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14話。涼州の乱⑤

なんだかんだでチャチャっと終わる涼州の乱。作者による考察と言う名の妄想が炸裂する!


文章が荒いので、後で修正の可能性大!

右扶風・美陽


辺章や韓遂らが美陽に着陣した当日の夜、羌・涼州軍閥の陣は官軍の夜襲により炎に包まれていた。


「おのれ官軍っ!おのれ董卓っ!このような戦で勝って嬉しいか?それでも武人かっ?!」


官軍の夜襲に対して辺章は声を荒げるが、韓遂はこれが卑怯だとは思わない。夜討ち朝駆けは戦の基本だし、着陣した当日が一番狙われやすいと言うのも分かっている。


戦とは勝つべくして勝つものだ。向こうが入念に罠を用意していたのを知っていて、さらに「危険だから下がれ」とまで言われていた所にノコノコと「殺してくれ」と身を差し出したのは自分たちである。


自ら罠に嵌まった間抜けに容赦する必要など無い。官軍は滅ぼすべき敵を粛々と滅ぼしに来ているだけ。ならば自分が取るべき方策は……


「辺章、退くぞ!」


「なんだと?!このまままともな戦をしないまま逃げると言うのか?!」


自分も一回当たったら降伏すると言っていた癖に、戦場に立った途端にコレだ。涼州人の気の荒さが良くわかる。しかし敵はそれすらも計算に入れているのだ。


「敵の陣容は見ただろう!日中ならまだしも、夜間にあの穴を突破出来るか?あの土壁を越えられるか?!あの弩兵を越えられるか?!」


「くっ!」


韓遂が指さした先。つまり敵陣は現在煌々と明かりが灯されており、土壁の上にズラリと並ぶ弩弓兵がこちらに対してその鋒を向けているのが分かる。


本来であれば連中は馬鹿正直に姿を現す必要などなかった。


自分たちが敵の攻撃を止めるために突っ込んだところで有無を言わさずにアレを打てば、それだけでこちらに大損害を与えることが出来ていたはずだ。


それなのに態々こうして姿を見せているのは、董卓からの「さっさと逃げろ」と言うメッセージに他ならない。


少なくとも韓遂はそう思っていたし、実際に董卓も李儒も彼らを全滅させる気がないので、彼らの姿は「そのまま帰れ」と言うメッセージなのは間違っていない。


齟齬が有るとすれば、董卓は「無駄に騒がずにさっさと退け」と思っているのに対して、李儒は「来ても来なくてもどっちでも構わない」と思っているところだろうか。


今自分たちが退却を選べばどうなるか?向こうにすれば夜襲をかけたら敵が一目散に逃げ出したと言う実績になるし、こちらにしたら本格的に罠に嵌って大打撃を受ける前に撤退できると言う利点がある。


なにせ敵は本隊が到着すらしていないのだ、ならば追撃はそこそこの規模でしかできないだろうから、逃げ切ることも出来るだろう。対してここで逃げる選択をしなければどうなる?


答えは単純で「炎に焼かれる」だ。


それも焼かれるのは 人間や馬ではなく兵糧、もっと言えば飼葉である。この時期の涼州はどうしても外から飼葉を持ち込む必要があるし、これが無ければ騎馬隊は騎馬隊足りえない。


まだ燃えていない飼葉を早急に確保して退かなければ、羌族はただの飢えた馬を率いる遊牧民でしか無くなってしまうし、涼州軍閥も官軍によって一つ一つ制圧されてしまうだろう。


と言うか董卓と誼を通じている連中は、今頃さっさと撤退準備をしているか、自分たちの首を獲る為の算段をしているかもしれない。


故に余力を残して撤退する。これこそが自分たちが生き延びる為の唯一の方策だと、韓遂は確信していた。


「こうしている間にも敵陣からは炎を纏った岩が絶えず放たれているのだぞ!」


「くそっ董卓めっ!」


「辺章ッ!」


「……わかった」


この期に及んでグダグダ抜かすようなら殺すぞ!と言う威を込めて辺章に撤退を促すと、彼も奥歯を噛み締めながらも撤退に賛同する。


韓遂は「無駄な時間を使った」と思うが、今は緊急時だ。そんな事を口に出してもしょうがないと切り替えて、部隊に撤退の指示を出すために天幕を出た。


「退け!撤退だッ!」


「何だと?韓遂、貴様腑抜けたか?!」

「そうだ!こんな奇襲で逃げるなど有り得ん」

「その通りだ!このような卑怯な手で負けてたまるか!」


いきなりの撤退命令に当然のように反発する羌や涼州勢。普段ならこの獰猛さが頼もしく見えるのだが、今の状況では現実を理解していない烏合の衆でしかない。


「まだ気付かんか?!敵の狙いは飼葉だぞ!」


「「「……あっ!」」」


「そう言うことか!」

「おのれっ姑息な手を!」

「そのようなことを言ってる場合か!」


主戦派の羌族や涼州軍閥は韓遂の「撤退」と言う命令に対して抗弁しようとしたが、次いで放たれた飼葉の維持と言う言葉を聞き、官軍の狙いと自分たちが置かれた状況を認識し、すぐに撤退の準備を行おうとする。


