表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/203

25話。洛陽の泥の中で

諸事情により文章が粗いため、訂正の可能性ありです。「文法がおかしい」等のご指摘を頂ければ参考にしますのでよろしくお願いします。

「曹操が火急の用?こんな時間に?もしかしてまた宦官が俺の暗殺を企てたか?」


荀攸から一日の報告を受けていた何進は、突然の曹操の訪問を受けてその火急の用とやらの内容を考察するも、どうにも現実味が薄いと言わざるを得ない。


「いや、確か曹操は袁紹と酒を飲んで居たはずですので、恐らく今回の件は宦官ではなく袁家絡みかと思われます」


荀攸もまた何進と同じように曹操の用件を予想するのだが、監視からの報告はまだ上がって来ていないので、どうしても予想の内容に正確さが欠けてしまう。


これは監視員が袁紹と曹操の会話を上司に報告した後でその上司が更に上司に報告し、そして最終的に李儒か荀攸まで報告が上がるまでの僅かな猶予時間内に間に合った曹操の強運がプラスに働いた結果と言えよう。


いや、運ではなく、迅速な行動が生んだ必然と言っても良いのかも知れない。


それはともかくとして。


「ほぉ。今度は袁家か。蹇碩と言い董重と言い袁家と言い、黙ってたら勝手に墓穴を掘ってくれるんだからなぁ。埋葬に手間暇が掛からんのが良いこった。まったく連中も随分と親切になったもんだぜ」


何進にしてみれば最近の政敵の動きは、どれもこれもが向こうが勝手に自爆しているようにしか見えないのだろう。だが荀攸から見れば「それは違う」と声を大にして言いたいところである。


「閣下。連中は愚行を犯している訳ではありません。連中が最善手を選ぶことを予想し、そこに罠を仕掛けている李儒殿が異常なのです」


そう。荀攸から見ても、蹇碩ら宦官達は何一つ間違ったことはしていない。現時点で彼らが何進の権力拡大を止めるためには、何進を暗殺するか劉弁を暗殺するかの2択しか無い。


しかし劉弁は蹇碩と敵対する宦官である趙忠らに守られてしまっていて手が出せない。だからこそ蹇碩は先帝の喪が明ける前に何進を除こうとしたのだ。


そして宦官である自分には実行力としての武力が無いことを自覚していた彼は、何進の影響力の増加を恐れていた劉協派の外戚である董重と手を組むことを選んだ。


蹇碩に選ばれた董重にしてみても、敵の敵は味方と言ったところだろうか。今まで敵対していた宦官の力と劉協派の人間の力が合わされば、袁隗と手を組む何進にも対抗出来ると考えたのだろう。


双方共に得がある。いや、むしろそれしか彼らに生きる道は無いとすら思っていたに違いない。


……それこそが李儒の仕掛けた罠だったとも知らずに。


「あぁ。董重の場合は向こうが蹇碩と手を組んでくれたお陰で、外戚が十常侍と手を結んだってことになったな」


「その通りです。しかしあれとて蹇碩と董重が何か失策を犯したわけではありません。状況によっては閣下が追い詰められる可能性もありました」


「ま、そうかもしれんな」


宦官も外戚も、決して侮って良い相手ではない。それに自分も李儒を手に入れたことでこの権勢を得たのだと考えれば、向こうにも優秀な人材が居ないとは限らない。


手を誤れば死んでいたのは何進の可能性だってあったと言うのは誇張でも何でもない事実である。まぁ手を誤るも何も、向こうが一歩足を踏み出したところで李儒が仕掛けた罠に嵌ったので、どうにも危機感がないのが問題と言えば問題なのかもしれない。


そもそもの話、董重ら劉協派の外戚はただ生き残るだけなら何とかなったのだ。と言うのも、元々劉協自身は兄である劉弁と帝位を巡って争う気など無く、兄を支えることに異議などなかったのだ。


この事実がある以上、劉弁の即位に関しては外戚である何進が強行したと言うだけでなく、継承権のある弟も支持していると言うことになるので、劉弁の立場はさらに安定する。ならば何進には劉協を殺す理由が無いと言うことになるのも当然だろう。


