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19話。呂布の嫁取り

無駄にネタが豊富ですが、ご了承願えれば幸いです。

直線となった通路を歩き、いよいよ董卓らが協議をしているという一室に近づいたと思う頃。外ではちらほらと雪が降り始めて、その白さは勢いを増しつつ有り足早に長安を包もうとしていた。


俺としても多少の寒さを感じはするが、今はそれを我慢して将軍としての正装をしつつ外套を肩に掛けて、董卓との会談に臨もうとしていた。


そんな俺を見て何かを感じ取ったのか、取次を行った李粛が「そんな恰好で大丈夫か?」と心配をしてくれたが、俺は「大丈夫だ、問題ない」と応え、李粛との会話を終えることにした。


本音を言えば、恰好はともかくとして李粛に話を通して俺の望みを叶える為に協力してもらいたいという思いは有る。しかし李粛は董卓の配下だし、下手にこちらの事情を聞かせてしまえば、俺と董卓の間に挟まれて苦悩するかもしれない。


もしも今こいつに倒れられたりしたら、董卓が()に帰還したあとに残るであろう書類仕事や、王允との折衝を誰が担当すると言うのか?


その懸念もあったので、俺は李粛を巻き込むことを躊躇してしまったのだ。


だいたい今日こうして董卓の元に訪れたのは、完全に俺の私事なのだ。ならば俺は俺の言葉で以て董卓と語らねばならない。


「おう、ここだ」


「……そうか」


俺は紅昌の為、不退転の決意を固めて、董卓らが待つ一室へと入るのだった。



――――



「協議中のところ申し訳ない」


「いや、李粛にも言ったが気にしなくて良いぞ」


「そう言って貰えると有難い」


「「「……」」」


(呂布の野郎。妙に覚悟を決めた顔つきで来たが、一体なんだってんだ?一緒に長安に居た李粛は心当たりがねぇのか、かなり胡乱な者を見るような顔で呂布を見てるし。牛輔も賈詡も警戒してるじゃねぇか)


真剣な顔つきで謝る呂布に対し『どうせ「褒美か休みが欲しいって感じだろ』と判断し、先が見えない協議にうんざりしていたところでもあったので、呂布の来訪を『ちょうど良い気持ちの切り替えになる』程度でしか考えていなかった董卓は、内心で『失敗した』と苦虫を噛み潰していた。


「で、早速だが話を聞こうじゃねぇか。……何があった?」


最初は呂布の来訪を笑顔で迎えた董卓だったが、呂布の顔つきから余程の事が発生したのだと判断し、真剣な表情で問いかける。しかしその内容は董卓らが想像するよりも軽いものであった。


「はっ!実は一人側室として迎え入れたい者がおりまして……」


「「「「はぁ?」」」」


これまで国家の大計(自勢力の存亡)を真剣に論議していた董卓ら三人と、協議の内容を知っていながら取次をした李粛は、呂布の言葉を聞いて揃って声を上げてしまう。


(これだけ真剣な表情で何を、いや、ある意味では真剣な表情をするべき内容なんだけどよぉ)


董卓とて、男として側室を娶ると言うのがどういう意味を持つかは当然理解している。さらに今の呂布は董卓の養子なのだから、その相手も自由には決められない。だから許可を取りに来た。そういう流れなのだろう。


それを理解した董卓は一瞬気を緩めかけるが、呂布が異様に緊張しているのを見て、気を引き締める。そしてその心の中は、


(まさかこいつ、白を欲しいとか言い出すんじゃねぇだろうな)


と言われることを警戒していた。


もし何の心構えもしていないところにそんな提案をされたら、たとえ提案してきたのが己より強い呂布であっても、殴り殺す為に飛び出すだろう。


男には、祖父には、相手が誰であれ負けられない戦いというものがあるのだ。


しかし董卓にとって董白は文字通り目に入れても痛くない程に可愛い孫娘ではあるが、彼女もそろそろ結婚を考えねばならぬ年頃であることは確かだ。


そこでもしも『養子とした呂布と実際に血縁関係を結ぶ必要が有る』などと言われてしまえば、董卓とて反論は難しい。


しかし董卓は今回は何があってもそのような提案を飲むつもりは無い。


何せ呂布は言ったのだ。『側室にしたい』と。


正室としてならまだ考えなくも無いが、どこの世界に大将軍の孫娘を側室に取りたいなどと抜かす男に、大人しく孫娘を差し出す大将軍が居ると言うのか?


