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幕間②蔡家の事情

司隷京兆尹・長安


董卓が董白を送り出すことに悶々としていた頃、ここ長安でも一組の親子が今後について話し合いをしようとしていた。


「お父様、(えん)です。お呼びとのことでしたので参上致しました」


「うむ。まぁ座れ」


「はい」


父の許可を得て部屋に入れば、そこには唯々殺風景な光景が広がる空間があった。


元々彼女の父は漢史の編纂を任じられていたこともあって、今までは職場に収まりきらなかった資料を自宅にまで持ち帰り、その資料が彼の部屋どころか、屋敷全体に溢れていたのだが、今は部屋の中央に机と椅子が二つあるだけであった。


その机を前にして椅子に座る父は、この寂寥を感じさせる部屋に何を思うのだろう。


感受性豊かな彼女は、父が抱えている怒りや哀惜と言った想いが手に取るように理解できてしまう。


しかし父は慰めなど求めていない。それも年端も行かぬ娘からの慰めなど、ただの嫌味にしかならぬのだ。彼女はそのことを知っているので、無意識のうちに口元まで出掛かった慰労の言葉を飲み込み、無言で父の対面の席に座る。


彼女の名は蔡琰(さいえん)。そして父の名は蔡邕(さいよう)と言った。


「今回お主を呼んだのは他でもない、お主の去就についてだ」


「……はい」


普段から厳格な父ではあるが、娘である自分を前にしてここまで深刻な顔をしたことなど、今まで数える程しか無かったことを考えれば、今回の呼び出しは相当に重要な内容だと言うことが推し量れた。


さらに父が告げた内容が『去就』と言うのであれば、それは婚姻などの慶事でも無く、長安からの逃亡を意味することも、聡明な彼女は理解していた。理解できてしまった。


「お主もわかっていようが、我らは危うい立場にある」


「……はい」


それはそうだろう。すぐに釈放されたとは言え、父は司徒の王允によって投獄されたのだ。


しかもその内容が、王允や司空の楊彪が行っている政に対しての疑問を呈した為と言う、かつての十常侍のような理屈での投獄となれば、いかに釈放されたとはいえ、彼らに危機感を抱くなと言う方が無理が有る。


事実、この屋敷にあった資料は全て持ち出されている上に、今も蔡邕は監視され、出仕も許されていない状況だ。


これがどこぞの腹黒に毒された連中なら『休暇だ!』と喜び勇んで寝台に向かい、思うがままに惰眠を貪るのだろう。しかし残念ながら彼らはそこまで病んではいなかった。


「このままでは適当な理由を付けられ、再度投獄される可能性が高い。そして今度は助命嘆願が届く前に首を討たれよう」


「……」


蔡琰としては悲観的な父の意見を否定したいところであったが、この時代の人間として名誉に拘るのは当然のことであり、董卓のように史書に己の悪名が残ることを認めるような人間は極々稀であることを知っているので、楽観的な意見を唱えることができなかった。


そんな娘の気持ちを知ってか知らずか、蔡邕は(いかめ)しい顔を(ほころ)ばせて、娘の心配を取り除こうとする。


「私は良いのだ。この歳まで生きたし、お前と言う才ある娘を得た。従弟もすでに長安におらん。よってもしも私が死んだとて、一族が潰えることはないのだと思えば、悔いは無い」


「お父様……」


どこぞの腹黒は60を過ぎたら隠居などと公言しているが、この時代は、40にして惑わず、50にして天命を知り、60にして耳順(みみしたが)う。と言う言葉が有るように、60まで生きれば十分な大往生だ。


故に、今年で60となっている蔡邕の言葉は、決してただの強がりではない。いや、彼が現在やりかけの仕事…それも漢史の編集と言う大仕事が半ばで終わることに対して、未練が無いとは口が裂けても言えないが、それでもいつ死んでも諦めが着くという言葉に偽りはない。


