二つの隠し事 【月夜譚No.121】
彼はサプライズができない人だ。待ち合わせの瞬間からいつもと様子が違うし、日中も何処か上の空だった。日が暮れてレストランに入る頃には、緊張しているのがはっきりと判るほどにオドオドしていた。
今日一日の彼の姿を思い出して彼女がくすりと笑うと、彼は不思議そうに顔を覗き込んでくる。彼女は「何でもない」と言って、正面に広がる夜景に目を戻した。
初めて出会った時から、隠し事ができない人だと思っていた。今まで真正直に生きてきて、きっとこれからも真っ直ぐにしか進めないのだろう。
それを馬鹿だと笑う者がいる。貶す者もいる。
けれど、彼女にとって彼のその性格は、とても純粋で素敵なものだと思った。それこそ今目にしている夜景のようにキラキラして、明日への希望を作ってくれるような、そんな優しい心の持ち主だと思った。
彼の緊張が大きくなって、喋り口調も固くなってきた。彼女は笑いそうになるのを懸命に堪えて、その時を待った。
まるでサプライズなど知らなかったかのように、思い切り驚いて答えてやるのだ。
よろしくお願いします、と。