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2話。主人公正式に仕官する

前話の続きですね。一話にまとめるべきでしょうか?

洛陽・河南尹執務室


「まず閣下が言われた通り、私はそこそこの名家の生まれです」


圧迫面接の第一段階である圧力への耐久度のチェックをクリアした俺は、第二段階である志望動機の説明を行っていた。


「あぁそうだな」


実際(こう)(のう)に荘園を持つ家なので、その辺の地方軍閥とは違った格のようなものは有るし、家同士の繋がりも有るので、まぁそこそこと言っても言いだろう。


「ですが、所詮はそこそこなのですよ」


「あん?」


何進は自身が庶民の出なので名家を一括りにしているが、それは大きな間違いだ。


「つまり袁家だの荀家だの楊家には及びませんし、外戚の董家のような家にも到底及びません」


「……ふむ。続けろ」


顎に手を当てて考えたが、ぼんやりと俺の言いたいことは理解できたのだろう。その目には先程までの訝しげなモノを見る感じ一色だったのが、純粋に俺を観察しようとするモノまで見え始めた。さすがの傑物である。


「はっ。このまま名家閥の中に入ってしまえば、私は彼らの部下として働くことになるでしょう。その際彼らは私の仕事を正しく評価してくれるでしょうか?」


「正しく評価?……ねぇな」


何進から見た名家の連中とは、妬みや僻みが具現化したような連中で、常日頃から足の引っ張り合いをしているクソ共だ。いくら優秀でも、いや優秀だからこそ若者の実績を認めることはないだろう。


むしろその実績を掠め取って自分の昇進の為に使い、後から多少の昇進か何かをさせることで「よくやった」と(のたま)い恩を着せてくるような連中だ。 (昇進させればまだ良いが、場合によっては口封じで殺される)


「はい。ありません。むしろ功を奪い、それに文句を言えば「貴様程度が生意気だ」と言って叩いてくるでしょう」


この時代は家格や年齢が全てだ。その為、若造が正しく評価されることなど殆どない。


「さらに自分の家の子よりも優秀だと言う理由で、わけのわからない逆恨みをされたり、仕事の妨害をしてきます。いえ、もしかしたら殺されるかもしれませんね」


これはただの予想ではなく限りなく高い確率で訪れる未来だ。


学問所での勉学の際にも絡んできた連中は数知れず居るし、無視すれば無視したで五月蝿かった。中途半端に痛めつけて静かにさせても次の日には家の権力を振りかざして騒ぎ出すので、黙らせるには殺すしかないと言うまさしく害虫なのである。


「はぁ。馬鹿どもが」


利用したり功を奪うのは予想できても、そんな嫉妬で殺しまでしてどうするというのか。さらに救えないのは、これが濁流派と呼ばれる人間だけではなく、己を清流派と抜かす連中も共通した思考であると言うことか。


何進にとっては完全に理解の外である。


「そのため名家閥には所属する気になれませんでした。宦官閥については……」


「あぁわかったわかった。そりゃそうだな。俺でもそうする」


説明する必要が有りますか?と問えば、何進は心から納得したように頷いた。まぁ宦官に伝手が無いし、わざわざ切断する気もないからな。


「ご理解いただきありがとうございます」


「とりあえずお前の考えはわかった。だが世の中にはそいつらや俺に属さない連中だって居るだろう?そっちはどうなんだ?」


王允に代表される帝派とも言える連中のことだろうが、残念ながら俺は早世する霊帝には興味がない。


「彼らですか……彼らは党錮(とうこ)の禁から私の身を守ってくれますかね?」


「ん?あぁ、連中には無理だな」


とは言え帝に興味が無いなどとは言えないので、それっぽい言い訳を考えて来たのが功を奏したか、どうやら俺の言い分にも納得してもらえたようだ。


何進は武官であり、外戚であり、生まれが生まれなので党錮の禁とは完全に無関係である。しかし中小の名家に生まれた人間が仕官の際に一番警戒しているのがこれであるのも事実だ。


そもそも党錮の禁は宦官と名家閥の清流派(士大夫)たちの権力闘争から発生したもので、基本的には宦官を認めていない者だけでなくその身内も対象に含まれる為、自分も知らないうちに罪を犯したことになり、連座させられて処分される可能性があるのだ。


そうなった場合「王允らは俺を守るか?」と問われれば「見捨てるに決まっている」と言う答えに行き着く。


では何進は?となると「俺に利用価値が有れば助けるだろう」と言う結論になる。


そもそも彼は侍従であり皇帝の外戚なので、彼の一党に入れれば「一族郎党の弾圧」と言う括りからは抜けられる事になると言うのも大きい。(まぁ親が直接何かしたりしたらアウトだが、弘農の荘園に居れば基本的に洛陽から出ない宦官を敵に回すことも無いと思われる)


それにそもそも国家権力を握る宦官どもと戦ったり競ったりするためには、彼らが持たないナニカが必要になる。そこで一番わかりやすいのが軍事力と言うわけだ。


だが宦官も名家もそのことは承知の上である。その為彼らはお互いの派閥に関わる人間に武力を持たせようとはしない。


その上、今の清流派を名乗るアホどもは何をトチ狂ったか「武力を持つこと=汚れである」などと、平安時代の公家のような訳のわからないことを言い出す始末。


まぁこれに関しては、後漢を再興した光武帝が名家連中に力を持たせないようにするために儒教を流行らせたせいでもあるので、ある意味では漢の忠臣の有るべき姿と言えるかも知れない。


