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5話。英雄の会談

洛陽大将軍府。


「やぁ孫堅殿。一瞥以来ですな」


「……曹操殿か。久しいですな」


此度、長沙郡の太守として先帝の葬儀に参加する為に上洛した孫堅は、自身が所属していた派閥の長である朱儁が河内の太守として河内に赴任していて洛陽に不在であったことも有り、とりあえずと言うことで己を呼び出した李儒が居るはずの大将軍府を訪れていた。


そこで現在の洛陽の状況について説明を求めたところ、説明の為に孫堅の前に現れたのが黄巾の乱の際に朱儁の下で共闘した曹操だった。


(何進が死んだ件の説明を求めたら、何故か西園軍に所属する曹操(典軍校尉・議郎)が現れた件について)


孫堅としては、さも当然のように大将軍府の人間のような顔をして現れた曹操に訝しむも、曹操がここに居るのは「彼は袁紹の同僚ではあるがこの件に関しては無関係である」と言うことを大将軍府が認めたという事だろうと判断し、とりあえず納得することにする。


……実際は曹操の嫌疑が晴れているわけではないのだが、なし崩し的に周囲に認められつつあるのが曹操が有能たる所以であると言えよう。


「うむ。久しいですな。それでは早速ですが、現在洛陽で起こっている事案について説明させていただくがよろしいかな?」


「あぁ、そうだな。よろしく頼みます」


孫堅としては下手に大将軍府のお偉いさんに来られてもリアクションに困るので、こうして顔見知りである曹操に来てもらったのはある意味で助かったと思っていたりする。


そして曹操としても、情報提供の後とは言え大将軍府に入り浸っているだけでは肩身が狭いと言うのがあった。


よって何か仕事を手伝おうとしていたのだが、当然と言うかなんと言うか、機密やら何やらを抜く可能性が有ると警戒されたのか、簡単な雑用しか割り当てられることはなかった。そこで「どうしたものか」と思い悩んでいたところに現れたのが孫堅だ。


城門に詰める知り合いから「孫堅が洛陽に入った」と言う報告を受けた曹操は、すぐに荀攸に対して「あいつ顔見知りだから!」と言って今回の説明&饗応役と言う仕事を勝ち取ったと言う経緯があるので、自分が説明役だという事に孫堅から文句が出ないということは、それだけで助かることであった。


こうして二人の思惑が一致したことで、洛陽に於ける孫堅の相手は曹操が任される事になる。


曹操と孫堅の対談。歴史好きが見たならば「ここで天下の趨勢を決める気か?!」と目を剥く光景だが、現状の曹操は典軍校尉という名のお飾りでしかなく、孫堅は長沙郡の太守と言う田舎の役人に過ぎない。


そんな二人は、現状の吹けば飛ぶような木っ端扱いに対して微塵も疑問に思うこともなく、現在洛陽で吹き荒れている嵐に飛ばされぬよう寄る辺となる大樹を探している状況であった。



―――



「……と、まぁ大体はこのような状況ですな」


「……なんと言ったら良いのやら」


何進大将軍が殺されたのは知っていたが、まさか洛陽に流れている「張譲によって毒殺された」と言う噂は完全に嘘で、実際は袁紹が兵を率いて宮中に乱入し直接殺害していたとはな。


「その情報を知った大将軍府はどのように動くつもりなのですかな?」


……曹操から話を聞いて『これは下手をしたら巻き込まれる。そうなる前に安全な場所に避難しないとやばいぞ!』そう考えた孫堅だが、実際は洛陽に入った時点ですでに巻き込まれていることを自覚出来ていないのは、地方出身者故に仕方のないことかもしれない。