彼らはその気になれば身一つで逃げ出すことが出来る集団だ。


その為、本来であれば纏まった数の討伐やら何やらは非常に難しい相手なのだが、今回は別である。飼葉や兵糧、さらに追撃のことを考えれば、個人で逃げる事など出来ないと言うのは自明の理。


結果としてそれぞれの氏族が纏まり、それぞれで兵糧を確保してから動くことになるのだが、戦に於いて撤退は最も難しいとされる行為である。


更に今は夜であり夜襲を受けている状況だ。こんな状況では易々と撤退など出来るものではない。


特に今回の件で面子を潰され、内心で怒り狂っている羊の皮を被った狼が敵にいる場合は尚更である。


「……殺せ」


「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」


撤退と言う命令が羌・涼州軍閥連合軍に浸透した頃。官軍でありながら、羌に味方した涼州軍閥とほぼ同等の実力を持つ董卓率いる軍勢が襲いかかる。


すでに撤退準備に入っていて仲間内で兵糧の分配に揉めているような連中は勿論のこと、お飾りに過ぎない韓遂や辺章にも部隊を纏めあげて董卓からの追撃を阻むだけの力はなかった。


本来戦の前の段階では、彼らは出来るだけ生かして使う予定だった。しかし向こうが指示に逆らって来たのならば仕方がない。


手っ取り早く羌と涼州軍閥の両方に恐怖を植え付ける事が出来るなら、主人に噛み付く番犬も、誰にでも噛み付く野良犬も、この機会に両方同時に躾ることにしたと言うだけの話である。


結果としてこの日、官軍に倍する兵を持ちながらも戦に敗れた羌と涼州軍閥の連合軍は、董卓率いる軍勢により一方的かつ執拗な追撃を受け崩壊することとなる。


さらに、美陽にて大量の物資を失いまともな補給物資を持たない彼らは、後から来た官軍にも散々に叩かれ、三輔どころか漢陽・安定・武都・金城・隴西・北地・武威からも叩き出されることになった。


結果として涼州に於ける乱の平定を決定づけることになったこの美陽での戦は、これまで敗軍の将扱いだった董卓と、対外的には何進の腰巾着と言う認識でしかなかった李儒の武名を大いに高める戦となったと言う。


後日、この戦に参加し命からがら逃げ延びることが出来た羌の者たちは、この戦のことを語る際「流星が我らの陣を燃やしたのだ」と苦々しげに語ったと言う。



――――



時は少し遡り、美陽官軍の陣において李儒と董卓は打ち合わせを行っていた。


「敵の総数は6万。本隊がまだ着陣していないとは言え、今の段階で我々は3万。更には陣の設営も終わっており十分に罠も張っております。いくらあの連中でも、前に出たら焼かれると分かっているならば、無策で攻めて来ることはないでしょうな」


もしも「この戦に勝てば子々孫々栄えることが約束されている!」だの「自分が死んでもこの戦に勝てれば氏族は安泰だ!」と言うなら命懸けの突貫も有るかもしれないが、連中にとって今回の戦は漢の弱体具合の確認と定期的な収穫(略奪)の延長でしかない。


この状況で無理に攻めてくるとは思えないし、連中の中に居る跳ねっ返りが動くにしても、何らかの対策を練る必要があると言うことは理解しているだろうからすぐに動くことは無い。


今回の予想は歴戦の将である董卓にとっては常識であったし、董卓でなくともそう判断するだろう。連中の血の気の多さを考えたとしても大きく外れることは無い筈だ。


……そんな歴戦の董卓でも想像できなかったのは、李儒の思考である。


「そうですね。では敵も布陣を完了したようですし。今夜夜襲を仕掛けましょうか」


「はぁ?」


自分の言葉に「そうですね」と答えておきながらなぜ夜襲を仕掛けることになる?籠城すれば勝手に相手の跳ねっ返りが暴走するのに、何故こちらから野戦を挑む必要があるのだ?


混乱する董卓だが、李儒には李儒の勝算がある。


「夜襲とは言え、まともには当たりませんよ。今回は投石器を使います。狙いは敵陣の兵糧が用意されている天幕。油の染み込んだ縄を岩に巻いたり、藁などを着けてから燃やしたモノを飛ばす予定です」


「な、なるほど」


これだけで李儒の狙いが『兵糧』というよりは『飼葉』に有ると理解した董卓は「えげつねぇ」と口の中で呟く。


元々飼葉は燃えやすいのに、そこに油が染み込んだ縄やら藁が付着した火の玉が飛んできたらどうなるか?


