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20話。西園八校尉②

当然のことながら作者による考察と言う名の妄想があります。


耐えれる方のみ閲覧お願いします。


中平6年(西暦189年)3月。洛陽大将軍府


去年発足した西園軍とその指揮官である西園八校尉は、下軍校尉・鮑鴻と佐軍校尉・馮芳さらに左校尉・夏牟らの不正発覚により八人のうちの三人がすでに断罪され、現在は助軍校尉である趙融が地下にて取り調べと言う名の拷問を受けていると言う、誰もが予想した以上のグダグダな状況となっていた。


「なんつーかよぉ」


予想通りではあるが、あまりにあんまりな状況に何進も苦笑いを通り越して頭を抱えるレベルである。


「連中は黄巾の乱の際でも当たり前に付け届けを要求したり、中抜きを行っておりましたからな。それが己の軍となれば……まぁこんなものでしょう」


実際、盧植を陥れた左豊が有名だが、あいつらみたいなのは当然他のところにも湧いていたのだ。朱儁や皇甫嵩、董卓らは上手く回避しただけの話に過ぎん。


で、自分たちで軍を持ったらその予算が予想以上に多かったので、中抜きし放題だ!と勘違いした阿呆が上記の4人とその仲間なわけだ。


普通の軍ならまだしも『帝が私財を投じて設立した軍』でそんな真似をしたらどうなるかも考えなかったらしい。


これは本来監督役である上軍校尉・蹇碩の責任問題なのだが(実際連中の中抜きを黙認していた)、あいつはその責任を助軍の仕事が適当だから!とか言って趙融に押し付けて逃げたって感じだな。


いや、サポートは佐軍だから。でもって佐軍校尉は死んだから。と言うツッコミは当然あるんだが、こっちとしては名家も官軍も潰したいし、蹇碩は帝のお気に入りだから下手に手を出せなかったというのもある。


そんなこんなで「まずはコイツでも良いか」って感じになり、今は向こうから差し出された趙融を処理している最中と言うわけだ。


結局、発足から数ヶ月で残ったのは


上軍校尉 ― 蹇碩 (宦官・小黄門)

中軍校尉 ― 袁紹 (名家・虎賁中郎将)

典軍校尉 ― 曹操 (宦官・議郎)

右校尉 ― 淳于瓊(名家)


の4人。蹇碩以外はまともなメンバーと言えよう。


そして現在、空いた4席に関しては後任を決めようとしているのだが、中抜きが罪になると言うことが判明したことと、蹇碩が趙融を見捨てたと言う事を知っているので誰もやりたがる者は居ないと言うのが現状である。


そんなところであっても連中が「一致団結して西園軍を盛り上げよう!」となればまだ良かった。


しかし実際は連中の内情もグダグダで、袁紹は「宦官を殺せ」と言って何進に宦官殺しをさせてその泥を被せようとするし、曹操は「宦官は生かして使うべきだ」と言って来て「自分が仲介役になる」と名乗りを挙げて来るし、淳于瓊は……特に何もしてこないな。粛々と自分のところの兵士を鍛えている。


そんで肝心の宦官は蹇碩が調子に乗りすぎたせいか、十常侍ですら仲間割れを始めていたりする。特に趙忠一派は曹操や何后を通じて何進に擦り寄って来ているのだから、ほぼ組織としては終わっていると言っても過言ではない。


己に対抗するために創設された敵が戦う前からこうなってしまっては、何進もなんだかなぁと言った感じになるのも仕方のないことだろう。


それはそれとして、問題はこちらがどう動くかだ。今の状況を例えるなら、自分に喧嘩を売ってきた相手が戦場に到着する前に落馬して腰を強打し、痛みに呻いているような状況ではあるが、相手が回復するのを黙って待つほど我々は優しくはない。


「正直に言えば俺は宦官は滅ぼすよりは利用したい。しかし名家の連中はどうしても宦官を滅ぼしたいらしい。そこで聞くが、一体何があそこまで連中を駆り立てるんだ?」


名家の連中と言うか、主に袁紹だよな。


アイツは何かと何進を持ち上げて担ぎ上げようとしているのだが、俺や荀攸と言う自前の名家閥を抱えている何進は袁紹に価値を見出していない。


その為、史実と違って袁紹は腹心のような扱いはされていなかったりする。まぁ当然と言えば当然だわな。


そして外戚として宦官の利用方法を考えている何進としては、露骨に宦官を殺すように言ってくる袁紹に対して嫌気が差しつつ有るようだ。


しかし当の袁紹は「自分が嫌われているのは名家である自分に嫉妬しているからだ」とか吹聴しているようで、現状を正しく理解していないようである。現実を認めたくないだけかも知れんが、実に滑稽だ。


