表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/203

21話。西園八校尉③

言うなれば「もしかして僕、また何かヤッちゃいました?」回


前半荀攸視点。後半李儒視点。


作者の妄想と言う名の考察が垂れ流しです。


それに耐えれる方のみ閲覧お願いします。

「……ほう」


「……ふむ」


まさか普段から「世の中に使えない人間など居ない、使うのだ」と豪語し、時に武力を以て大将軍府の人間を動かす李儒殿が「使いたくない」と断言するとはな。大将軍も意外そうな顔をして見ているので、相当珍しいことらしい。


「何か?」


自分の言葉がどれだけ珍しい事かを自覚していないのか?いや、この男は確かにそう言う所も有る。洛陽の常識非常識等と嘯きながら、自身がそれ以上の非常識を体現している自覚が無いのだからな。


今回の件でもそうだ。蹇碩が強行したとはいえ、陛下の肝煎りで発足した西園八校尉が半年もせずに無力化したのも、袁紹や曹操が生き残りを懸けて大将軍に取り入ろうとしてるのも、もとはと言えばこの男が「帝の財の横領は罪」と言う名目で以て他の4人を投獄し、殺害することに成功したからだ。


この結果、今まで常識であったことを罪とされた連中はもはや何をどうして良いか分からなくなり、自身の考えで動くことが出来なくなってしまった。


いや、連中だけではない。今や大将軍や私も何か行動を起こす前に、この男の策を聞いて置かねば下手なことは出来んと判断せざるを得んと言うのに……。


それに今回もそうだ。彼に敵と認定された袁紹は完全に動きを封じられることになった。


まったく恐ろしいものだ。勅を偽造することで皇帝陛下の権威を半ば私物化して権勢を誇った十常侍も、文官を束ねることでその十常侍と権勢を競うことが出来ている袁家も、彼を前にしては俎上の魚に過ぎんと言うことか。


「荀攸殿?」


……さらにコレだ。自分の方が官位も実績も上なのに微塵も増長せず、歳が上なだけの私にまで謙る周到さが恐ろしい。


まぁ取り敢えずは現時点で私は敵として見られていないようなので問題は無いだろう。ただ今後、彼に「無能」と判断された場合どうなるかは分らん。


「いえ、曹操に関してでしたな」


「えぇ、何かご存知でしたらお願いします」


それに彼にとっての有能・無能の判断基準が不明だから、何が正解なのかもわからんのがなぁ。いや、まずは問われたことには答えねばならんか。


「そうですな。まず彼は(だい)(ちょう)(しゅう)曹騰の孫にして、去年一億銭もの金を使って太尉を買った曹嵩の子です。元々彼自身も様々な噂に絶えない人物でしたが、その名が決定的に広まったのは今から10年ほど前に司馬防に推挙され洛陽北部尉として赴任した後です」


「あぁそうか。あれから。もう10年になるのか」


「ふむ。私も話だけは聞いております」


10年前は李儒殿もまだ学問に明け暮れていたころだし、大将軍も当時は外戚の一人にして河南尹でしか無かった。それがここまでの勢力になるのだから、やはり彼の存在は大きかったのだろう。流石は李家の神童と言ったところだろうな。


「えぇ。お2人もご存知のように、法に則り蹇碩の叔父である蹇朔を殴り殺したことで、彼はその名を高めました」


あれには私も衝撃を覚えたものだ。まさか同じ宦官閥の曹操が十常侍に背くとは思わんよ。


「アレのおかげで宦官閥の中にも不穏分子が居るってわかったし、コッチの工作がやりやすくなったのは事実だ。おそらく名家の連中も曹操には目を付けただろうよ」


「でしょうな」


実際に我が荀家も彼には注目したようだし、袁家にとっても彼は袁紹と同門であるので、それなりの接点があるはずだ。


しかし現状ではその袁紹が宦官を皆殺しにしようとしているのだから、曹操としては何とか大将軍に奴を抑えて欲しいと思っているのだろう。


「その後、十常侍に警戒された彼は洛陽から遠ざけられ、頓丘の県令となりました。その後、黄巾の乱にて朱儁将軍の下で武功を挙げ、済南の相となりました。先年、東郡太守に任命されましたが病を理由に赴任を拒否。数年の隠棲をして、この度西園八校尉となっております」


ここまでなら絵に書いたような立身出世と言える。先年張譲の手により失脚した張温も宦官閥ではあるが、彼は元々曹騰から推挙された者なので曹操は張温の配下とも繋がりがあるはず。


つまり軍部や名家との繋がりを持つ曹操は、十常侍とは違う宦官閥の纏め役と言っても良いだろう。


「ふむ。曹騰が死に、十常侍との対立が避けられなくなったことを危ぶんだ曹嵩が、わざわざ大金を支払い太尉を買ったのでしたな」


「えぇそうです。大宦官であった曹騰の子が態々実権のない太尉と言う役職を一億銭もの金を支払って買ったと言うことで、帝は曹家を特別視することとなりました。これにより現在、曹操の身が保証されていると言っても過言ではありません」


