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17話。人事について。董卓の場合①

さぁやってまいりましたよ董卓=サン。


李儒と言えば董卓だから初対面の前から意識していたのは確かだし、状況を考えれば考えるほど董卓以外に大将軍(何進の後継者)の適任者が居ないと言う状態だってのも良くわかる。


つまりこれは避けられないことだったのだよ。


「さて、孫堅殿、曹操殿と来たら、締めは董閣下ですな。いやはや董閣下におかれましては、大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした」


俺の中ではトリとか締めは最後が基本なんだが、本来は位が高い人間を先にするべきではあるんだ。何せ先にお偉いさんから功績を称えれば、他の人間も遠慮なくお偉いさんをヨイショできるし、次に褒美を貰った奴もお偉いさんからの無駄な嫉妬も受けなくて済むからな。


しかしそれはあくまで()()()()()()()()()だ。


それで行けば典軍校尉の曹操が対外的には一番位が高くなるかも知れんが、孫堅は郡太守にして中郎将だからな。董卓は郡太守の経験者だが中郎将を下ろされてるし、曹操は議郎。それに曹操の典軍校尉は霊帝が居ないから格式も微妙になっている。


つまり現時点では軍事的には孫堅が一番偉く、洛陽での官職をもつ曹操が次点。最後が雑号将軍でしかない董卓ってわけだな。実際の影響力は兵を連れてきていて、さらに劉弁や劉協に認められている董卓が上なんだが役職に関してはこれからだったから、これに関しては仕方ないと思ってもらおう。


「あ、いや、え?某にも何かあるのですか?」


HAHAHA何をおっしゃる兎さん。


「それはそうでしょう?悪漢に襲われていた劉弁殿下と劉協殿下を救ったお方に何も報いないなど、新帝陛下はそのような不義理をするような方ではありませんぞ」


いやぁ劉弁に水銀の関係が無くて、まともに会話ができるようだったら大々的に告知してやったものを。とりあえず今は先帝の喪中だからってことで内示としての告知と言うことで我慢してもらおうじゃないか。


「……いや、某は別に何も要りませんぞ。えぇ何も要りませんとも(長沙一郡の太守であった孫堅が南郡都督にされ、典軍校尉の曹操が大鴻臚となったのだ。なら軍を率いる自分はなんだ?まさか三将軍か?)」


そう警戒する董卓だが、残念ながら『李儒』が『董卓』を一将軍に留めるなど有り得ないと言うことを彼は知らないようだ(当然と言えば当然なのだが)


「ハハッ。ご謙遜を」


「いやいや、某の如き田舎者には新帝陛下のお気持ちだけで十分ございます(謙遜じゃねぇよ!)」


笑顔で火花を散らすように見える二人だが、傍から見ている孫堅と曹操には、すでに董卓の負けが見えていた。


「さて、時間もないことですし告知させていただきましょう。孫堅殿が南郡都督・曹操殿が大鴻臚。そして董閣下は大将軍です!いやぁお三方とも羨ましい話ですな!」


「「「はぁ?!」」」


董卓だけでなく、孫堅や曹操も驚きの声を上げるが、それも無理は無いだろう。何進と李儒が作り上げた今の大将軍府は、今まで外戚の人間が私腹を肥やすために作ったモノとは一線を画す、本気で漢と言う国の軍を統治する組織だ。


大将軍とはその組織の長である。そんな組織に洛陽の政の基本(イロハ)も知らない人間を就けるなど正気の沙汰ではない。


狂気の沙汰のど真ん中に叩き込まれた董卓は、喜びよりも不安しか感じていなかったと言う。


「あ、あの。申し訳ござらんが、某が大将軍ですか?車騎将軍とか衛将軍ではなく?某は洛陽については何も知りませんぞ?」


さっきまでは三将軍の一つである車騎将軍すら嫌がっていたのだが、大将軍に比べれば数倍マシだと考えた董卓は、なんとか李儒に翻意を促そうとする。しかしこの人事も前の二人と同様にすでに決まっていることなので、はっきり言って無意味である。


「えぇ。それが良いのですよ。ですので間違いなく董閣下は大将軍となる事は確定しております。あ、私は洛陽から離れますが、他の者は大半が残る……と思いますので、運営には問題は無い……と思われます。何にせよ大将軍府をよろしくお願いします!」


「はぁぁぁぁぁぁ!?」


「「(……うわぁ)」」


ところどころ、いや、もう完全にアウトな発言をして、何故かやり遂げた顔をする李儒と、その言葉の意味を理解して絶叫を上げる董卓。そしてその董卓を眺めて心の中で手を合わせる孫堅と曹操の図が完成した瞬間であった。


――――



(董卓が大将軍とは……まさしく栄転。まさしく抜擢。しかし本人は望んでいない。最初は李儒が董卓を傀儡として使うかと思ったが、違うのか?しかも李儒が洛陽から離れるだと?)


流石の曹操も、董卓の大将軍就任と言う人事には驚いた。しかしすでに大鴻臚として働くことを決めている彼から見れば所詮は他人事なので、董卓よりは冷静に物事を見ることが出来ていた。


そのため董卓の大将軍就任よりも、そのあとに告げられた『李儒が洛陽を離れる』と言うことに興味をそそられる。


「あ、あの、李儒殿。貴公が洛陽を離れるとは?」


(良く聞いてくれた!)


