表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
作戦が大事!アクロスブルー編
166/253

166 オーバーフィールド

「このまま……終わらせないとは?」


 肩で息をしているジェーンが、僕に聞いてきた。言うより見たほうが早いだろうと、僕は彼の頭上、高いところに、ある機械を投げた。宙に漂う、その立方体の機械を見たジェーンの顔は凍りついた。どうやら驚いてくれた様だ。


「……あれは、オーバーフィールド!?まさか、あれが完成したのか……!いや、成る程、どうやらあなたはここで、私を確実に仕留めるつもりの様だ。」


 僕は微笑んで頷いた。


「うん。これってかなりお金が掛かるし、今回は僕らの優勢だと思っていたから、使うつもりは無かったんだけど、ヴァルガ騎士団長がやられてしまった様だし、もう時間が無い。君達の兵は捕虜で頂くけれど、僕はこの機械を試したいんだ。君のプレーンを暴走させて、魔力と身体を分離させる。土台が無くなった建物は、どうなるだろう?それを君で実験する。貴重なデータをありがとうね、ジェーン。」


 ジェーンが埃まみれの眼鏡越しに、僕を睨んだ。まあそれは当然の感情だろう、自分の命が実験されるのだから。僕は遠慮なく、手元にあるオーバーフィールドのスイッチを押した。


 天井の装置から、薄いシャボン玉の様な膜が現れ、ジェーンの周り一帯を包んだ。それを僕や僕の兵達はじっと観察している。なんと可哀想に、ジェーン。


 そしてフィールド内が、ぶれて見える程に、超重力が発生した。重力が掛かる中で、プレーン自体に作用する波動を流し、それでプレーンを暴走させる。その前に、重力で彼の骨が壊れちゃうかもしれないけど。


「ぐあああああっ!うあああああっ!」


 ジェーンがうつ伏せで超重力に潰されながら、苦痛に叫んでいる。そして早くも、ジェーンの身体の周りがブレ始めたのだ。あの現象は魔力が彼の身体から離れようとしているが為に起きている現象だが……もう?


「あれ?もう乖離(かいり)するのかな?君のプレーンって、傷付いているの?」


「ぐああああああっ!き、でぃあああああ!」


 うわあ……魔力も抜けそうだし、今にも彼の頭が潰れそうだ。叫ぶことしかできない彼を、ちょっと見ていられなくなった僕は、目を逸らした。


「あああああっ……っ!?」


 その時、周りの兵達が混乱する声が聞こえた。あれ?ジェーンの叫び声が止んでいる。僕はまたフィールドを見て、そして「あっ」と叫んだ。


 そこには倒れこんだジェーンの上を跨るように、キルディアが立っていて、光の大剣を天に向かって構えていた。彼女は口からもお腹からも血を流している。腹から出る血は、重力のせいで、ぼたぼたと蛇口を捻った水道のように流れていた。


 そして何故か、フィールド内の超重力の中でも、彼女は立つことが出来ている。LOZの先頭スーツのシルエットで、彼女のふくらはぎが今にも破裂しそうにパンパンになっているのが見えた。


 しかし如何してだ?重力がまだあるのに、如何してジェーンへのプレーンへの波動、破壊作用が止まっている?僕はスイッチが壊れていないことを確認すると、キルディアを見た。よく見ると彼女は、光の大剣を発動をしている同時に、その義手の手の先から、大量の魔力を放出していたのだ。僕は納得することが出来た。


「……そうか、彼女が波動の避雷針になっているのか。しかしあんなに魔力を放出が出来るものなのか?」


 信じ難いが、あのツールアームはそれが出来ている。だが、そんな勢いで魔力を放出していたら彼女だって保たないだろう。


 超重力の中で、ジェーンが力を振り絞って、キルディアの足首を掴んだ。彼の手首に、キルディアの血が、重力のせいでボタタッと素早く落ちて、彼の手は一瞬で赤く染まった。あの出血量では、キルディアが危ないかもしれない。


 そんなキルディアの身体からも、ついに分離が始まってしまった。しかし彼女は輝く大剣を構えたまま、魔力を放ち続けている。ジェーンが振り絞った声で叫んだ。


「……キルディア!私を、置いて、逃げなさい!……あなた、一人なら、ここから出られる、はずだ……!」


「置いていくものか!」彼女の声は耳に刺さるほど大きかった。「逃げるものか……ルミネラ、皇帝だって……もう、もう、私はもう二度と大切な人を、置いていかないと決めたんだ!うあああああああっ!」


 彼女の光の大剣が一層大きくなり、輝きを増した。更に魔力を放出しているようだ。ツールアームの手首から、彼女の属性の紫色の魔力が漏れ始めている。あの手は何なんだ……あの大剣だって、存在しないのに、存在しているようだ。一体、どうなっている?