それはともかくとして。


「えぇ。無理なんです。その為私が身の安全と立身出世の両立を考えて選ばせて頂いたのが閣下です」


「ふん。随分と正直なことだな?」


「そう望まれましたので」


「クッカカカカっ!そうだな!確かにそう言ったのは俺だ!」


俺の言葉を受けて、やや不機嫌そうな顔から一転し上機嫌で笑う何進。


元が屠殺業者と言うのも有るだろうが、彼は気難しい職人気質と言うか、ヤが付く自由業の方々の親分さんのような人間の可能性が高いと言う俺の予想は正しかったようだ。


「で、お前の狙いは理解した。ならお前を囲うことで俺にはどんな得がある?」


これは条件次第ではオッケーと言うことだろうか?俺への疑いは完全……とまでは言わないがかなり払拭されたようだ。しかし囲うって言われようだとなんかアレなんで、普通に雇うとかにしてくれませんかねぇ?


まぁそんなことは口に出せんがな。


「はっ。まずは名家の連中との交渉や各種資料の作成が可能です」


「ふむ。それは普通に助かるな」


有る意味で一番厄介な仕事と一番面倒な仕事を自分から抱え込むことになるが、世の中で成功するためには他人がやらないことをすることこそ成功への近道であると言うことを忘れてはいけない。


「また今ここで私の事情を説明したように、名家には名家の者として生まれながらも燻っている者たちはいくらでも居ます。今は閣下に対して隔意がありましょうが、私が間に入ることでそれらを軽減出来ます」


「……俺の部下に名家閥が出来そうだな。小者ばかりなのが気になるところだが」


中々に話が早いが、少し性急すぎだ。何進が今まで連中相手にかなりのストレスを溜めていたと言うことがわかるな。


「閣下。子供でも百人いれば大人の一人は殺せますよ?」


「……なるほど、道理だ」


そう。たとえ袁家だろうがなんだろうが、一人で騒ぐよりも俺たちのような名家が百人で騒げば、それなりに効果的なのは当然の話だ。


それに騒ぐのはただの若造ではない。何進と言う後ろ楯が有る若造だ。そう言う連中を抱え込めば、これまで以上に各種工作がしやすくなるのは少し考えればわかるだろう。


「更に閣下の庇護の下でその子供が大人になれば、その子もまた閣下の力となりましょう」


後は雪だるま式に勢力の拡大に繋がるって寸法だな。まぁ残念ながらそこまで大きくなることは無いが。



ーーーー


何進


「……確かに。十年先を見据えれば今のままとはいかんのは事実だ」


俺がこのままただの外戚で終わるか、それとも位人臣を極めるか。宮廷においてそれを分けるのは、個人の力量よりも組織力だろう。


軍事力だけでは大きくはなれないと考えれば、名家や宦官との妥協が必要になる。だが自前の名家閥があれば、わざわざ俺が偉そうにふんぞり反っているゴミどもの相手をしなくても済むわな。


そして目の前の若造には、それらを纏めるだけの実力があるだろう。まぁ俺が後ろ楯であることが前提にあるが、だからこそこいつは俺を裏切らん。


……いやはや悪くない。と言うか完全に利害が一致している。コイツはここまで考えて俺の部下になることを選んだのだろう。


「…………」


話すことは全部話したのか、口をつぐんで頭を下げる若造。自分の立場ってヤツをしっかり理解しているようだし、コイツは買いだな。


「話はわかった」


「……では?」


「あぁ貴様を使うこととしよう」


「ありがとうございます!」


若造が本心から喜んで頭を下げるのがわかる。まぁさっきの話を聞けばなぁ。誰が好き好んで命の危険を感じながら仕事をしたいと思うものか。さらに手柄まで持っていかれるとわかっていたら、とてもじゃないが我慢できん。


俺に断られたらその道を選ぶしか無かったと考えれば、喜ぶのもわかるさ。


だが甘やかす気はねぇ。


「まずは働きを以て自分の言葉を証明して見せろ」


画に描いた餅なんざ、どれだけ見映えが良くても意味は無いんだからな。


「はっ!この李儒。これより閣下の御為に微力を尽くします!」


微力じゃ意味がねぇんだよ。と言いたいところだが、流石に若造の意気込みに水を差す気はねぇ。


「おうよ。精々役に立てよ?李家の神童」


「はっ!今後ともよろしくお願い致します!」




……神童を否定しねぇのな。根拠がねぇ訳じゃねぇから、自信の現れなんだろうがよぉ。まぁ使えなければ切るだけだ。せめて少しは役に立てよ?


こうして何進は神童と呼ばれた若者を配下に加えることになった。これが彼にとってどのような影響を与えることになるのか……それを知るのは目の前の若者だけなのかも知れない。

李儒の年齢がおかしい?


いや、???~???ですから、好きに弄っても良いですよね?(暴論)


この時点でお気付きの方もいるでしょうが、向こうの話の流れとは当然違いますってお話。


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