それは横で聞いていた孫堅も同様であった。何せ孫堅にとって李儒と言う人物は自分を強制的に出世させた怨敵であると同時に、洛陽における命綱のようなものだ。それが居なくなると言うのは後ろ盾や教導(アドバイス)をしてくれる人間が居なくなると言う意味でも見過ごして良い事ではないのだ。


「あぁ言ってませんでしたな。この度、新帝陛下となられる劉弁殿下は先帝陛下と何進閣下の喪に服すために、一時洛陽を離れることになっております。洛陽にいては喪に服すどころではありませんからな」


「あぁ。それはそうでしょうな」


何せ子供とは言え、皇帝(絶対権力者)だ。判を押すだけとは言え仕事はあるだろうし、幼い新帝の歓心を買うために近づこうとする者や、娘を後宮に入れようとする者等が大挙して押し寄せるのは目に見えている。


そのため、劉弁が喪に服す為に洛陽から離れると言うのは間違ってはいない。


ちなみに現代日本人の価値観だと『最高権力者が喪に服すって、職務放棄だろ?良いのか?』と思うかもしれないが、儒に染まった後漢の場合は『喪に服すならしょうがない』と言うのが一般的な考えだ。


と言うか、この時代は自然災害が天子の『徳』の不足によって発生すると考える人間が多いので、もしも劉弁が喪に服さずに皇帝になろうとした場合『喪に服さないなどとんでもない!』と叱られるまである。


特に今回は父親の霊帝だけではなく、外戚であり後ろ盾でもあった伯父の何進の分も喪に服す必要があるので、皇帝とは言え一年~三年は公務から外れても周囲から文句を言われる事は無い。


ちなみに、この時代の喪に服すと言う行為は、断じてどこぞの名家のお坊ちゃんがやったような、都合の良いニート生活を送るための口実ではない。



まず喪に服す人間は、期間中に以下の事を求められる。


一つ・専用に作られた喪屋から出ないこと。

一つ・一般とは違う火を使って炊事等を行うこと。

一つ・髪や髭を伸ばしたままにすること。

一つ・他人との接触を控えること。

一つ・神事を行わないこと。

一つ・口に入れる食事の制限。

一つ・儀礼の場に立たないこと。


等々、他にも様々な制約がある。


つまり喪に服す行為と言うのは死の穢を払う為の宗教的な儀式なのだ。


そして今回新帝となる劉弁は、国家鎮守の意味を込め漢の人間を代表してこの儀式を行うのだから、これはもう立派な職務とみなされている。


よって儒教的価値観からも「これを邪魔をするなんてとんでもない」と言った感じで受け入れられているし、現在はその為の準備が着々と進められている。


新年の行事も自粛するのが正しいのだろうが、あれはあれで厄払いも兼ねている上に新年の儀式を行わないと破産する業者や死ぬことになる役人が多々いるので、自粛はしないこととなった。


今回のことはそういった人間に代わって喪に服すと言う意味合いもある。


そもそも皇帝と言う存在自体が社稷(しゃしょく)を司る存在だと考えれば、下手に政に口を出すよりもこれが正しい姿と言えないこともない。


皇帝のお仕事についてはともかくとして。


「私は光禄勲ですので、陛下のお側にお仕えせねばなりません」


「「「……なるほど」」」


そりゃそうだとしか言い様がない。


「新帝陛下からは『朕がその方らに代わって先帝陛下や伯父上の喪に服すので、その方らは通常の業務を行うように』とのお言葉を賜っております。なので孫堅殿や曹操殿は特に何かをする必要はありませんよ」


「ほ、ほう。そうですか。新帝陛下にはなんと申し上げて良いのやら……」


元々霊帝の喪に服すと言う発想すらなかった孫堅だが、流石にこの場ではそんなことは言えないので、祝辞と言うか感謝の意っぽいことを口にする。


「なるほど。私も喪に服す必要があると考えておりましたが、新帝陛下のお心遣いを無下にするわけにはいきませんな。大鴻臚としての職務を努め上げることで陛下に対する忠勤の証と致しましょう」


同じく霊帝の喪に服する気持ちなど毛頭なかった曹操も、そんなことはおくびにも出さず、如才無い答えを返す。この辺が何でも出来る万能の政治家と軍人に特化した人間の違いなのかもしれない。


そして残ったのは董卓だ。


彼は大将軍位に関してもそうだし、李儒が洛陽から離れることについても否定できない空気を作られ、さらに連続して投下される爆弾発言のせいで、すでに胃に深刻なダメージを受けているようだ。


しかしそんな彼も先ほどの李儒の言葉は聞き逃すことは出来なかった。


「……某は何かするのですか?」


そう、先ほど李儒は『()()殿()()()()殿()()特に何かをする必要はありませんよ』と言ったのだ。


言い換えれば「董卓にはすることがある」と言うことだろう。


「えぇ、董閣下には大将軍として、先帝の元に殉死することになった人間の処理……処け……ゲフンゲフン。えぇと葬送の儀の監修があります。それと新帝の即位と同時に罪人である袁家らの粛せ……処刑を執り行うことになりますので、その監修も担当していただきます」


「何故?!」


「「(ご愁傷様です)」」


本来粛清も処刑も大将軍が行うべきことでは無いにも関わらず、何故自分がそれを行わなければならないのだ?!


そんな未来の大将軍(董卓)の魂の叫びは、腹黒外道の心にまったく響かなかったと言う。



……続く

前後編とはさすが董卓。格が違った。


半分以上は劉弁と李儒に関してじゃないかって?細けぇことは良いんだよ。


董閣下に大将軍になることを納得させる前の段階です。

彼には色んな仕事があるのですが、はてさて一体どこまで話すのやらってお話。



―――



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