故に、外戚連中が過剰な栄達さえ求めなければ何とかなったのだ。しかし、人間には欲が有る。


劉協が帝となることでそのおこぼれに預かることが出来る人間や、今まで何進を軽んじて来た為に劉弁に即位されても何も得られない者たちは、どうにかして劉協を帝位に就けたいと願ってしまった。


そこで董重一派は自分たちと同じく、劉協を奉じる勢力である蹇碩と手を組むことが最善と判断し、その決意をしてしまったのだ。


……董重にとっての誤算は十常侍が先帝以外の全ての者に嫌われていた、否、憎悪されていたことを知らなかったことだ。


いや、そのくらいは知っていたのかも知れない。しかし、その度合いを見誤ってしまったのは確実である。


その結果は語るまでも無いだろう。


世間の憎悪の対象である十常侍の蹇碩と手を組んでしまったことで、董重の周囲に居た劉協派の人間は彼から距離を置き、彼の行動を何進派の人間に逐一報告するようになってしまった。


そんな中で彼らが何進暗殺計画等を企てたらどうなるだろうか?


計画は計画の段階で露呈し、彼らが動く前に蹇碩と董重は捕らえられて、彼ら(主に蹇碩)の余罪を追求して両者を一気に処刑まで持っていくことに成功したのは記憶に新しい。


そもそもの話だが、大前提として蹇碩と言う人物は叩けば埃が出るどころか放置しているだけでもどす黒いナニかが滲み出て来る存在であり、宦官・名家・軍部・そして平民と、それら全ての勢力から死を望まれていた人物でもある。


そんな彼が罪に問われ捕縛されたなら助かる未来など無いし、その協力者となればどのような扱いになるかなど言うまでも無い事だろう。


そうして、董重は李儒によって用意された「蹇碩が犯した罪一覧」の中からいくつかの罪に関与したと言う濡れ衣を着せられ、蹇碩の朋友として連座・処刑させられてしまった。


普通なら外戚である董重に対しては減刑を求める声が上がりそうなものであるが、誰一人として彼を庇うものは居なかったことが、世の人間が蹇碩とその関係者の存在をどれだけ消し去りたかったのかがわかると言うものだ。


そんな蹇碩の事情はともかく、これにより何進は本来なら最も除くのが大変と思われていた外戚の董重とその一族を滅ぼすことが出来たし、劉弁の即位は確定的となった。そうして何進の権力もまた磐石なモノとなったのだ。


この一連の流れの中で彼らの周囲に色んなことを吹き込み、蹇碩と董重が手を組むと言う流れを作り上げたのが李儒であると言うことは、董重も蹇碩も最期まで理解していなかっただろう。


さらに蹇碩の罪の中で「外戚が関与する余地のあるものに董重が関わっている」と言う可能性を指摘し、周囲の人間に董重が蹇碩の共犯者であると言う認識を植え付けたのも李儒である。


周囲の人間は「彼らはあの状況では最善と思える手を打った、しかし何進がそれを上回った」と考えているのかも知れない。


しかし実際は、彼らが最善と思って取った選択肢すら李儒の掌の上であっただけの話だ。


……たとえ自分が蹇碩や董重の立場であっても、あの状況ではそうしたかもしれない、否、そうするしか無かった。それを知るからこそ荀攸は李儒と言う男が恐ろしい。


まぁ何進は李儒の夢が『悠々自適の隠居生活』であり、自分が上に立つ気が無い(と言うか今から隠居を考えている)と言うことを知っているので彼の裏切りを警戒してはいないが、荀攸や他の同僚達は違う。


いや、まぁ同僚達も李儒の裏切りなどは警戒してはいない。彼らが恐れているのは、いつ自分が「怠惰」の烙印を押されて処分されてしまうのかと言う不安だ。


何せ李儒と言う男は「失敗や陰口は許しても怠惰は許さない男」として知られており、怠け者のせいで自分の仕事が増やされることを何よりも嫌うと言う性質の持ち主でもある。


その為、大将軍府に所属する彼の部下や同僚は付け届け(賄賂)の値上げのために相手を焦らす等の行為は行っていないし、他の部署の人間も、どこに李儒が絡んでいるのかもわからないので、現在の洛陽内の書類仕事は「霊帝が崩御する前の数倍の速度で処理されている」と専らの噂となっていた。


