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ヴァンパイア ラプソディ  作者: ムラサカ
48/50

48 交易都市コバルク

 ゴチーーン!!


「んぐっ!!」


 額に強い衝撃を受けて目が覚めた。


「いったー、何だよもう!」


 半ば混乱しつつもぼやけた瞳を開くと超至近距離にクーリエの顔が。

 お前、何やってんだ?


「ウム、やはり最上位妖魔たるもの夜這いのひとつやふたつ容易く成し遂げてこそなのじゃ」


 2人して額を押さえていると彼女の後ろから無駄に偉そうな発言が炸裂してきた。


 寝起きプラス衝撃を受けた頭脳で可能な限り冷静に状況を分析する。

 目の前にはベッドに横たわりながら俺と同じく額を痛がるクーリエ。

 その後ろに不快なまでに笑顔のスカーレット。

 向かいのベッドに腰掛けながら何やら楽しそうにこっちを見るルシオン。

 脇で興味無さそうに突っ立っている割には頬を赤らめているセシル。


 俺はスッと起き上がり、ペンを手に取り紙にこう記した。


『判決

 魔王スカーレット

 本日メシ抜きの刑に処する』


「何故なのじゃ! おかしいのじゃ! 異議を申し立てるのじゃ!」

「うるせえ! オッマエ、俺に向かってクーリエ突き飛ばしただろ!」

「勘違いするでない、夜這いなのじゃ。のうクーリエ」

「はわわわわ」


 クーリエは開いた手を前に出してはたはたと振っている。

 全面的に彼女の意思ではないのが明白だ。


「何が夜這いだよ、もう明るいじゃねえか」


 俺はチラリと外の景色に目を移した。

 一面に広がる麦畑。

 コバルクの駅まであと少しだ。


「お主が呑気に寝ておる間に上で話し合ったのであるが、どうにもこうにもお主が絶望的なまでに草食系である以上、クーリエの方からアタックすべしで纏まったものでな。故に皆の総意であるからして妾の食事は滞りなく提供せねばならぬぞ」

