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27話。洛陽の泥の中で③

レビューありがとうございます!


例によって作者の考察と言う名の妄想が入りまくりのお話です。

耐えられる方のみ閲覧お願いします。


とうとうこの三國志にも女性キャラが?!



文章修正の可能性有り。


中平6年(西暦189年)8月・洛陽


大将軍府の実質的なナンバー2にして何進の腹心である李儒が、何進の命令を受けて洛陽を離れた。この報は特に隠されることも無く、むしろ周囲に布告されたかのような勢いで洛陽に巣食う者達に届けられた。


「李儒が動いたか……何進め。袁紹の暴走を利用する気だな」


その報に最も強く反応したのは、当然のことながら何進に名指しで処刑宣言をされている十常侍ら宦官であった。


さらにその筆頭であった張譲は、蹇碩の暴走から今までの一連の流れに対してこれと言った有効策も打てずに居たことで、宦官内部での影響力も落ちつつあるのが現状である。


そんな中、己が生き残るために劉弁の母親である何后に渡りをつけ、下賤の娘でしかないアレに平身低頭して己の庇護者となって貰い、これからどうにかして巻き返そうと言う所で何進が取って来た動きがコレだ。


とは言え、現状で何進が何か手を下したと言うわけでは無い。実際に動いたのは袁紹であり、これを単体で見るなら名家の暴走。もしくは名家が何進と全面衝突する前段階に見えるかも知れない。


だが周囲の人間の考えは違う。特にこの段階で腹心である李儒を動かしたことがその証拠だ。


今回の件は、公的には司隷校尉であり弘農丞である李儒による視察を兼ねた賊の討伐任務だが、そもそもその程度の任務に光禄勲である彼が直接赴く必要など無い。


ならば何故?と考えれば「董卓と合流しようとしている」と言う答えに行きつくのは簡単である。


と言うのも、ここ最近ことあるごとに袁紹が「自分が董卓を呼び出した!これで宦官も何進も終わりだ!」と普段から大声で叫んでいるからだ。そう。承認欲求の強い彼は、曹操に対して「ここだけの話」と言いながら、方々で同じことを言いふらしては悦に浸っていた。


あれだけ大声で多数の人間に吹聴して回れば当然張譲や何進の耳に入るし、袁隗などは甥の暴走に胃を痛めているともっぱらの噂である。


なのに未だに袁紹に対して袁家から何の処分も下されないのは、袁紹がどうこうではなく、この動きに対して何進がどう動くのかを見定めているからでしかない。


彼らにしてみれば袁紹一人を差し出して、それで済むなら良い。喜んで袁紹を差し出すだろう。だが董重の時のように一族郎党が連座させられるのでは堪ったものではないのだ。


そう言った思いが有るため、袁隗は何進からの連絡を待ち、何とか交渉で話を済ませようとしていたと言う経緯がある。


そうして周囲が何進の行動に注視していた中で彼が取った行動は……黙認だった。


これにより周囲は「何進は袁紹の策を利用して宦官を抹殺するつもりだ」と言う予想を付けたと言う訳だ。そしてその予想は、何進が曹操に対して「時期を見て自分に従う宦官を避難させるように」と言う指示を出したことで確定事項となった。


何進が袁紹の策を利用するつもりならば、袁隗は何もしなくても仇敵である張譲を始めとした宦官を殺せるし、この策を提唱したと言う功を持って今回の独断専行を袁紹一人の罪とする交渉の余地も有ると見ている。


その為、現在袁家では袁紹を切り捨て袁術を中心に据えることを前提とした組織作りが行われている最中であり、他に労力を割く余裕が無い。


よって、現状で袁家を中心とした名家閥はこの件に対する動きを見せる気配はなかった。


それはつまり、彼らは何進の行動の邪魔をしないということでもある。


そうなると一層危機に陥るのが張譲ら宦官たちとなる。現状綱引きにすらなって居ない状況で、味方は時間と共に失われていくばかり、後ろ盾のない劉協には簡単に近付けても彼には何の権限も無いので、無意味。


いや、一応王允を始めとした帝派は劉協の近くに侍っているが、彼らは何進以上に宦官を嫌っているし、そもそも彼らが劉協の側に居るのは何進が「劉協殿下が宦官に利用されないようにしてくれ」と連中に念押しをしたからだ。


……今の何進は劉協に気遣う余裕すらある。そんな彼我の差を再認識して張譲は目の前が怒りで真っ赤に染まりそうになるが、彼は「ここで激昂しても何もならん」と考えを切り替える。


帝の側で好き勝手して来た宦官たちは、基本的に他の勢力の人間に嫌われている。


故に彼らが生き延びる為には彼らを必要としている人間に擦り寄るしかない。そして帝が居ない今、彼らが擦り寄る相手は次期皇帝と目される劉弁。もしくはその母親となるのは自明の理であった。