「……あぁ、アレはそういう事か」


む?大将軍は名誉の為に太尉を買ったと思っていたのか?それなら一億もの金は必要あるまい。何せ実権のある三公ですら500万で買えたのだ。大将軍が兵権を握る今、実権の無い名誉職でしかない太尉に一億の価値などあるものか。


それとも張温等を拾い上げて大将軍に対抗する勢力を作るために太尉を買ったと判断していたか?もしもそう考えていたなら、残念ながら買い被りだ。アレにはそれだけの見識は無いし、曹操も軍部を纏めるには実績が足りん。


「つまり今の曹操は、十常侍とは違う宦官閥を率いる身でありながら名家からも評判は悪くなく、武功もある上に張温の関係者との繋がりを持つ、帝の覚えが良い(のう)()となりますな」


太尉となった父親の影響力を活かせるならまだしも、現在はこの程度と言うことだ。


「だが現在は基盤が弱く、補強するには俺の後ろ盾が必要だってことだな?」


「はっ」


宦官・名家・軍部と全ての勢力にそれなりの繋がりがある曹操だが、現在33の若造で、実績が不足していることは紛れもない事実。


さらに曹騰が死に袁紹が宦官を排斥しようとしている今は、宦官や名家との繋がりが()()()()の繋がりでしかないと言うことが浮き彫りになってしまっている。


「ここで大将軍が彼を懐に入れないと判断すれば、元張温の配下だった者たちとの繋がりも無くなり、帝から覚えが良いだけの中途半端な存在になります。そうなったら蹇碩は曹操の影響力を除くために動くはず」


「まぁそうだろう。今は自分もヘタには動けねぇから黙認してはいるが、蹇碩にしてみれば曹操はまさしく身中の虫だ。排除出来るなら排除してぇだろうな」


「そうでしょうな。ですので反対に曹操を懐に入れたなら、趙忠らに十常侍の内部で権力争いを起こさせて蹇碩を除くことも出来ます」


つまり大将軍は自前の名家閥だけでなく宦官閥も手に入れることになる。これこそ「宦官を生かして利用したい」と言う彼の意に沿うことだと思うのだが、李儒殿の考えは違うのか?


「ふむ。こうして聞く分には使い勝手は良さそうだが……それで、お前ぇはヤツの何を警戒してやがるんだ?」


警戒?あぁなるほど。李儒殿は曹操が大将軍にとっても身中の虫にもなると考えているのか。しかし流石と言うか何というか、良くもまぁ大将軍は李儒殿が曹操に警戒心を持っていると気付いたものよ。


長年の付き合いと言うやつだろうが、それがあれば考えがわかると言うなら、李儒殿にも人間味と言うのはあるのだな。



――――



なるほどなるほど。荀攸からみたら曹操個人の能力云々ではなく、その繋がりを有効活用するべきだと言う考えか。いや、分からんでもない。と言うかそれが正解なのだろう。


何進もその意見には納得しているようだし、これが普通なんだろう。うむ。俺が曹操の名に怯えただけと言われればその通りだな。


だが董卓のように表と裏を使い分ける人間はいくらでも居るから油断はできん。


さらにこの時代は儒とか家の関係で抑圧が凄いから、解放したときの影響は馬鹿にならんのだ。


と言うかあの小さいオッサンに「人並み外れた腕力と武技」が備わっているとは到底思えん。アレか?力を捨てて理を手に入れたか?


「こうして聞く分には使い勝手は良さそうだが……それで、お前ぇはヤツの何を警戒してやがるんだ?」


おっと、何進の中では曹操についての考察が終わったようだな。この様子では宦官を生かして使う分には十分ってところか。つーか俺が警戒してることはバレてんのな。流石に人を見る目は並外れてるな。


それはともかく。


「はっ。彼については概ね荀攸殿が述べた通りです。現状において彼は閣下の後ろ盾を必要としていますし、袁紹との確執も閣下が後ろに立つことで解消できる程度のものではあります」


「そりゃそうだ。つーか袁紹との確執なんざ考えもしなかったぜ」


だろうな。今の袁紹は名家閥の代表ではなく、あくまで袁家の身内で名家閥の過激派の代表だ。袁家の当主でもなければ次期当主でも無いので、袁紹と敵対したところで袁隗辺りが止めるだろう。なら袁紹個人が誰と敵対しようと何進には関係ないわな。


「よって曹操を抱え込んだ場合に懸念されるのは、袁紹や袁隗ではなく、我々が抱え込んでいる名家閥の者たちとの衝突です」


「は?」


「あぁ。なるほど」


荀攸は気付いたな。


「閣下にとって今の曹操は使い勝手の良い駒となりうる存在でしょうが、我々からすれば彼はどこまで行っても大宦官の孫。名家にとっては敵です。更に言えば、彼は世評がよろしくないのです」


