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「ねえ、優」
「どうしたの? 何か私の顔についてる?」
「うーん、そうじゃないんだけど、優がなんか変わったっていうか、いつもと違う感じがする」
「そうかな?」
休日、いつものように愛の部屋で愛と話をしている。距離は以前よりかなり近くなっていて、つないだ手から愛の温度を感じていた。
その温度に心地よさを感じていたら、愛がふとそんなことを言ってきたのでドキッとする。
私は何も変わっていない。そう、自分を少しだけ出そうと覚悟を決めた以外は。愛には少し距離が近いなと感じられるだけだと思っていた。
「なあ、なんか隠してるだろ?」
塾での帰り道、直樹は私のことを追ってきて、そんなことを言ってきた。
「はあ? 隠し事って。もしあったとしても、なんであんたなんかに言わなきゃいけないのよ」
「なんか、お前から怪しい感じがするから」
「怪しい感じって?」
「うまくは言えない。けど、何かとんでもないことをしてるんじゃないのか?」
矢継ぎ早に直樹にそう言われ、私は胸がざわざわした。けれども、なんとかそれを顔に出さずに、
「あんたには関係ないでしょ。幼馴染ってだけなんだから」
そう強引に会話を切って私はさっさと歩きだした。直樹は私のことを追ってくることはなかった。
怪しいこと。愛とのことだろう。直感でわかった。
これがいけないことなのはもうわかってる。でも、戻れない。いいや、戻らない。
「ねえ、愛」
「うん? どうしたの優」
「今度デートしよっか」
「え。あ、うん!」
私が使ったデートという言葉に一瞬きょとんとしたが、意味がかったとたん愛の顔が輝いた。私は、きっとうまくやって見せる。愛のことをぎゅっと抱きしめると、愛は嬉しそうに私の胸に顔をうずめてきた。
直樹の顔が一瞬浮かんだが、それを無理やり心の奥に押し込めてみないふりをする。なんでこんなときに直樹の顔なんて浮かぶのだろう。
「どこいこっか?」
「映画館にいきたい!」
自分のことを素直に言うことができる愛のことが少しだけうらやましく思えた。