「うーん、俺だけじゃ決められないしどうする? スカーレットをメシ抜きにすれば浮いた分お前等の食事が豪華になるけど」

「今のはまおーが悪いわ。罰を受けるのは当然ね」

「悪いことするすーちゃんにはお仕置きが必要だと思うなー」


 チョロい。

 今日も朝からチョロ過ぎる。


「だそーだ。よかったな、海水ならタダで幾らでも飲めるぞ」

「だぁーーっ!! こやつらめ、まんまと誘導尋問に引っ掛かりおって! そもそも妾はどこぞの堕天使と違って水なんか飲まんわ!」

「私だって別にお水好きじゃないよぉ……」

「あの、サム様……」

「ん? どうした? 有罪判決で魔王は打ち首獄門か?」

「その、スカーレット様も悪気があってなされた訳ではありませんので……」


 このような凶悪犯を目の当たりにしても赦してしまうとはやはり争いを好まぬことで知られるヴァンパイアロード。

 まあ種族のことはこの際置いといて、クーリエがそう言うのなら仕方が無い。


「クーリエより恩赦を賜ったから今日の所は見逃してやる。次やったらマジで赦さんからな」

「おおーっ、流石はクーリエなのじゃ。ありがたやありがたや」


 朝っぱらからしょうもないやり取りをしていると車体がグラグラと左右に揺れながら減速を始めた。

 駅が目前に迫っているサインだ。



 キキキ―――


 列車内に鈍く金属の擦れ合う音が響き渡る。

 魔石機関車はやがて駅の構内に停車するとカランカランとベルの音が鳴り響いた。

 その音を頼りに俺は列車の扉を開ける。


「着いたぞ。忘れ物は無いな?」


 俺の注意喚起も虚しく勢いよく飛び出すいつもの2人。

 追いかけるように残された3人がホームに降り立った。


「えっと此処が、何だっけ……」


 セシルがキョロキョロと周囲を見渡している。


「リペイコの首都コバルクだ。まあギルドは今日中に寄ればいいから、悪いけど先に用事に付き合ってもらってもいいか?」

「はあ!? それって今じゃないとダメなの? そもそもついでの用事なんてあたし達が居ない時にしなさいよね」

「であるな。我等はチームじゃ。いくらお主がリーダーと言え自己中心的な行動は慎むべきではないかのう」


 おおおおお、てっきり観光気分丸出しかと思っていたのにお前達からそのような前向きな言葉が聞けるとは……。

 これが成長というものか。


「そうだよな、今度新しく開くパンケーキ専門店の試食を頼もうと思ったんだけどそんなの何時でもいいよな。ほいじゃさっさとギルドに向かおうぜ」

「はあ!? バカねえ、何焦ってんのよ。ギルドなんて明日でもいいじゃない」

「セシルの言う通りじゃ。急いだところで吉報が届くとは限らんわ」

「この野郎……」


 手のひら返しの達人2名が俺の両脇に陣取った。

 分かる、絶対にギルドには向かわせないという無言の圧力だ。

 こいつらは既にギルドのギの字も頭の片隅に無いようだし、どうせクーリエもルシオンも拒否する訳が無いから予定通り試食会に行くとするか。


「じゃあ先に受付済ませて……、おっ、あそこだな」


 ユスアにもあった冒険者専用窓口で機関車の無事を報告して俺達は駅舎前の広場に出た。


「港湾都市と聞いておったがユスアのような強い潮の匂いは感じられんのじゃな」

「ああ、此処は小さな湾のいちばん奥まった場所だから沖から少し入り込んでるんだわ。あそこに灯台の先っぽが見えるだろ? あそこまでずっと倉庫街が続いてて、町の中心部は此処から真南だな。ギルドもそこにあるぞ」


