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ヴァンパイア ラプソディ  作者: ムラサカ
50/50

50 西からの依頼者

絶望の種(ゼツボウノタネ)


 事の発端は700年前に起きた天地大戦。

 以降、それまで約100年間隔で花を咲かせていた世界樹は長い眠りに就いてしまった。

 そして入れ替わるように本来世界樹が開花するタイミングでダークエルフ紛争が勃発。

 ダークエルフ紛争、それは世界樹の目覚めを妨げる禍。



 時が経ち、いつしか人はダークエルフを絶望の種と呼称するようになった。



 ………


 ……


 …



 リンフィーネがセシルの死を予言した。

 やはりダークエルフ紛争は周期通りに起きてセシルはその厄災の犠牲になってしまうのだろうか。


 スカーレットならばセシルの運命を書き換える力を秘めているとは言っていたがそれはダークエルフ紛争すらも止められるということなのだろうか?

 いや、それが可能ならとうの昔に止めている筈だ。

 となるとどのようにして運命を導くのだろう……。


 ドスッ!!!


「ごはあっ!!」

「やれやれ、いい若者がブツブツと辛気臭いのう。もっとシャキッとせんか!」


 背中に突如強い衝撃を受けた。

 何故こいつはいっつも上空からダイブして来やがるんだよ。


「うるせえ! そもそも俺はお前の馬じゃねえんだよ!」

「ウム、なかなかの気勢じゃな。思考にふけるのもよいが前も見ねば先には進めぬぞ」

「いてててて、分かったからそれ止めろよ」


 スカーレットは俺の背中に乗っかりながら肩のツボをグリグリしてきた。

 その痛みで嫌でも顎が持ち上がる。


「クーリエよ、サムの体調が思わしくないようじゃ。横で看てやってくれんかのう」

「畏まりました」


 2人の会話が終わると同時にクーリエは俺の右隣りに立ち、スカーレットは俺の背中から降りた。

 そっか、スカーレットの奴、俺が下を向いて考え事なんかしてたから戒めに来たんだな。

 そう思うと乱暴だけどその気遣いが少しだけ嬉しくて口元が緩む。


「あの、サム様?」

「ん? ああ、何でもない、大丈夫だ」


 それでも心配そうに気に掛けてくる隣人にそっと手を差し出した。


 きゅ。

 手と手が繋がる。

 温かい。


 スカーレットが居て、クーリエが居て、ルシオンが居て、これだけ揃っているんだ、セシルの運命だってきっと変えられる。

 根拠は無いけど希望は抱き続けよう。

 そう己に言い聞かせながら俺達はコバルクギルドへと向かった。


 …


 一旦鉄道駅まで戻ってそこから大通りを南下。

 まばらだった建物は徐々に密度が上がり、いつの間にやら通り沿いは隙間なく商店で埋め尽くされていた。


「ほぉー、倉庫街は閑散としておったがこちらは随分賑わっておるのう」

「一応カーネリアの属国とはいえ首都だからな。貿易自体はイセリアよりも盛んなだけあって店もそれなりにあるし、何より海外の変なモノをよく見掛けるんだわ」


 俺の前を往く前衛組。

 ルシオンは俺と何度もこの街道を歩いているせいか普段通りの落ち着きだが問題は残る2匹。

 腹は満たされているから大丈夫だとは思うけど、さっきから左右をキョロキョロしていつ駆け出すかこっちがハラハラするっての。

 と、後ろから見張ってはいるものの正直俺も怪しい店には引き込まれそうになってしまう。

 薄汚れた巻物、胡散臭い表題の書物、ヘンテコな飾り付けがなされた箒、視野に入っただけで思わず足が向いてしまう衝動に駆られそうになる。


 しかぁし、今日の目的はこの先にあるギルド!

 なのに俺が率先して横道に逸れてどうするんだよ!

 俺は心を揺さぶられないようにまっすぐ前だけを見て歩みを進めた。



 賑わう通りを少し歩くと年季を感じられる2階建ての木造建築物が見えてきた。

 イセリアギルドをひと回り小さくした見た目だが雰囲気に差異は無い。


 ん?


