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私が愛とキスしたのは、それから少ししてからだった。私がいつものように愛の家に遊びに来ていて、他愛のない話をしているときだった。
「ねえ」
優が突然それまでの会話をさえぎって、ふと私のことを見つめてきた。
「うん? どうしたの?」
「え、と。んと、あの……」
歯切れの悪い返答に私は何か違う雰囲気を感じ取った。
「大丈夫だよ。ここには私しかいないから」
私は愛のことを安心させるために微笑みを浮かべてそっと手を握った。握り返してきた愛の手は緊張しているのか汗ばんでいる。
私の手をぎゅっと握りながら、
「えっと、その……優とキス、したい」
私の目をまっすぐに見つめてそう言った彼女に私はドキっとした。
たった二言だけなのに、その言葉は魔法のように感じる。
キス。好きな人同士がする行為。私はもちろんしたことはない。
付き合っていれば、いつかはするだろうな、そうなんとなく考えたことはあったが、それが今だとは思わなかった。
私は愛とキスをしたらどうなるのだろうか。もちろん愛のことは好きだし、恋人関係にあると思っている。
唇を重ねるだけ。言葉にすれば簡単なことだろうけれど、キスという行為は言葉にするほど簡単なことではない。
「ねえ、優。だまってないでよ」
愛が頬を染めながら問いかけてくる。
私はその口調と表情を見て、今更なにを戸惑うことがあるだろうかと自分に問いかけた。愛は本気だ。私は、愛のことを本気で愛すると決めたばかりではないか。
「…………ね、だめ……なの?」
愛が不安そうな表情に変わってきた。
愛はきっと受け止めてくれる。私も愛のことを受け止める自信がある。
「ごめんね、ちょっとだけ心の準備が出来てなくて」
「あたしのほうこそごめん。でも、どうしても今優とキスしたくて。このままでいるのが嫌っていうのもあって……」
私は一つ息を吐いた。
「うん、わかってる。えっとね、一個だけお願いしてもいいかな」
「うん? 何?」
「私のほうから、してもいい?」
「うん!」
愛は満面の笑みを浮かべると、そっと目を閉じた。ドキドキが伝わってくる。
「…………」
私は、ゆっくりと顔を近づけていく。
「……ん」
キスってこんなに甘いものなのだろうか。唇が触れ合うだけの簡単なキス。
キスをしていた時間はそんなに長くは無かったが、その感触がいつまでも唇に残っている。
「好きだよ、優」
愛が本当に幸せそうに私に抱きついてきた。私もそれを抱きしめ返す。
「私も、愛のことが好き」
自然とそんな言葉が口から出てきた。