しかしアレだな。何進は本当に気付いて居ないのか?連中が宦官を恨む理由って言えば一つしか無いだろうに。


「閣下。党錮の禁をお忘れですか?」


「……あぁ。そんなのも有ったな」


忘れてたのかよ!まぁ数年前の話だし、何進には全く関係ない話だから忘れていたのかも知れんが、名家にとっては忘れられん記憶だぞ。


「アレは宦官と名家の権力争いでしたが、名家閥にとっては屈辱の歴史です。名家閥を束ねる袁家としては報復は必要不可欠。傘下に居る者たちの面子に懸けても絶対に妥協はできないのですよ」


しかしそれも「自称清流派の連中に限る」と言う但し書きが必要だがな。濁流派扱いされた連中は普通に宦官とも繋がってるし。


「李儒殿の仰る通りですな。付け加えるなら、現在の袁紹は汝南袁家の中でも微妙な扱いとなっております。その為どうしても功績が欲しいのでしょう」


「あぁ、それもありましたな」


そうだったそうだった。この時期は袁紹個人にも問題が有るんだよ。


「微妙な扱いだぁ?」


荀攸が名家のコミュニティから拾ってきた情報の報告を行うと、何進は顔を顰めながらも先を促す。聞きたくない情報こそ聞くべきだと言うのは分かっているのだろうが、その内容があまりにも下らないことが多いので、その類だと思っているようだ。


うむ。俺からは「良い勘をしている」と言っておこう。


「はっ。まず基本的なことですが、袁紹は現在汝南袁家を取り纏める袁隗の兄である袁成の子となります」


内心でドヤ顔する俺とは逆に至極真面目な顔で袁家の事情を語る荀攸だが、この辺は性格なのかねぇ。……それとも名家の血筋だの家系に興味を持っていない俺がおかしいのか?


まぁいいや。とりあえずは俺も荀攸の話を聞こう。知らない情報とか有るかもしれんし。


「袁成?知らねぇな」


「でしょうな。袁紹が生まれて少ししてから死んだようですから、閣下が知らないのも無理はありません」


ふむ、流石の何進も知らんか。まぁ洛陽で権力争いしている真っ最中の袁隗や、その兄である袁逢は知っていても、とっくに死んでいるそいつらの兄貴なんざ興味もないのが普通だろうから、これを一概に不勉強とは言えんわな。


「そして現在の汝南袁家当主である袁逢には嫡子である袁術がおります」


「……あぁ、家督争いか」


「有り体に言えばそうなります」


そうなんだよなぁ。基本的に現在名家閥を取りまとめる汝南袁家において、当主である袁逢と弟の袁隗の兄弟仲は良いのだが、袁隗は甥の袁紹を可愛がっていたのに対し、袁逢は自分の子である袁術を可愛がっていた。


袁隗にしたら両方甥っ子だから差をつけたくは無いのだろうが、実の親を失っている袁紹に感情移入しやすいのだろう。しかし袁逢は甥っ子よりも実子である袁術を可愛がっている。


この辺で、袁家の中でも派閥が出来上がりつつあるわけだ。


でもって今回、西園八校尉になる前に袁隗が袁紹を叱責したって言うので、袁術が調子こいてるんだな。


俺からすればアレは、あくまでニートしてて怪しい行動をしていた袁紹に対して「暇してるからダメなんだ一度真面目に働け」って焚きつける為の愛の鞭って感じなんだが、その結果が西園八校尉だからなぁ。


袁術も最初は帝の直属軍に所属することになった袁紹を羨んだのだろうが、現在のグダグダ感をみればババを引いたようにしか見えんのだろう。


今では本人にも聞こえるように嘲笑する袁術と、何とかして盛り返したい袁紹の間でバトルが繰り広げられていると言うわけだ。


「そんな袁紹にとって己の足場を固める為には武功は必要不可欠。ですが現在の西園軍は既存の軍とは違い、予算の無駄を許容出来ません」


した結果が他の4人だからなぁ。


「あぁ、名家らしく気前の良いところを見せたいがソレをやれば自分も投獄される。かと言って汝南袁家は金を出さねぇ。そうなれば普通の武功は積めんか」


「そうなります」


今まで当たり前にやってたことが出来なくなったんで、何をして良いか分からなくなるって言うパターンだよな。金に関しては袁術が出さないだろうし、袁隗だって袁家を割りたいわけでは無い。今は与えられた職務をこなしてくれれば十分と考えているのだろうさ。


それで言えば、今の袁紹には中軍校尉と言う名誉()()はある。最終的にはこのまま袁紹が軍部で影響力を発揮し、袁紹が軍部を、袁術が袁家を継いで政治的な力を持てば最良と言ったところか?


