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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
緑の宝石!ヨーホー海賊船編
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105 チェイスの仕事

 私はさっきのことを、ちょっと謝ろうかと思った。


「さっきは、逃げ出してすみませんでした。帝国研究所の所長さんだったのですね、すみません、疎くて。」


「いやいや、僕の方こそごめんね。なんか御忍びっぽいのに、本名聞くような真似をしてしまって。やっぱりニュースで話題になっているソーライ研究所のキルディアさんだよね?」


「まあ、そうです……。」


 ジェーンがチェイスに聞いた。


「やはり、最近の事件のこともあり、帝都でもキルディアの名は広まっていますか?」


「うーん、そうだね。城下では結構有名だよ。その辺のレストランに入っても、周りのお客さんが、先日のヴィノクールでの新光騎士団と連合軍の戦いの話をしたり、サウザンドリーフの時の話をしたりしているのを、よく耳にする。次にはやっぱり連合のボスである、キルディアって言う人の話にもなるよ。女性なのに、ヴァルガ騎士団長に負けないぐらい強いんだってね。僕もニュースの写真で、キルディアの顔を知ってて、さっき見かけた時に、髪の色は違ったけど、チラッとツールアームの指先が見えて、そのツールアームは見たことないフォルムしてたから、きっとシードロヴァ博士が改造したものだと分かって、だから本人かなと思って、声掛けたんだ。写真よりも可愛いね。」


 私は苦笑いした。同時にジェーンが、大きめな咳払いをした。


「ゴッ!……そうでしたか。しかし海賊とは無縁そうなあなたが、こんな場所で一体何をしているのでしょうか?」


 ジェーンの質問に、彼は大笑いをした。


「はっはっは!それを言うなら、シードロヴァ博士だって似合わないじゃないか~!実は僕ね、小さい頃から海賊が好きで憧れてたんだ。まあそれ以外にも、今はほら緊迫した情勢でしょ?その中でツアー組んでる旅行って、中々無いんだよね。だから参加したんだ。一人旅が趣味だから。」


 ニッコリ微笑むチェイスを見ていると、少し癒される。隣にいる誰かさんなんて、天気雨のような頻度でしか微笑んでくれない。だが天気雨のように、それがいいのかも。


 少し他のことを考えて黙ってしまったが、今度はチェイスが我々に聞いてきた。


「君たちは、どうしてこのツアーに参加したの?ここって、二人で同じ部屋を借りているの?セミダブルのベッドだよね、もしかして君たちって、付き合っ「わ、私も海賊が好きなんですよね~……一人はちょっと参加しづらかったんですよね~……だから秘書につき合わせちゃって、ごめんねジェーン。しかも今、結構金欠だから、部屋もシェアしないといけなくてね~……。」


 ここで私が嘘をつかないと、グレン研究所の時みたいに、ジェーンがまた窮地に陥るだろうと思ってしまった。隣のジェーンを見ると、彼は眉間を抑えながら答えた。


「本当、私のボスは、たまに我儘を言って聞かないのです。旅行に一人で行かせるのは危険ですし、まあ私も時間がありましたので、付き合いました。お金の使い方については、そのうちファイナンシャルプランナーにでも、アドバイスを貰いに行かせるつもりですよ。」


 私の嘘にめちゃくちゃドス乗りしてきた……。ジェーンめ、この借りはいつか、必ず返して貰うからね。だが、チェイスは笑ってくれた。


「はっはっは!面白いなぁ~、いやあ、何だか。そうだ、ジェーンって呼んで良いかな?」


 ジェーンが頷くと、チェイスは嬉しそうに頷いた。


「それなら良かった。それでさ、ジェーンも変わったなと思ったよ。」


「え?」


 そう一言放ったら、チェイスが私を見て、説明してくれた。


「ジェーンは、帝国研究所に居た頃なんか、もう本当に機械みたいな感じだった。それこそ、一つも笑ったところを見た事なかったし、それに人付き合いなんか、死んでもやらないタイプだと思っていた。丁寧に研修を組んでさ、可愛がっているように見えた、ある部下に対しても、その人がミスを一回しただけで、容赦無く降格させたし、その人が土下座して謝っても、ジェーンは絶対に許さなかった。僕たちは恐れたよ。一言で言うと魔帝だね。あまりにも感情が無かったから、当時の僕の同僚は、ジェーン自体も帝国研究所が作り出したものなんじゃ無いのかって噂してて……それは言いすぎたね、ごめん。」


