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ヴァンパイア ラプソディ  作者: ムラサカ
23/50

23 晴れ時々プリン、所によりセクハラ

「ねえ、クーリエちゃんは歳いくつ?」


 カチルは椅子に腰掛けるクーリエの背後に立つと、彼女の首筋に両手を回し躊躇いも無く年齢を訊いた。

 朝っぱらから身内の行動が妖し過ぎて悲しくなる。


「にに、にひゃくごさいになります」


 緊張と若干の警戒が入り混じるクーリエの声が低くどもる。

 だが背後に立つ女にはそんなことはお構いなしのようである。


「嘘おっしゃい、クーリエちゃんったら肌すべすべじゃないの。本当の事言わないとお姉さん怒るわよ」

「あわわわわ」


 艶やかなクーリエの鎖骨をカチルの指先が撫でるように滑らせると、漆黒の翼はピクピクと小刻みに震えだした。

 既に本体は口をパクパクさせながら絶賛金縛り中だ。


 続けざまにカチルはくの字に身体を曲げてクーリエの耳元に顔を寄せると囁く程の小声でそっと話し掛けた。


「クーリエちゃんはサムの事どう思ってるのかしら? ヤダ、お姉さん気になっちゃう」

「はっ、はひっ、サム様におかれましてはですね、何時如何なる時も何と申しますか、はうっ……」


 思考回路が熱暴走寸前のクーリエさんは言語障害を引き起こしているのか先程から言動が実に怪しい。

 それにしても魔王の側近がこの程度で錯乱して大丈夫なのだろうか?

 間違いなくダメだと思うに3000点。


 ふとスカーレットに目を向けるとジュースをチビチビと啜りながら我関せずと言わんばかりに窓の外を眺めていやがった。

 部下が辱しめを受けているってのに職務放棄とは何て酷い奴なのだろう。

 やはり魔王と畏れられるだけのことはある。


 一方、クーリエがあたふたしているにもかかわらずカチルは一向に手を休める気配が無い。

 クーリエの左耳に息を吹き掛けるように喋りながら右耳の耳輪に指を這わせる。


「そうなのよ、姉の私が言うのもアレだけどサムって昔からモテるのよねぇ。お父様譲りのサラサラの銀髪にお母様譲りの凛々しく整った目鼻立ち、しかも華奢に見えて案外筋肉質だからクーリエちゃんなんて簡単にお姫様だっこしちゃうかも。いやん」


