幕間。高祖の風①
ブクマ3000件記念投稿。
本日2話目!
時は少し遡り、中平元年(西暦184年)11月・洛陽。
続々と帰還してくる官軍の中に、いくつか交じる義勇軍の旗がある。彼らは独自に立った者も居れば、地元の名士と呼ばれる者によって推挙され、官軍の手伝いという形で戦に参加した者たちだ。
今回の乱において大将軍何進は軍部の権力拡張を狙ったか「功績の有る者全てに報奨を与える」と宣言。その為、報告に漏れ等がないように厳しいチェックを入れていた(無論チェックを入れるのは李儒だ)
そこでチェックを入れていた李儒の目に止まったのが、今回の黄巾の乱において校尉の鄒靖に従って功を上げたとされる義勇軍の存在である。
その頭領は涿郡涿県の筵売りにして属尽(今上の帝から見て分家の分家の分家の分家の分家の……と言った感じの存在。つまり劉氏では有るが、皇族を名乗れるレベルではないとされる人たちを指す言葉)の中の一人と言われる男。
元郎中であり兗州東郡范県の令、劉雄の孫にして盧植の弟子。まぁ言ってしまえば劉備なんだが。
……なんでこんな家の人間が筵売りに落ちぶれたのかは謎だよな。アレか?賄賂とかを支払いすぎて金が無くなったか?まぁ良い。
「閣下。洛陽郊外にて義勇軍を率いた者が報奨を待っております。さっさと済ませてきてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、義勇軍だぁ?……まぁ誰でも報奨を出すって言っちまったからなぁ」
「ですな。一応は校尉である鄒靖からも功績があったと言う報告が上がっておりますので、功績については問題は無いかと」
「そうか。さっさと終わらせられるってんなら、さっさと終わらせるか」
基本的に書類仕事は李儒一味の仕事である(李儒は未だに認めていないが)。しかしそれでも確認作業やら何やらは彼がしなければならない。正直この作業は何進も面倒なのだが、だからといってコレを疎かにすれば軍が成り立たないし、何処で誰と誰がどのように繋がっているのかがわからないので、どうしても注意が必要なのだ。
ただ、彼ら義勇軍は洛陽との繋がりは無いに等しい(縁があったら正規軍の一部扱いとして参加し、おこぼれを貰っている)。なので幾分楽に決断が下せるのが救いと言えば救いと言えるだろう。
「で、どんな奴って……おいおい属尽かよ」
「えぇ。そうなんです。扱いによっては面倒なことになるかと思いまして」
「まぁそうだな」
興味を持った相手が属尽と言うことで、微妙な表情をする何進。実際外戚である何進からすれば微妙に気を使う必要がある相手である。
「この連中のように、一見簡単に見えて放置したら後々面倒になりそうなのは今のうちに処理するべきかと」
しばらく放置された!とか言われても困るしな。今なら他の連中と同じくらいの時期に処理することになるから、特に不満も出ないだろうさ。
「だな。属尽の癖にあえて正規軍じゃなく義勇軍で参加ってところに面倒臭さが垣間見える。うむ、こう言うのはさっさと片付けるに限る」
「同感です」
どうやら何進も俺と同じで、中途半端なプライドが邪魔して官軍に頭を下げることが出来なかったか、もしくは官軍の方で戦列に加えたくないと拒否されたんじゃねぇか?と判断したようだ。まぁ普通なら何かしらのワケありだと判断するだろうさ。
実際に「子分共の前で官軍に頭を下げられなかった」とかありそうだし。
「しかし態々お前が出向くような相手か?……いやまぁ属尽だから多少は配慮するべきなのかも知れんがよぉ」
不満げに俺を見てくるが、これはアレだな、俺が仕事をサボる為に外に行こうとしていると疑っているな?……半分正解だから何とも言えん。しかし今回は一応の名目があるのだよ。
「確かに微妙な相手ではありますが、部下に行かせて「義勇軍だから」と言って見下して問題を起こされても困りますからねぇ」
「あぁ。それもそうか。それを考えれば妥当っちゃ妥当ではあるな」
なんだかんだ言っても向こうは宗室(宗家に認められた一門衆)ではないが劉氏の一員だ。下手に蔑ろにしては名家だの宦官共に何を言われるかわからない。しかし自分が出る程でもない。ならば懐刀ではあるが若僧である李儒が赴くくらいがちょうど良いかもしれん。と言ったところだろうか?
