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16話。大将軍の軍師

皆様お待ちかねの、例の人登場回。

文章修正の可能性大。

初平三年(西暦192年)1月・司隷・京兆尹長安・大将軍府


幽州に於いて公孫瓚が劉備の襲来を受けて胃を痛めている頃。洛陽から遷都し正式な都となった長安には、現在元々漢に忠誠を誓っている士大夫層の人間や、恩赦を求めて諸侯から送られてきた使者などが新年の挨拶を口実にひっきりなしに訪れていた。


そんな中で各派閥の者たちは『新年を祝う』という名目で、コネ作りやこれからの漢に於ける勝ち馬は誰か?またどうやってその勝ち馬に乗るか?というのを真剣に語り合っている。


そして上記の連中から勝ち馬の筆頭に挙げられている董卓は、珍しく郿を離れて長安に上京したかと思えば、劉協への挨拶もそこそこに切り上げ早々に大将軍府へと引きこもっていたと言う。


これには王允らも自分たちが軽く見られた!と、多少気を悪くしたものだが、元々劉弁や劉協からの信頼が厚い董卓に長居をされては自分たちの立場が無くなると言うこともあり、表立って騒ぐことにはならなかったらしい。


……本来であれば丞相の傍に立ち、彼らと一緒に諸侯からの新年の挨拶を受ける立場である大将軍董卓が何をしていたかというと、彼は現在全ての仕事を一旦保留し、新年の挨拶のついでに()()()()()を携えてきた部下と密談を行っていた。



~~~~



「……あそこまで露骨にご機嫌取りをされただけで、あそこまで調子に乗ることが出来る王允の頭の中が俺には理解できん」


元々承認欲求が強く【名】を優先する名家に対し、武功や結果と言う【実】を重視する董卓は相性が悪い。いや、相性がどうこうではなく、同じ空間に居ることすらおかしいくらいに価値観が違う。故に董卓には新年の挨拶ごときで一喜一憂する王允たちの気持ちはわからないし、王允たちも新年の挨拶を軽んずるような態度を取る董卓の気持ちは理解できないのだろう。


「そうですな。正直に言わせていただければ、私には司徒殿どころか名家という連中が理解できませぬ」


そしてそれは董卓だけではなく、彼の部下全般に言えることであった。


「あぁ、それで理解出来ねば足元を掬われるかもしれんから、いっそのこと近付かん方が楽だってか?」


「左様ですな」


(相手)を知り、己を知るのが策士の最低条件。で、あるとするならば、(相手)を調べても理解できないなら、最初から理解することを諦め、距離を置く。最初から無駄な労力は使わないことで、その分を他に回すと言う徹底した合理主義。これこそが董卓麾下の軍師に必要な素養ではある。


「……はぁ」


その理屈は無論董卓にもわかっている。そもそも涼州も并州も無駄を許容する余裕が無いのだから、生粋の涼州人ならば当たり前の考えと言っても良いだろう。

しかし、だ。董卓も人間である。今現在、立場の問題から名家の(面倒な)連中と距離を置くことも出来ずにこうして長安で仕事をすることを余儀なくされている自分に対し、抜け抜けと『面倒事は任せる』と言い放つ部下を一発ど突きたくなるのも仕方のないことだろう。


しかし目の前の部下はあくまで『勝てない相手とは戦わない』といった感じで、戦場に生きる軍師としては至極まっとうなことを言っているだけと言うことは董卓も理解しているし、上に立つものと従うものの職務は違うということも理解しているのだ。


それに、ここでこの部下に対して『お前も少しは政に興味を持って!』と説教をした結果、彼が政治の泥に飲まれ、権力に溺れられても困る。よってそれらの言葉と行動に附随する意味を一つ一つ考えねばならない董卓は、とりあえず溜め息を吐き嫌味の一つをぶつけるだけで我慢することにした。


「そうやってお前みたいに選べれば良いんだろうけどなぁ」


「いや、大将軍閣下なら好きに選べるでしょう?」


現実を理解していない部下の返答を受けた董卓は「わかってねぇな」と呟き、簡単に立場についての解説を始める。どうやら相当溜め込んでいるようだ。


「そうでもねぇんだよ。(しがらみ)ってのはな。偉くなれば偉くなるほど厄介に絡みついて来るんだよ」


大将軍という立場は軽くはないのだ。今の董卓は軽々に長安や()以外の地には移動はできない。喪中の皇帝陛下に個人的な挨拶をする為に弘農へ行くなど出来ようはずもない。……つまり、董卓は弘農へ送った孫娘の顔も見に行くことすら出来ないのだ。


「はぁ……面倒なものですな」


「ほんとにな」


少し前なら名家や宦官共に顎で使われることに嫌気が差していたものだが、今ではそんな名家どもからの挨拶を受け、世辞や何やらを聞いてやらなくてはならないのだから、本当に面倒極まりないものである。


これでもしも董卓が自身の武力を背景にして逆らう者を問答無用で殺し、張譲ら十常侍のような連中や一昔前の外戚である梁冀のように、自身の意で国政を壟断できるような人間ならばまだ良かったかもしれない。その場合の董卓は、面倒な仕事は他の人間にやらせ、自分は好きな相手だけから挨拶を受け、酒に、女にと溺れることも出来ただろう。


しかし董卓は己が生粋の武人であり、一介の将帥でしかないことを誰よりも自覚している。そして、自分よりも洛陽という泥沼を理解し、政治と謀略に天性の才が有った何進ですら飲み込まれた政治の澱みの醜さと怖さも理解してるのだ。


だからこそ彼は長安から離れた()の地に要塞を築き、そこを拠点とすることで長安の政治から距離を置こうと今も苦心していた。


