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ヴァンパイア ラプソディ  作者: ムラサカ
52/52

52 遠足にお菓子はつきものです

 ぱちり。

 もう朝か?

 いや違うな、まだ薄暗い。


 それにしても何日か振りのベッドで迎える朝の清々しさよ。

 できれば毎日こうでありたい!

 その為にもさっさと今抱えている問題を解決しなくては。


 そういえば結局昨日もどこぞの魔王が酒持ってこいとか喚きだしてダラダラと夜更かししてしまった。

 

「ふぁ~あ……。まだ早いしもう少し寝てるか」


 俺はぐいっと毛布を巻き込んで再び夢の世界へと旅立った。


 …


 ゴチーーン!!


「ぬがっ!!」


 額に強い衝撃を受けて目が覚めた。


「いったー、何だよもう!」


 半ば混乱しつつもぼやけた瞳を開くと超至近距離にクーリエの顔が。

 クッソー、今日もこの展開かよ!


「クーリエよ、突然どうしたのじゃ!? 幾らサムに好意を寄せておるとはいえ朝から積極過ぎではないか!?」

「な訳ねえだろ!! こういうのは普通夜中にこっそり来るもんだろが!」

「おお、サムから夜這いの許可が下りたのじゃ。婚姻前に乱れるのは些か気が引けるがこれも時代の流れかのう」

「下りてねえよ!!」


 腕組みして感慨深げに頷くスカーレットを一喝して、突き飛ばされたまま無言で俺にしがみつくクーリエをに目を向けた。

 何だろ、日を追うごとにスキンシップに遠慮が無くなっている気が。

 妖魔のくせにじわじわと距離を詰めてきやがるとはやるじゃねえか……。


「お前もしょうもない芝居に付き合わなくていいからさっさと起きろよ」

「はわわわわ……」


 なかなか離れようとしないクーリエの髪をわしゃわしゃするとお決まりの声が漏れてきた。

 お前だけがこのパーティーの良心なんだからしっかりしておくれ。


「よっと」


 久しぶりのベッドに名残惜しさを感じながらも俺は勢いよく立ち上がった。

 セシルとルシオンは未だ夢の中。

 てゆーか周りでこれだけ煩くしてたのにお前らよく寝ていられるな……。


「おい、いつまでも寝てると朝メシ置いて行くぞ」


 むくり。

 然も当たり前かのように2人同時に起き上がった。

 何だろ……、上手く説明できないけどスゴイよね、うん。


 てな訳で全員身支度が整ったところで食堂へ向かった。


「はい、しーちゃーん」

「ちょっとルシオン! あたしの前に葉っぱばかり置かないでよね!」

「違うよー、健康の為だよー」

「何じゃこれは水ではないか。水はルシオンが飲む故、今すぐジュースを持ってくるのじゃ」

「あーん、私もジュースがいいよお」

「あたしも!」

「お前ら朝から文句ばっかじゃねえか!」


 周りの宿泊客の冷ややかな視線が刺さる。

 それでもこの賑やかさも悪くない気がしたのか、1人で食べる時より不思議と美味しく感じられた。


 …


 朝食を終え、支払いを済ませて表に出た。

 頬を撫でる生暖かい潮風が旅気分を増幅させる。


 ちょうどユスアから出てきた夜行列車が駅に入るタイミングなのだろう、キーッと甲高いブレーキ音が耳に届いたと思った矢先、わらわらと駅から若き冒険者達が駆け足で出てきた。