 僕の補佐官が、キルディアの事を銃で狙っていた。僕は落ち着いて、その事態を放っておいた。予想していた通り、彼の放った銃弾は、オーバーフィールドの重力で地面に落ちてしまった。ちょっと考えれば無駄な行為だと分かるだろうに。


「キルディア!……やめて。あなたまで、死んでしまう!私を置いて行け!」


 ジェーンの低い声が上ずっていた。僕が彼をそうさせている、それは嬉しいが、キルディアがこの中に入ってしまったのは、予想外だった。僕はじっと彼らの様子を眺めた。キルディアが叫んだ。


「煩い!」そして彼女は次に、優しい声を出した。「置いて行かないよ……必ず助けると決めた、ジェーン……うっ……うあああああ!ああああああっ!」


 とうとう分離が始まり、身体がブレ出したキルディアが、苦痛に目を閉じた。あのままではキルディアが死んでしまう!僕は咄嗟に手元にあるリモコンを操作して、オーバーフィールドを止めようとした。しかしボタンを何度連打しても効かない。


「どうして!?……どうして!?壊れたのか!?」


 僕は焦った。早くしないとキルディアが、潰れるか分離か出血で死んでしまう。もう十分に彼らを苦しめたはず、ジェーンは兎も角、キルディアは捕虜にして、あの痛々しい傷を癒そう。ここで彼女に死なれては僕が困る。でもリモコンが効かない!


 どうしよう!僕はオーバーフィールド内を見た。キルディアが見たことの無い、修羅の表情で、魔力を放出し続けている。ジェーンは止めようと彼女の足首を掴んで、微かに振っている。フィールドの膜が揺れた。彼女の魔力で、フィールドが変にブレ始めている。


「まさか」


 呟いたと同時に、オーバーフィールドが弾けるように破壊されて、僕の手元のリモコンまでもが爆発した。僕は咄嗟に、もう片方の手で自分の顔を守った。そんな、魔力の放出だけで、あの装置が破壊されるなんて……僕は唖然としてしまった。


「チェイス様!」補佐官が煩い。「応戦します!指示を!」


 もう一度、彼女達の方を見ると、キルディアの手からは、あの光の大剣が消えていた。僕の兵達が二人に向かって武器を構えている。彼女は俯いて、抜け殻のように静かに立っている。地面に付して倒れているジェーンが、彼女の足に触れた。


 俯いていた彼女が再び顔を上げた時、僕はゾッとした。それは怒り狂う獣の眼だった。口からは血を流し、額から頬に、血管なのか、神経なのか、なだれ雷のような筋が浮き出ている。おそらく僕以外の人間も、出会したことのない恐怖を感じて動けないのか、静かだった。


「……うああ、うあああ、うああああああっ!」


 彼女が叫び、アームを天に掲げて、また光の大剣を出した。まだ出せるのか!僕は少しビクッとしてしまった。そして彼女は足元で倒れているジェーンを、何と左手だけで彼女の肩に乗せて担ぎ、その状態のまま、僕たちの方に向かって走って来たのだ。


 兵達が慌てて彼女達に発砲するが、光の大剣に防がれてしまう。このままだと僕はキルディアに斬られる!あまりの恐怖に、僕は何も考えられなくなった。


「チェイス様!あれは危険です!ご退却を!早く!」


「あ、ああ。ああ!」


 補佐官に腕を引かれて、僕は慌てて輸送車に入った。窓から見ると、キルディアはジェーンを担いだまま、大剣でバコンバコンと僕の兵達を吹き飛ばしていく。


 血を流しながら、歯を食いしばって戦い続ける姿は、初めて見たキルディアだった。僕は輸送車の後ろでずっと、彼女が僕の兵をなぎ倒していくのを、姿見えなくなるまで見つめた。