そんな『あんなところに好き好んで居たくない』と気持ちがあるからこそ、彼の心は長安(権力)の呪縛から引き離されていると言ってもよい。……もしそうでなかったら、年がら年中煽てられることに嫌気がさして名家どもを全員殺した後で、どこぞの腹黒に『仕事を増やした罰』と言われて、生きながらにして書類地獄に落とされるか、もしくは煽てられて増長して調子に乗ったところを『仕事をしないなら死ね』と、どこぞの腹黒に暗殺されているかもしれないのだ。当然大将軍としての職務を放棄して逃走を図ったならば『用無し』として殺されるだろう。


いや、董卓とて簡単に殺されるつもりはないが、現在の自分の歳(今年で54歳)を考えれば、これから何があるかわからないので、一族のためにも無駄に波風立てる気はなかった。


まぁそもそもどこぞの腹黒は、現在董卓に利益供与をしてくれている立場の人間であって、敵対関係にはないのだから、殺すだの殺されるだのと言った考えは杞憂に過ぎないのだが。


「あ~止め止め。辛気臭せぇこと考えねぇで、そろそろ本題に入るか」


「はっ」


目の前に書類を積まれる悪夢を思い起こした董卓は、頭を振って本題である部下からの報告を受けることにした。部下にしてみても、そのために長安まで上京して来ているのだから異論が有るはずがない。


「で、本当にあったか?」


「はっ。確かにありました。現在向こうでは【あれ】を巡って各氏族が水面下で戦の支度をしている最中です」


「そうかよ。はぁ……一体どこでこんな情報を手に入れたんだか」


「探りますか?私は御免ですが」


「俺だって御免だ」


さりげなく自分は安全な場所に逃げつつ、こちらにどこぞの腹黒を探らせようと煽ってくる部下に対し、八割の苛立ちと二割の頼もしさを覚えながらも、董卓は頭の中に()()()の地図を描く。


「……四十は多すぎるな」


董卓は、己の頭の中に浮かべた地図と、その中に点在するおよそ四十の纏まりを思い起こし独り言ちる。間者が聞いてもそれだけなら何のことかわからないことであるが、目の前で董卓の言葉を待っていた部下には、それだけで董卓が言いたいことは伝わった。


「はっ。やはり、五か六まで減らしてから操るのが上策でしょう。すでにその準備も終えております」


その上で部下は『計画に支障無し』と胸を張って報告をする。


「そうか。ならしばらくお前は向こうに行く事になるが?」


「それこそ望むところです」


元々長安の生活に興味がなかったのに、さらに今回疲れ果てた董卓から長安の政治の煩雑さを語られた部下は、そんな面倒なものに足を引っ張られるくらいなら、向こうで思う存分己の才を駆使して見たいと思っていたので、董卓からの提案は渡りに船と言ったところであった。


「けっ。もしも俺たちがまだ洛陽にいたなら、何が何でもお前を机に縛り付けて書類仕事をさせたんだがよ、残念ながら今はお前を向こうに送り出す余裕が有るってのがなぁ」


「……時期に恵まれましたな」


「否定はしねぇよ」


噂に聞く書類地獄を経験しなくて済んだことに心底ほっとしたような顔をして沁々(しみじみ)と呟く部下に、董卓はお前も地獄に落ちろと怨嗟の感情を向けるも、今の大将軍府にはそれを現出させるだけの書類が無いし、なにより彼にはするべきことがある。


「必要なものがあったら準備させるから遠慮なく言え。それとわかってると思うが予算はいくら使っても構わん……必要なことに使う分はな」


現在建造中の郿城には、既に三十年。とまでは言わないが、十年以上篭城してもまだ余るだけの財があるし、長安にだって十分な資財がある。その中から大将軍の権限で用意出来るものは何でも使っても良いと宣言したのだ。……当然不正を行って利益を貪ろうとした場合は、有無を言わさぬ粛清が待っているのは言うまでもない。


「ありがたいお言葉ですが、しばらくはこの身一つで十分です」


「そうかよ。なら好きにやってこい。報告は何か異常が有ったときだけで構わん」


自分からの言外の脅しをしっかり理解した上で、己の頭をコツコツと叩き『予算を使わない』と宣いニヤリと笑う部下に対し、董卓は同じようにニヤリと笑みを返す。


「はっ!」


董卓から予算もやり方も完全に任される形となった部下は、このような待遇を受け、軍師冥利に尽きる!と魂を震わせていた。



涼州勢の中でも特に董卓からその智謀を評価され、今も白紙委任状を渡されて特別任務に就くことを許された男。その男の名は賈詡。


名も金も権力も不要。ただ己が智謀を以て実を成さん。これより大将軍・董卓(最強の暴力)が誇る純粋軍師(最高の智者)が、乱世に向けて動き出す。





とうとう参上、みんな大好き賈詡文和。

あんた、董卓が死ぬまで何してたん?

そんな作者の疑問に応える形で参上です。


浪人のGが出来る準備と、大将軍の董卓が出来る準備は文字通り桁が違いますからね。

一応彼らは何を企んでいるのかは色々散らしていますが、ネタバレは厳禁でオナシャス!


いつの間にかどこぞの腹黒に暗殺のイメージが……なぜだ?ってお話



―――――


独断と偏見に塗れた人物紹介


賈詡文和かくぶんわ:賈クとか賈駆とか書かれる人。キャーカクサーン!でも有名。

147年生まれの44歳。色んな逸話があるが、殆どがネタバレになるのでまだ言えない。

つまり……ググろう。(使命感)


――――





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