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ヴァンパイア ラプソディ  作者: ムラサカ
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8 暇人共の決起集会

 なんだかんだでエルバード亭に戻りパンケーキと飲み物だけがぽつんと取り残されたテーブルに再び着席。

 すっかり冷めてしまったコーヒーを一気に平らげるとミシェルがつかつかとやってきた。


「ちょっとねえ、ピークタイム中に勝手に消えないでもらえない!?」

「おう、スマンなみーちゃん」

「アンタにみーちゃん呼ばわりされると胃がムカムカして吐き気がするわ」


 ミシェルが口元にメリヤスを当て生ごみを見る目で毒を吐く。

 酷い言われようだ。

 誰だこんな奴をチーフにしたのは。


「それで? 何か食べるの?」

「ああ、お任せで頼むわ」

「はいよ。次いなくなったらテーブル片付けるからね」


 ミシェルがきつい口調で釘を刺すと踵を返し足早に厨房に消えていく。


「なんかお任せってドキドキするわね」


 セシルがもどかしい顔つきで厨房の方を見ながら不安を口にする。

 身体スペックは規格外なのに金銭感覚だけは庶民レベルなんだな。


「得体の知れないボッタクリ店と一緒にするでない。ウチはお任せで頼めば定番人気メニューと季節の食材をふんだんに使ったバランスよい食事が提供されるぞ。まあパンケーキは来ないと思うが」

「ええー、そんなぁ」


 おのぼりさん丸出しのセシルにエルバード亭の正当性を説くと最後の一言にルシオンが反応する。


「黙れ無能堕天使。お前は川の水でも飲んでおれ」

「ひーどーいぃー」


 涙目で抵抗してくるルシオンを見て素朴な疑問が湧いた。

 もしこいつが天使だったら?


 天使と思って長年接していたら実は堕天使でしたと。

 しかもそこに違和感も不信感も無かったですよと。

 そりゃそうだ、天使ではないと予測する機会すら無かった訳だし。


 天使と堕天使の違いはなんだろうか。

 いや、根本的な問題としてそもそも天使とは何者だろうか。


「なあスカーレット、お前はどうしてルシオンが堕天使だと気付いたんだ?」


 素朴な疑問をスカーレットにぶつけた。


「それは簡単な話じゃ。天使は地上の者とは契約を結べないからのう」

「地上に長くいられるのは堕天使だけなんだよー。その代わりに堕天使は2度と天界には戻れないの。だから地上に降りるしかないんだ」


 ルシオンが偉そうに口を挟む。

 僅かに物哀しそうな雰囲気を漂わせながら。


「のう、ルシオンや」

「なーにー?」

「お主、もしや天地大戦を存じておるかの?」

「うん、知ってるよー。私も参戦したよーな……、あはは……」


 ルシオンの歯切れが悪い。

 こんなの初めて見たかもしれない。


「そうであったか、妾もじゃ。あの時はお互い苦労したのう」

「あ、あはは、うん、そーだねー……」


 スカーレットの昔を懐かしむ声にほんの一瞬ルシオンの表情が崩れた。

 あまりこの話には触れられたくないのだろう。

 

「あ、あー、すまぬ、もう遠い過去の話じゃったわ。のう、サムや」


 即座に何かを察したスカーレットはそう言って俺に目配せしてくる。

 御意。


「おい、らしくねーぞ」


 俺はルシオンの頭に左手を乗せるとそのまま髪の毛をくしゃくしゃと揉みほぐす。


「やーめーてー」


 嫌がる声はいつものルシオンだ。

 少しホッとして俺は左手を頭から放した。


「本当にすまぬ。お主にとって忘れ去りたい出来事であったろうに」

「んー、気にしないでー」


 重ねて謝罪するスカーレットにいつものテンポで応じるルシオン。

 気になる内容だったので残念だが楽しい食事を前に無理に聞き出すこともないだろう。


 天使に関わる話はあまりしたくないようなので話題を切り替えようとしたところで再度ルシオンが口を開いた。


「ねーねー、ところで5人集まって何するのー?」

「それはだな、ほら……」


 何する、だと!?


「……」

「……」

「……」

「……」


 全員の視線が俺に集まる。

 嗚呼、こいつら間違いなく俺の発言を待っていやがる。

 なんて他人任せな奴らなんだ。


 完全に4対1の空気。

 考えろ、考えるんだ俺。

 考えて考えて今置かれた危機を何事もなかったかのように乗り越えるんだ。

 よし、順を追って辿ろう。


 イセリアに来た理由は分かっている。

 祝福値を上げにルシオンを捕獲しに来たんだ。

 不発に終わったけど……。

 その前は……。

 ああそうだ、スカーレットが何故か勝手に加わったんだ。

 セシルが強引に魔王城から引きずり出して蹴っ飛ばして木陰で話し込んで、明確に加わる根拠は無かった気がする……。

 クーリエは何だったかな……、多分側近としてスカーレットについて、思い出せないがそんな理由だったような……。

 いちばん最初に会ったのはセシルだ。

 あれ、セシルと組むきっかけって、何だろ、これも大した理由じゃなかったような……。


「なあセシル」

「何?」

「俺と組んだ理由ってなんだっけ」

「さあ」


 さあ、ときますか……。


 なんなんだこのパーティーは。

 何ひとつ目的が無いときやがった。

 ついでに言えばパーティーの結成理由すら無い。

 強いて言えば暇だから。

 うーん、俺もソロで動いていたから強くは言えないがやっぱり目的があった方がしっくりくる気がする。


「緊急事態だ、することが無い。誰かいい案はないか?」

「ないわね」


 この野郎、お前一瞬でも考えたか!?