それに現在の董白は、皇后である唐后の側仕えとして弘農にて確固たる居場所を築き上げてる最中だ。


新年の挨拶には来れなかったが、向こうから送られて来た書簡には『同年代の唐后や蔡邕(さいよう)の娘である蔡琰(さいえん)とも仲良くやっており、今は楽しく暮らしている』と書かれており、今まで同年代の友人と呼べる者が居なかった(王異は付き人なので友人ではない)孫娘が楽しく暮らしていると言うことに目を細めていたのだ。


そんなところに『呂布の側室になる為に長安に来い』などと言ったらどうなるだろう?抵抗するだろうか?「嫌だ!」と「お爺様なんか大っ嫌い!」と言われるだろうか?


それを想像しただけで、董卓は己の中のナニカが冷たくなって行くことを自覚する。だが、それならまだ良いのかもしれない。最悪なのは、董白が我慢して全てを受け入れ、その心を壊してしまうことだ。


天真爛漫な笑顔が消え、ただただ側室として務めを果たそうとする孫娘の姿など、董卓は想像もしたくはなかった。


故に、祖父としても、家長としても、当然大将軍としても呂布の提案を受け入れることは出来ない。と、考え、口に出そうとしたときのことであった。


「それで呂布よぉ、その相手ってのは誰なんだ?」


隣に座る董卓が徐々に殺気を高めているのを肌で感じ取った牛輔が、最悪の状況を回避するために動く。


(そうか、そうだよな。まだ白と決まったわけじゃねぇ。つーか呂布だって俺の孫娘を側室に望むような阿呆じゃねぇよな)


そこでようやく董卓も、自身が勝手に呂布が望む相手を董白だと決めつけていたことを思い返し、一旦その考えを振り払うことにした。


この董卓の先走りとも言える思考は、第三者からすれば孫娘を溺愛する董卓の考えすぎだと笑い飛ばせることなのだが、呂布が緊張していることや、養子縁組を強固にすると言う意味ではあながち間違った行為でも無いので、可能性が全く無いとは言い切れないのが怖いところである。


そんな祖父の想いはともかくとして。


董卓から放たれる殺気を感じ取り『紅昌の為には決別も辞さぬ!』と覚悟を決めかけていた呂布も、牛輔から助け船を出されたことで、自分が相手の名を告げていない事と、董卓がその相手を溺愛する孫娘であると勘違いしている可能性に気付くことができた。


呂布と言う男は、冷静になればそれなりに賢い男なのだ。


「はっ。その娘は王允が養女にして大将軍府に侍女として送られて来た娘で、任紅昌と申す者です!」


「「……誰だ?」」

「……はて?」


覚悟を決めた呂布が告げて来た名を聞いた董卓と牛輔は揃って首を傾げ、賈詡は顎に手を当てて自身の記憶の中に居る人物を探す。


しかし普段郿に居る董卓は勿論のこと、南陽に派遣されている牛輔や、西涼で動いていた賈詡も大将軍府で働く侍女の名前など覚えてはいなかった。


「あぁ、あいつか」


そんな中、一人の男が声を上げる。


「「「知っているのか李粛?!」」」


その男の名は李粛。


董卓に代わって長安の事務仕事を任された漢にして、荒くれ物が集う董卓軍の中でも一、二を争うほどに書類仕事に長けた漢である。(ちなみに彼と一位を争うのは張済。賈詡は政治の沼に関わることを嫌い、そっち方面の仕事から逃げているのでランク外)


高いのか低いのか良く分からない評価はさておき、李粛は一度頷き、紅昌に関する情報を董卓らに伝える。


「えぇ。そいつは呂布が言うように王允の養女で、元々大将の世話をする為に送り込まれて来たんですがね?大将が居ないってんで大将の養子である呂布の面倒を見てるんでさぁ」


「ほぉ」


いきなりそんな話を聞かされた董卓としては「ほぉ」としか言えない話である。


反対に、李粛の横に立つ呂布としては紅昌をモノのように言われて気分を害するものの、変に興味を持たれるよりはマシだと我慢することにしたようで、その説明に対して何かを付け加えることは無かった。


