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26話。洛陽の泥の中で②

レビューいただきました!ありがとうございます!


文章訂正の可能性あります。


ほうほう。昨日の夜に袁紹と曹操がサシで飲んで、袁紹が袁家の名を使い董卓らを呼び出したことを声高らかに宣言した、か。でもって曹操は急いでその内容を大将軍府に密告しに来たって?


うむ。流石は曹操と言ったところだな。判断が早くて的確だ。


「ま、曹操からの報告はこんなところだ。密偵からの報告も受けたが、特段内容に齟齬はねぇ。つまり曹操はこの問題に関しては無関係ってことにするしかねぇ」


何進にしたらそう判断するしかないわな。


「そうですな。李儒殿が曹操に対して良い感情を持っていないのは理解できますが、今回の件で彼を連座させるのは無理でしょう」


何か俺が曹操を殺したがっているように聞こえるんだが……荀攸よ。君は俺をなんだと思っているのかね。


「いやいや、別に私も「何が何でも曹操を殺したい!」などとは思っていませんよ?」


「「え?」」


李儒の言葉を受けて「何を言っているんだコイツは?」と言う顔をする何進と荀攸。彼らからすれば李儒と言う男は「警戒するなら殺したほうが楽だよね」を地で行く人間なので、曹操を殺そうとしないことに違和感を覚えるのも当然だろう。


だが流石にそれは彼らの勘違いである。李儒とて警戒して観察に留めている者は結構いるのだ。劉備とか劉虞とか劉焉とか劉表とか劉岱とか劉繇とか……劉氏ばっかだな。


まぁ漢帝国が劉氏を中心としているから仕方ないと言えば仕方ないことではある。それはともかくとして。


李儒としては荀攸(同僚)はともかく、何進(上司)にまでシリアルキラー扱いされては、普段から無駄に警戒されてしまい、自身の夢である悠々自適の隠居生活(若いうちに出来たら最高)が送れなくなってしまうし、流石にこの誤解は解いておかないと、今後曹操の意見に対して反対意見を言っても「曹操が嫌いだから」と言うバイアスをかけられてしまう可能性が有る。


その為、この誤解は解いておきたいと思うのだが、彼らは大前提がおかしいと言うことに気付かないのだろうか?


「お二人が何を勘違いしているのかは知りませんが、そもそも議郎であり西園八校尉である曹操を殺すだけなら、今の私の権限でいくらでも出来ます。袁紹に連座させる必要などありませんよ」


「「……あぁ、確かに」」


これは「曹操を殺すだけなら職権乱用してさっさと殺します!」と言う宣言なのだが、何進も荀攸も非難するどころか納得すると言うところに漢帝国の闇の深さが垣間見える。


まぁ国家の闇についてはともかく、彼らが納得したならそれで良いのだ。


と言うかわざわざ口に出さんでも、少し考えればわかるだろうに。光禄勲の属官ってだけでもアレなのに、西園軍自体が俺が管理する禁軍に編成されたんだぞ?それはつまり、連中の命は冗談でもなんでもなく俺の手の内に有るってことだ。


特に現在の洛陽では『西園八校尉は霊帝が蹇碩の為に作った組織』ってことになっているからな。それに所属していたってだけで殺す理由には事欠かんし、蹇碩の罪は表に出していないだけでまだまだ有る。


今の段階でも宦官絡みの案件で曹操を、名家絡みの案件で袁紹だって殺せるんだぞ。よって彼らを殺すなら今更罪をでっち上げる必要などない。


淳于瓊だけを禁軍として使っているのも、彼だけは無関係だって周囲に知らせる為でもあると言うのに、こいつらと来たらまったくもう。


「で、誤解が解けたところで話を戻しましょう」


そんなこんなで彼らの誤解を解くことに成功した李儒だが、もともとの議題は曹操の生死についてではなく、彼が持ってきた情報についてだ。


「あっと、何の話だったか……あぁ袁紹の狙いだな」


「ですな。袁紹の狙いは、まず董卓らを呼び出し彼らに宦官を一人残らず殺させます。そして宦官を殺したことに対して閣下が異論を唱えたら、閣下と彼らを戦わせて漁夫の利を得ると言うのが基本骨子となります」


なんというか、最初から躓くことがわかりきった策だよなぁ。袁家の後ろ盾があれば董卓たちも宦官を敵に回すだろう!と言う願望が前提にあるって言うのが、この策をチープなモノにしているように見える。


「俺としては、袁紹に呼び出された董卓や丁原を利用して宮中の掃除をしたい。その罪を袁紹に擦り付けて袁家を断罪できれば最高だな」


ん?まぁ確かに呼び出したのが暴走したなら袁家の責任を問えるかも知れんが、それってどうなんだ?