だからといって蔡琰も父が死ぬことを良しとするわけではないのだが、しかし聡明な彼女は彼の顔を見ただけで、父が本当に言いたいことが何なのかを理解してしまっていた。


「……お父様は私に『生きろ』と、そうおっしゃるのですね?」


「そうだ」


瞳に涙を(たた)えながらその意思を問えば、蔡邕は『よくぞ見抜いた。それでこそ我が娘よ』と、自慢の娘に笑顔を向ける。


その父の笑顔があまりにも儚いものだったので、蔡琰は涙を止めることができなくなってしまった。


「未だ幼いお主に無茶を言っているのはわかる。しかしここで私と共にお主まで死んでしまっては、私が亡き妻に叱られてしまうではないか」


「お、お父様……」


嗚咽している蔡琰を優しく抱きしめ、あやすように頭を撫でながら優しい口調で告げられた言葉は、まさかの「自分が妻に叱られるから娘を逃がす」と言うものであった。


そこはせめて「娘の未来を」とか「孫が見たかった」と言った感じにして欲しかったところだが、これが彼の精一杯の配慮であるということもわかっていた彼女は、彼の言葉を受けると、涙を拭い、己の中にあった弱気を吹き飛ばすように自分の頬をパチンッと叩いた。


「え、琰?」


「……お父様、私はもう大丈夫です!」


音が出るくらい強く頬を叩いたことで予想以上のダメージを受けて、若干涙目になる蔡琰だったが、ここは無理をしてでも泣くべきじゃない!と己を奮い立たせ、自分は大丈夫だ!と父に見せつけようとする。


ここで愛娘の覚悟を見た蔡邕が涙を堪えて抱きしめる……ことができれば感動の一幕の完成だったのだが、あろうことか蔡邕は腰に手を当てて毅然と立つ蔡琰を見て、一瞬目を見開いたかと思ったら、


「ふっふふ。ははははは!」


笑いだしたのだ。泣くでも抱きしめるでもなく、いきなり笑いだしたのだ。


「わ、笑うところじゃないですよ!」


憮然とする蔡琰に対して、蔡邕は申し訳ないと思いながらもその笑いをこらえることが出来なかった。正確には堪えようとしなかった。


なにせ彼にしてみたら、今まで自分の腕の中で泣いていた娘が、急に自分の頬を叩いたかと思ったら、頬に真っ赤な跡をつけてキリッとした顔を向けてきたのだ。その健気な様子が愛おしいと言う思いもあれば、年端もいかない娘を一人に、それも罪人の子にしてしまうかもしれないと言う、申し訳なさもある。


このように様々な感情に襲われた彼は、泣きそうになっている自分に気付いてしまう。しかし『ここで涙を流しては娘の覚悟に泥を塗ることになってしまう』と感じた彼は……笑うことにしたのだ。


笑うことで涙を拭い、そうして明るく別れようとしたのだが、肝心要の愛娘は蔡邕の態度が気に入らなかったらしく、頬を膨らませて上目遣いで睨んでくる。


「ははははは!」


この顔が、この態度が、もう二度と見ることの出来ないものになるかもしれない。故に彼は瞳の奥から溢れてくる涙をぬぐいながら、必死で笑い、必死に彼女の顔を目に焼き付けようとしていたのだ。


「ん~もう!」


父親が自分の顔を見て笑っていることに気づいた蔡琰だが、流石に娘を愛する男親の気持ちまでは分からず、ただ不機嫌になるだけであった。しかし頬に手の型をつけたままでは、どんな表情をしてもそこに怖さなど生まれるはずもない。


この後、蔡邕は長々と笑われ続けて不機嫌になった彼女がマジギレする寸前まで笑い通したと言う。



―――



「……それではこれから私は大将軍閣下のところに行けば良いのでしょうか?」


蔡邕の笑い()が収まったことを確認した蔡琰は、不機嫌になりながらも己のすることを忘れてはいない。むしろ父の涙の跡を見た今では、自分が心置きなく旅立てるように、わざとあのように明るく振舞ったということも理解していた。