「世評だぁ?今更お前ぇがそんなの気にすんのか?」


そんなのとは心外だ。世評ってのは大事なんだぞ。


「閣下が私をどう思っているかはさておき、少なくとも婚姻の儀式の最中に割り込んで新婦を新郎の目の前で掻っ攫うような輩に信を置けないのは事実ですね」


能力がどうこう以前に、人として終わってるだろ。


「あぁ?あいつそんな事してやがったのか?」


「……私もそのような噂は聞いたことが有ります。若き日のことらしいですが」


世評が悪いのには理由があるんだよ。なんかアイツは「昔は若かった」みたいな事を言ってるようだが、当時の噂話が話半分だとしても、儒の国である漢帝国では洒落になんねぇ事だからな。


「若き日だからこそ本性がわかると言うものです。よって私から見れば曹操は大宦官の孫と言う立場を利用して他者を虐げるような者です。それ故、彼を懐に入れた場合には荀攸殿が纏めている名家の者たちの反感を買う可能性がございます」


「あ~。流石に過去のことだからどうでも良いとは言えんか」


名家の連中にはそういうのに拘るのは多いし、元々曹操を毛嫌いしているのも多いからなぁ。わざわざ身内に不満を抱えさせてまで曹操が必要か?と言われれば俺は迷わず「いらん」と答えるぞ。


「さらに言えば彼も袁紹同様に閣下の名前と威光を使って何をするかわかりません。場合によっては袁紹と共謀し典軍校尉と議郎という立場を使い、十常侍を勝手に殺そうとする可能性もあります」


殺られる前に殺るってのは当たり前の話だ。


それに皇帝直属の軍であり、光禄勲の属官なら宮中でも兵を用いることが出来ると拡大解釈してくる可能性がある。なにせ今のままだとジリ貧だからな。同じ条件の袁紹が暴走する前に曹操がやりかねん。


「確かにその可能性はありますな」


頭が柔らかいとは言え、バリバリの儒教家である荀攸としても、曹操の行状は認められないだろう。彼の中でも曹操の評価は暴落したようだな。叔父の筍にもしっかりと釘を刺して欲しいもんだ。


「なるほどなぁ。袁紹と言い曹操と言い、俺を利用しようとしているのは知っているがそこまで危ういか」


「はっ。あの者どもは未だ若く、己の中の衝動を消す術を知りません。また今まで身内に甘やかされてきたためか、閣下の怖さを正しく理解できていないと言うのもあるでしょう」


あいつらは未だに何進を「肉屋の小倅」扱いしているからな。学がない外戚程度なら簡単に利用できるって勘違いしてるんだよ。今じゃそれは何進を殺せない宦官や名家の負け惜しみの評価だぞ?それを元に動いたら破滅しかないと言うのになぁ。


「「……」」


ん?なんか二人して固まったが、なんか変な事言ったか?


「何かございましたか?」


的外れな事を言ったなら指摘して欲しいところなんだが。


「あ、あ~。い、いや何でもありませんぞ。えぇ確かに李儒殿の言うことは尤もかと」


おいおい、それは荀攸。それは嘘をついている味だぞ?つーか明らかに何か言おうとしてただろうが。


「とりあえずお前の言いたいことはわかった。確かに今の段階だと曹操を囲う必要性も薄いしな。まずは監視体制を強めることにしておこう」


「はっ」


過去のことは過去のことって感じにするにしても、じゃあ今はどうなんだって話になるからな。しっかり調査した上で無ければ、下手に後ろ盾になるのは危険すぎるから、今はそれで良いだろう。


あぁ大事なことを言い忘れるところだった。


「それと、陛下のお命が長くはないかもしれません。崩御された際に連中が暴走しないように手綱を握る必要がありますので、その準備もするべきかと」


これな。史実だと5月には死んでいるはずだ。まぁ多少の前後は有るかも知れんが、どちらにせよ春の収穫の前後になるから事務仕事が面倒になる。今のうちに準備しておく必要が有るだろうよ。


「「はぁ?!」」


ん?なんで二人して驚いているんだ?こんなこと調べればすぐにわかることだろ?


曹操はなぁ。若気の至りが酷い。宦官閥で行状も悪いとなれば、普通ならこれだけでダメなレベルです。まぁ貴重な十常侍の対抗枠ですし、何よりお父さんとお祖父さんが頑張ったのでしょうね。


李儒君としても袁紹や曹操に力を持たれても困るので、しっかり讒言(本当のことだから報告ですけどね)をします。いくら家柄だの智謀が有っても所詮は若造ですからね。現時点では李儒君とは立っているステージが違いますので勝負になりませんってお話。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