「あっはっは!」


 それは傑作だ!私はついお腹を抱えて笑ってしまい、ジェーンに背中をべシンと叩かれた。しかも思っていたよりも、氷河期のような冷ややかな職場作りをしていたようだ。それも聞いてる分には面白いが、きっとチェイスは大変だったろうなと思った。チェイスは笑いつつ、続けた。


「でも良かったんだ。最初は皆恐れてたけど、良くも悪くも、彼にコネは通用しない。だから実力のある人が、ちゃんと評価されるようになったんだ。アイリーンや僕が昇進出来たのは、ジェーンのお蔭だった。それまでのやり方に慣れてた幹部たちは、軒並み降格させられてたから、不満を漏らしてた。でもジェーンは接待の場に来ることすらしないし、プレゼントも受け取りはしない。そもそも休み時間に何処にいるのか、急に雲隠れしちゃって、誰にも居場所が分からなかった。たとえ秘書でさえも。だからそう言うコネ頼りの人たちは、お手上げ状態だったね。」


「なるほどね~、ふふっ!雲隠れって……因みにジェーンはその時、何処にいたの?」


 ジェーンがまた私の背中をべシッと叩いてから答えた。痛いんじゃ。


「……研究室ですよ。研究することが色々とありましたからね。邪魔されたく無いんです。休み時間ですよ?一人で何してても、何も咎められない時間ではありませんか。」


「そっか、すごいな。」チェイスが言った。「休み時間も研究に没頭するとはね、僕も見習わないとな。でもさ、今はなんだかジェーン、すごく命を感じるよ。人間っぽくなった。さっきからキルディアの背中をベシベシ叩いているし。仲良いんだね。」


 チェイスの言葉に、ジェーンは首を傾げた。


「そ、そうですか……。ソーライ研究所の皆は、感情豊かで個性的な方ばかりです。もしかしたら影響を受けたのかもしれません。」


「うん、いい事、いい事!」


「そう言えば、」ジェーンはチェイスに聞いた。「ネビリス皇帝のことですが、帝都の民はどうお考えなのか、実際に聞いたことはありますか?」


「うーん。まあ確かに、夜のバーとかでね、」チェイスは少し考えてから言った。「あまり良く思われてないのかな。ほら、税率も城下は急激に上がったし、先日のヴィノクールの件で、もうこの世界には、見えない国境みたいなものが出来始めているじゃない?」


「そうですね……。」


「うん、城下と、それ以外との間にね。サウザンドリーフの住人への強制執行は阻止されて、火山でタマラの民達と衝突して、ヴィノクールとも実質敵対して、支配するどころか、貿易協定も無くなっちゃったし、ハウリバー平原の美味しい食材や、貴重な鉱石物は、もう城下には流れてくれない。さらにシロープ島だって漁農協定でタマラと仲が良いから、一緒にユークアイランド側に行っちゃった。だから何やってんのさって、陛下に思う民ばかりだよ。それにネビリス皇帝が、憂さ晴らしを始めてるって噂が、城内にあるんだ。」


「憂さ晴らし?」


 私は聞いた。


「うん。今後、城下に住む人たちは、徴兵されるかもしれない。年齢も性別も関係なくね、勿論みんな、争いなんかしたく無いし、出来れば平和に過ごしたいに決まってる。連合が侵略目的じゃ無いのも、みんな知っているからね。だから徴兵制が始まる可能性があると、皇帝に反発する人も出てくる。実際、ユークアイランドに逃げている人たちも増えていて、城下は南門の検問を強化されたし、閉じ込められてる状態になりかけてる。もうかなり窮屈な状態だよ、そんな感じかな。」