想像するまでもない。


大将軍府から連れてきた3000の弩兵と言い、騎兵の弱点をこれでもかと突いてくる李儒を見て「本当に涼州の軍閥を生かして使う気があるのか?」と疑いの目を向けてしまうのも仕方ないことだろう。


ちなみにこの時代。羌や烏桓の騎兵に対抗する武器として正式採用されているのは、槍や弓ではなく弩であった。


これは、弓の使い手を育成するのが難しいと言うのもあるが、武器の特性に依るところが大きい。


つまり上から来る矢ならば脚の速さでくぐり抜けたり盾によって弾いたりすることが出来たことに対して、弩による水平射撃を行われた場合、乗り手はともかくとして馬が殺されてしまうことを防ぐ術がなかったからだ。


普通に考えれば騎兵が真正面から馬の鼻先や足元に来る矢を捌けるわけもないし、矢のように上からでは無いので、馬体の速度だの角度だので矢が弾けると言うこともない。


それどころか自分から矢にぶつかって行くのだ。威力が減退するどころか増加することになるのだから、馬には堪ったものではないだろう。


さらに弩は鎧を貫通する威力もあるので、馬に乗って指揮官先頭を叫ぶ将帥にとっては最悪の武器となる。その為か弩の造り方は国家で秘匿されており、それぞれの軍において生産量や所持数も制限されていた。


そんな中、官軍であり大将軍の子飼いであると言う立場を利用して3000もの弩を集めてくる李儒に対して、董卓がドン引きするのも仕方のないことかもしれない。


そして投石機だ。これは言うまでもなく城壁を破壊する為に使用される攻城兵器である。それを野戦陣地を敷く羌族に対して使う、と言うか敵陣の兵糧を焼き払う為にブチ込むと言う発想は董卓には無かった。


今回に関して言えば通常であれば陣など敷かず騎兵の機動力で以て神出鬼没の攻勢を行う羌族が、涼州軍閥と組んだことで中途半端に漢に染まってしまい、敵の眼前で陣を敷く(纏まってしまう)と言うミスを犯したのも李儒に投石機による攻撃を決断させる要因となってしまった。


まぁ、野戦で自分たちの陣に投石をぶち込まれると想定する事が出来ないのは当然のことなので、ここは李儒の作戦勝ちと言ったところだろうか。


向こうにすれば夜襲は警戒していても、襲ってくるのは兵ではなく石だ。敵兵は陣に接近せずに弩を構えているだけと言う状況なので、逃げる以外に対処のしようがない。


なにせ投石機を潰そうにも、その物は日中に散々見せられた罠だらけの陣地の奥にあると言うことがわかっているからだ。


つまり投石機を破壊するためには罠をくぐり抜けて敵陣に乗り込む必要が有るのだが、ただでさえ夜なので穴や土壁の突破がキツくなっているのに、その見えない穴の中にある油の染み込んだ藁が醸し出す「火」への恐怖はそうそう抜けるものではない。


さらにその罠の向こうでは騎兵の天敵である弩兵が構えているときた。ここで無理をしても飼葉が炎上してしまえば彼らに未来が無いと考えれば、彼らが取れる手段は一つ。


傷が小さいうちに逃げるしかない。


「とまぁこのような感じでしょうか。今回の戦では董閣下には追撃をお願いします。明かりは有る(敵陣が燃えている)ので、それほど苦労はないでしょう」


「はっ!」


この期に及んで追撃するのか?と内心驚くも「まさか本気で涼州軍閥を滅ぼすつもりですか?」などを聞いたりはしない。


罠に嵌った敵を逃せばこちらが裏切り者扱いされるし、向こうも死にたくなければ無駄な抵抗などはせずにさっさと降れば良いだけの話。


この状況で「降伏したくない」と抜かすなら、殺すのは当然のことでもある。


そして何よりこの追撃命令は、黄巾での敗戦と今回の策を失敗させた董卓に対する救済なのだ。(さらに言えば対外的には皇甫嵩の邪魔をしたとされていたり、官軍としての命令違反等のマイナスも有るので、武功による救済は必要不可欠)


それなのにここで涼州軍閥の為に命令を拒否することなどありえないし、そもそも董卓にしても己の顔に泥を塗ってくれた連中に対しては思うところもある。


そんな彼に内なる獣を解き放つ許可を与えればどうなるか?


私怨とも言える怒りを以て一心不乱に涼州軍閥に攻めかかる董卓の姿を見て「董卓は涼州軍閥と癒着している」と唱える者は居なくなったと言う。




―――――




「は?戦が終わった……だと?」


「殿、書類は残ってますぞ」

「そうですな。こちらの税についての確認をお願いします」

「あぁ、この収支もおかしいですな。そちらの書類も」


「言ってる場合かっ!!」


「「「書類仕事を蔑ろにしては家が潰れますぞ!」」」


「いや、それはそうだが。くそっ、おのれ李儒ッ!」


「「「李儒『様』もしくは『殿』を付けなされ!!」」」


「ぬ、ぬぉぉぉぉぉ!!」


美陽の戦の後、追撃に参加した官軍の中でも孫堅の率いる軍勢の働きは特に目覚しく、その働きを見た張温と李儒からの推挙を受け孫堅は長沙郡の太守を任じられることになったと言う。



「美陽において流星が落ちて、陣がガタガタになり韓遂らは撤退した」と言う一文に関してですが、多分こう言うことですよね?ってお話。


投石機は昔から有るし、そもそも平地において羌や涼州軍閥に官軍が勝てる筈が無いと考えれば、作者にはこれしか浮かびませんでした。


異論は認めます。

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