「大将軍府としては未だに動けません。尤も、何をするべきかは決まっているのですがね」


そんな孫堅の内心を察した曹操は彼に「手遅れだ」と言う視線を向けつつ、質問に答える。


「む?決まっているのに動かないのですかな?」


「えぇ。動けません。やることは何進閣下の仇討ちになるのでしょう。しかし相手は袁家ですし、現在の両殿下の安否も判明しておりませんので、簡単には動けないのですよ」


「あぁ、なるほど」


普通に考えればそうだろうな。大将軍府としてもこのまま袁紹を野放しにできないと言うのは当然の話だ。しかし向こうが両殿下を抱え込んでいるならば、当然の話も簡単にはいかなくなる。


なにせ連中が劉弁殿下か劉協殿下を説得することさえできれば「今回の件は殿下の勅命で行ったことだ」と言って袁紹を無罪放免とすることも可能なのだ。


実際過去に宦官を殺した外戚の梁冀も、梁冀を殺した宦官である単超も、帝の勅命と言う大義名分があったからこそ洛陽の内部で兵を起こすことが出来たと考えれば、今回の場合も袁家が劉弁と劉協を確保していたなら「宦官と外戚を排除するよう命令を受けた」と言わせることも不可能ではない。


そしてその理屈が通ってしまえば、今回の乱入も大義名分と袁家の力が加わって『何進を殺したことこそが正義』となり、袁紹を罪に問うことは出来なくなると言うことか。


せいぜいが、宮中を荒らした袁紹の兵や袁紹の友人が率いた兵士連中とやらが切り捨てられる程度だろうよ。


そして袁紹が正義となるならば、討伐対象であった何進が作った組織であるこの大将軍府そのものも危うくなる。う~む、そう考えれば大将軍府が動けないと言うのはわからないでもない。


「しかし、それでは何故袁家は動きを見せないのですか?」


大将軍府の事情は理解した。残る問題は袁家だ。


彼らが両殿下を抱えているなら、すぐにでも殿下の意見を発表して自分たちが有利になるように動くはずなのに、現状で動きがないのはどういうことだ?


「私見ですが……」


「かまいません」


今はどんな情報も欲しいからな。


「では。袁紹の様子では袁家が殿下の説得に苦戦している。もしくは袁家も殿下を確保していない可能性があります」


「は?!」


袁家が説得に苦戦するのはわかる。しかし殿下を確保していない可能性だと?


「袁紹はアレですが、袁隗や袁逢は洛陽の政を知り尽くした政治の化物です。張譲と何進閣下が命を落とした以上、殿下を抱えた彼らに対抗できる者は居ないと言っても良いでしょう。それにも関わらず動かないと言うのは些か以上に不自然過ぎます」


「それは……そうですな」


一瞬あの悪党(李儒)ならいけるんじゃないか?と思ったが、今は洛陽に居ないと言うことだから一緒だな。


と言うかアイツが裏で糸を引いた可能性は……無いか。奴の実力は認めるが、結局は何進の腹心だからこそ出世したのだ。ここで何進を殺す理由がない。


そうなるとますます袁家が動かない理由が無くなるな。


それに、今の袁家は何后と連携する可能性がある大将軍府(荀攸)に対しても何かしらの交渉をしているわけでも無さそうだ。


これらを考えれば、やはり連中の動きは不自然と言う他無い。


「最悪はすでに両殿下が死んでいる場合ですな」


「……あぁ、その可能性もありますか」


兵士たちが乱入した際に両殿下の顔を知らずに殺したとか、捕虜になるくらいならと自害したか。もしくは袁家に確保された後で殺されたか。そう言った可能性も無くは無いな。


その場合は次の皇帝は誰だ?劉表は……無いな。劉岱か劉繇、もしくは劉虞あたりが来るか?



