プレーンのコピーをチェイス元帥にお願いしたい。」


「え?」


 嘘でしょ?僕はぽかんとして、ヴァルガ騎士団長を見つめた。彼は凛々しい目つきで僕のことを見ながら、少し後ろに下がって、なんと土下座をし始めたのだ。僕は慌てて、席から立った。


「ちょ、ちょっと何しているの!?」


 ヴァルガ騎士団長は僕に嘆願した。


「お願いします、チェイス元帥!プレーンをコピーして、あの技術を俺にください!」


 僕はヴァルガ騎士団長に駆け寄り、彼の傍でしゃがんで、彼の肩を掴んで、彼の頭を上げさせようとしたが、彼は力を入れていて全然動かなかった。


「そんな技術、僕には出来ないんだってば……!」


「それでも!LOZはやっているんだ!ギルバートがいる限り、LOZの勢いは止まらない!ユークは手に入らないんだ!ギルバートを、それにジェーンの技術を超えない限りは、俺たちに勝利はない!……なあ、頼みます!俺はどうなっても構わない、俺は、ギルバートを超えたいのです!」


 ヴァルガ騎士団長は、おでこを床につけたまま叫んだ。僕は彼の背中に、そっと手をおいた。熱い背中だった。きっと僕と同じように、彼も勝ちたいのだ。


「で、でもそうしたら、誰のプレーンをコピーすれば……。」


「俺のでいい。俺のをコピーしてくれ。兵達に危険なことはさせられない。チェイス元帥の持っている技術でいい。コピーして、俺にあいつと同じような武器をくれ。失敗しても……気にしないで欲しい。」


「待ってよ、でも、仮に奇跡的に完成したとして、君の体が分離してなかったとして、それでも、魔力を使っているうちに、君は身体が……。」


 ヴァルガ騎士団長は顔を上げて、僕をじっと、真剣な瞳で見た。黒い瞳、僕はその奥から彼の意思を感じた。


「ギルバートと相殺で構わない。それまで身体が保ってくれれば、俺は必ずあの逆賊ギルバートを殺すだろう。その為だ。そうすればLOZは大きな力を失う。帝国の安全は保障されるんだ。」


 それしかないのか、本当に、それしか。確かに、帝国の為にはキルディアがいなくなれば、それでいいのかもしれない。しかし彼女がいなくなった後の世界のことを考えると……僕は正直、とても苦しい。


 海賊船の上で見た、彼女の笑顔がちらつく。何が正しいのか、何をすればいいのか……それが僕には重すぎて、今はただ呼吸をすることしか出来ない。寧ろ、ヴァルガ騎士団長がその武器を使用しているうちに、彼が暴走してしまえば、彼は死に、キルディアは生きられる。


 もっと止めるべきだろう。僕は、この危険性をもっと彼に伝えるべきなのだ。しかし脳裏に彼女がこびりついていて、それが僕に、言葉を与えてくれない。


 このまま何も考えずにことを進めれば、僕がキルディアを守れる。それは帝国に属する僕がするべきことじゃない。そしてその後、彼女がこの世で平穏を手にした時、僕はこの世で生きていないはずだ。それに何の意味がある?分かってはいるが、僕は、流れに身を任せたくなった。そんなことが、この暴虐的な城の中で、ちょっとした希望に思えたのだ。


「分かった。僕が何とか、全ての力を出し切って、プレーンをコピーしてみよう。そしてキルディアと違って、ヴァルガ騎士団長には両手があるから……アームではなく、手袋みたいにしてみよう。手に付ける装着具で、変次元装置の武器みたいに、その技術を応用してさ……。」


「おお!」ヴァルガ騎士団長は僕のことを力一杯抱きしめてきた。「元帥!ありがたき幸せ!」


 こんなに暑苦しいハグは初めてだ。僕は暫く彼の好きにさせた。それから彼は気が済んだのか、僕のことを笑顔で見つめてから、この部屋を去った。何をしているんだろうか僕は、本当に何をしている。両手で頭を抱えて、立ったまま机に突っ伏した。


「やったな、僕……。」


 やっぱり本当はもっと危険なことなんだって、ヴァルガ騎士団長に言うべきだろうか。言ったらきっと、彼はこのことを無かったことにしようとするかな。僕は一体何をやっている?机が息で白くなった。するとまたノック音がした。もうやだ、でも僕は来客を迎えた。


「はい?」


「俺だ。」


 肩がビクッとしてしまった。陛下がいらっしゃった。僕はすぐに部屋のドアを開けて、中に陛下を案内した。一人で来たようで、彼はじろじろと僕の本棚を見て、「ふん」と鼻で笑ってから、ソファにドスンと勢いよく座り、僕に言った。