連中に対してなんだかんだで俺も現役の弘農丞だし、無礼と言うことはないだろう。これで最大の難関である「大将軍府からの脱出」はクリアした!残る問題は連中に何をやるか?だな。
「で、褒美はどうする?銭だけじゃ済まねぇだろ」
劉氏と言うだけでそれなりな扱いをしなきゃならんのが儒教社会の厄介なところだ。コレが賊の劉辟とかなら普通に殺すんだがなぁ。つか劉氏の癖に義勇軍なんか作るんじゃねーよ。正規軍入れや。
それはそれとして、褒美についてだな。確かに金だけで済ませる事はできん。
「どこぞの県の令(太守)か、尉(県の軍を率いる武官)が妥当かと」
「尉はともかく県令なぁ。大丈夫なのか?」
基本的に力さえあれば破落戸でも出来る尉に対して、県令は総合管理職だ。その為何進が慎重になるのもわからないではない。俺としても本気で県令にしようとは思わんが、今後の為にも「奴にはここでどでかいミスをさせる」と言うのもアリかなぁ?と思う気持ちが有るのも事実だ。
とは言え流石に熱心には推さんぞ。何かやらかして俺のせいにされても困るし。
「この属尽殿は盧植殿の弟子らしいので、本人は大丈夫でしょう。後は配下に読み書き算術ができる者がどれだけ居るかによりますな」
「ま、そりゃそうか」
俺からは「あくまで一般論です」って感じで良いだろ。決めるのは何進だし。
ちなみに実際には読み書きが出来ん県令とかも居るぞ?だがそう言う連中は部下が好き勝手やってグダグダになるから、俺たちが推薦して県だの郡を任せるわけにも行かん。
面倒事を起こすのは名家閥や宦官閥の連中に任せて、こちらは手堅く行くのだ!
「しかし盧植の弟子かよ。だったらロクでもねぇ野郎だよな」
おぉう。酷い言われようだが、その気持ちもわからんでもない。なにせ以前の左豊の件以来、何進の中で盧植の評価は最底辺だからな。皇甫嵩や朱儁が宦官に対抗するために彼の赦免を求めたが、彼が開放されたところで大将軍府で使うことは無いと断言できる。
擦り寄ってきたら?適当な閑職でもくれてやるさ。
でもって今話題に上がっている劉備がそんな阿呆の弟子であると分かった以上、何進の中で劉備はロクでも無い人間であると確定したわけだ。この時代、師は弟子の鑑って言うのは常識だからな。
しかし俺の中では、劉備と言えば感情的で戦に弱く裏切りと寄生を繰り返し、更に家族を見捨てることに定評が有るアンチ曹操の旗頭なイメージなんだが……それだけだと部下は付いてこないだろ?
いや、つーかこれで戦が強かったら完全に宇宙大将軍じゃね?色んな陣営に行ってるし蜀漢 (笑)とか作ってるし。共通点が多いような……いやはや一体どんな人物なんだか。
あとは関羽だ。劉備の器は関羽が配下にいた事で証明されているって話も有るくらいだし、彼がどれほどの人物か見てみたい。張飛?簡雍?まぁうん。
そんなわけで純粋に連中に興味もあるし、出来るなら今のうちにさっさと処分したいと思ったんで自分で見に行こうとしたんだが、この分なら問題なさそうだな。
と言うか、なんで大将軍府の文官連中は義勇軍を後回しにしてるんだ?郊外に居座られても面倒だろうし、無視したってなったら「全員に報酬を」って言う何進の言葉に反することになるだろうが。
こうやってさっさと終わらせることが出来るものはさっさと片付けるって言う、当たり前のことが出来んから仕事が溜まるんだよ。経費の計算をして金も出す必要もあるが、数百人単位なら楽なもんだろうに。
「ふむ。流石にロクでもねぇとわかっている破落戸を県令にはしたくはねぇな。まずは尉にしておけ」
おっと、愚痴は後でいいな。
「はっ」
義勇軍と言うことで軍事的な功績は上げたものの、文官としての実績は無いのでこの判断は妥当だろう。
「場所は……中山靖王劉勝の末裔って触れ込みなら中山だな。県は任せる」
「かしこまりました」
これも妥当と言えば妥当だ。しっかりと名誉を配慮しているから文句も言えまい。この決断の速さは流石だな。それに親孝行が売りなら、祖父が県令をしていた兗州東郡范県よりも生まれ故郷の幽州に近いほうが良いよな。
ま、どーせ放り投げられるんだろうから、連中の気分なんざ関係ないがね。
「つーかそもそも中山靖王劉勝は、子供や孫が100人以上居たってくらいだからな。その分家の子孫なんか特別扱いしてたら時間も予算もいくらあっても足りん。さっさと済ませてこい」
「はっ」
おっと。釘を刺されたな。しかし扱いが雑だねぇ。まぁこの時期の劉備の扱いなんてこんなモンか。
――――
だが。とりあえず外出許可は獲ったぞ!
見せてもらおう。噂の高祖の風を持つ漢とやらを!
劉備と会うと見せかけてまだ会わない!
……幕間は本当に不定期ですので、続きはいつになるかは未定です。
高祖は漢帝国の初代劉邦。「高祖の風」とは三國志の作者が「劉備からは初代劉邦を感じさせる威風がある!」的な感じで劉備を評した誉め言葉ですね。
いや、お前劉邦知ってんのかよ?ってツッコミは無し。そもそも三國志の著者は劉備すらあんまり知らない筈……と言うツッコミも当然無しですね。
漢 (笑)の皇帝である侯景こと宇宙大将軍 (誤字に非ず)については、一言での解説が不可能なので各自で検索お願いします。ってお話。