「妾は楽しければそれで満足じゃ」


 この野郎、本当に勝手についてくるだけか!?


「私も特に意見はございません」


 この野郎、その右に倣えの性格なんとかならんのか!?


「私はおいしいものが食べられるなら一緒に行くよー」


 正直、強制連行する必要のなくなった堕天使から偉そうに同行条件が提示された。


 グルメツアーか……。


「ねえ、何考え込んでるの?」


 思索に耽る俺にセシルが話しかけてきた。


「ああ、行動目的を考えていたんだ。ギルドでパーティー登録する時に訊かれるもんでな。パーティーの方針に応じて仕事を斡旋するのもギルドの業務内容に含まれているから適当に書くと後で後悔するんだわ」

「そういうことね。活動の幅は広い方がいいけど目的が白紙なのはダメってのもなかなか厄介ね」

「それか5人パーティーだからルクセンオールまで冒険者の証を貰いに行くのも手だな。それなら自由度を維持しつつ十分に名目として挙げられる筈だ」

「朝読んだガイドに書いてあったわね」


 なんとなく頭に浮かんだ構想をセシルに伝えているとミシェルがサービスワゴンを押してやってきた。


「おまたせ、ここに置いておくからあとは任せるわよ?」

「ああ、ありがとう」


 ワゴンには幾つもの料理が載せられており食欲をそそる匂いが鼻をくすぐる。


「あとお酒は飲むの?」

「酒か……」


 ミシェルがお前らどーすんの的視線を投げつけてくる。


「妾はこれでいいのじゃ」


 スカーレットが空になったエールのグラスを持ち上げてふりふりする。


「でしたら赤ワインをよろしいでしょうか」

「私、ミルクが入った甘いのだったら飲めるよー」


 いや、だからお前ら予想の範疇をだな……。

 あれ? セシルがもじもじしている。


「お前はどうするんだ?」

「あの、あたしお酒って飲んだことなくて……」


 あ、そゆことね。

 

「あら、初めてなの? だったらパープルベリーの果実酒がいいわね。それならこれと同じ感覚でイケるわよ」


 そう言いながらミシェルはセシルの前に置いてある空のグラスを引き上げる。


「どうだ、飲んでみるか?」


 セシルが無言でこくりと頷く。


「よし、それじゃあその果実酒1つ、あと俺にもエール頼む」

「は? 何言ってんの? 初めての子がいるなら同じもの頼むのが礼儀でしょ! アンタもパープルベリー酒を飲みなさい」


 そう言うとミシェルはカウンターに立ちグラスを5つ並べた。


「みーちゃんて昔からにーさんにきついよねー」

「いや、あいつは男全般に厳しいんだよ」


 ルシオンとボソボソと話しながらワゴンに置かれた料理をテーブルに並べる。

 たっぷりとチーズの掛かったパン、ミートソースパスタ、根菜と豆のスープ、葉物野菜とベーコンのサラダ、鶏肉の香草焼き、イノシシらしきかたまり肉の串焼き、エビとタコと魚のマリネ、異様なまでに巨大なプリンはデザートだからまだワゴンに置いておくか。


「私プリン食べながらごはん食べられるんだよー」

「そうか、それはよかったな。奇異の目で見られるから表沙汰にしない方がいいぞ」


 死ぬほどどうでもいい裏情報が飛び込んできた。

 ってことは前菜とデザートが同時に運ばれたのはこいつが原因か。


 一通りテーブルに移すとミシェルがオーダーの酒を持ってきた。

 俺の前に置かれた果実酒は温もりのあるガス灯の光と混ざり合ってあずき色に染まっている。

 グッと飲み干して1日の疲れを解き放ちたい衝動に駆られるがまずはアレだ。


「それではパーティー結成を祝してクーリエ君に乾杯の音頭を取ってもらいましょう」

「……、!!!」


 一瞬の間を置いて俯いていたクーリエが勢いよく俺に顔を向けた。


「わわわわわたっ、私ですか!?」


 期待を裏切らない慌てぶりだ。

 実に微笑ましい。


「クーリエなんて他にいないだろが。それよりお前、誰かが音頭取るのぼーっと待ってただろ」

「い、いえ、そのようなことは決して……」

「さっき強くなりたいって言ってたもんな、だから俺が責任持って店主の目の前で試食品全部食べつくして何も買わずに無言で立ち去れるくらいの肝っ玉に鍛えてやろう」

「はうー」


 嘆きの声を漏らすクーリエを横目にスカーレットが立ち上がった。


「まあまあ、今日はこんなにもめでたい日じゃからのう、ここはひとつ妾の名に免じて許してはくれぬか? じゃがクーリエ、サムの言うこともあながち間違ってはおらん。この旅を鍛錬の場と捉え精進するがよい」

