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8話。名家の体現者

文章修正の可能性有り

并州勢が王允の指示に従わなかったことや、京兆尹司馬防の協力で何者かによる襲撃事件を未然に抑えることに成功した結果、劉協と何太后を連れた一行は無事に弘農に入ることができた。


まぁ、一行の出迎えの際、先頭に馬に乗った謎の仮面の少年がいたり、その仮面に隠された素顔に気付いた何太后と劉協が何故か号泣したり、その後で何太后と劉協が揃って『その忠義、誠に大儀である! お主こそ真の忠臣也! どのような褒美も取らせるので希望を述べよ』と太傅に宣言しようとしたところを、何故か謎の少年に止められたり、一行の中に蔡邕を連れて来ていたことを知った師匠が弟子を褒め、褒められた弟子がドヤ顔したり、『もう再会することはできない』と思っていた父娘が、上司の計らいで思わぬ再会を果たすことが出来たことで滂沱の涙を流したりと、様々なことがあったが、その模様の全てを語ると長くなるのでここでは割愛させていただく。


周囲にとって重要なのは『帝にとって急所となり得る駒を、弘農に居る腹黒が手中に収めた』と言うことだ。


この事実が世に広まることを一番恐れているのは、他でもない。これまで長安を実効支配していた司徒の王允である。


何故かと言えば、弘農の人間はそれほど意識していないことではあるが、洛陽から移動してきた名家の者や、元々長安にいた者たちは、長安にて丞相を抱える王允と、弘農で皇帝を抱える太傅の関係を『不倶戴天の政敵』と認識していたからだ。


また、長安に残る名家閥の人間にとって、王允が名家の出であることや、清流派の人間であることには間違いはないのだが、それまでの立場の問題から『所詮はポッと出の成り上がり者』と言う認識がある。


そんな人間がいきなり新たな政権で司徒と言う最高権力者の一角となったことに、面白い感情が有ろうはずがない。


中には『実績も何も無い王允を認めるくらいなら、何進の部下と言う形ではあったが、洛陽で実績を積んでおり、今も皇帝陛下の側仕えと言う確固たる足場を築いている太傅の方がまだマシなのではないか?』と堂々と反王允を口に出す者もいるのだ。


ただでさえそう言った空気があった中、王允は太傅によって差し向けられた少年・司馬懿により、彼らにとっての切り札であった『丞相と何太后を弘農へと運ばれる』と言う失策を犯してしまう。


さらに問題なのは、劉協の移動を阻もうとした王允と、彼に協力している司空の楊彪が、未だ幼い司馬懿に対して大人げなくも舌戦を挑み、正面から返り討ちに遭った挙句、当の丞相から『もう良い』と見放されてしまったことであろう。


そしてその情報が、すでに長安中に蔓延しているのも致命的であった。


何故情報が拡散されたのか? 


確かにあの場に居たのは、当事者を除けば劉協の護衛や側仕えと言った極々少数だ。


しかし、逆に言えば、()()()()()()()()()()()のである。


劉協と共に長安を離れる彼らが、敗者である王允に忖度する必要もなければ、舌戦に勝った司馬懿がその情報を隠す必要もない。


よって、劉協一行が弘農に辿り着くころには、元々話を聞いていた司馬懿の父である京兆尹・司馬防はもとより、長安に居る名家の者達の大半が、王允が太傅との政争に敗れたことを知っている。


そうなると次に来るのは、名家定番の『王允下ろし』である。


元々王允は、自身に否定的なことを記す可能性が有ると言うだけの理由で蔡邕を投獄したり、釈放された後も監視や嫌がらせを行うような陰湿なところがある男である。


まして彼は、太守のような役職を経験したわけでもなければ、政治や経済に明るいわけでもない。黄巾の乱では多少の功績を挙げたが、それだって朱儁や皇甫嵩と比べて大きな武功と言うわけでもない。


統括すれば、王允と言う老人は、宦官が大っ嫌いで自己の名誉を守ることに腐心する老人。言い換えればどこにでもいる一般的な頭の固い儒家の一人にすぎない。


そのような人間が他者から本当の尊敬を集められるのか? と問われたら、返ってくる答えは当然、否。であろう。


故に現在の長安では、これまで王允の配下として働いていた者達までもが彼に対して叛旗を翻すタイミングを伺っていると言っても過言ではない。


そんな長安の中の空気を感じ取った王允は、この状況を打破する為に同志である楊彪との会合を重ねているのだが……


「クソッ! クソッ! あの若造どもめがッ!」


「落ち着かれよ司徒殿。上に立つ者はみだりに感情を表に出してはなりませぬぞ」


「司空殿! ですがこの状況はッ!」


「えぇ。帝の喪明けを前に太傅が仕掛けてきた。そう言うことでしょう」


「それがわかっておきながら貴殿はっ!」


「なればこそ落ち着かれよ。焦りは何も生み出しませぬぞ」


「ぐぬっ! 司空殿はッ「何か?」……いえ、失礼した」


年長者として、またこれまでの楊彪の実績に一目も二目も置く王允は、落ち着き払った態度で自身を諫める楊彪に対し『現状を理解出来ているのか?!』と声を荒げようとするも『ここで楊彪と喧嘩別れをするわけにはいかない』と思い直し、すんでのところでその声を飲み込む。


