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キミのいなくなった世界で

作者: 奏凪

このお話は、友人の誕生日に贈ったお話を元に改稿しています。


※話の内容が自分に合わないと感じたら、そっとブラウザを閉じてUターンしてください。


 ──いつから、キミの光が弱くなっていたのだろうか。


 突然、世界からキミがいなくなった。昨日まで穏やかに笑っていたキミが、次の日冷たい体で見つかった。

 なぜ、なぜ、どうして。問いかけても、虚空に投げかけても、きっと誰にも答えは分からない。一番長い付き合いのわたしにでさえ、キミは何を思っていたのか知らなかったから。


 いつもと変わらない笑顔を浮かべて、他愛のない話に相槌を打ってくれて、そしてまた明日と交差点で別れた。ただいつも通りの日常をふたりで過ごしていただけなのに。

 キミと別れてたった数時間。その間にキミに何があって、何を思ったのだろうか。一瞬でもわたしのことを思い出してくれた? 一度でもこの世界に未練を持ってくれた? 色々と問い詰めて聞きたいのに、もう答えを知るキミはいない。




 ──いつから、キミは心を隠すようになっていたのだろうか。


 キミが世界からいなくなった翌日、キミの遺書が見つかった。わたしが今まで贈っていた誕生日プレゼントを入れた青い箱の中から。


『身勝手でごめんね。願わくば、彼女がずっと笑っていられますように』


 これ以外にも遺書には色々と書かれていたらしい。らしいと言うのは、後で警察から聞いたことだから本当かどうかは知らない。遺書を見たら、キミの死を受け入れなきゃいけない気がして怖くて読むことが出来なかった。

 警察の若いお姉さんが気を遣って、中身を教えてくれた。キミがわたしの知らないところで虐められていたこと、キミがわたしに気付かれないように笑顔の仮面を被っていたこと。そして、最後までキミはわたしを愛していたこと。文字に起こされたキミの思いは、痛いくらいにわたしの胸を深く抉って虚しさを残した。


 キミはわたしを愛してくれていたんだね。ずっと、一方通行な想いじゃなかったんだね。それならどうして言ってくれなかったの。わたしにはキミがいれば、キミが生きていてくれさえすれば何もいらないのに。ずっと笑っていられるのに。

 今更キミを詰っても、怒っても仕方がないけれど。それでも、最後の最後にキミの想いを知ったから。一番近くにいたはずのわたしに見せなかった心を、キミの思いを知ってしまったから。

 だから、わたしは生きるよ。キミのいない世界で精一杯幸せになって、いつかキミのいる世界に笑顔で行くんだ。その時は、キミもその世界で幸せに笑っているといいな。そして、ふたりでまた笑い合えるように。




 ──いつから、キミの光が弱くなっていたのだろうか。

 ──いつから、キミは心を隠すようになっていたのだろうか。




 キミにもう答えを聞くことは出来ない。たとえ誰かが答えてくれたとしても、それはわたしの求める正しい答えではない。偽りの答えだ。

 だけど、大切な人が世界からいなくなったとしても、生きている人の世界は続いていく。ずっと疑問に囚われてばかりではいけない。

 だからね、わたしはキミの死をきちんと受け入れて前を向くよ。最後までわたしの幸せを願ってくれたキミの思いを胸に抱いて幸せになってみせる。

 それでも、やっぱりキミが生きていてくれたら。そう思うことは当分止められそうにない。




         ・


         :


         :


         ・




「どう? 私の処女作」


 今日はわたしの誕生日で、親友の彼女がわたしのために小説を作ってきてくれる予定だった。それなのに、いざ小説を受け取って読んでみれば、誕生日にふさわしいと言い難い内容のものが完成されていた。何もない日であるなら、この内容を読んでもすごいと言えるだろう。けれど、今日はわたしの誕生日だ。もう少し明るい話が良かったのが本音である。


 ただ、彼女は真剣に考え作ってきてくれたと思うから、わたしの安易な言葉で傷付けたくない。彼女が今日に間に合わせるために徹夜だったことを知っているからなおさら。


「ちなみにね、モデルは私達なんだよ。まぁ、"キミ"は男で"わたし"は女だから、性別は違うし恋愛要素入れたからそこも違うんだけどね」


 何も反応を示さないわたしに焦れたのか、何やら彼女は小説の解説を入れ始めてきた。まぁ、読んだら大体は分かることなんだけれど。


「あ、後ね。結構抽象的な表現を多く入れちゃったから分かりにくいかもしれないんだけど、キミの光は命の灯火のことで、世界からキミがいなくなったことは、つまりね」


「ストップ!! ちょっと落ち着こうね? さっきはすぐに言えなかったけど、わたしのために小説を作ってきてくれてありがとう。嬉しかったよ」


 まだまだ解説を終える気のない彼女に声を掛けて、当たり障りのない感謝を述べる。彼女がわたしのために一生懸命小説を作ってきてくれたことには感謝しているから、あながち嘘じゃない。


「あ、良かった! 初めて作ったから本当は不安だったんだよね」


 安心したようにふにゃりと笑う彼女に、さっさと素直に感謝すれば良かったと思ったのは内緒。ひとまず、今は彼女が喜んでいるから小説の内容については言及しないことにした。たとえ、誕生日にふさわしいとは言えない内容だったとしても、だ。


 わたしが感謝を述べたことで、幸運(?)なことに小説の感想を求めてきた彼女の気を逸らし話のすり替えに成功した。そればかりか、彼女は目の前に用意しているイチゴのケーキに目が釘付けだ。


「ねぇ! 早くケーキ食べよ!」

「はいはい……って、落ち着いてよ。ケーキは逃げないんだから」

「だって、買いに行った時から美味しそうでさ、早く食べたいんだもん。てことで、誕生日おめでとう!! じゃ、いっただきまーす!」

「何がてことで、よ。意味わかんないから」


 なんて呆れながらも、わたしも彼女と同じようにいただきますと手を合わせてから、目の前にあるイチゴのケーキを一口掬ったのだ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

このお話に関しては、評価や感想は受け付けておりませんのでご了承ください。



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