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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
緑の宝石!ヨーホー海賊船編
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109 心からの嬉しい

 急な出来事だったが、嫌なものではなかった。でも願わくば、恋愛の末にファーストキスしてみたかったが、今はもう諦めの気持ちが強い。でもやっぱり最初は好きな人としたかったかもなぁ。ジェーンはどうなんだろう。


「ねえ、」


 洗面所にグラスを置いて、私は洗面所の隣の壁に寄りかかって、ジェーンを見た。彼は今、ウォッフォンで何かをメモしている。


「どうしてそこまで気にするの?ジェーンは接吻したことあるの?まあ、奥さんいるからねぇ。」


「妻がいるからなんだと言うのです?私はその経験はございません。」


「えっ……そうなんだ。」


 夫婦ってキスしないのかな。物心ついた時にはもう片親だったし、知り合いに夫婦がいないから、現実はどうなのか分からないが、ドラマや映画ではよく見かけるスキンシップの一つだ。それをジェーンは一度もしていないのか。


「どうしてカタリーナさんにキスしなかったの?そうでなくても、ジェーンはイケメンだから、人生の中で一度は遊び心で、しちゃったことあるでしょう?キスぐらいなら。よくリンだって、ワンナイトでキスするって言ってたよ。」


 ジェーンはメモを終えて、ため息をついた。


「あの節操無しと同じにしないで頂きたい。私は……一度もございません、カタリーナが相手だとしてもそうですが、どうも何の為にするのか理解出来ない。」


「だからそれは、愛情や尊敬の気持ちを相手に伝える為に「意味は理解しています、ですから先程は……理性を失くしました。敵となるであろうあの男が、私の仲間にしたことが許せなかった。ところで先程の私の質問に答えていません。キルディアは経験ありますか?」


「さっき。」


「では」大きなため息を一度着いてから、ジェーンが聞いた。「先程の一件が無ければ、その経験は無かったのですね?」


「うん……そうだね。」


「なるほど。」


 そして暫くの間、彼は黙ってしまった。少しして、私はジェーンの隣に移動して、彼に聞いた。


「ジェーン、さっきのことは忘れようよ。別に侮辱だと受け取らなくても大丈夫だよ、彼もきっと悪さで、あんなことしたんじゃない。」


「チェイスのこと、あなたはどう思いますか?」


 ジェーンが私を見た。


「そう、だね……。確かにチェイスは良い人だけど、キスされたけど、だからって別に、彼のことを純粋に好きにはなれない。帝国の元帥になるんだもの。私達にとって、どれほどの脅威になるのか、色々と考えると複雑だ。」


「そうですか。ではもう一つ質問です。今日、洞窟の中で手を繋いだ時、あなたは温かいと感じましたか?」


「温かかったけど、ちょっと熱かった。どうして?」


 ジェーンは眉間にしわを寄せて、苦しそうな表情をした。何が彼をそうさせているのだろうと、私は少し心配した。


「……キルディア、私は満足でした。これをどう説明すべきでしょうか、私は、あなたと手を繋いで、満足で、とても……とても、次が出ない。」


 こんなに言葉に詰まるジェーンは見たことがない。彼は手のひらて掬うような動作をしながら、言葉を探している。もしや、何か、彼の気持ちを言葉にしたいのかもしれない。ジェーンは悩みながら言った。


「ああ、私もチェイスのように、言葉巧みに話す事が出来れば、お時間を取ることもございませんのに……。ごめんなさい。」


「良いよ、ジェーン、手が温かかったんでしょう?」


「そうです。とても温かかった。それが……、それが。」


 ジェーンはぎゅっと目を閉じて考えている。彼の言いたい事が知りたい。もしかして、もしそうだったらと思い、彼に聞いた。


「もしかして、嬉しかった?」


「……ああ、その通りです、そうか、単純に、嬉しかった、のかもしれません。」


「そっか、ふふ。それなら良かった、そう聞けて私も嬉しい、ジェーン。」


 微笑んで彼を見たが、彼は私と目を合わせた瞬間に、頬を赤く染めた。それを見て、私の顔もつい熱くなってしまった。二人の間に、また例の妙な間が、流れ始めた。すると突然、ジェーンが大声で言った。


「キルディア、今です!自分の気持ちを話してください!ケイトがそうすればこの妙な間の正体が、理解出来ると話しておりました!さあ!」


「え?え!?今!?ちょっと待ってよ、分かんないよ!えっとえっと……!」


 そんな急に言われても、今の気持ちって何だ?目がウロウロするばかりで口から何も出ない。でもジェーンが、今か今かと私の回答を待っている。何か言うしかない!