そんな上司からはアホ扱いされ、味方からは恐れられる李儒(外道策士)は何をしているかと言うと……普通に寝ていたりする。


なんでも、最近は己の仕事を終わらせた後はさっさと帰宅して、一分一秒でも長く眠るようにしているらしい。


さらに言えば、最近では何進の元にさえ何か異常が有るときか呼ばれない限りは近寄らないと言う、世間一般の人間が考える『すり寄る』とは正反対の行動を取っているのが確認されている。


もちろん「何進が李儒を遠ざけた」とか「李儒が何進を嫌っている」と言うわけではない。


むしろ仲が良すぎて、普通に世間話をしている最中にもポンポンと仕事を押し付けられるのを避けているのだ。何進に取り入りたい曹操などからしたら羨ましい限りなのだが、李儒にとっては違うらしい。


こういった普通の人間とは違う行動を取るのが彼の最大の特徴とも言えるだろう。


そんな、今や押しも押されぬ大将軍である何進に対して、ある意味で不敬な態度を取る李儒なのだが、なんだかんだ言っても呼べば来るし押し付けている仕事もきちんとしているので、何進としても苦笑いするしかない状況である。


この場に居ない李儒についてはともかく、今必要なのは曹操の来訪に関しての考察だ。こちらを優先するべく、二人は認識の擦り合わせを行うことにした。


「まぁ死んだヤツのことは良い。あんな風にならんように脇を固めるようにって心掛けるだけだ。で、今の問題は曹操に関してだが……確かあの野郎(李儒)が言うには『現段階で袁紹が動くとしたら、袁家の名を使って地方の連中を勝手に呼び込むこと』だったか?」


「えぇそうですな。今の彼にはそれしか打てる手がございません」


前に袁紹が勝手に何進や李儒の名を使って禁軍を動かそうとしたときにしっかりと釘を刺したので、流石の袁紹も同じことはしないだろう(袁隗にも叱られたらしいので尚更)と考えた結果が「袁家の名前を使うこと」であった。


と言うよりも、碌な実績もないくせに気位だけは高いのが袁紹と言う男である。そんな彼には、現在使えるのが家の名前しか無いと言うのが実情だ。


その上で同年代にして現当主の嫡子である袁術が着実に成長しているので、このままでは袁家の中でさえ袁紹は孤立してしまう恐れがある。(今でもその気配があるし、袁術はその気満々だ)


そんな事情から、何進や李儒の下で大人しくしていると言う選択肢を選べない彼は、何とかして現状を打破する必要があると言う焦りに似た感情を抱いていると予想されていた。


そして今回、彼が現状の打破の為に使ったのが袁家の名だ。袁隗や袁逢が知れば「袁家を滅ぼすつもりか!」とブチ切れること間違い無い愚行ではあるが、お坊ちゃんには危機感が無い為「結果さえ出せれば良い!」と考えて暴走した可能性は高い。


「袁紹が予想通り暴走するのは構わん。しかしなんでまた曹操が報告に来るんだ?」


普通は監視役か、袁紹の周りの人間が彼を裏切る形で報告に来るものだ。宦官閥の曹操は、その報告の後で呼び出しを食らい、詰問を受けてから情報を白状するものではないのか?