 緊張に包まれていたクーリエの表情がだらしなく緩んだ。

 想像するのは勝手だがポンコツがばれるからあまり顔に出さないで頂きたい。


「だからかしら、毎日のように縁談の話が飛び込んでくるの。もうホント嫌んなっちゃうわ」

「え、え、縁談……」

「そう、縁談。私にこれだけ話が来るってことはお父様の方にはどれだけの話が持ち掛けられているのか想像もつかないわね」

「はわわわわわ」


 途端に青ざめるクーリエ。

 物静かな性格の割にはコロコロと感情が表に出やすい奴である。


「うふふ、慌てる顔も可愛らしいのね」


 ピンと尖った耳の先端を指でつまむとクーリエの身体がビクッと大きく震えた。

 口をきゅっと閉じ、瞳にうっすら涙を浮かべながらそれでもなお動じる事無く耐え続ける。


「でも安心して頂戴、玉の輿狙いの女狐なんかに弟は渡さないわ。ねえ、貴女もそう思うでしょ?」


 コクコクと操り人形のように縦に首を振るクーリエ。

 そこに本人の意思が含まれているのかは傍目には皆目分からない。


 いつの間にかうなじを撫で回していたカチルの右手が首筋を伝い胸元へ差し掛かっていた。

 その指先はゆっくりと、しかし着実にふくよかなる双丘の先端を目指している。


「あの子ってば根が真面目だからたまに無理しちゃう時があるの。だからその時はクーリエちゃんに傍で支えてほしいのよね」

「んっ、んんっ」


 カチルは辿り着いた媚芯を指先で優しく転がすとクーリエのきつく閉じられた口の奥から声にならない喘ぎが滲み出していた。

 目尻に溜まった涙が頬を一筋伝い落ちる。


「それでもし無事に帰って来られたらきっとあの子はクーリエちゃんだけを見てくれるわ。そしたら夜な夜な耳元で囁くの。好きだ、愛してるって」

「!!!」


 クーリエの顔が見る見るうちに赤く染まる。

 間違いなくやましいナニかを想像しているに違いない。

 悲しい程に分かりやすい奴だ。


 ふと散々っぱらクーリエを弄んだカチルが真面目な顔つきになった。

 なんと完璧な切り返しだろう。

 クーリエもその咄嗟の気配の変化に気付いたようだ。


「サムを、弟をよろしく頼みます」

「はい。命に代えてでも必ずや守り抜く所存でございます」


 カチルはクーリエを背後から抱き締めると強い信念の込められた返事が耳に届いた。

 同時にヴァンパイアロードがヒューマン相手に一方的に陥落する悲しき瞬間でもあった。

 イカン、俺まで頬を涙で濡らしそうだ……。


 あーそうそう、どーでもいいが俺の左側にいる2人はさっきから巨大プリンと格闘中にてクーリエに目もくれないようである。

 君達はアレだ、どうか無垢な心のまま何時までも変わらないでいてほしい。


「ねえサム」

「ん、何だ?」

「今の聞いてたでしょ? アンタ、クーリエちゃん悲しませたら簀巻きにしてイセリア湖に沈めるからね」

「おおコワイ。それを人は横暴と言うのですよ」

「クーリエちゃん!」

「はっ、はいっ!?」

「いい? サムに見捨てられそうになったら必ず私に泣きつきに来るのよ?」


 一般市民に手際よく翻弄される妖魔さんがちろっと横目で俺の方を見てきたのでニッコリと渾身の作り笑いを炸裂させてやった。


「ヒッ」


 隣から引きつるような小さな悲鳴が漏れた。

 背中の翼がビクビクと波打つように震えている。


「ルーシー、外から筵持ってきてちょうだい」

「はーい」

「あわわわわ」

「うふふ、冗談よ」


 カチルはクーリエの前髪を指でクルクル巻きながら口元に笑みを浮かべる。

 クーリエの誠意を確認した後にダメ押しの精神的揺さぶりを与えるとはとんでもねえ姉貴だ。

 いちいち安堵の息を漏らすクーリエに哀れみすら感じられた。


「でもね、貴女がヴァンパイアロードだと知った上で私は2人が結ばれることを願っているのよ」


 カチルはクーリエの頭を撫でながら微笑む。

 その声色は先程までの妖しい雰囲気とは打って変わって落ち着き払った大人の女性のそれである。


「正直に言うとね、お父様がサムを連れて魔王城に赴いた理由はキャスバル大陸にエルバード商会を進出させる切っ掛けを作る為、それとサムのお嫁さんに相応しい相手がいないか下調べ、この2つなの。サムもそれはお父様から聞かされていたでしょ?」

「いんや、親父が俺とクーリエをくっつけようと目論んでいたのは昨日初めて知ったわ」

「あ、あら、そう……」


 俺の返答が思い切り予想外だったのかカチルがまごついた。


「ま、まあそれでもアンタとクーリエちゃんを見てると遅かれ早かれ一緒になりそうだし細かいことは気にしちゃダメよ」


 カチルは腕を組んでうんうんと首を縦に振っている。


 咄嗟に体裁を繕おうとしているのは分かった。

 あと、無理矢理何かがゴリ押しされたのも分かった。


「のうカチルよ」

「あら魔王様、何かしら?」

「要するにサムは意図的に人外なる者と籍を入れるように仕向けられておるのであるか?」


 スカーレットは顔を窓に向けたまま少しだけ強い口調でカチルに疑問を投げかけた。

 確かに俺とクーリエが互いを意識しあう事自体がエルバード家の思惑ならばスカーレットからすれば面白くない話になってもおかしくない。


「そう捉えられても否定はできない。私が言えるのはそれだけね」


 だがカチルも魔王相手に怯む様子は微塵にも見受けられない。

 相手が誰であろうと己を貫き通す性格は昔からだ。


「ほう、然も己は関与しておらぬと言いたげであるな」

「仕方ないじゃない、最後に決めるのは本人だもの。お父様も強制はしていないわ」

「昨日のジルの口調でそれは分かっておるわい。じゃがジルがクーリエにサムを差し出すと申したのは事実であるぞ?」

「そうね、でもこうしてまた再会してパーティーまで組んだみたいだけど今回はエルバード家は無関係なのよね」


 カチルからすれば意図的な心情操作はあったが最終的には俺とクーリエの問題、スカーレットからすれば俺の後ろでエルバード家が糸を引いているのが気に入らない、両者の論点がイマイチ噛み合わないが俺からすればどちらも保護者気取りで面倒なだけだ。


「お前等そんな事別にどうでもいいじゃねえかよ。親父が俺を魔王城に連れて行ったからクーリエと知り合った。スカーレットがクーリエを俺の案内役に就かせたから俺達は仲良くなった。結果としてこうして10年経っても行動を共にしているんだ。いがみ合う理由なんて何ひとつ無いと思うけどな」


 俺の言葉にクーリエはこちらを向き、首を軽く傾けふにゃっと微笑んだ。

 彼女のその笑顔こそが全てであり、まごうことなき真理なのだろう。

 カチルとスカーレットは互いに目を合わせるとフフッと苦笑いを浮かべた。


「確かにそうであるな。ジルもカチルも面と向かって話をすればその真っすぐな性格がよく伝わってくるのじゃ。むしろいちばん曲がっておるのが……」


 全員の視線が俺に集まった。

 解せぬ。


 巨大プリンに集中していたセシルとルシオンまで俺の方を見てきやがる。

 と思ったらふたりして一瞥した後、プリンに意識を戻しやがった。

 こいつら……、プリン取り上げっぞ……。


「ねえ魔王様」

「ん? 何であるか?」

「本当の事を言うとエルバード家がサムとクーリエちゃんを結び付けようとしているのは事実なの。でも別にこれといった魂胆がある訳じゃないのね。どちらかと言えば願望、かしら……」

「ほう、どうやら訳がありそうじゃな。妾でよいのならばひとつその願望とやらを聞かせてもらえぬかの?」


 先程までそっぽを向いていたスカーレットがクーリエの後ろに立つカチルに顔を向けた。


 願望か……、カチルがこれから言おうとしていることは恐らく母さんが願っていたことだろう。

 俺は腕を組んでカチルの言葉に耳を傾けた。

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