「いや、そうではない」


「え?」


だからこそ父の想いに応えるために、まずは蔡邕と個人的な付き合いもあり、先日の投獄騒ぎに於いても彼を釈放するように働きかけてくれた董卓の下へと向かうべきか?と尋ねたのだが、蔡邕は董卓を頼るべきでは無いと考えていた。


「董卓の下も決して安泰というわけではないのだ」


「……そうなのですか?」


彼女は絶対の武力を持つ大将軍以上に頼れる者はいないと考えて居たのだが、父は彼の下すら安泰では無いと言う。


武人ではない彼女からすれば反応に困ること甚だしいところではあったが、続く言葉でその認識を改めることになる。


「うむ。なにせ董卓殿も50を超えておるからな。……彼が健康な内は良いだろう。しかしそうでなくなった場合、王允や楊彪が彼の勢力を見逃すとは思えん」


「……なるほど」


都の近くに圧倒的な武力を持つ存在が居ると言うのは、味方ならば心強いが、心に疚しいことがある者にとっては尋常ではない重圧となる。


今はその重圧こそが長安にいる連中の暴走を抑えているのだが、そもそも彼ら名家の人間は、己の頭を抑えられることを特に嫌う連中だ。


これが皇甫嵩のような軍人ならば、生まれや育ちに関係なく、その職責に応じた対応が出来るのだが、残念ながら王允らはそのような割り切りが出来るような人間ではないと言うことは、先日に思い知っている。


父の言うように、董卓が生きている内はまだ良いだろう。しかし、彼の後継者にまで頭を抑えられた場合に、彼らが我慢を続けることが出来るとは蔡琰にも思えなかった。


むしろ後継者争いを発生させて、自分達の影響力を高めようと画策する可能性が高いだろう。その際、自分がどのような扱いを受けるかを考えれば、確かに董卓の下へは行かない方が良いのかも知れない。


「ならばどこに向かうべきなのでしょうか?」


董卓の下も危険が有ると言うことはわかった。しかし、それを言ったらこの乱世に絶対安全な場所など存在しないのではないか?


蔡琰には董卓以上の避難先が思い浮かばなかったが、父には董卓以外の選択肢があるのだろう。そうでなければわざわざ自分を逃がそうとはしないはずだ。そう考えた彼女は、素直に教えを請うことにしたのだが……


「うむ。一つアテがある。……畏れ多いことではあるがな」


「畏れ多い?まさか!」


「うむ。お主が気付いたように。弘農だ」


「……やはりそうですか」


【弘農】それは蔡琰があえて候補から外していた安全地帯だ。


安全地帯なのに何故候補から外すのか?と思う者も居るかもしれない。しかし今の弘農はただの司隷の一郡では無いのだ。


「しかし、弘農は陛下が喪に服している地。そこに火種を持ち込むのは不敬ではありませんか?」


そう。現在の弘農は今上の帝が先帝の喪に服している地であり、反董卓連合ですら立ち入ることをしなかった一種の聖域。


故に弘農が荒事からほど遠い場所であるのは事実なのだが、蔡琰としては、そこに司徒である王允から敵視されている自分が行くのは不味いと言う思いがあった。


「気持ちはわかる。しかし、だからこそ弘農なのだ」


「だからこそ?」


そんな娘の思いは蔡邕も理解している。いや、むしろ娘よりも長く儒の教えに浸かった蔡邕の方が、喪に服している帝の宸襟を騒がせるような行為に対する忌避感は強いかもしれない。