「えっと、ジェーンが手を繋いで嬉しいって言ってたから、私も嬉しくなって、そしたら……。」


「そうしたらどうしたと言うのです!?」


「そんな食い付いて来ないでよ!そしたら、そしたら、ジェーンが顔を真っ赤にするから、私も釣られて顔が火照っちゃった。」


 急にジェーンが真顔になった。そして言った。


「……私の顔が真っ赤だった?そのような自覚はありませんが。」


「もう良いよ、早く寝よ。」


 ベッドの上に転がっている布団を丸めて、ジェーンの枕の上に乗っけた私は、昨日と同じ右側のベッドに寝そべって、彼に背を向けた。ジェーンもその布団を身体にかけて、部屋の電気を消してから、横になった。


 先程のキスが忘れられない。好きでも何でもない人としても、こんなに強烈な印象を脳裏に残すなら、本当に好きな人とするキスは一体どんな味になるだろう。それを一度でも良いから、味わってみたい。


「キルディア」


 何だろう、急に呼ばれたので、少し胸がドキッとした。落ち着こうよキルディア、相手はあのジェーンだよ……ジェーン。


「ん?」


 ベッドが揺れた。彼の吐息が私の首の後ろに、かかった気がした。こちらを向いたらしい。


「やはり、先程の行為を許さないで下さい。」


「え?チェイスがした事?」


「はい。たとえあなたが彼と、彼のしたことを許しても、将来あなたの夫となる人物は、それを到底許すことは出来ないと私は考えます……。リンのような不埒(ふらち)な人間は仕方ないにせよ、あなたは今まで、誰とも恋仲に無かったのですから、その初体験は、特別な人物に注がれるべきでした。それが一人の人間の身勝手な行為で無くなったのでは、夫となる人物はきっと……許せないと私は思います。」


 そこまで私のことを考えてくれていたと思うと、切なくなった。少しだけ、カタリーナさんが羨ましくなった。


「そうだね、分かった。今度チェイスに会ったら、ぶっ飛ばすよ。ジェーンありがとう。特別な人とだけ、そう言うことはしたいから、これからはもっと気をつけるよ。」


「はい……。」


 ああ、ジェーンは優しい人だ。不器用だけど、感情が薄いけど、でもさっきのように感情と向き合おうと努力している。本当にカタリーナさんが羨ましい。


「キルディア」


「話しかけるねえ。ふふ、何?」


「少々聞きにくい質問ですが、この部屋の暗さなら聞けるかと。」


「どうしたの?」


 少しの間の後に、ジェーンが聞いた。


「私のことです。あなたにとって、私はどれほど大事ですか?」


 思わず目がパチパチと瞬いた。どう言う意味の質問なのだろう。友達としてってことかな?部下として?兎に角、答えよう。


「どれくらいって……すごく大事だよ。」


「何番めですか?」


 一体どうしたんだろうか、何か不安になってしまったんだろうか?仕事の時とプライベートの時、どちらの場合を聞いているのか、私はジェーンに確かめた。


「オンとオフ、どっち?」


「はっはっは。それではオフの方を聞きましょう。オンでしたら私が一番なのは理解しております。私が居なくなっては、あなたは今と同じようには働けませんからね。」


「ふふ、そうかもね。ジェーンが居なくなったら、予定が分からなくなる。オフの方かぁ、それなら何番めだろう。」


 もう決まっている。ここまで親しくなった人は、他には居ない。やはり私はこう答えるしかなかった。


「それなら、一番だよ。」


 嘘など付けない。だが、本当のことを言うだけで、こんなに胸が苦しくなるとは思っていなかった。


「……そうですか。」


 背中に、ごつんと何かが当たった。多分ジェーンのおでこだ。確かめるために少し右手を後ろにずらしたが、ツールアームなので感覚が無く、後ろに何があるのか確かめようが無い。しかし音で、その鉄の手が握られたのは分かった。そのままジェーンの手と私の手が、私のお腹に回されて、私はジェーンに後ろからハグされた。


「私もです。」


「……で、でも」思わず声が震えた。「奥さん居るでしょ、早く寝なよ。」


「でもあなたが一番です。」


 ……この問題は、まるでルービックキューブのように複雑だ。一体彼がどう言うつもりで、私を一番だと断言したのか分からない。きっとそれくらいに親しい友という意味だったのだろう、それでも一番と言われて嬉しかった。


 でも奥さんよりも上ってことになると、話が変わってくるのでは無いか?ああ、もう分からない。何も考えられない。いや、いろいろ考えすぎて、何も考えることが出来なくなったのか、それも分からない。


 気が付くと、私は眠っていたようだ、夜中に少し目が覚めて起きると、私は仰向けで寝ていて、ジェーンはこちらに体を向けて、丸まって寝ていた。手はずっと繋がれたままだった。今しか居ない、特別な存在。少しだけならこうしていてもいいかな、とまた瞼を閉じた。

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