 そしてその全員がギルド目指して瞬く間に視野から消えていく。


「若いねえ」

「何を達観しておる。お主もまだまだひよっこじゃろが」

「そりゃお前に比べればな」

「えへへー、にーさんはひよこさんなんだよぉ」

「お前は立派な害鳥だけどな」

「私そんなんじゃないよぉ……」


 他愛のない会話を交わしながら俺達もギルドへと足を運んだ。


「ねえ、そういえばさあ」

「どうした?」


 ギルドが近付き、商店が増えてきた辺りで前を歩くセシルがこちらに振り返った。


「保存食とか買っとかなくてもいいの?」

「んー、どうすっかなあ……」


 セシルの事だ、冒険者が店で食料を買い込んでいるのを見て感化されたのだろう。

 実に分かりやすい。


「あいつらはサフテンソニアまで歩きだけど俺達は馬車が待っているからな、取り敢えずギルドで話聞いてから決めようぜ。まあコレなら幾らでもあるし」


 俺はそう言いながらセシルに向かってマジックポーションをピュッと投げた。

 一瞬で飲み干されるエルバード家の特製ポーションちゃん。

 ホントいっつも思うんだけど飲み込んだ魔力は何処に消えるんだよ!


 まさかトイレで排出されているんじゃないかと不安になりながら気が付けば俺達はギルドに到着していた。



 ギギ、ギィィィ―――


 砂を噛んだ鉄の扉を力任せに引く。


 ギロリ。

 だから何故お前らはそういう目で見てきやがるんだよ。


 だが俺達はそういう目をものともせずカウンターへと向かった。


「おはようございます」

「あっ、おはようございます。えっと、マズルカさんまだ来てないんだ。お願いする身で申し訳ないんだけどマズルカさんが来るまで少しだけ待っててもらえないかな?」

「そうですか。じゃあ近くで買い物しながら待ってます」

「ありがとう。来たら直ぐに呼びに行くよ」


 妙にフレンドリーなスタッフとのやり取りを終えて俺達はギルドから出た。


「一昨日小遣い渡したよな。それで親衛隊長が来るまで買い物でもしようぜ」

「ウム、お主の悪意が煮詰まった銭であるな」

「この野郎……」


 スカーレットは革袋を縦に振るとチャリチャリと金属が擦れ合う音が短く響いた。

 王を称するくせに何て嫌な表現をしやがるのだろう。


 それはさておき、辺りを見渡すとコバルクギルドを取り囲むように様々な店が軒を連ねている。


 冒険者の証を貰う為には特例を除いてここからガレオンまで歩かなけらばならない。

 道中、町がぽつぽつあるけどめぼしい物がある保証は無い。

 そりゃここでできるだけ揃えようとするわな。


 三段論法の辿り着いた先がこの商店包囲網であるのは誰の目にも明らかであろう。

 まっ、理由はどうあれ時間を潰すにちょうどいいので店の思惑に乗っからせてもらうとしますか。


「ギルドの前に馬車が来たらこの場所に集合な。変なモン買うんじゃねえぞ」

「分かったのじゃ」

「はーい」

「失礼ね、変な物なんか買わないわよ」


 俺に返事を返した3人は吸い込まれるように同じ店に入っていった。

 オイ、そこ菓子屋じゃねえか……。


「なあ、クーリエは気になる店とかあるの?」

「いえ、私でしたらもう十分に頂いておりますので」


 隣に立つ彼女は愛おしそうにネレイスの指輪をそっと撫でた。

 下世話な話だが確かに金貨1600枚の代物だしな。


「そっか。じゃあ買う買わないは別として適当に見て回ろうぜ」

「はい」


 菓子屋から出てこない連中をよそに俺とクーリエは寄り添いながらコバルクの街並みを散策した。


 …


「大変申し訳ございません。出発の手続きに手間取ってしまいまして……」

「あ、いえいえ、お気になさらず」


 特に時間の約束はしていなかったのだが親衛隊長は俺達が先に来ていたと知った途端、駆け足でやってきて深々と頭を下げた。

 ぶっちゃけ、たまたまこっちが先に着いただけだから気にしないでほしいってのが本音だ。


「そう言って頂けると助かります。では私はギルドで手続きをして参りますのでその間にキャビンへお上がり下さい」

「分かりました」


 ギルドの真ん前に俺達を乗せる2頭立ての馬車が待ち構えている。

 サンチャーフォ王家の長旒旗を掲げたそれは昨日よりも一回り大きく、更に絢爛で強固なのが見て取れた。