「あそこに建ってるのがコバルクのギルドだけど、何か偉そうな馬車が止まってんな……」


 ギルドの真ん前に2頭立ての馬車が停められている。

 こんな所に馬車が停まっているなんて初めてだな。

 とは言え数える程しか来たことないけど。


 ただそれより気になるのは妙に上質なこと。

 馬具ひとつ取ってもそこらじゃ見られない装飾が施されている。


 まっ、俺達には関係無いことだ。

 そんな軽い気持ちで俺はその馬車の横をすり抜けて扉の前に立った。


 ギギ、ギィィィ―――


 潮風で錆び付いた鉄の扉を力任せに引く。


 ギロリ。

 建物の中に居座っていたむさくるしい連中が一斉にこちらに目を向けてくる。

 俺が聞く限りでは世界中どこのギルドもこんな感じらしい。


 この視線は挨拶の派生形。

 俺は勝手にそう解釈して躊躇無く支配人が立つカウンターを目指した。


「こんにちは」


 俺はカウンターの前に立ち、受付のスタッフに挨拶する。


 もしかしてこの人もコバルクのお偉いさんだったりして……。

 イセリアギルドの支配人が実はイシャンテの君主様だったなんて真実を知ってしまうとどうしてもカウンター越しの相手にまで勝手な想像が働いてしまう。

 だが目の前の人物は妙にそわそわした感じで話し掛けてきた。


「や、やあ、いらっしゃい。あっ、早速で悪いんだけど証明書を見せて貰えるかな?」

「あ、はい」


 言われるがままに俺はイセリアギルドで発行してもらったパーティー証明書をカウンターの上に置いた。


「あ、うん。間違い無いね。それじゃあ今すぐで申し訳ないけど君達に会ってほしい人がいるんだけどお願いできるかな?」

「え? ああ、それは大丈夫ですけど……」

「ありがとう。じゃあ僕についてきて貰えるかな?」


 到着して間もない俺達に会わせたい人って何だ?

 ギルドのハンコが押された証明書を受け取ると俺達は言われるがままに2階の応接室へと導かれた。


 コンコンコン。

 先頭を行く受付スタッフは扉をノックすると返事を待たずして扉を開けた。


 ブラウンを基調とした落ち着いた色合いのテーブルを囲うように配置された椅子。

 その奥の方にプレートアーマーが飾られていて如何にもギルドの一室といった感じだ。


 でもって目の前に壮年の男が3人。

 その全員が胸に紋章を掲げ、煌びやかな装身具を身に着けている。

 貴族?

 皇族?

 そんな奴等が俺達に何の用だ?


「お待たせ致しました。サム・エルバード様御一行の到着にあられます」


 彼は室内で椅子に腰掛けている人物に向かって言葉を発すると扉の脇に移動して立ち止まる。

 同時に中で待機していた人物も素早く立ち上がるとくるりと身体を回して俺達に正面を向けた。

 そして右手を胸に当てながら深々と一礼。


「お忙しい中、突然の面会を受理頂き誠に感謝申し上げます。立ち話も何ですのでそちらの椅子をご利用願えますかな?」

「そうですね。ではお言葉に甘えて」


 俺の顔色を窺うように真ん中に立ついちばん位の高そうな紳士が奥の上座への移動を促してきた。

 その言葉に俺達はぞろぞろと動き出す。


 さて、どこに座るかな。

 まあ俺は隅っこでいーや。


「お主の席は此処に決まっておるじゃろが」


 スカーレットが指さす席は5つ並ぶ椅子の中央。


「座りながらで構わん、ルシオンは窓側、クーリエは廊下側に不審な者が居らぬか常に注視するのじゃ」

「はーい」

「畏まりました」


 スカーレットはテキパキと座席を指定するとクーリエの横に陣取った。

 すかさずセシルもルシオンの横に腰を下ろす。

 結局空いてるど真ん中。

 俺は渋々その余った席に着席。

 そして俺達が椅子に収まったのを見届けた後、彼等も腰を下ろした。


 パタリ。


 部屋の扉が閉じられ、俺達を案内してくれた受付スタッフは再びその場に直立。

 それに合わせて俺達に用があるという対面の3人が静かに立ち上がった。


「申し遅れました。私、隣国サンチャーフォ王国にて国王親衛隊長を務めておりますイルスケット・マズルカと申します」


 国王親衛隊長!?

