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33話。反董卓連合⑫

今更ながらですが、この反董卓連合シリーズは後で文章修正の可能性大です。

初平2年(西暦191年)3月上旬。洛陽・大将軍府


この日、孫堅が兵を率いて北上したと言う報を受け、大将軍府では臨時の会議を行っていた。とは言っても参加者は董卓と荀攸だけなのだが……まぁ彼らが会議と言えば会議なので問題はない。


「ほぉ動いたか」


「そのようですな」


そして会議室として用意された部屋では、落ち着き払って報告書を読む董卓と、荀攸が漢全土の地図を前に話し合っていた。


「ヤツの狙いは読めるか?」


「十中八九。襄陽ですな」


少々意地の悪い質問をした董卓に対して、特に何も思うところはないのか、荀攸はただ聞かれたことに即答する。


「ふっ。当たりだ」


孫堅からの連絡は来ていないが、直接彼を知る董卓には、孫堅の気持ちが良くわかる。


「ヤツは袁術如きにどうこう出来る男ではない。おそらく今回は袁術に兵糧を差し出させた上で「袁術からの依頼」と称して襄陽を奪い劉表の地盤を削りつつ、袁術と劉表の仲違いを狙うつもりだろうよ」


別方向にいる二兎を追うのは愚か者のすることだが、同じ場所で(たむろ)している鳥ならば、一石で二鳥を狙うのは当然。三鳥を狙えるなら狙うのが群雄と言うものだ。


それを念頭に置けば、孫堅の行動は実に理に適ったものであると言えよう。


「もし仲介を頼まれたら助けますか?」


「まさか」


ふんっと鼻で笑って、董卓は荀攸から告げられた救済案を拒否する。そもそも自分を殺す為に連合を組み、それに参加した人間が助けを求めてくるはずが……無いとも言い切れないのが後漢クオリティの恐ろしいところである。


具体的には『董卓を認める。だから助けろ』と、わけのわからないことを条件にして援助を要請される可能性が高い。


なにせ劉表という人物は、劉備のように属尽ではない正真正銘の劉氏ではあるのだが、劉虞(りゅうぐ)のような光武帝庶流の皇族とは違い、前漢の皇族の血を引いている人間である。そのため劉岱・劉繇(りゅうよう)兄弟同様に皇室に列されてこそいないが、一応は皇族待遇の扱いを受けていると言う立場にある人物だ。


よって、一応とはいえ皇族に準じる立場の人間から認めたと言うのなら、氏素性が定かではない董卓という男の対外的な評価が上がることになる。そんなことを考えて、向こうが調停の交換条件に出してくる可能性は確かにあった。


もしも董卓にろくな後ろ盾がなく名家だの皇族を慮る必要がある状況であったなら、停戦調停くらいはしたかもしれない。しかし今の董卓には、帝である劉弁とその弟の劉協と言う絶対的な後ろ盾が存在するのだ。


さらに仮定の話をするなら、劉弁や劉協にも確たる後ろ盾が無ければ、劉表を自陣に加える意味もあるかもしれない。しかし今のところ彼らにとって劉表は『皇族の癖に宗室に逆らった存在』であり、普通の逆賊よりもその心証は悪い。


故に董卓には劉表に譲歩する理由がないので、当然調停も行うつもりもない。むしろ使者の首を刎ね飛ばして『逆賊の配下を討ち取りました』と劉弁に報告をしなくてはならない立場である。


「そうなりますか。では劉表の始末は?」


なんだかんだ言っても劉表は皇族扱いされている人間だし、八俊とかなんとかと言われていて地方にいる名家からの評価も高い。ソレを殺すのは不味いと言うのは孫堅も理解しているだろう。


かと言ってそのまま逃すと言うのは、自身に恨みを持った人間を野に放つ行為だ。孫堅ほどの人間がそのような自殺行為をするとも思えないので、荀攸としては後処理が気になるところだった。