「はい。畏まりました」


 のんびり行楽気分の上司に研鑽を高めるよう理不尽に命じられる部下のやるせない現実を見た。

 やはりクーリエには優しくしよう、俺は強く心に誓った。


「ではこのまま妾が乾杯の音頭を取ってもいいかの?」

「おう、任せた」


 クーリエに優しく接しようと決めた手前、断る理由が特にない。


「それではコホン、皆との出会いと旅の成就を願って乾杯!」

「乾杯!」


 グラスを傾け控えめに1度だけ打ち鳴らす。

 騒めく喧噪に溶けた小さな音は決意と共に心に刻まれる。


 さあ行こうか。


「ふあー、なにこれ、ほわってするー」


 セシルが未知なる体験を捻りもなく伝えてくる。

 騒がしい。

 どうやら余韻に浸る暇はないようだ。


「おっにくーおっにくー」


 セシルが鼻歌交じりに串焼き肉を掴むとガブリと食らいついた。


「あ……」


 固まる。


「思い出した、このスパイス。この味が美味しかったから昨日サムについて行こうって決めたのよね」

「そういえばあの時のスパイス、此処の厨房から拝借したやつだったわ。ならば此処がセシルの旅の終着点だな。お疲れ様。達者でな」


 俺はすかさず袖で涙を拭う振りをする。


「ちょちょちょっと何言ってんのよ、こんなのノーカンに決まってるでしょ!?」

「おっ、ご都合主義発動だな。そういうのはなるべく最終局面までとっておけ」

「いや、何言ってんのかよく分かんないんだけど」


 そう、セシルと組んだのもどうしようもない理由だったんだ。

 だったらいっその事ルクセンオール行きのグルメツアーで推してみるか。


「なあ、スカーレットとクーリエは城の方、暫く空けても大丈夫か?」

「メイレンがおるから問題無いのじゃ」

「メイレン?」

「暇さえあれば掃除しておるサキュバスが城におったじゃろ。思い出せぬか?」

「あー、いっつも箒持ってたやつか」

「そうじゃ、そいつなのじゃ」


 掃除で思い出した。

 あいつサキュバスだったのか……。

 几帳面なサキュバスなんて聞いたことねえぞ……。

 とはいえ一旦それは横に置いておこう。


「てことは全員時間的に支障はない訳だな。そこで俺からの提案なんだが表向きは冒険者の証の獲得、実態は各国グルメツアーで行こうと思う」


 テーブルを挟んで全員が俺の発言を傾聴している。

 各国グルメツアーというパワーワードがこいつらのハートを鷲掴みにしているのは火を見るよりも明らかだ。


「もちろんこれにはれっきとした理由がある。まず、冒険者の証を得るにはカーネリア周辺の6国経由が必須だからぶらぶらする為の建前に最適。それに証が手に入ればカーネリア王国騎士団の加入も可能だから国王の身辺調査がしやすくなるんだ。そこからキャスバル断交の手掛かりが掴めれば国交回復に向けてアクションを起こせるって算段よ」

「へえー、ただの思い付きかとちょっと疑ったけどアンタなかなかの策士ね」

「おうよ敬え」

「お酒おかわり」


 セシルが俺の提案を持ち上げつつおかわりをたかってくる。

 よく見ると既に眠たそうな顔をしている。


「妾もその案に賛成なのじゃ」


 スカーレットの言葉にルシオンとクーリエが小さく頷いた。


「そうと決まればさっさと食事は終わらせて休むとしよう。俺とセシルはほぼ徹夜だったからいっぱいいっぱいなんだわ」


 俺は果実酒を一気に飲み干すとトンとテーブルにグラスを打ち鳴らした。


 …


 ……


 ………


 結局あの後ルシオンにプリンを押し付けて会議はお開きになった。

 ルシオンはエルバード亭に部屋があるから4人で宿まで歩いて向かう。

 すっかり日の落ちた外の風が徹夜と酒で火照った身体に心地よい。


「で? 初めての酒はどうだった?」

「なんかほわーってしてふわーってするの」


 隣を歩くセシルに感想を尋ねたが一口飲んだ時と似たようなコメントが返ってきただけだった。

 酔うと知的になるとかだったら喜ばしかったのだがそんな話は何処にも無いようだ。


 なんて間に宿に着いた。


「それでは明日の朝ロビーに集合です。遅刻した者は置き去りにするのでくれぐれも粗相のないように!」


 最後にきっちり釘を刺し長かった1日が終わりを迎える。


 明日もガンバロー!

 ベッドに倒れこみながら心の中で呟くと俺は瞬く間に微睡みに落ちた。

 

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