「どうだ、次の戦い、必ず仕留められるか?」


「はい、必ず……。」


 その後の言葉が出てこない。僕が本当に、プレーンをコピー出来る完璧な技術を、考えることが出来たら、また違うのだけれど。黙っていると、陛下は僕の様子を気にした。


「何だ、元気が無いな。そうだ、これでお前は元気になるはずだ。お前を褒めてやろうと思ったんだ。」


「え?」僕は陛下を見た。「僕は、何かをしたのでしょうか?」


 何だろう、帝都民の自営業を助けるプロジェクトかな、それともガーデニングボットの貢献を知ってくれたのかな。それを褒めてくれるんだったら、正直ちょっと嬉しい。皮肉で無いことを祈っている。


「アクロスブルーの戦い、あれの起こる前に、嘘のニュースをお前が流していたな。俺にこの状況を利用しろと言われたお前が、身に覚えの無いデマを流していた。それでLOZはお前を信用したんだろうが、中々面白かった。」


「ああ、ありがたきお言葉です。陛下の仰っていたことを参考にしました。」


 そうだ、不穏な空気だから僕が謀反すると向こうに伝える為に、税率上げに無理な徴兵制、城内の暴政、その情報があったから、ジェーン達は僕に同情してくれたのだろう。陛下が僕のことを褒めてくれるとは思ってもいなかった。何だ、人望があるにはあるんだ。


「そのニュースなんだが、本当にしようと思う。」


「え」


「お前が作成した案を俺は気に入った。ちょうど軍資金が足りなくなってきたし、新光騎士団の人数も増やしたい。そう考えた時に、お前の出したフェイクニュースはなるほど、使えるものばかりだと思った。なあに、俺はこれらがお前の案だと言うことを強調してやる。そうすれば、民に好かれているお前の出した案なのだから、民も喜ぶだろう。お前も、よりその名を帝国中に轟かせることが出来る。よく帝国の為に、貴重な意見を提出してくれた。はっはっは!」


 馬鹿な。何を言っているんだこの人は。その案を実行していい訳が無いだろうが。心臓にとてつもない重りをぶら下げられたように、一気に身体の奥が重くなった。心臓の血管が伸び切って、はちきれそうな感覚がする。本気にしないでくれよ。お願いだ、本気にしないで……なんて、もう、彼には僕の声は届かない。


「どうしたチェイス。俺はお前をちゃんと、元帥として、認めているんだ。何故黙っている?」


「い、いえ。あまりに突然の出来事だったので……う、嬉しいです。」


 陛下は立ち上がり、僕の肩に手をポンと置いた。


「次の戦、期待している。海に浮かぶ金貨の塊を、取り戻せ。」


 陛下がこの部屋を去った後、僕は力なくソファに座り込んだ。これじゃあまるで、僕が悪者みたいじゃないか。民は僕のことをひどく恨むに違いない。僕にヘイトが向かうのを知っていて、陛下は僕の名を出したに違いない。彼は民に好かれれば、僕など捨て駒で構わないのだろう。


 あんな偽情報、やめておけばよかった。僕がその首謀者だと知った時、キルディアはきっと僕を軽蔑するだろう。もう既に、ジェーンを襲っているから終わってるけど。


「う……。」


 大人になって、初めて泣いた。ポロポロと頬を伝って、コートに水玉を作った。もう何もかも、思考が追いつかない。


 その時に、PCから通知音が聞こえた。僕は涙を袖で拭いて、机の上のPCを立ったまま確認すると、収容施設の警備システムからの知らせだった。収容施設にいるリンの、電源が消えている筈のウォッフォンから、微弱な電波が出ていることを、施設の感知器が受信したようだ。


「ああ、それね。」


 あの電波は、リン達の居場所をLOZに知らせただろう。そう来るかもしれないなと分かっていた僕は、念には念を、そう思って施設の担当者に連絡をした。


『はい、チェイス様。』


「イスレ山中央の収容施設にいるLOZメンバーを全て、東棟に移動させて欲しい。彼ら全てを同じ施設に置いてくれ。それで、その作業には、どれくらいかかる?」


『そうですね……大体六時間もあれば、全ての作業が終了するかと思います。』


「そっか、じゃあそれでよろしく。あとはまた連絡する。」


『承知致しました。』


 通話を終了させて、PCをスリープにした僕は椅子に座り、机に突っ伏した。僕は哀れな人間だ。またもやポケットに入っている人形を、愛しく感じてしまっているのだから。

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