「私としては董卓も丁原も呼ぶ必要があるとは思えませんが……大体の話ですが宦官を殺すだけなら普通に連中の罪を鳴らして、捕らえて殺せば良いだけではありませんか?」


禁軍は俺の管理下なんだし、殺れと言われればいつでも殺るぞ?そもそも張譲なんか蹇碩以上に真っ黒なんだから、いくらでも殺れるだろうに。董卓や丁原を呼ぶと言っても、この様子だと個人ではなく軍勢だろ?金と兵糧と時間の無駄じゃないか。


「それもそうなんだがなぁ」


ふむ。何進にしては妙に弱気だな。何か問題でもあるのか?俺が仕える前になにか弱みを握られたとか?いや、それでも黄巾に加担したり偽勅を捏造するほどでは無いはずだ。


そもそも劉弁を抱え込めば連中を庇う者は居なくなるだろ?袁家も宦官を殺すためなら何進の味方をするのは確実だし。何たって名家連中って言うのは「家」を重んずるが故に、今現在の権勢だけでなく10年後20年後の権勢を視野に入れることが出来る連中だ。


連中の考え方としては恐らく「もう政治と謀略において隙がない何進については諦める。ただし何進が死んだあとで、残った派閥を切り崩して勢力の拡大を狙えば良い」と考えているのだろう。


そんでもって何進は家より個人の栄達を楽しんでいる節が有るから、今のところは利害が一致していると言えなくも無いんだよなぁ。


だから現状で名家が本気で何進と敵対する可能性は……何進が生まれたばかりの孫の何晏に権力の継承をしたいって望んだときくらいか。


まぁこの辺は秀吉と秀頼みたいな感じだな。公家たちも秀吉一代ならまだしも、子々孫々まで豊臣家が摂家に居座られることは望んで居なかったと言うし。


それに対して宦官は己の血を残せないから、どうしても自身の栄達を優先しがちなんだよな。だからこそ今を楽しむ何進や、家を残すことで権力を保てる名家連中を執拗に敵視する。


その点で言えば血の繋がりがないのに曹操を溺愛したと言う曹騰は異常とも言えるが、今はその話は良い。


「では李儒殿は董卓や丁原の招集は見合わせて、我々の手で張譲らを排除すべきとお考えですか?」


「そうなります。わざわざ地方から兵を集め威嚇して向こうに警戒させるくらいなら、安全だと思い込んでいる宮中にて寝首を掻く方が簡単で、手間も掛かりませんから」


追い詰めれば鼠だって猫に噛み付くんだ。わざわざ外から天敵を連れてきて争わせるくらいなら、巣の中で油断して眠っているところに(兵士)を投下して丸呑みさせた方が良いだろうさ。


ハブとマングース?残念ながら食器より重いモノを持ったことがないような宦官にマングースのような物理的な牙は無い。上軍校尉?模造刀の素振りが出来たくらいじゃないか?


奴はともかくとして、普通の宦官は完全武装した兵士には絶対に勝てない。だからその点においては心配はしていない。


俺が懸念しているのは、史実にあるように連中が兵士を脅迫だの買収することだ。そいつらが何進()を殺す窮鼠の牙になる可能性が高いと考えれば、下手に追い詰めるのは危険だって話にしたいんだよなぁ。


「お前ぇの言いたいことは分かる。だが俺としては、どーせ董卓や丁原は洛陽に呼ぶ必要が有るんだから、連中に仕事を任せたいと思っている」


()()()()()()()……ですか?」


「おうよ」


呼んだ方が良いとか、袁紹の策に便乗するとかではなく、さらに宦官の殺害以外に連中を洛陽に呼ぶ理由がある?俺には特に思いつく理由は無いんだが、何かあったっけ?


