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私は塾でなんとなく講師が話していることを聞きながら、この前したキスについて思い出していた。
愛とキスしたことは夢のようで、思い出すたびにドキドキしてしまう。
キスとはこんなにも幸せになれるものなのだと感じ、毎回頬が緩んでしまうのを我慢することが難しかった。
私は顔に手をやって頬が緩んでいるのを隠していると、
「なんだ、さっきからにやけちゃって。好きな人でも出来たのか?」
隣に座っていた男子がひそひそ声で話しかけてきた。
「あんたには関係ないから、黙って聞いてなさいよ」
「お前だって聞いてないくせに」
隣に座っている男子は山田直樹といって、中学までずっと一緒の幼馴染だ。とはいっても直樹のことを男として思ったことはなく、いつまでも甘えん坊な小さなイメージしかなかった。
私がこうして気軽に話せる唯一の男でもあった。
「だいたい、あんたは好きな人いるの?」
「うん、いる」
「……!」
私は声を出すのを必死に抑えた。
好きな人がいると聞いたことで、直樹のことが少しだけ大人に見えた気がした。
やっぱり高校生になると、好きな人がいないほうがおかしいのかもしれない。
「気になるか?」
「別に、いまどき好きな人がいないほうがおかしいでしょ」
「ふーん」
それっきり直樹は前を向いてしまった。
私はなんとなく直樹の顔を見てみた。いつの間にか少しひげが生えてきていた。私が成長しているように、直樹も成長しているのだなと当たり前のことをいまさら実感する。
顔は私からみても、まあまあなほうだとは思う。
まあ、小さな頃から一緒だったため、直樹の恋愛が気にならないといえば嘘になる。せっかくだから上手く言って欲しいなとも思う。
もし直樹が女の子と付き合ったとしたら、やっぱりキスするのだろうか。いや、それ以上も……。
私も愛とのこれからを想像してみた。
「ゆーう!」
そういって私になついてくる愛。彼女は惜しみなく私に色々な表情を見せてくれる。
付き合うってそういうことなのかな、なんて思った。
私も、もう少しだけ自分のことを出したほうがいいのかもしれない。
相手が女の子だろうと関係ない。キスしたときも思ったが、愛はきっと私のことを受け止めてくれる。
私がひそかに決意を固めているのを、直樹がこっそり見ていたのを知ったのはそれから少ししてからだった。