曹操と袁紹の仲を良く理解できていない何進は、彼らが対自分と言う同盟関係に近い仲に有ると推察していたために、どうしても曹操の動きに違和感を感じてしまう。


「深く考える必要はないでしょう。どうせ袁紹が曹操に「ここだけの話だ」とでも言って計画を暴露してしまい、巻き添えを恐れた曹操がいち早く報告に来たのではないでしょうか」


「ん、あぁ。それは……有るかもな」


袁紹の行動を曹操が報告して来るとは何進も荀攸も思ってもいなかったが、まぁあのお坊ちゃんのことだから誰かに自慢したくてしょうがなかったのだろうとあたりを付ける。


良くも悪くも王道しか知らない袁紹の思考を読むことなど、洛陽の澱みの中で生きてきた何進や、日々何かを企む同僚の外道(李儒)を警戒している荀攸からすれば大地に矢を当てるが如く容易いことだ。


「んじゃ、それをどうするかだな。羌が大人しくなっているから董卓を呼ぶ分には良いだろう。烏桓に関しても劉虞と公孫瓚が何やらごたついているが、こっちに手を出す余裕は無ぇ。鮮卑は跡目争いの真っ最中だな」


「匈奴は今のところ大人しいですね。なので并州の丁原は招いても良さそうです」


袁紹の企みは理解した。ならば後はその企みをどう扱うかが問題になる。潰すのか、利用するのか。その計画はどこまで進んでいて、誰が関わっているのか?


今まで集めてきた情報と照らし合わせて……と言う段階で荀攸は自らが先走っていたことを自覚する。


「いや、その前に曹操の話を聞きましょうか。もしかしたら別の用かもしれませんぞ」


「お?おぉそうだな。すっかり袁紹関連だと決めつけちまったが、別の可能性もあるか」


企みを潰すのか利用するのかの話をする前に、そもそもの情報の確認を怠っていた事を自覚し何進も荀攸同様に反省する。もしもこの場に李儒が居たら「何してんだコイツら?」と容赦ない視線とツッコミをもらって居ただろう。


「そんじゃさっさと曹操から話を聞くか。あぁ、その前に李儒を呼ぶか?」


「……今はまだ良いのでは?あまりにも下らない内容の場合、曹操の命が保証できません」


「……その心配もあったな」


言外に「起こしに行くか?」と問われた荀攸はやんわりと、だが明確に「断る」と告げる。


荀攸としては別に何進からの信頼が厚い李儒に嫉妬しているわけでもないし、彼の寝起きの機嫌が悪いとか、起こしに行ったことで恨まれるかもしれないと言うことを懸念しているわけではない。


ただ最近、半分悪乗りのような感じで仕事を回しすぎているので、休めるときに休ませ無いとヤバイんじゃないか?と純粋に李儒の体調を心配しているだけである。


「ま、話を聞くだけなら、野郎(李儒)が居なくても問題ねぇか」


「はっ。対応は明日協議する形でも問題ないかと」


とりあえず二人の方針は『今は曹操の報告を受けるだけに留め、対応は明日に回す』と言う方向で一致した。李儒からすれば「対応もそっちで決めてええんやで?」と言ったところかも知れないが、彼ら(理解ある上司と同僚)には李儒をのけものにするつもりはないようだ。


ここには(野獣のような男ども)は居るが、のけものは居ない。何進が統べる大将軍府はこの時代には珍しく、実にアットホームな職場であると言えよう。



――――



「このような夜分に恐れ入ります!」


「構わねぇさ。で、火急の用ってのは?」


「はっ実は先程まで袁紹と酒を酌み交わしていたのですが、その際…………」


「……ほう。袁家の名前でなぁ」


「はっ!」


こうして中軍校尉・虎賁中郎将袁紹の起死回生の大戦略は何進が知るところとなった。この、己を顧みない行いに対して上司(光禄勲)の管理責任が問われるかどうかは、神のみぞ知ることである。

未来知識を持つ李儒君は知識と実際の人間性を見て策を用意しておりますので、彼の予想を上回るのは大変です。


実は荀攸とか大将軍府の同僚が一番李儒君を怖がっていると言う現実。居ないところで散々外道扱いされる李儒君ですが、やってることは正統派な策士の行いですよってお話。


と言うか、董重もなぁ。どんな企みがあったとしても十常侍と手を組んだらダメでしょう。


何進?彼は擦り寄られているのであって、手を組んだわけではありません。むしろアンチ十常侍のシンボルとして御立派に勃……立っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