 俺は南東にある灯台を指さし、そこからゆっくりと指先を時計回りに動かして簡単な説明を始めた。


「ふーん。で、今からどっちに向かうの?」

「あっちだよー」


 セシルの問いにここぞとばかりにルシオンが割り込んでくる。

 その指が差す先は的確にウチが所有する倉庫に向けられていた。


 久しぶりに訪れたコバルクの駅前からぐるりと辺りを見渡した。

 線路に並行して南北に延びた石畳の街道には大量の木箱を積んだ馬車が行き交い、道の脇では海鳥が首を揺らしながらてくてくと歩いている。

 イセリアでは主に人を運ぶ馬車であるが、コバルクでは荷物を運ぶのが主な役割。

 やはりカーネリア大陸の食料自給率安定を一手に担う地域の特色なんだと実感できる。

 反面、コバルクでイセリアのように人で賑わっているというのをあまり聞いたことが無い。

 もう少し南に行けばそれなりに活況を呈しているがやはり根本的にイセリアとは人口規模が違うのだろう。

 これと言って目を見張るものも無いし、用事が済んだらコバルクギルドで入国手続きを終えて明朝にはサンチャーフォに向けて出発したいところだな。


「ねえねえにーさん」

「何だ?」

「今日の試作品って前に言ってたふわふわのパンケーキの事?」

「オマエ、そういう事だけはしっかり覚えてるんだな……」

「え~、気のせいだよー。ねっ、くーうちゃーん」


 俺の両サイドを固めるセシルとスカーレット。

 その前でクーリエの手を握りながら腕をブンブン振り回す脳筋堕天使。


「ぱっんけぇき~♪ ぱっんけぇき~♪ くーちゃんも一緒にぱっんけぇき~♪」

「あわわわわ……」


 周囲の目もお構いなしに鼻歌交じりでスキップするルシオンと無理矢理手を握られてペースに巻き込まれるクーリエ。

 町中とはいえフォーメーションも何もあったものじゃない。


 俺達は暫しの間、祝福値が猛烈に下がりそうなパンケーキの舞を見せられながら目的地へと向かった。


 …


「ほらほら、にーさん見えてきたよー」

「場所を知ってる俺に言うな」


 毎度の事であるが倉庫が近くなるとルシオンのテンションが上がる。

 理由は明白、コイツ好みの食べ物が提供されるから。

 うーん、単純。


 大通りから突先の灯台まで延々続く倉庫街。

 その中の何気ない、本当に何処にでもあるような倉庫。

 周囲に溶け込み、完全に風景と化したそれこそがエルバード家がコバルクで所有する倉庫である。


 この通りは昼夜問わず人通りが少ない。

 俺は視界に人影が無いのを確認して倉庫と倉庫の細い隙間にサッと入り込んで3人に向かって手招きをした。

 因みにルシオンはとっくに俺の先を進んでいる。


「今ルシオンが立っている場所に裏口があるからあいつの後に着いていってくれ」


 俺はルシオンに中に入るようにジェスチャーを送ると彼女は小さく手を振って倉庫の中へと消えていった。

 俺達はその姿を速やかに追う。


 パタリ。

 最後に俺が入って扉を静かに閉めた。

 日中であろうと倉庫の中は小さな採光窓から差し込む光だけで全体的に薄暗い。


「こっちだ、来てくれ」


 所狭しと積まれた木箱と麻袋。

 全ては把握していないが中身は恐らくナッツや穀物の類だろう。

 比較的安価な道具も乱雑に置いてある。

 それらの隙間を縫うように俺は倉庫の奥に進んだ。


 倉庫の最奥、改めて見るとあからさまに不自然な部屋がある。


「いいか? ここから先は新作開発室だ。今回は特別だから中のことは絶対に誰にも漏らすなよ」

「もし誰かに喋っちゃったら?」

「パンケーキ専門店に手配書配って永久に出禁だから下手な真似はしないことだな」

「……肝に銘じておくわ」


 セシルとスカーレットは互いに目配せして頷き合う。

 構わず俺は道具袋から鍵を取り出して部屋に備えられた扉の鍵穴に差し込んだ。

 瞬間、扉はカチャリと音を立てて企業秘密という名の秘鑰が解放される。


 俺はそっと扉を開くと隙間からほのかに甘い香りが漂ってきた。

 いやはや今日も朝から研究熱心ですなあ。


「あらら、にーさんおはようございますです」

「ああ、おはようリンフィーネ。元気にしてたか?」

「はいー、大好きなお菓子に囲まれて今日も元気100倍ですー」


 扉の先には言葉の割にあまり元気そうに見えないウチの専属パティシエが厨房から顔を出していた。

 ったく、どこぞのアホ毛のおかげでこいつまでにーさん呼ばわりしてきやがる……。

 別にいいけど。


「りーちゃんやっほー」

「ルシオンちゃんもおはよーです」


 ルシオンはリンフィーネに近寄ると両手でタッチしてキャッキャキャッキャと再開の喜びを分かち合う。

 君達相変わらず仲良しだよね。


「お主、アンデッドであるな?」

「あらま、バレたですか」

「スゲェな、そんな一瞬で判るもんなのか?」

「当り前じゃ。こやつは精霊が具現化して肉体を形成しておる。一般的な生物とは一線を画す形態じゃわい」

「ほわー、流石は魔王様ですー」


 リンフィーネは目を丸くしながら外はねしたセミロングの髪をピョコピョコ跳ねさせる。

 てゆーか一応スカーレットがキャスバルの魔王だってのは知っているんだな。


「それで何故にバンシーがこのような場所に居るのじゃ?」

「えっと、確かキャスバルでオヤジにスカウトされたんだっけ?」

「はいー。誰も亡くならなくて暇で暇で死にそうだったので暇つぶしに庭でお菓子を焼いていたら旦那様に誘われたのですー」

「いやオマエ死なないじゃん……」


 リンフィーネはころころと笑顔を弾ませながら包み隠さず事情を話す。

 こいつが此処に居るのも多分本人の同意を得ている筈だから問題無い、よな……。


「ならば良いのじゃが……、間違っても拐われたのではないであるな?」

「人聞き悪いな! しっかり給料も払ってるし休みも取らせてるわ! オマエ、有休もキッチリ全部消化してるよな?」

「あー、いやぁ……」

「あ? 何か言ったか?」

「はいー、こんなワタクシにこの様な環境を授けて頂き感謝感激雨あられにありますですー」


 こいつ絶対休み取ってないだろ。

 よくよく思い返してみれば此処に来る度必ずこの部屋に居るし。


「細かい事は言いたくないけどあまり根詰め過ぎるなよ」

「ありがとうございますー。死なない程度に頑張りますです」


 リンフィーネは抑揚の少ない口調で返事を返す。

 まあいつも通りだから心配は要らないだろう。


「ところでにーさん、今日はどのような要件でありますですか?」

「おっとそうだった。今度の新メニューの仕上がりが知りたかったんだ」

「それでしたら既に準備は整っておりますです。口にしたら最後、美味しさのあまり死んでしまうのです」

「オマエが死ぬとか言うと洒落にならないからやめろよ……」


 ふんっと軽くふんぞり返りながらリンフィーネは新作パンケーキに太鼓判を押す。

 バンシーとはいえ味覚は確かだし情熱も人一倍。

 そんなリンフィーネの自信作だ、ちょっとお高くとまった連中が集まるイセリアだろうが大ヒットは間違い無いだろう。


「悪いけど今から試食の準備をするからそこのテーブルに座って待っててくれないか? あ、飲み物はそこにあるから」

「ウム、楽しみじゃのう」

「あたし何か緊張してきたかも……」


 スカーレットはマントを脱いでハンガーに掛けるとピョンと椅子に腰を下ろす。

 それを見て3人が続く。


 4人全員が着席したのを確認して俺とリンフィーネは厨房に入った。

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