目の前で肩を怒らせる王允を見て楊彪は内心で溜息を吐く。


(はぁ。やれやれ、じゃな。こやつにこうも堪え性が無いとは。……この者は烈士ではない、ただのへそ曲がりの爺であったわ。こやつを司徒に押し込んだ太傅はこやつの性根を正しく理解しておったのじゃろう。……これまで数年共に職務に当たっておきながらこの性根を見抜けなんだ己の無能に腹が立つわ)


自身の歳を棚に上げ、目の前で激昂する王允を『老害』と切って捨てる楊彪は、その老害を長安に押し付けてきた外道の狙いについて思いを馳せる。


(太傅の狙いは、王允とそれに阿る名家の洗い出しに加え、宦官を憎む王允に、連中と繋がっていた濁流派を裁かせることじゃろう。そしてそれは終わった。と見るべきじゃな)


そう。楊彪は弘農に潜む腹黒の狙いを、濁流派の粛清と推察した。


確かに楊彪から見ても濁流派の中には漢を腐らせる虫が多数いる。かと言って、それらの粛清を帝や帝の側近である太傅が行えば、名家の恨みは太傅に向くことになるだろう。


しかし、そのようなことをすれば、今後の治世に差し障りが出ることになる。


ならばどうする? 簡単だ。彼らに恨みを持つ王允の手で身中の虫である濁流派を処分させれば良い。


残った連中に対しては財産を没収した上で新帝が恩赦を与える形で罪を免じるか、そのまま処刑するだけの話。後に残るのは王允に恨みを持つ濁流派の生き残りと、生き残った濁流派を毛嫌いしつつ太傅にも噛みつこうとする王允となる。


かつて何進の腹心として洛陽の名家との折衝を行ってきた経験を持つ太傅ならば、小粒となった濁流派の面々を操ることなど造作もない。


濁流派に王允を殺させた後、何食わぬ顔で濁流派を処分すれば残るのは太傅の一派のみ。ならば、未だ若く、皇帝からの信任も厚い太傅は、これから数十年位人臣を極めることが約束されるであろう。


(まったく、敵ながら上手く出来ておる。しかもこの流れは、王允を司徒に押し込んだ時から考えておったはず。即ち儂らは数年前から蜘蛛の糸に囚われており、それに気付いてすらおらなんだ。この亡き袁隗や張譲を彷彿させる手際。流石は何進と共に洛陽の澱みを生き抜いた化物よ)


これだけでも恐怖に怯えて虚勢を張る王允との格の違いを痛感すると言うのに、そんな化物から自身が敵として認識されているのが、今の楊彪だ。


「やはり漢の為を考えれば、増長すること甚だしい奸臣である太傅を弑るべきかと存じますッ! それに奴さえおらねば、あの生意気な小僧もただの小僧に成り下がりますしな! ……司空殿は如何お思いか?」


「……うむ(ここで反対したら儂が殺されるのぉ)」


血走った眼をしつつ一人で意気を挙げる王允を見て、楊彪は危ういものを感じつつも一先ずは反論せず、小さく頷くことで賛同しているようにも見える仕草を取る。


「やはりそうですか! ではどのようにしてヤツを弑るか……」


楊彪が己の意見に賛同したと見た王允は、喜々として太傅の暗殺計画を練り始める。


(何が漢の為、か。狡兎(濁流派)は既に死した。残った貴様の存在は、既に漢にとって不要な狗。はてさて、儂はこれからどう動くべきかのぉ)


王允が今や莫逆の友と認め、全幅の信頼を置く漢の重鎮、司空・楊彪。


彼は、目の前で喜々として暗殺計画を練る王允や、逆賊となった袁家の為に己が継いだ弘農楊家を潰す気は毛頭ない。


(さぁさぁ。存分に語るが良い。儂も知らぬ策も全て、な)


家を残す為ならば、己の命を差し出すことも、外道の股の下を潜る屈辱も厭わぬ男が、王允の計画を静かに聞いていた。

後漢が誇る異能生存体が準備運動を開始しましたってお話


―――


久々投稿。

リハビリ回とでも言いましょうか。


更新が滞っていた理由は活動報告をご覧になっていただければわかると思いますが、まぁ何とか立ち直りつつありますので、適度に更新して行きたいと思っております。


勿論、皆様からの応援や☆ポイントを頂ければ更新速度は上がる……と思いますよ? (チラチラ)


あと、感想を頂くのは大変嬉しいですが、ネタバレを含む感想は消すこともありますので、ご了承願いします。



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