だが董卓からすれば、このような疑問は『お行儀のよろしいことで……』と苦笑いの対象にしかならない。


「野郎の力が弱まれば以前に殺した地域の豪族どもの残党が動く。それに殺させれば良いだけの話だろう?」


もしも残党が動かなければ?自分の手の者で殺してから残党のせいにすればいいだけの話なのだ。


「……なるほど」


荀攸も言葉の裏に隠された言葉を理解し、己の質問がどれだけ的外れなものだったかを認識した。


因果応報とでも言おうか、劉表は以前の己の行い(土豪滅殺)のしっぺ返しを受けることとなる。それだけの話であった。


そして土豪たち(孫堅)が円滑に劉表を始末する為に、董卓の方で一つやっておかなければならないことがある。


「連合に参加した連中の官位・役職の剥奪は滞りなく終わったのか?」


これは反董卓連合に所属しない者たちが、連合に所属する者たちに対して攻撃をする為の大義名分を与えることに繋がるので、絶対にしなくてはならないことであった。


「えぇ。新年の恩赦に(かす)らぬよう、年明けに行うと言う彼の意見通りに」


「流石は……いや、何でもない」


荀攸の言葉を受けて、董卓はどこぞの腹黒外道の姿を連想しようとして……その影のようなモノの口がニヤリと笑みを浮かべ、書簡を差し出してくる姿を幻視してしまい、その姿を思い浮かべるのを止めた。


その名前を思い浮かべるだけで董卓陣営の諸将に地獄を連想させる男は、連合が発足する前からまともな戦にならないことを予測し敵味方の全てを手のひらで転がす腹黒さと、避難と称して洛陽から人員を移動させながら受け入れ先での調整を行うという、外道の(通常では考えもしない)策を思いつき、実践するだけの手腕を持ったバケモノなのだ。


下手に名を出したら『呼びましたか?』と訊ねながら後ろに立っていそうな……。彼にはそんな怖さがあるので、基本的に大将軍府においては彼の名は呼ばれることはないとか。


そんな妖怪のような存在はともかくとして。


本来なら連合に参加した時点で、董卓は彼ら全員を逆賊と認定し、即座にその親族等を処刑することも出来た。しかしそれに待ったをかけたのがどこぞの腹黒である。


この時から遷都を考えていた彼は、無駄に人材を浪費することを嫌い、恩赦を餌に洛陽に残った名家どもを働かせることを提案した。


その結果、自身や家族の命が懸かっている彼らはサボることなく、それぞれに与えられた仕事をやり遂げることとなる。


……通常ならこの時点で恩赦を与えると考えるのだが、さすが外道は格が違った。


なんと彼は、連日連夜仕事をさせられて息も絶え絶えになった連中に向かい『お疲れ様です。では諸君らには恩赦として、連合に参加した者たちを説得する権利を与えましょう』と平然と(のたま)ったのだ。


そして「「「はぁ?!」」」と声を上げる連中に対し、彼はにこやかな笑顔でこう続けたと言う。


『いや、今も陛下に矛を向け続けている連中が許されるわけ無いでしょう?そしてその関係者は処刑するのが当然。よって今回諸君らに与えた恩赦は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。今後も陛下に矛を向け続けることを許したわけではありません』


「「「…………」」」


この言い様は、無慈悲といえば無慈悲なのだが、当然と言えば当然のこととも言える。


なにせ「現在までの」と言う条件付きではあるが、彼らの関係者が犯した『皇帝陛下(絶対君主)に対して叛旗を翻した罪を許す』と言うのは、本来なら有り得ないことであり、これだけでも超が付くほど破格の待遇なのだ。


そして自分たちで罪人(連合参加者)を説得すれば罪には問わないと言うのも、罪人の身内に対する温情としては破格のモノであることも事実だ。


そしてその説得の時間に期限を切り、説得出来なかった場合は逆賊の身内として処罰するのも当然のことと言える。


説得の結果?今更連合を離れる者などいないし、そもそも連合の人間と接触出来た者がいない。故に説得に成功した者もいない。


故に、送り出した使者が帰って来た者すらいないので、説得は失敗。それどころか『使者と言う名目で罪人を逃がした』と言う新たな罪が上乗せされる有様であった。


この結果を受け『いやはや、残念でしたねぇ』と、どこぞの腹黒が発言し、GOサインを出したのを皮切りにして、洛陽は涼州兵や并州兵(世紀末のモヒカン共)が名家の住む区画を荒らし回り、思う存分ヒャッハーする修羅の巷と変貌することとなる。


もしも呂布が暴れるのがもう少し遅かったら、丁原も死ぬことはなかったかもしれない。


しかしそれも過去のこと。今は涼州勢も并州勢も仲良く名家を蹂躙し、元気に彼らの家を破壊して、そこに蓄えられている財を徴収している状況だ。


「……しかし連中、溜め込み過ぎだな」


「まったくです。これが全て汚職の結果とまでは言いませんが、大半はそうなのでしょうね」


洛陽に住む名家連中の家を破壊した際、それぞれの家から徴収された財を合計すれば、今までの租税10数年分に匹敵する額になりそうだと言う報告が出ている。


その報告を受け、最初は驚いた董卓だが、荀攸は梁冀の一族が断罪された際に徴収された財は租税の半分に匹敵したと言う事実を知っていたため、彼から「大量の名家が数百年に及ぶ不正をしていたと考えれば無い話ではない」と聞かされて、その驚きを鎮めることに成功した。