*********


「あ、あ、助けてください!お願いします……!」


 目の前の新光騎士団の兵士が、地面に尻餅をつきながら私に命乞いをしてきた時に、私はハッとした。彼の手は震えていて、地面には剣が落ちている。


 私は肩に乗っけていたジェーンを、そっと近くの地面に降ろした。ジェーンは地面にグタッと倒れた。そのまま私もぐわりと回転し始めた目眩を感じながら、彼の側にしゃがんだ。


「……ジェーン、大丈夫か?」


「キルディア、」彼の眼鏡が粉塵で汚れている。「私を、助けてに来てくれて、ありがとうございました……しかし。」


 ジェーンは何を見るでもなく、ただ遠くを見つめていた。あんな、兵器は初めてだった。身体の奥がジンジンと痛い、もしかしたらプレーンが傷んでいるのかもしれない。そう考えると、ジェーンのプレーンは元々ダメージを受けていたから、きっと私よりも、もっと辛かっただろう。それも、私のこの腕を作ってくれたからだけど。


 私は周りを見た。そこには怪我を負っている新光騎士団とLOZの兵士らが倒れ込んでいる光景が広がっていた。道路の続く遥か先には、チェイス達が乗っている輸送車の数々が、どんどん小さくなっていった。私は先程の、私に怯えた目線を送っている男に、質問をした。


「……リン達は、いや、LOZの捕虜は帝都に?」


 男はビクッとして、私に言った。


「チ、チェイス様が途中から討伐ではなく、捕虜に方針を変更して……行き先は城下だとは思いますが、私には確かなことは分かりません!本当に!分かりません!どうかお命だけは……!」


 私はそんなに、憎悪に満ち溢れた酷い顔をしているのだろうか。私は何度か軽く自分の顔を叩いて、顔の力を緩ませてから、その男に言った。


「分かりました、ありがとう。どうか、拒否しないで、我々の手当てを受けてください。」


「は、はい。」


 その男は後退りながら離れて行った。私はお腹を触った。生温かいものが出ているが、まだ私は戦える。アクロスブルーラインの先、ルミネラ平原に存在している灰色の一本道の輸送車は、今にも地平線に飲まれそうだった。


 あのどれかにきっと、リンやオーウェン、LOZの兵達が乗っているのだろう。早く助けなければ、あの皇帝の事だ、何をされるか分からない。私が何とかしなくては。私があれに追い付けば、彼らを救出することが出来るはずだ。


 私は一歩、一歩と地面を擦りながら歩き始めた。すると右足が何かに引っ掛かり、歩みが妨げられた。足元を見ると、地面に倒れたままのジェーンが、私の足首を掴んでいた。彼の制服の袖や手袋は、新鮮な血で赤く染まっていた。


「……何をするの?」


「キルディア……今の状態で、向かう事は、明らかに無謀です。一度、態勢を、立て直しましょう。」


「リン達が、何をされるか……私が、追いつかなければ!」


「いけません!……キルディア!」


 ええい邪魔だ!私の足首を掴んでいるジェーンの手を解こうと、しゃがんで彼の手を握った時だった。急に視界が一瞬暗くなり、私は気が付いたら地面に倒れていた。身体を起こしたジェーンが、しゃがんだままの私の肩を抱いてくれた。


「兎に角、一度、あなたは休むべきだ。リン達は必ず、助けますから。」


 後方からたくさんの足音が聞こえてきた。振り返ると、クラースさんが私たちの元へと走って来た。彼の後ろにはLOZの本隊の兵達が続いていた。


「キリー!……なんだ、派手にやられたな。リン達はどうした?」


 私は無言で道の先を指差した。クラースさんは頭の防具を取り、汗にまみれた顔を手で拭った。


「そうか、そうか……。分かった。兎に角戻ろう、お前、血が凄いぞ。」


「いや、私は大丈夫、」私は立ち上がろうとしたが、また視界が黒くなり、そのまま力が抜けた。消える意識の中で、最後に見たのは、ジェーンの汗まみれの顔だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