「いや、何だその顔は?劉弁殿下の即位式に并州刺史や現役の将軍を呼ばねぇわけには行かねぇだろうが。なんで光禄勲のお前がそれを忘れてるんだよ」


「……あぁ、なるほど」


そういや葬儀とか即位の儀とか色々あったな。そりゃその辺の県令だとかその辺の中郎将ならまだしも、正式な将軍である董卓や刺史である丁原は呼ばないわけには行かんよな。


ん?それを言ったら郡太守である孫堅も呼ぶ必要が有るか?


いきなり郡太守を任されてクソ忙しい中、わざわざ長沙から洛陽に呼び出しを受けるって完全に罰ゲームだよな。


……よし、早速手配しようか。


江東の虎にしてみれば完全に貰い事故であるが、実際問題即位式に参加しないと言うわけにも行かないのは事実なので、彼も大将軍府からの招集令を受けたら、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも上洛することになるだろう。


自由気ままな地方軍閥の頭から、日々の書類仕事に追われる太守と言う立場になり、胃痛や頭痛と戦うことになった孫堅の面を拝んでプギャーしてやろうじゃないか。どこぞの腹黒はそう決意したとかしていないとか。


それはそれとして、アレだな。いくら劉弁に価値を見出していないとは言え、こんな常識的なことを忘れるとは、完全に失敗した。


「まったくよぉ。お前ぇは変な所で抜けてるんだよなぁ」


「ははは。申し訳ございません」


うむ。それに関しては何とも言えん。いやはやこのことを理解していたら、もっと万全な態勢を築いていたと言うのに。


己の迂闊さを悔いる李儒だが、時計の針は戻らない。せめてこれから発生する可能性があることに対して全力で備えるべきだと考え、思考を切り替えることにする。


「まぁいいさ。そんで、どうせ連中を招集するなら仕事をさせるってのが俺の考えだ。とりあえず曹操には十常侍と敵対する宦官連中に対して、董卓や丁原が来る少し前に避難するように伝えるよう指示は出してある」


「なるほど」


どうせ呼び出すなら働かせると言うのは俺も賛成だ。その仕事も宦官の抹殺だって言うなら董卓も丁原も喜んで協力するだろう。


連中にストレス発散させつつ共犯にすることで、両者を完全に己の派閥に取り込むという判断は見事。流石政略と謀略の化物だ。


「後の懸念は禁軍ですな。李儒殿のおかげで彼らは精鋭とまでは行きませんが、それなりの兵となりました。彼らと董卓らがぶつかった場合の損害を考えると、何かしらの対処は必要でしょう」


「それはそうですな」


まさか何進も本気で禁軍と連中を戦わせる気じゃないだろうからな。それじゃ袁紹が望む共倒れ一直線だし。まぁ少しは抵抗する素振りも有った方が良いかも知れんが「やりすぎて宮中を破壊しました」なんてなったら洒落にならん。


……もしかして、その辺の加減も俺の仕事になるのか?


「元西園軍の連中なら適当な場所に賊退治にでも行かせりゃ良いだろ。元々その為の軍だしよ。宮中には最低限の数だけ残してりゃいいさ」


「あぁ、まさか禁軍が董卓らと共に宦官を殺すわけにもいきませんか」


「そうです。例え相手が腐りきった宦官であろうとその誅殺に彼らを使うわけにはいきませんし、袁紹の狼藉を許すわけにも行きません。よって隔離します」


うむ。禁軍は宮中を守る軍勢だからな。それが政治的な思想に染まってしまえば近衛としての価値がなくなってしまうと言う訳か。これが名家としての荀攸の判断と言うわけだな。