 失礼が無いように俺は咄嗟に立ち上がろうと両手をテーブルにつく。

 だがその先の行為は俺の左腕を掴むスカーレットの右手によって阻止された。


「立つでない。格が下がるわ」

「あ、ああ。すまない……」


 声の主はこちらに腕を伸ばしながら何かを探るような冷めた目で親衛隊長を見ている。

 そーいやこんなんでも魔大陸の王だもんな。

 普段見せる喜怒哀楽の一切を殺した表情を横目に見ながら俺は対応を極力押し付けようと決め込んだ。


「これを」

「はっ」


 親衛隊長が横の部下と思わしき人物に1通の封筒を渡す。


「こちらを」


 封筒を受け取った男はテーブルを回って俺に差し出してきた。

 特に断る理由も無いので受け取る。


 厚くて上質な真っ白い封筒に押された真紅の封蝋。

 そこに刻まれた紋章は間違いなくサンチャーフォ王家のもの。

 本物だ。


 俺は封蝋を剥がして封筒を開き、入っていた3つ折りの羊皮紙を取り出した。


「……」


 文章より先に目に飛び込んだ国王御璽。

 どうしてそんな物が俺の所に!?


 ドックンと心臓に負荷が掛かり緊張が全身を支配する。

 イカン、落ち着くんだ俺!


「なんじゃあ? 国王の名を持ち出して妾を使役しようという腹構えかあ!?」


 俺の目が泳いでいる隙に封筒の中身はスカーレットに掠め取られ、瞬時に内容も把握されていた。

 そしてちょっぴり怒り模様の彼女の威圧。

 おお、流石は鋼メンタルの魔王様だわ。


 どれどれ。

 手紙が手元から離れた途端、心に余裕が生まれた俺はスカーレットが持つそれを覗き込んだ。

 んー、具体的な事は書かれてないな。

 察するに親衛隊長から話を聞いてくれといった感じだろうか。


「いっ、いえ、決してそのようなことは……」


 話が思うように進まないのか、親衛隊長の歯切れが悪くなる。


「貴様、マズルカと申したか? もしそうでないならば本心を述べるのじゃ。それすらできぬ者に交渉の権利なぞ握れぬと思え」


 焦る親衛隊長を前にスカーレットがガン詰めする。

 正直な所、まだなんにも話は聞いてないけど依頼は受けたいからあまり否定的な姿勢は示さないでほしかったりする。


「私共と致しましてはスカーレット卿を使役しようという意図は断じてございません。ただスカーレット卿に失礼が無いようにこちらとしても国王の名を用いた訳でありまして……」

「ならば最初からそう言うのじゃ」


 自分を利用するために国王の名を挙げたと思っていたスカーレットとスカーレットに失礼が無いように国王の書簡を掲げたマズルカ親衛隊長。

 あわよくばあちらさんは優位な立場で居たかったのかもしれないが取り合えず話し合いができる雰囲気にはなったようだ。


「それで話というのは何であるか?」


 スカーレットは国王御璽の押された羊皮紙を手のひらで勢いよくテーブルに叩きつけながら依頼の内容を引き出そうとする。

 対等以下の立場にならないように威圧感を滲ませる様は実に頼りになる。


「はい、最近カーネリア王国に源流を置く河川水の瘴気に異常が出ておりまして、願わくば高ランクパーティーに調査をして頂きたいと……」


 スカーレットに気おされているのか、親衛隊長ともあろう方が言葉尻に覇気を感じられない。

 ただただ相手の気分を損なわないように次の言葉を模索する様は胸元の勲章の威厳から遠くかけ離れている。


「フム、サムはどう答えるかの?」

「ん? 受けるよ。嫌か?」

「嫌な訳なかろう、妾は黙ってお主に従うのじゃ」


 俺とスカーレットの反応を見てテーブル越しの親衛隊長と両脇の従者の表情がほぐれるのが見て取れた。


 この依頼、俺達にもメリットがある。

 受けると決めたことだしもう少し詳しく聞かせてもらいますか。


 俺は目の前にあるグラスの水をグッと一気に飲み干した。

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