そして冷静になればなるほど怒りがこみ上げてくる。


なにせこれは長年の間、辺境で少ない物資でやりくりしていた董卓のような将帥にとって、中央の連中が犯した許しがたい背任行為の証拠でもあるからだ。


何か陳情すれば嫌味を言われ。

何か陳情するたびに賄賂を強請られ。

陳情したモノを受け取る為にも賄賂が必要で。

それを拒否すれば讒言を受ける。


黄巾の乱の際、盧植が自身に賄賂を求めた左豊に対して取った行動は、万の兵を率いる将帥としては愚かと言うべき行為だ。しかし董卓も、現場の人間としては盧植の気持ちも理解出来ると思っていた。


そんなところに名家(偉そうにしてた連中)の汚職の証拠が大量発見されたのだ。


「やはり名家はいらん。今後は家がどうこうとか、家業とか言って不正を働く連中を減らすための方策が必要になるだろうな」


「……否定はできません」


これにより今まで心のどこかで、どこぞの腹黒に良いように操られている彼らに対する同情のようなナニカを抱いていた董卓も、完全に連中を『滅ぼすべき敵』と認識することになる。


名家の代表のような人間である荀攸も、ここまで不正の証拠を挙げられては「名家の中にもまともな人間はいる」とは言いづらい。


それに中途半端に擦れた名家の人間を使うよりも、その辺にいる人間を使った方が作業効率が良くなる場合も多々あるのだ。


そもそも名家が名家たり得てきたのは、教養を独占していたところにある。


読み書き算術知識の独占を行い、時に授業料替わりとして恩を着せることで自分たちの根を広げていった彼らは、あらゆる箇所に寄生していると言っても良い。


そうして名家を敵に回せば(まつりごと)が回らなくなると言う状況を作り上げ、宦官が死のうが、外戚が死のうが、ひっそりと、しかし着実に根を張っていたのだ。


それらを根刮ぎ討ち滅ぼすと言うのは政の放棄と同義であり、言い換えれば国家としての自殺に近い。


だが現状はどうだろう?


今上の帝が影響を及ぼすのは司隷と涼州・并州だけであり、他の州の連中は軒並み連合に参加するか、連合を放置する形となっている。(幽州・荊州は係争中。益州は半独立を目論んでいる)


自分に従うなら面倒を見る必要があるが、そうでないならその必要はない。つまり従来と比べて、朝廷が管理すべき領域が格段に狭まっているのだ。


さらに付け加えるなら、今回名家から回収した資財や陵墓から引き上げた財は、租税の10年以上に匹敵するので、相当無理をしなければ財政に余裕はある。


ついでに言えば中抜きをする阿呆も居ないので、これまでと比べても、その運用効率は段違いとなるのも確定している。


故に今ならば、漢帝国と言う国家に根を張る雑草を軒並み片付けることも可能だ。


そうして数年もすれば、帝に叛旗を翻した群雄たちは名だけの名家を切り捨て、実を取らざるを得なくなる状況になると思われる。


結果として諸侯は己が治めることになった領地にある手つかずの土地を開発し、領民を撫育していくことになる。それが生むのは知識水準の向上であり、国力の向上だ。


そうして諸侯が自領をある一定水準まで育てたところで帝が親征を行い、喰らう。そうすることで新帝は単なる権威ではなく、武力による漢の再統一を図るのだ。


……腹黒外道の狙いは大雑把に言えばこんなところだと推察される。


なればこそ荀攸は『従来の名家は不要』と言う董卓の意見には反対できない。否、反対すべきではないと言うことを理解していた。


「まずは()()()()()出しきりましょう」


「そうだな」




たとえ名家の人間から裏切り者呼ばわりされようとも。

後世の歴史家から非難を受けることになろうとも。


全ては漢の再興の為に。


これよりおよそ一月の間、洛陽では名家と呼ばれた家の人間たちの断末魔と怨嗟の声が止むことは無かったと言う。







孫堅の狙いは襄陽だったんだー!


な、ナンダッテー!


まぁこうなります。え?洛陽を荒らす悪者?反董卓連合のことでしょ?

いい加減董卓の味方しないと睨まれますからねぇ。


どこぞの腹黒の狙いは?ってお話

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