 それに加えて馬車の前後に騎兵を1人ずつ配置。

 地元住民、道往く人々、ギルドに用がある冒険者、言うまでもなく全員のガン見対象だ。

 気持ちは有り難いがここまで来ると逆に乗りづらいような……。


「カッカッカ、昨日の話し合いで一芝居打ってやったからのう。慌てて王室の馬車を調達してきたのであろうな」


 どうして昨日こいつがあんなデカい態度で臨んだのか、その答えがこれだったということか。

 もし俺が咄嗟に立ち上がろうとした時スカーレットに止められなかったら昨日此処に停まっていた馬車が今日も使われたであろう。

 個人的には別に昨日の馬車でも十分過ぎると思うけど……、まあ、いいか。


 それならば好意に甘えてっと。

 俺は意気揚々とキャビンに乗り込んだ。


 うおおおお!

 これが王室御用達ってやつか!!


 艶々で滑らかなワインレッドの絨毯に重厚なシルクのカーテン。

 そして玉座を彷彿とさせる座る者を厳選すべし椅子。

 そのどれもが職人の圧倒的な技術を感じさせる。

 これはもう移動する宮殿と言っても過言ではないかもしれない。


「おい、そこの魔王。お前が似合いそうな椅子があるぞ」

「何を言うか。妾はこのすべすべの絨毯に寝転がるのじゃ。そいつは不要であるからお主が座るがよい」


 スカーレットは格式高い椅子に一切の興味を示さず絨毯の上を転がり始めた。

 狭いんだから転がるんじゃねえよ!

 だが転げ回る魔王を気に留めることなくセシルとルシオンも絨毯に腰を下ろしている。

 確かに俺達にはあんな椅子より床に寝そべって寛ぐ方が似合ってるのかもな。

 俺はその場に座ると横に居たクーリエもそっと腰を下ろした。


「おや、特注の座席はお気に召しませんでしたか?」


 親衛隊長が苦笑いを浮かべながら間仕切りのカーテンの隙間から顔を覗かせた。


「すみません親衛隊長、あまり仰々しいのは性に合わないものでして」

「そうでありましたか。でしたら出発前に下ろしておきますね。あと私のことはマズルカで構いませんよ」

「わざわざ準備して頂いたのに申し訳ありません。それと僕もサムで大丈夫ですので」

「承知しました。サム君、暫くの間宜しくお願いします」


 マズルカは部下を呼び出すと鎮座していた煌びやかな椅子を撤去させた。

 途端にキャビンが広くなる。


「これより我が隊は第6ハイテホーテ河食洞に向けて出発する。全隊進行」


 馬車1台と騎馬が2騎だけだが彼にとって規模は関係無いのだろう。

 任務を全うすべく号令を掛けると大きさの割には驚くほどスムーズに馬車は動き出した。


「発ったばかりで恐縮ですが今後の大まかな予定をお伝えしても宜しいでしょうか?」


 カーテンの向こうからマズルカの声が聞こえた。

 今から打ち合わせをしたいようだ。


「あ、はい、大丈夫ですよ。それはこちらとしても気になりますので」

「それでしたら……、失礼しますね」


 間仕切りのカーテンが開かれ、マズルカはこちら側に踏み込むとエラそうな椅子が置いてあった場所にドスッと腰を下ろした。


「いや~、本当のことを申しますと私も堅苦しいのは苦手でありまして……、こうして胡坐でもかきながら話し合う方が向いているんですよ」


 マズルカはそう言うと前歯を見せニッカリと笑い出した。

 笑ってはいるが目の前に魔王が居ながらも泰然として構える様はさすが親衛隊長なんだと感じさせる。


「早速ですが、たった今コバルクを出まして……」


 マズルカは昨日より一回り小さい地図を2枚、絨毯の上に広げた。

 片方はリペイコ、もう片方はサンチャーフォの地図のようだ。


「徒歩でサフテンソニアに向かうとしたら一般的にはこの街道を使います」


 地図上でコバルクを指した指はツーっと滑りながらサフテンソニアに移動した。

 俺達も徒歩だったら採用するだろう。

 それくらい名の知れた街道だ。


「ほぼ最短距離ですし、鉄道駅を構えた国境付近のファサーラをはじめ大小様々な町や村が点在しておりますので身の安全も確保されていると言ってもよいでしょう。ですが私達の目的地はサフテンソニアではなく第6ハイテホーテ河食洞ですのでファサーラからラミナケア洞窟へ向かう街道を北上します」