―――



ただでさえ神聖不可侵の宮中に於いて、さらに帝か宦官しか立ち入れない聖域である後宮。その最奥に造られた部屋では、部屋の主であり『妖艶』と言う言葉を具現化したような30になるかどうかと言う妙齢の女性が、張譲ら宦官との謁見を行っていた。


「我らは忠実なる陛下の臣にございます。何卒大将軍様にも……」


「うむ。分かっておる。兄上には妾が取り成す故、その方らは暫し大人しくしておれ」


「ははっ!」


「……ふふ」


あの大宦官である張譲が己に頭を下げながら消えていく。そんな様を見て愉悦を感じ、部屋の主は笑みを隠しきれないと言うように微笑む。彼女こそ霊帝に見初められて劉弁と言う次期皇帝を産み落とした何進の妹、何后である。


宦官を下がらせ、一人となった彼女はふと今までの人生を振り返る。


元々彼女は南陽の屠殺業者である何真の子として幼少期を過ごしていた。幼少の頃からその美貌は評判で有ったが、普通ならそのまま南陽の名家の家に嫁ぐなどして、その生涯を終えただろう。


そんな彼女の人生が一変したのは南陽出身の宦官である郭勝が何進と共謀し、自分たちの出世の為に彼女を霊帝に差し出したことが事の発端であった。


洛陽に後ろ盾が無い彼女は後宮で生き残るために有りとあらゆる手を尽くした。そんな中、後ろ盾が無いところが逆に霊帝の目を引いたのだろう。それに帝にとっては自分以外は全てが下賤なので、今更彼女の生家について蔑むことは無かった。


それよりも権謀渦巻く後宮において頼る者がおらず、一途に自分に頼って来る何氏はことさら可愛く見えたに違いない。そんなこんなで最初の皇后である宗氏が廃された際に、彼女は正式に皇后となることが出来た。


そんな彼女の未来に影が掛かったのはそれからわずか1年後のことである。既に男子を産んでおり「このまま黙って居れば自分の子供が次の帝になる」そう思っていた時、側室の王美人が男子を産んだのだ。


昔から卑しい生れの自分を毛嫌いしていた董太后(霊帝の母)らはこぞって王美人の子をもて囃し、弁を軽んじ、時には暗殺までしようとしてきたことも有った。


帝も何后よりも若く、さらに子を産んだ王美人を可愛がるようになっていた中で、彼女にとっての味方は当時外戚である董氏や王氏の権力増大を恐れる宦官しか居なかった。


そして彼女は宦官に頭を下げ、彼らに毒を用意してもらい王美人を除くことに成功する。


……だがソレが拙かった。


王美人を殺したことで、彼女を可愛がっていた帝の不興を買ってしまったのだ。これによって帝は彼女を避けるようになり、母を亡くした協を可愛がるようになってしまう。


さらに間の悪いことに兄の何進が急激に出世してしまう。これにより、表面上の後ろ盾が出来た何后だが、後宮内では宦官たちからも距離を置かれてしまうと言う悪循環が生まれつつあったのだ。


このままでは帝が自分を見限り、弁ではなく協が太子として擁立されてしまうかもしれない。そんな孤独と不安に怯える中、帝が崩御してしまう。


彼女にとって帝は、後宮で自分を守ってくれた人であり弁の父親であると同時に、自分たちを追いやる人間たちにチヤホヤされている協の父親であり、自分を虐げる董太后の子でもある。


まさしく愛憎入り混じる相手では有ったが、それでも帝の正室と言う立場が自分を守ってくれていたのは知っている。


その最後の盾が無くなり、このまま自分も弁も殺されるのか?と思っていたのが、つい先日までの事でだった。


それが今ではどうだ?


帝の遺勅を利用して協を太子に立てようとした蹇碩は同じ十常侍に裏切られ計画が頓挫し、宦官たちが争う中で何進が袁隗と協定を結び圧倒的な勢力を確立したと思ったら、そのまま蹇碩や董太后を始めとした外戚の一派を滅ぼしてしまったではないか。


これにより弁の即位がほぼ確定し、表立って自分に逆らう者は居なくなった。それどころか自分と距離を置いていた宦官共が頭を下げて命乞いをしに来る始末。


特に過去、自分が頭を下げた際に足元を見て色々と屈辱的なことをしてくれた張譲までもが頭を下げて来たのだから、コレで笑うなと言う方が無理だろう。


今や彼らの命は己の胸三寸。それがわかっているからこそ、何后は彼らを脅威とは思わず、如何に利用するかを考えていた。


と言うのも、兄である何進は「十常侍のような力を持つ宦官など居なくとも良い」と公言しているが、彼女にとって宦官は己を守る盾でもあるのだ。帝の母であるからと言って油断は出来ない。実際に帝の母であった董太后は惨めな最期を迎える事になったでは無いか。


男共にはわからないだろうが、後宮には後宮の世界が有る。


だからこそ自分があぁならないように、後宮においての権力を保持しなければならない。それに何進とていつ死ぬかは分からないのだから、彼以外の力も必要であり「その力を蓄えるのは今を置いて無い」と考えるのは彼女の立場ならば当然と言えるだろう。