李儒程では無いが特段皇家に対する忠誠心を持ち合わせていない孫堅としては『ここで膠着状態になるくらいなら劉弁も劉協も死んでいた方が話が前に進むのでありがたい』とすら思っているのだが、そのような考えをするのは極々少数派である。


皇室に対する敬意も有るには有るが、それ以上に今の段階で両殿下が居なくなれば次の皇帝を巡って内戦が勃発することになるので、戦を嫌う大半の人間は両殿下が無事であることを願っているのだ。


「まぁあくまで可能性です。確率としてはかなり低いと言っても良いでしょう」


こんなことを言っている曹操だが、袁家よりも大将軍府の方がマシと判断してここに居ることでお察しだろう。


彼は袁紹の様子を見て、袁家が二人を確保していないと確信しているし、二人が死んだとも思っていない。


そんな曹操から情報提供を受けた荀攸も同じ判断をしていたりする。


「なるほど。では現在大将軍府が動かないのは両殿下の安否確認を優先しているから。と言うことですか?」


「それもあります」


「それも?」


他に何があるのだ?


「光禄勲である李儒殿の帰還を待っているのですよ」


「あぁ……」


それはそうか。つまるところ、現在大将軍府が動かないのは両殿下と言う名目がどうこうではなく、現在任務を受けて外出中である大将軍府の実質的な指揮官である李儒の帰還を待っているというだけの話か。


元々現在の大将軍府を作ったのは何進と李儒だと言うのは大将軍府に関わる全員の共通認識だし、新たな帝も大将軍も居ない上に車騎将軍であった何苗も死んだ以上、李儒こそが大将軍府の後継と言っても過言では無いからな。


結局のところはあの腹黒外道次第なのだ。


ある意味諦めの境地に至った孫堅は、自分の為に用意された部屋で配下たちと酒を飲む事にしたと言う。



―――



……本来なら権力を増した李儒による策謀が疑われるところなのだが、大将軍府の幹部たちは李儒が権力を欲するどころか、普段から仕事から逃げようとして権限を他人に譲ろうとしていることを知っているし、荀攸に至っては李儒の夢が楽隠居にあると言うことも知っているので、ここで自分の仕事を増やすような真似はしないと言うある種の信頼があった。


よって大将軍府の内部では今回の件で李儒の暗躍を疑うものは居ないと言う状況だ。


また外部の人間から見ても、孫堅が予想したように『外戚でない李儒が大将軍府の権限を握っても一時的なものにしかならない』と言うことはわかっているので、彼による陰謀論は無いと言う結論に至っている。


そうした事情もあり、大将軍府としては李儒の判断次第では適当な皇族を立てて袁家と全面戦争することもあるだろうし、逆に袁家に迎合することもあると言う可能性を考慮し情報収集に努めている。


また、その判断をしてもらう為に荀攸は弘農に居る李儒に対して使者を出しており、今の大将軍府の沈黙はその返事待ちの為に発生しているのである。


そうして曹操と孫堅が情報のやり取りをした2日後、大将軍府を、否、洛陽を揺るがす事態が訪れた。




『緊急伝令です!西園軍の淳于瓊殿が洛陽に帰還致しましたっ!』




「「……来たか」」


曹操も、曹操から情報提供を受けた孫堅も、淳于瓊が誰と一緒に動いていたかを知っている。二人はこれから洛陽がどうなるのか、そして自分たちはどう動くべきかを考えるため、淳于瓊が齎すであろう情報を得るために動き出す。


英雄の卵たちは孵化するのか、それとも卵のまま終わるのか。


袁紹が引き起こした事件は、数多の英雄・英傑を引きずり回して次の段階を迎えることとなる。

正確には (将来の)英雄の会談。と言ったところでしょうか。

曹操と孫堅は同じ朱儁閥ですし初対面ではありませんからね。

「大将軍府にいるなら働け」と言われた曹操君ですが、流石に重要な仕事はさせられません。


簡単な仕事だとさっさと終わらせてしまうのでサボって思われると言う悪循環。

そんな時に現れた右も左も分からぬ田舎者の知り合いにヒャッハーした感じですね。


孫堅も「洛陽はおっかねぇところだ」と思ってますので、知り合いが居てくれてラッキー的なところがありましたってお話。


―――



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