 マズルカの指はラミナケア洞窟を越えてカーネリア王国の国境線まで動いて止まった。

 そここそが彼の言う第6ハイテホーテ河食洞。

 確かに昨日の地図に付けられた印と一致する。


「こちらの街道は途中で宿泊できる町などはありませんのでファサーラから先は野宿となります。ファサーラに着きましたら必要物資は私共で調達しますのでサム君達は探索に備えて休息を取って下さい」

「お気遣いありがとうございます。ところでファサーラまでどのくらい掛かりそうですか?」

「コバルクから徒歩5日といったところですので……、馬車で3日を想定してます。ファサーラから第6ハイテホーテ河食洞はこちらも3日を予定しております」

「分かりました。こちらとしてもできる限りのことを尽くしますので宜しくお願いします」

「では私は御者と共におりますので入り用がありましたらお声掛け下さい」


 堅苦しいのは苦手と言っていた割に堅さが残ったままの打ち合わせが終わり、マズルカはカーテンの向こうに去っていった。


 それはさておき、コバルクから第6ハイテホーテ河食洞までファサーラで1泊するとして7日、探索に2日掛かるとして、そこからサラトナまで5日位だろうか?

 思ったより掛かりそうだけどそれでも徒歩よりは俄然時間効率も良いし、何より国家レベルの依頼をこなしたという実績が積めるというのが素直に大きい。

 そこに魔王が関わっているとはいえ怪訝な顔をするのはカーネリア王国のお偉いさん連中だけだから冒険者の証を貰ってもカーネリア王国騎士団の入隊を目指さなければ気にする必要も無い。

 うーん、何て至れり尽くせりなんだろう。


 俺はポケットに手を突っ込んでアーシャから買った世界樹の御守りをグッと握った。

 恐らく俺達の素の祝福値ではこんな展開に巡り合うことは無かったと思う。

 できればこの風向きを維持したまま全ての問題が片付けば……。


「ホレホレ、お主はいつまでそんな辛気臭い顔をしておるのじゃ。それよりこれを見ぬか」


 鬱陶しい声の主は腕を伸ばして指先で摘まれた物を見せつけてきた。

 誰がどう見てもただの棒付きの飴じゃねえか。


「何じゃそのシラケた面は。棒の先っぽに飴がくっついておるのじゃぞ!? 最早この乾いた日常を潤わす最後の一滴と言っても過言ではなかろうが!」

「過言が過ぎるわ!!」

「うーむ、形式美だけに留まらず味わいも絶品なのじゃ」


 スカーレットは俺の言葉を無視してバリバリと棒の先っちょの飴を噛み砕いた。

 嗚呼、棒の存在価値よ……。


「ねえねえ、にーさんも食べるー?」


 スカーレットとのやり取りが終わったタイミングでルシオンがドーナツを差し出してきた。


「要らん」

「えーー、こんなに美味しいのにぃ。くーちゃんはどうかなー?」

「すみません、私も今は……」


 結局行き場を失ったドーナツはルシオンの口にすっぽりと収まった。

 てゆーかオマエ紙袋いっぱいドーナツ買うなよ……。


 何気なくルシオンの隣に居たセシルの紙袋に目を移した。

 こっちはクッキーとマシュマロがパンパンに詰まっていやがる……。


「何よ」

「いや、別に」


 遠足かよ……。

 馬車は甘ったるい匂いを撒き散らしながら西を目指した。

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