「何だか、辛いなぁ……。」


 私は頭を抱えた。その場その場で、誰かを助けたくて、してきた行為だったが、結果的に帝都の民は苦しんでいる。少し考えれば分かっただろうが、他に方法は無かった。どうすれば……と悩んでいると、チェイスが私の頭を撫でてくれた。私はチェイスを見た。茶色の優しい瞳と目が合った。


「でもみんな、キルディア達のしたことは分かってるよ。その意味も。だから大丈夫だよ。もし城下が危機に脅かされたら、君が救ってね。」


 また微笑んでくれた。何と優しい、安心感のある人だろうか。私の頭を撫で続けるチェイスの手を、何故か隣で座っているジェーンが下ろして辞めさせて、話し始めた。


「しかし、検問を強化されている割には、よくここまで来れましたね。それも一人で。」


 チェイスがジェーンを指差した。


「おおっ!そうなんだよ~、大変だった。でもネビリス皇帝が特別に許可してくれたんだ。」


「皇帝が直に?それは何故ですか?」


 そうだそうだ、どうしてだ?私も真剣な瞳でチェイスを見た。


「うん、僕、もう帝国研究所の所長じゃないんだ。皇帝に勅命を受けてね……、ルミネラ帝国新光騎士団の元帥って役割を、頂いちゃったんだ。ルミネラ皇帝の時代には無かった役職だけど、つい先週に、突然ネビリス皇帝が作ったんだ。」


 私とジェーンは無言で目を合わせた。ということは、ということはだよ?だが、チェイスは呑気に話し続けた。


「うん、これは承知の事実だけど、連合にはキルディアが居る。でもそれ以上にジェーンが居る。元帝国研究所の所長だった男だ。彼が策を練る限り、騎士団だけでは、今後支障が出ると考えたのだろう……。だからジェーンに対抗出来る人間を選んだらしい。僕は正直、毎日ガーデニングボットを研究したかったんだけどね~。」


「ねえ」私は堪らず割り込んだ。「そ、それじゃあチェイスは、今後我々が敵対するであろう組織の、最高司令官ってことだよね?」


 チェイスは頷いた。


「うん……そういうことになるね。」


 私はジェーンを自分の後ろに押しやると、チェイスに向かって拳を構えた。チェイスは笑いながら手を振った。


「ちょっと待ってよ、今どうこうしようと思わないって!君にどうやったら僕は勝てるんだい?あはは!」


「でもこの状況、どうするの?」


 私はジェーンに聞くと、彼はチェイスを見た。チェイスは立ち上がって、手をパンと叩いた。


「ねえねえ!この旅行は、それとは別にして楽しもうよ。僕だってまだ任命されたばかりで、よく分かんないし。折角皇帝が許可してくれたこの旅行で、最後かもしれない息抜きをしたいもの。ね?いつ如何なる時も穏やかに行こう、それが真のルミネラ帝国民だよ。」


 私は構えるのをやめた。


「確かに、子どもたちの希望を乗せた船で、悲しいことをするのは良くない。」


 私の一言に二人は同時に笑った。そしてチェイスがジェーンを見つめて言った。


「ジェーン」


「はい?」


「もし、対する時があったら、全力を尽くしてくれ。」


「勿論そのつもりです。私には信頼する仲間も、帰る場所も、守るべき……存在もありますから。」


 チェイスは笑った。


「いいなぁ~。何だか本当に以前のジェーンと全然違うよ!羨ましい。あ!そうだ、夕食のバイキングには、美味しいステーキとシュリンプが出てくるらしいよ!一緒に行かないかい?行こうよ~!」


 私たちはチェイスと共に、レストランで食事する約束をした。出来れば今後、彼とは戦いたくないと思った。

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