中々上手く考えてはいるが、問題は袁隗に袁紹の気持ちが理解できていないと言うことと、現状では軍部にも袁紹の居場所が無いと言うことだな。


俺や荀攸が居なければ袁紹は司隷校尉になれていたかも知れんが、俺達には袁紹に今以上の権力を持たせる気は無いぞ。


「そして、普通の武功が積めないならどうするか?と考えたとき、名家にとっての絶対悪である宦官を殺せば良いと言う結論に至ったのでしょう。更に陛下のお気に入りを殺したと言うことで、閣下が陛下に罷免されれば最良ですな」


「……なめられたもんだな。ま、それがわかれば十分だ。今後袁紹は放置する」


何進としても袁紹が自分を使って宦官を殺し、さらに自分を陥れようとしているのは理解していたのだ。ただ、その根幹に有るモノが理解出来なかったので俺と荀攸に聞いたに過ぎない。


そしてその理由が袁家の内輪揉めと分かったならば、もはや袁紹に興味はないと言ったところか。今後は何を言われても適当に流すことになるだろう。


とは言え注意喚起は必要だよな。


「今は名家と揉める時期ではないので放置は問題ありません。しかし現時点で袁紹は閣下の名を使い軍部の人間に命令を下しており、これにより「自分は大将軍の代理だ」と言う既成事実を作ろうとしているようです。よって今後は袁紹に何かを任せるのはお止めになった方がよろしいかと」


今までは完全に無視も出来なかったので雑用的な業務をさせていたが、それすらも駄目だと言うことだな。袁紹は史実でも勝手に何進の名を使うし。それを防ぐためにも、放置なら放置でしっかりと周知させる必要が有る。


「あぁ、そうくるか。このままでは勝手に俺の名を使うってことだな」


「はっ。現時点でも彼が出す書簡には、閣下の名前の横に自分の名を追記しておりますので、可能性は高いかと思われます」


本来、大将軍府の内部に宛てる書簡は『大将軍』だの『何進』で締められるはずなのに、そこに自分の名前を書いて連名っぽく見せようとしているのが何とも嫌らしい一手だよな。それに俺や荀攸宛の書簡には書いていないと言うのも多少の知恵を絞ったのだろうよ。


しっかりバレてるけど。


「間抜けは見つかったか。分かった。袁紹には一切権限を与えんし、仕事もやらん。荀攸は大将軍府の連中に、李儒は他の軍部の連中にこのことを周知させろ」


「「はっ」」


まぁそもそも中軍校尉でしかない袁紹に大将軍府で何かする権限は無かったんだが、これで袁紹の動きは封じることができたな。


「とりあえず袁紹はこんなところか。次は曹操だな。奴が宦官である曹騰の孫なのは分かるし、十常侍の連中、特に蹇碩と不仲なのも良い。しかし、実際あいつは何処まで使えるんだ?」


曹操か。正直能力だけ見たらかなり使える存在だと思うし、現時点では漢の忠臣と言っても良い存在なんだが、どうもなぁ。


「正直な話、私は彼を使いたくありません。荀攸殿はどうお考えでしょう?」


俺の場合は色んなバイアスがかかっているからな。ココはフラットな視点を持つ荀攸の意見を聞いた方が良い気がするんだ。それに純粋にこの時代の人間が曹操をどう評価しているかも知りたい。


「……ほう」


「……ふむ」


ん?なんか微妙な顔をされたが、曹操を使わないって言うのはそんなにおかしなことかね?





珍しく?後半へ続くパターン。


袁紹はなぁ。西園八校尉になる前は何進のところでちょこっと働いてたらしいですけど、それまで何気にニートだったんですよね。


曹操も同じくニートでしたが……洛陽に関わりたくなかったんでしょうかねぇ?ってお話。


史実では下軍校尉・鮑鴻(屯騎校尉)が真っ先に獄死しておりますが、他の三人は不明です。と言うか何をしたかもわからないし、この後名前も出てこないのでココで仕留めたとも言う。


はい、神(作者)の力(ご都合主義)ですね。


―――


独断と偏見に塗れた用語解説


校尉:軍を率いる将軍の部下のこと。今で言えば大佐とか中佐といった高級佐官と言ったところだろうか。当然将軍の方が偉い。


つまり拙作の主人公、輔国将軍であり光禄勲でもある李儒君から見たら、曹操も袁紹も二重の意味で部下になる。しかし彼らは腐っても皇帝直属軍の司令官なので、軍事的には大将軍の直属である李儒と同格くらいになるのかもしれない。


――


雑冠将軍:雑号将軍とも言う。大将軍・驃騎将軍・車騎将軍・衛将軍・征東征西征南征北将軍・安東安西安南安北将軍・前後左右将軍と言った将軍以外の将軍職のこと。上記の将軍職は将軍府を作ることが出来る正式な将軍(東西南北の将軍は非常時に臨時で任命される)。


輔国将軍だとか輔漢将軍だとか、破虜将軍だとか偏将軍だとか護軍将軍・軍師将軍もコレ。一応其々に役割は有るのだが、この時代ほとんどの場合は、万を超えるような軍を率いる将軍の資格を持つ者に与えられる称号のような物と思っても良いかもしれない。


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