だが、それは王允や楊彪とて同じなのだ。だからこそ娘の安全は保たれると言う確信もあるし、何より弘農には董卓すら恐れる外道が居ると言うのが大きかった。


「うむ。お主は陛下のお側に侍るのではなく、太傅殿のお側仕えとして就くことが出来るよう、荀攸殿に依頼する予定だ」


「太傅様、ですか?」


「うむ。彼ならば王允など歯牙にも掛けんはずだからな」


然り気無く巻き込まれた荀攸だが、蔡邕の持つコネの中で、現在弘農に居る人間の中で一番発言力が強いのは彼なのだから、仕方ないと言えば仕方ないことだろう。


「噂は聞いていますが、それほどの方なのですか?」


「……どちらかと言えば噂の方が過小だな」


「そ、そうですか」


遠い目をする父に何かを感じ取ったのか、


彼女が聞いたところによれば、弘農に生息するその外道は、まだ二十代でありながら太傅と言う三公よりも高い官職に就いているほどの人物だ。


そんな立場の人間なので、当然三公である司徒の官職に就いている王允の権威は通じない。


また、彼は我欲が薄い上に、皇帝の信認も厚く、その上、現在の大将軍府では常識となりつつある『才が有ればどんな出自の者でも使う』と言う制度を制定した人物でもある。


その仕事ぶりは、日が昇る前から日が沈んだ後も働くことで知られ、気質は質実にして剛健。身分を嵩に着た不正や配下の怠惰を許さず、どんな立場の者であっても罪を犯したならば容赦なく裁くと言う。


どれだけ高価な物であっても賄賂を受け取らず、どれだけの立場の者にも忖度しないその姿は、正しく鉄血。


更に兵を率いた際の武略や個人の武にも定評が有り、荒くれ者が集まる董卓配下の涼州勢はもとより、漢に叛旗を翻した羌族ですら、彼の将旗を目に入れたなら、一目散に逃げ出すか身を投げ出して赦しを乞うと言う有り様らしい。


噂では、現在長安の名家を狩ることを生業としている并州の者たちも、絶対に弘農方面には向かおうとしないとか。


更に更に、一介の外戚であった何進を押しも押されぬ大将軍としたり、一介の将軍であった董卓を大将軍にし、反董卓連合との戦の最中に遷都を行い、それを成し遂げたと言う実績の持ち主でもあった。


……つまるところ、話だけを聞けば紛れもなく文武両道にして漢の忠臣。それなのに、なぜ腹黒だの外道だのと言われるのかが不思議なくらいの人物だ。


そんな彼の下だからこそ、蔡邕は娘を預けても決して無下にはされないと言う確信が有った。


いや、まぁ、彼に保護されると言うことは、娘を書類地獄に落とすことと同義なのだが、流石の蔡邕もそこまでは知らなかったらしい。


とは言え、彼女は書類仕事が苦手と言うわけでもないし、何よりその才を疎まれて飼い殺しにされたり、罪人の身内としてどこの誰とも知らない男に拐かされるよりは数段マシなのは確かだ。


そもそも今の彼らには、呑気に避難先を選択するだけの余裕など無いと言うのもあるので、一概に蔡邕の決定を咎めることは出来ないだろう。


そんな就職後の話はともかくとして。まずは無事に弘農に辿り着くことが出来るかどうかの話である。


「まず、お主を弘農へと送る名目としては、私を釈放して下さったことに対しての返礼とするつもりだ。その際出来るだけの財を持たせるので、上手く使うが良い」


「……なるほど。流石の王允でも陛下に対する返礼に手を出すことは出来ませんからね」


「そうだな。残る懸念は『喪に服している陛下のお気持ちを考えよ』などと抜かして来る可能性が有るが……なに、気にすることはない。長安を出てしまえば此方のものよ」


「父上……」


「ふっ。先ほども言っただろう?私は良いのだ」


「…………」


彼の目論み通り、名目上とは言え弘農に居る皇帝への謝礼を運ぶのだから、当然信頼の置ける者をその護衛に着けることになる。


更に并州勢が弘農へ向かう者に手を出さないと言う噂が確かならば、確かに長安を出れば『彼女は』なんとかなる可能性は高い。


しかしそれは『長安を出ることが出来た者』に限った話である。


今、こうして『自分は安全だ』と語る父がこの先どうなるかを考えれば、蔡琰は『父上も一緒に行きましょう』と言いたくなったのだが、その言葉は発する前に当の本人に止められてしまう。