……なるほどなぁ。これに関しては俺が難しく考えすぎたか。確かに邪魔なら居なくなれば良いだけだ。


西園軍の実働隊である1万の軍勢が居なくなれば、残るのは千かそこらの近衛兵。これなら「如何に精強な禁軍でも多勢に無勢です」って感じに持っていけるかもしれん。


いやはや、宦官と戦うために兵を集めるならまだしも、兵を外に出すと言う発想は無かった。まさしく「逆に考えるんだ」ってヤツだよ。


そして西園軍がいなければ袁紹が動かせる兵も居ないし、大将軍府の兵は何進の命令に逆らうことはないので暴走もないわな。考えれば考えるほど無駄がない。


この方針は荀攸と何進で考えたのだろうが、即興にしては特に問題があるようには思えん。いや、即興ではないな。


俺が「袁紹が勝手に動く」と予想した時点で、荀攸あたりが対策を練っていたのだろう。後漢と言う時代に於ける名家や軍部の常識を考えても問題はないと思われる。


残る問題は……これはアウトかセーフか。どっちかわからんと言うことだ。


何も知らなければ李儒もこの判断に異議を唱えることは無かっただろう。しかし李儒には中途半端に歴史の知識があるせいで、どうしても即断出来ない。


「でもってお前には董卓の出迎えに行ってもらおうと思っている」


そうして李儒が内心で迷いを抱えていることを知ってか知らずか、何進は彼に対して洛陽を離れるような命令を下す。


「は?」


正気か?ここで俺が洛陽を離れるだと?


「なんだその顔は?普通に考えりゃ大将軍府の中で董卓と一番親しいのはお前だし、宦官を殺す為の打ち合わせにその辺の文官を使うわけにも行かねぇだろうが」


……そういう事か。何進にとっては今は緊急時と言う認識が無いんだな。名家も袁紹以外は何進の台頭を認めているし、宦官は風前の灯火で、軍部は管理下にある。


つまり普通に考えれば、今の何進が絶体絶命の瀬戸際に居ると思う人間は居ないと言うことだ。


それは何進本人もそうだし、荀攸もそうだ。


「それにお前はしばらく弘農に戻ってねぇだろ。これから今まで以上に忙しくなるんだから、休みがてら向こうで羽を伸ばしてこいや」


「……」


「そんな疑わしそうな顔をせずとも大丈夫ですぞ。特に裏はございません」


何進にしてみればこれは最近働かせ過ぎの李儒に対するささやかな報酬のような気持ちなのだろう。荀攸にしてみても今までが多忙すぎたし、これから忙しくなるのも事実であるので、その際に彼がぶっ倒れないように今のうちに休ませようと言う配慮でもあった。


つまるところこれは、普段如何にして李儒を働かせるかを考えているずんぐりむっくりなおっさんの上司と、インテリな同僚が純粋に李儒を気遣かったと言う、非常に珍しい事案である。


李儒とてこれが今では無く、去年とかなら「喜んで!」と言ってさっさと弘農に行って、大して美味くもない茶を飲みながら董卓が到着するまでの間、まったりと悠々自適な生活をしていただろう。


ただ今はどうなのだろうか。


まず自分が居なくとも今の大将軍府には荀攸が居るし、他の連中も決して阿呆ではないのはわかっている。


彼らが十常侍どもの最後の抵抗を読みきれないと言うことも無いだろうし、ここで何進が隙を晒すとしたらそれは間違いなく誘いだと思って良い。


さらに言えば蹇碩や董重を殺した後は、毎日のように「暗殺に注意するように」と注意喚起をしているので暗殺に関して油断することは無いだろう。


そして自分が董卓と打ち合わせをする必要性もあるのは事実だ。それにこの命令には気遣いは有っても違和感(誰かの策略)があるようにも思えない。


「……かしこまりました」


それになによりの問題として、すでに何進(上司)は命令を下している。ならば社畜(部下)は従うだけだ。



―――



中平6年(西暦189年)8月。弘農丞でもある李儒は西園軍の一部隊を連れ、領地視察の名目で弘農へと出立した。


……荀攸はこの時、李儒を洛陽から出した(李儒に休みを与えた)ことを生涯後悔することになったと言う。



そんなこんなで李儒君は弘農に旅立ちました。


何進「へっ、たまには休みをやるって言ってんだ!だまって休みな!」

李儒「かしんさま……」


そんなツンデレ上司と上司の優しさに感動する部下のお話。


并州は田舎扱いされていますが洛陽からの距離は近いので、即位式等に呼ばれたら参列する必要がありますし、董卓も今までは宦官や名家に呼ばれても適当な理由をつけて無視していましたが、大将軍の命令には逆らう気はありませんので袁紹の誘いに応じたと言う形で上洛の準備を始めるもよう。


長沙の孫堅?ハハッ。


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