そして張譲のような力ある宦官が配下にいれば木っ端の宦官などいつでも排除出来るし、そもそも十常侍もいつでも殺せる程度の存在でしか無いと言う事実を知れば「十常侍は生かして使うべき」と言う答えに行きつくのも、また当然と言える。


そんな事情もあり張譲からの命乞いに対して口添えを約束した何后は、まずは兄である何苗と連絡を取ることにした。


彼は何進とは血が繋がっていないが己の兄なのは確かだし、生まれ相応の見識や能力しかない上に何進のような才知も無い。彼が何進に勝っていると言える点は何進より若いと言うことくらいだろう。


よって彼は何后や弁にとっては貴重である「人畜無害な外戚」と言っても良い。


更に言えば、最近の何苗は李儒や荀攸によって「何進の一族にして側近」と言う立場を活かせていないことに鬱憤を溜めていると言う情報もある。


よって何進(李儒や荀攸)が掲げる「十常侍は殺して他の宦官を利用する」と言う方針にも、理屈ではなく感情で異を唱える可能性が高いのだ。


何進の義弟と言うだけで車騎将軍・河南尹と成った彼だが、実態はともかく肩書は漢帝国内でも屈指の地位であるし、何后と血が繋がっていると言うことは正真正銘の次期皇帝の外戚と言う立場でもある。


この二つだけでも凡百の官位役職持ちなど軽く吹き飛ばすだけの重みが有るのは、後宮と言う閉じた空間にいる彼女にも簡単に想像できることであった。


利用できるものは何でも利用する。そうしなければ生きてこれなかった何后の嗅覚は「まずは最初に何苗を取り込むべきだ」と彼女に囁いていた。



―――




涼州・金城郡冀県。


「将軍。洛陽から書簡がきましたぜ」


「はぁ。またか……あのガキが、何様のつもりだ」


「しょ、将軍!」


娘婿の牛輔が持って来た書類を横目に見て、董卓は嫌そうな顔を隠しもしない。


それもそうだろう。今までも何度か書簡が来たが、その内容が「今まで世話をしてやった恩を返せ!」だの「宦官を殺せば涼州の統治を任せても良い!」だとか、勘違いも甚だしい上に全部が上から口調なのだ。


百歩譲って袁隗からの書状ならそれも許せるが、今回のは袁紹の独断だと分かっている(袁隗や何進からは何の連絡も来ていない)ので、書状を見てもストレスを溜めるだけ。


本来なら読まずに破り捨てても良いのだが、下手に破り捨ててしまうと「証拠を隠滅した」等と疑われてしまうことになるかもしれない。


その為、董卓から見たらこの書簡は「そんな書簡見る価値も無い!専用の行李にでも投げ捨てて置け!」と吐き捨てそのまま放置しておきたいシロモノである。


しかし、中身には少量ではあるが洛陽の情報などが書かれているので確認を怠ることも出来ないと言う、実に微妙な代物(しろもの)となっていた。


そんな微妙な物を前にして露骨に嫌そうな顔をする董卓とは裏腹に、彼の言葉を聞いた牛輔は顔を青褪めさせ、きょろきょろと周囲に誰か居ないかを確認している。


「……どうした?」


董卓とて牛輔が臆病とも言えるほど用心深い性格なのは知っているが、それでも自分の娘を任せても良いと思う程度には涼州の武人として優秀な人間だと思っている彼が、たかだか袁紹(名家のお坊ちゃん)からの書状に怯える理由が分からない。


「……将軍、今までお世話になりました。妻は大事にしますんで、安らかにお眠り下さい」


「本当にどうした?!」


なんで墓前に語り掛けるような、諦めたような、何と言うかそんな透き通った顔を何故されるのか分からない董卓は、書状に何が書かれているのかを確認しようとその手から書類をふんだくる。


そして書簡の内容を見る前、偶然目に入った一文で牛輔が諦めたような顔をした理由を理解した。理解してしまった。




……その書簡の差出人の名は「李儒」と書かれていたと言う。





と言うわけで、あんまりない何后についての考察と言う名の妄想。


この時代。と言うか、基本的にいつの時代も後宮はドロドロしてます。後ろ盾が無ければ妊娠したとバレた時点で殺されることも普通に有りました。そんな中で後ろ盾も何も無い彼女が(当時の何進はまだまだ下っ端)無事に子を産むことが出来て、さらに殺されることが無かったのは、外戚に対抗するために宦官が力を貸したんじゃないかなぁと思いました。


王美人の毒殺も、絶対宦官が毒を用意してますよね?それを宦官が取り成したと言われてもねぇ。


何進が昇進することに比例して宦官とも疎遠になっていく何后。かなりキツイ精神状態だったかと思われますってお話。



董卓、李儒をガキ扱いして罵倒するの巻。どこに彼の部下が居るか分からないので、牛輔は色々諦めたもよう。一体李儒は何をしでかしたのやら……

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