「つまりあれか?これは大将軍である俺の養子である呂布が、司徒である王允の養女を側室にしたいってことになるか?」


「……そうです」


「なるほどなぁ」


董卓としては相手が孫娘でないことに安堵し「勝手にしろ」と言いたいところでは有ったが、言葉にすれば呂布が緊張する理由もわかったので、少し考えることにした。


「賈詡。この場合、俺に損は有ると思うか?」


「そうですな。司徒殿は殿の面倒を見させるために養女を送り込んで来た筈です。それに一切手を出さずに呂布将軍に下げ渡すのは、司徒殿の顔を潰す行為となるやもしれません」


「それはっ!」


「まぁ待たれよ。将軍」


このままでは自分たちにとって最悪の決断がされてしまう!そう思った呂布が思わず声を上げるが、賈詡は冷静に呂布を諭そうとする。


「将軍の気持ちも分かります。ですが養父である王允殿の顔を潰しては、養女たるその、任と言いましたか?彼女も心苦しい思いをするのではありませんか?」


「……そうかもしれません。ですが!」


紅昌の立場を考えればそれも間違いではない。今後の事を考えれば王允の顔を潰すのはよろしくないのも分かる。だが、自分の愛した女が他の男に組み敷かれて喜ぶ男など……居ないとは限らないが、少なくとも呂布にはそのような性癖は無い。


「ん?そんなら一度そいつに大将の世話をさせりゃ良いだけだろ?」


「牛輔殿?!」


なので呂布は何とか話の方向性を変えようとするのだが、そこで牛輔までもが賛同するかのような声を上げてくる。これは拙い。そう思っていたのだが、それは呂布の早とちりであった。


「落ち着けよ。大将が一度世話をさせたってことにすりゃ良いんだって。実際に夜以外の世話をすりゃ問題はねぇんだしよ」


「え?」


「あぁ、そうなるのか?」


「そうなりますな」


牛輔の意見を聞き、呆けた声を上げる呂布と、納得する董卓。そして賈詡もその意見に賛同した。つまり、実際に夜の相手をする必要は無いが『ちゃんとした』と言うことにすれば良い。それだけの話であった。


董卓としては、わざわざそんな口裏合わせをすることに多少の面倒があるだけで、それを呂布への褒美と考えれば悪いことでは無い。呂布は侍女を下げ渡されたと言う形にはなるものの、実際彼女が董卓に何かをされたわけでも無いので、彼らの要望は叶っていることになる。


王允としては、そもそもが董卓への献上品なのでそれをどう扱おうと文句を言えた立場ではない。それも一度味わった後に「俺の口には合わなかった」と言われたなら、尚更である。


つまり、ここに居る全員が口裏を合わせればそれだけで問題は解決するのだ。そして董卓も牛輔も賈詡も李粛もそのことに対して異存は無い。


「あ!」


それらを理解した呂布が「自身の望みが叶った」と、肩の力を抜きかけたその時、突然董卓が声を上げる。


何だ?まだ何かあるのか?と警戒する呂布に対し、満面の笑みを浮かべた董卓がこう告げた。


「なぁ?流石に大将軍の養子と司徒の養女が婚姻して、俺らが姻戚関係になるってんなら……皇帝陛下の許可が必要だと思わねぇか?」


「「「確かに!」」」


「は?え?」


董卓の笑顔の意味を理解した牛輔・賈詡・李粛がその意見に即座に同意する中、これまで彼らが協議していた内容を知らない呂布は「どういうこと?」と首を傾げるのであった。




呂布の踊り子。嫁取りと言うか側室ですけどね。実際は妾だったようです。まぁ経緯が経緯だし、王允もすぐに死んでますから、正式な妻とは行かなかったのでしょうか。


董卓、解釈を最大限に拡大して弘農へと使者を送ることにしたもよう。これなら王允や劉協とかの顔も潰しませんし、連絡を入れない方が無礼になりかねませんからねってお話。



――――



燃料ポイントを必要としない!と豪語する作家さんが凄いと思う今日この頃。

作者は今日も読者様から頂戴した燃料ポイントで執筆活動をしております。




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