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6話。大将軍府にて

本日2話目です

洛陽・大将軍府


西園軍の旗を掲げて入城してきた淳于瓊は、本来の任地である宮城には向かわず、真っ先に大将軍府を訪れていた。


それを受けて周囲の人間は大将軍府と西園軍の戦か?!と警戒したのだが、当然と言うかなんと言うかそのようなことが発生するはずもなく、李儒からの書簡を持った淳于瓊はすんなりと現在の最高責任者である荀攸へ報告と任務の伝達を行っていた。


「ほう。それでは李儒殿が両殿下を洛外で確保したと?」


「えぇ。それで両殿下を連れた李厳殿より今回の洛陽の出来事を聞いた李儒様から『荀攸殿と協力して現在も宮中にいるであろう禁軍共を捕えよ。尚、抵抗するなら殺しても構わん』と言う命令を受けております」


「なるほど。それについては問題有りません。すぐにでも準備させましょう」


確かにすでに両殿下を確保出来ていると言うなら禁軍の連中に遠慮はいらないだろう。しかしまさか両殿下が帝や大宦官しか知らぬとされる抜け道を使って洛外へ逃れていたとはな。


曹操から袁家が殿下を確保していない可能性が高いと言う情報を得た際、禁軍か何后によって宮中に匿われていると見ていたが、私の予想は外れていたと言うことか。


荀攸は劉弁らが洛外に逃げることを計算に入れていなかった己の未熟さを恥じるが、洛陽においてそのような予想を出来た者は一人も居ないので、今回の件で荀攸の未熟さを指摘出来るものは居ない。


……どこぞの腹黒あたりなら内心で笑うかも知れないが、彼は基本的に年上には敬意を払うので(儒教的には年功序列は当たり前)表立って非難されることは無いだろう。


ちなみに曹操は生き延びた宦官によって匿われている可能性が高いと踏んでおり、やはり洛外と言う考えは無かったのだが、これは劉弁も劉協も宮中から離れることは無いだろうと言う先入観や、何后が宮中にいた事から想定されたことであった。


袁紹から両殿下の確保に失敗したと報告を受けていた袁隗も、大将軍府以外だと何后かどこぞの名家が匿っていると予想していたくらいなので、これに関しては関係者全員が何進によって裏をかかれたと言っても良い。


そして今回袁紹が抜け道を発見出来なかったのは


元々注意力が欠如した人間であること。

何進を討ち取って興奮していたこと。

抜け道の入口が隠蔽されていたこと。

部屋が死体だらけだったこと。

さらに袁紹の友人たちが怪我を負っていたので、治療の為にいち早く引き返す必要があったこと。


等々と言った様々な事情があった為だと思われる。


まぁ張譲を殺す前に「何故ここに貴様と何進が居たのか?」と尋問を行い、抜け道の情報を得ていれば良かったのだろうが、袁紹と言う男は両足を切断されて気絶していた張譲に対してわざわざ延命処置を施してから尋問をするような人間ではないので、今回のミスも偶然ではなく必然と言ったところだろうか。


一応フォローを入れるとすれば、何進の命懸けの戦闘によって冷静さを失っていたと言う可能性もあるが、結局は袁紹の未熟さが情報を得ることを妨げた事に違いはないので、この場合は、死して尚袁紹を嵌めた何進を褒めるべきと言える。


なにせ何進が命を懸けた結果として、よりにもよって大将軍府で最も厄介な存在と目される李儒に両殿下を確保されたというのだから、袁隗の心中は推して知るべしと言ったところだ。


その上で、この荀攸と言う漢は、見た目は優男だし内面もそれなりに温厚な人間ではあるが、名家の人間として「舐められたらアカン」と言う教育をしっかりと受けてきた漢であると同時に、殺るべき時はしっかりと殺ることの必要性を言葉ではなく魂で理解している漢である。


つまり彼は敵と見做した相手が泣いているならそこに蜂を嗾けるし、蜂に襲われて崖に追い込まれたら、遠距離から矢を射て崖下に叩き落とすだけの容赦の無さと、崖に落ちた者の死体を確認するまで捜索させるくらいの執拗さも兼ね備えた一流の軍師(腹黒外道)なのだ。


李儒?彼の場合はそもそも崖下等に逃がして生死不明になることを嫌うので、泣いている相手に対して優しく声を掛け、近付いたところを処するか利用するはずだ。


尚、泣かせたのは自分であると言うことを決して相手に悟らせないように工夫しておくのは、軍師として基本中の基本である。


……そんな外道談義はさておき、問題はこれからどうするかと言うことだ。


「こちらがするべきことは了解しました。ただ、禁軍の捕縛に関してですが、我々大将軍府の兵は宮中を囲み、淳于校尉が率いる西園軍が宮中へ入るという形でよろしいですかな?」


袁紹は謎の勢いを以て武装したまま宮中へ乱入したが、生粋の名家であり文官である荀攸はたとえ李儒の許可があったとしても宮中へ武装して入ろうとは思わないし、部下にもそのようなことをさせる気はない。