「まだ小娘と言っても良いお主だからこそ、王允の目から逃れることが出来るのだ。もしも私が長安を出ようとすれば、奴はどのような手を使ってでも私を長安に押し留めようとするはずだ。そうなってはお主も長安を脱することは叶わんだろうよ」


「……はい」


普通に考えるなら、現在の蔡邕は罪人では無いのだから、己の意思で長安を出ようと思えば出れるかもしれない。


しかし、相手は自身の悪名を拡げられることを恐れて蔡邕から仕事を奪った挙げ句、監視をした上で執拗に嫌がらせを行ってくる王允なのだ。


そんな王允の様子を鑑みれば、都落ちと言う形になるとは言え、蔡邕が自身の手の届かない場所へ行こうとするのを見逃すとも思えない。


故に彼は自身を囮として娘を逃がそうとしていたし、そんな父の想いを知った蔡琰も、父の心意気に泥を塗るような我儘を言うようなことは出来なかった。



ーーー



数日後の早朝、日が昇る少し前のこと。


出立の準備を終えた蔡琰は屋敷の前で父との最後の挨拶を交わしていた。


「……達者でな」


「……はい。父上もお元気で」


幼き日からその姿を見て育ってきた。


どこまでも大きかった父の姿は、最近は内心で『すこし小さくなってきたな』と感じていたのだが、それは大きな間違いだった。


父の教えを理解すれば理解するほど、父の仕事を知れば知るほど、その大きさに圧倒された。


そんな父が涙を堪えて自分を見送ろうとしている。


これが父の、漢に仕える蔡邕ではなく、蔡琰の父としての姿なのだろう。


純粋に自分を心配する父の姿は、大きくもなかったが、決して小さなものではなかった。


この父の娘として生を受けたことを誇りに思うと同時に『父の名を穢すことは出来ない』と言う想いが心の内から湧き上がってくる。


泣くな。

泣けば父が心配する。

だから笑え。

数日前の父のように。

涙を流しながら笑え。

笑って別れを告げるんだ。


「あ、そうだ!」


「ん?」


「……向こうで良い人を見つけたら、婚儀に呼びます。ですから……必ず、必ず来てくださいね!」


婚儀に参加するなら王允も口出しは出来ないはず。だからそれまでは生きてください。


「……あぁ。必ず行くとも。そもそも私は孫を見るまでは死ぬ気はないぞ」


余計な心配をしてないで、お前は向こうで幸せになれ。


「……まぁ、いくらなんでも気が早すぎますよ。ですが、そうですね。いずれお父様には私の子にも教えを授けて貰いましょうか」


お父様がいた方が私は幸せになれるのです。


「おいおい、お主は私の歳を忘れてないか?」


不出来な父で済まない。


「ふふっ。太傅様は生涯現役を謳っているとか?ならば父上にも頑張って貰わないといけませんよね」


私はまだまだ父上には教わりたいことがたくさん有るのです。


「……ふっ。そうか。そうだな」


お前のような娘を持てて誇りに思う。


「……えぇ。そうなんですよ」


父上の娘であることを私は誇りに思います。





「……達者でな」


「……はい。父上もお元気で」


父娘は最初に交わした言葉をもう一度繰り返し、抱き合った後、一行は弘農に向けて出立した。


娘は自身の涙を見せまいと一度も振り返らなかった為に知ることはなかったが、父は娘の姿が見えなくなるまで、否、見えなくなった後も娘の背を見守り続けていたと言う。


その瞳から流れる涙を止めようともせず、じっと見守っていたと言う。


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