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小さな雪が空から舞っていて、街を白くしている。もう冬も深まってきた。クリスマスが近いこともあって、街中はイルミネーションに彩られ、クリスマスムードに染まっている。
私は、たくさんの人が待ち合わせている大きな時計の下で、辺りを見渡していた。周りには同じように、白い息を吐きながら待つ人がたくさんいる。信号が変わるたびに、私はその中に待ち人の姿がいないかなと見渡す。もう何度信号が変わるのを見届けただろうか。
「ごめーん、待たせちゃった?」
私が待っていた人が笑顔で手を振りながら姿を現した。
「うぅん、今来たとこだよ」
本当は約束した時間のかなり前に来ていたが、多くの人が良く使うであろう言葉を使った。今日のこれからの時間がとても楽しみすぎて、昨日はほとんど眠れなかった。
私が大好きだなと心から思える人。私が思っていることは間違っているのかもしれないが、それでもこの気持ちは本物だと自信を持って言える、そんな人だった。
始まりは、彼女からの告白だった。
「あたしさ、優のこと好きみたい……なんだよね」
顔を真っ赤に染めながらそう言ってきた彼女に、私もこの子のことが好きなんだと一瞬で感じた。
私は最初、この気持ちにとても戸惑った。今まで女の子を好きになることがあったとしても、それは遊びに行ったら楽しいだとか、休みの日に一緒にどこかにでかけたいなとか、いわゆる友達としての好きにとどまっていた。
心の中では、将来自分は普通の男の人を好きになって、普通の恋愛をして、子供を産んで、世間一般でいう普通の人生を歩んでいくものだと思いきっていた。
それが、まさか女の子にそのような感情を抱くことになるとは、夢にも思わなかったのだ。
それでも、そんな気持ちを抱いたとしても、
「私も、愛のことが好き……」
という言葉を、そっと抱きしめたときに浮かんだ気持ちが恋であると私ははっきりわかった。
そのとき感じた幸せを、私は忘れることはないだろう。
「んー? 何か考えてる顔してる」
隣にいる愛が私にいたずらっぽい顔を向けてきた。
「なんでもないよー」
といたずらっぽく返してみる。
「なんだよー、あたしに言えないことでもあるの?」
「えー、どうかなー、愛だしなー」
私たちはお互いをつんつんしながら歩みを進めていく。今日はどこに行こうか。行き先は特に決めていない。
「なんだよー、せっかくだし、言ってよ」
「んとね」
「うん、なになに?」
「愛の裸……見てみたいなーって」
「え!? えーっと、その……あーっと、うん。その、えっと、えっとね……そういうのはまだあたしたち付き合いたてだしさ。もうちょっと進んでからっていうか」
愛がこうして恥ずかしそうにしていること、普段見せない表情を私だけに見せてもらえるということが、私はとても嬉しかった。
「冗談だよー、愛は可愛いね」
「むー、からかったなー!」
お互いこういう風に素直に感情が出せることがとても楽しい。
ただ、女の子同士の恋愛ということで、初めに二人で決めたルールがあった。
一つは、だれにもこの恋が知られないこと。そして、もし男の人を本気で好きになることがあったとしたら、すっぱりこの恋は終わらせること。
私たちは男の人のことをあまり知らない。女子高に通っていることもあって、男の人に対する知識が圧倒的に足りていない。
それに、これがいけないことだろうともわかっている。だから、もし運命の人が現れたら、この禁断の恋はすっぱり諦めるし、二度と思い出すこともないだろう。
「好きだよ」
私が思わず口に出した言葉に、愛の顔がまた真っ赤になった。付き合いたてのカップルのように、つかず離れずの距離を意識しながら、心地よい時間が流れていく。