そのため淳于瓊にも「宮中での戦闘で自分たちを頼るなよ」と釘を刺す。


「はい。それで問題有りません」


そして釘を刺された淳于瓊としても、今回の問題は禁軍や西園軍が引き起こした不祥事だと自覚しているので、自らの手で片付けたいという気持ちが有る。


その為、大将軍府の人間が逃げ道を封じてくれた上で邪魔をしないと言う荀攸の宣言は、率直に言ってありがたいことであり、むしろそれでお願いします!と頭を下げたい気分になっていた。


ちなみに淳于瓊は大将軍府に所属しているわけでは無いので、光禄勲の李儒には頭を下げる必要はあっても荀攸には頭を下げる必要は無い。と言うか、彼の立場では帝や上司以外に頭を下げてはいけない。


しかし彼は実質的に大将軍府を差配している名家の代表格である荀攸と対等な口を利けるような身分ではないことを自覚しているので、若干やりづらそうにしているのだが、これは気にしてはいけないことである。


ちなみのちなみに、立場で言えば曹操も淳于瓊と同じ立場なのだが、彼の場合は制度上自前の軍勢を持つことが出来ないので、西園軍と言うよりは議郎として動いていると思えば良いだろう。


つまり?曹操(乱世の奸雄殿)は普通に周囲に頭を下げて生きているってことだよ。言わせんな。


それはともかくとして。


「ではそのように動くとしましょう。こちらは今日でも明日でも、なんならこれからでも構いませんが、淳于校尉はどうですか?」


一応使者を出した時点で李儒からどのような指示が有っても動けるようにしていたことも有り、大将軍府の兵は何時でも動ける状態にある。あとはここまで急いで進軍してきたであろう淳于瓊ら次第だ。


「こちらも簡単な食事と休息を頂ければ即座に動けます」


「そうですか。では準備を急がせましょう」


ここで袁紹ならば「何をまだるっこしいことを!」等と騒ぐのだろうが、空腹で疲労困憊の兵士など役に立たないことを知っている淳于瓊と荀攸は、兵士に休息を取らせることを軽く見ることはなかった。


元々禁軍は逃げられないように監視されているし、名家の連中のように一目散に洛外に逃げる可能性が高い輩を捕えろと言う命令でも無いので、あえて余裕を見せているとも言う。


「それで、李……いえ、両殿下の状況はどのような感じでしょうか?」


自分たちがすることが判明したのであとは動けば良いだけとなった荀攸だが、ここで気掛かりなのは長年仕えてきた上司の死を知った李儒(腹黒外道)の動向である。


彼は袁紹のように感情や勢いに任せて殺し回るような男ではないが、だからこそ計算尽くで地獄を作り出すような怖さがある。


その為、今の李儒がどんな精神状態なのかを知りたいと思うのだが、まさか両殿下の現状よりも李儒に興味があるとは言えないのでこういう形になってしまったが、淳于瓊は空気が読める漢であった。


「私が出立する前の段階では、董卓将軍が率いていた軍勢を近衛とし李儒様が指揮を執る予定となっておりました。両殿下もそれに異を唱えることはありませんでしたな。ただし行軍は多少遅くなるので洛陽への到着も遅れると言われております」


「なるほど」


少なくとも、董卓が率いてきた涼州の軍勢を突撃させて問答無用で殺し回るようなことは無いと言うことを知り、荀攸は安堵の息を吐く。しかし物事はそんなに甘くはなかった。


「ただ……」


何かを言いかけた淳于瓊が突如として顔を青くして左右を見て何かを確認しているようだが……彼が何を警戒しているのかを荀攸は知っている。なにせこれは大将軍府の人間が李儒のことを言う前にする共通する仕草なのだ。


つまりこれから淳于瓊が話すのは殿下ではなく李儒について。さらに言うならばことの発端である袁紹絡みの可能性が高い。


「ただ、どうなさったのでしょう?」


歴戦の将と言っても良い淳于瓊が、目の前にいるわけでもないのに顔を真っ青にする程に恐ろしいことがあったのかと思うと「聞くのも嫌だ」と言う思いが胸の内を占めるのだが、今後のことを考えれば聞かないわけにも行かない。


そう思って先を促したのだが、淳于瓊の口から出てきた言葉を聞き「やっぱり聞かなきゃよかった」と頭を抱えることになってしまった。


「誰に向けた言葉かは知りませんが、李儒様は『ただで死ねると思うな』と呟いておりました……」


「……そうですか」


ここであえて「誰に向けた言葉かわからない」等と情報漏洩と取られないように予防線を張った淳于瓊だが、そんなのは考えるまでも無いだろう。


謀略・政略・戦略を修め、学術・武術・戦術に秀で、審問・尋問・拷問を忌避しない漢が明確な殺意を向ける先。それは間違いなく何進を殺した袁紹(阿呆)であり、汝南袁家(阿呆の保護者)以外にない。


彼らがこれからどのような末路を辿ることになるのかを想像しようとしたが結局出来なかった荀攸は「とにかく出来るだけ早く袁家の近くにいる身内を避難させよう」と心に誓ったと言う。



荀攸さんもお仕事中。

淳于瓊は董卓や両殿下との会話を聞かされておりませんので、今の段階で李儒君の狙いは彼にばれないもよう。


バレたところでどうしようも無いけどなぁ!


まぁ完璧な策だ!って勝ち誇ったヤツは大体……ってお話。

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