幕間。幽州に吹く風②
すまない。作者の能力が足りなくて本当にすまない。
雑な文章の為、修正の可能性大!
初平三年(西暦192年)1月中旬・幽州広陽郡・薊県
「あ~もぉ!なんつーかよぉ!」
公孫瓚への新年の挨拶も終わり、簡易では有るが正式な裁判によって督郵殺害の罪を免れることになった劉備であったが、そんな彼はここ数日は不機嫌の極みにあった。
「おぉおぉ荒れてんなぁウチの大将は」
ドンっ!と音を立てて拳を机に叩き付けた劉備を横目に、簡雍は久方振りに自分が稼いだ銭で買った自分の為の酒を飲んでいる。他人の銭で飲む酒も上手いが、偶には自分で稼いだ金で飲むのも乙なものであるようで、あからさまに上機嫌であることがわかる。
「つーかよぉ。兄貴は俺たちと違って働かなくても金がもらえて飯が食えてるんだろ?一体全体何が不満だってんだ?」
「……さてな」
彼らの兄貴分である劉備は、正式に州牧となった同門の先達である公孫瓚によって督郵殺害の罪を帳消しにしてもらっただけでなく、今では彼の直属の部下に取り立てて貰ったのだ。この現状に何の不満があるのかさっぱり分からない張飛と関羽は、揃って「意味が分からねぇよ」と首を傾げている。
「張の字や関さんは良いよなぁ!二人して賊退治の為に外に出れるし、関さんに至っては兵卒の訓練とかも頼まれてるしよぉ」
そんな二人に対して、劉備は己の中に抱える不満をぶつけて来た。
「いやまぁ、俺は腕っぷししかないから賊退治くらいしか出来ねぇけど、関羽の兄貴は何でも出来るからなぁ」
「ふっ」
「あ~お前ぇさんらは良いよなぁ~」
いきなり訳の分からない不満をぶつけられた『関さん』こと関羽は、義兄である劉備からは多少の嫌味を感じるものの、弟分である『張の字』こと張飛からの純粋な称賛を受けたことで、満更でもない気持ちとなり、思わずニヤけそうになる口元を隠すために自然な形で自慢の髭を撫でつけていた。
基本的に関羽という人間は気位が高く扱いづらい人間ではあるが、それもこれも卓越した武力に加え、春秋左氏伝を暗記していると言える程度には知力も備わっているという自負が有るからこそ、このような態度を取るのである。
そんな関羽の態度はともかくとして、劉備を迎え入れた際に関羽の存在を知った公孫瓚は、彼に将としての資質を見出した。そして新たに編入された歩兵の訓練をしてもらうよう依頼をすることにしたのだ。
そんなこんながあって、今の関羽は公孫瓚直属である劉備の部下であると明言した上で、特別に客将に近い待遇で迎えられており、その扱いも正式な官位や役職こそ与えられては居ないが、新任の騎都尉と同じような扱いを受けていた。
こうして【州牧から直接頼まれたこと】に己の承認欲求を刺激されまくった関羽は、表面上は不機嫌そうな顔をしているものの、内心ではかなり満足しながら日々を送っていたりする。
……流石の関羽とて、追っ手の役人を警戒しながら日々の路銀にも事欠くような逃亡生活を送ることには辟易としていたので、その反動もあるのだろう。
そして張飛は張飛で関羽からの推薦を受けて、関羽の部下として賊の討伐軍に参加することが決まっており、これまた公孫瓚から支度金としてそれなりの給金を貰っているので、ここ数日の生活に不満は無かった。
……関羽ほどではないが、張飛も日々の食事に事欠く逃亡生活は相当堪えたようで、しっかり仕事すれば安定した給金を貰えるという当たり前のことに喜びを見いだしつつあるらしい。
両者の貧困に対する忌避感はともかくとしても、これまではあえて劉備のついでのような扱いを受けて、常に一歩引いた態度を取ってきた二人が、こうして前に出て功績を挙げようとしているのには、当然理由がある。
忠義に厚い二人が長兄である劉備を差し置いて功を挙げようとする理由とは、やはりと言うかなんと言うか、劉備が絡んでいる。
「んなこと言ってもしょうがねぇだろ兄貴。働かなきゃ銭は貰えんし、銭が無きゃ飯は食えねぇんだからよ」
「……そりゃそうだがよぉ」
「我らとて長兄に恥を掻かせるわけにはいかんからな」
「……そりゃありがてぇ話なんだけどよぉ」
「そもそも大将が俺らに給金を払えねぇのが駄目なんだろうが」
「……それもそぉなんだけどよぉ」
横で飲んでいた簡雍にまで諭されて不貞腐れる劉備だが、揃いも揃って正面から「元凶はお前だ」と言われてしまえば、劉備にはコレ以上反論することは出来なかった。
そう。今までは関羽も張飛も簡雍も、劉備に給金の支払いなどを求めてはおらず、共有の資金をやりくりするような関係であったのだが、ふとした拍子に公孫瓚から『良くお前に彼ら程の人材を雇うだけの財があったな?』と尋ねられた際に劉備が『ん?俺はコイツ等には給金なんか払ってねぇぞ?』と言ってしまったことで、問題が顕在化されてしまう。
信賞必罰。親しき仲にも礼儀あり。
人を従える以上は絶対に曲げてはいけない常識を蔑ろにしていた同門の後輩である劉備に対し、公孫瓚はそれはそれはもう激しい見幕で説教を行った。それを止めようとした関羽にも『甘やかすな!お前さん程の人間に対して満足に給金を払わないと言うことが、組織にどれだけの問題を引き起こすかってことをちゃんと理解しろ!』と飛び火してお叱りを受け、主従揃って一緒に説教を受ける羽目になった。
この場合、公孫瓚が言いたいのは『関羽にすら給金を払わない人間が、他の人間にどう見られると思う?』ということであり、また『関羽にすら給金を払ってないなら、関羽より劣る人間が配下に加わったらどうする気だ?』という問いかけも含まれている。
それを聞いた関羽は「確かに私以上に長兄の為に働ける人材と言うのは居ない。私は給金が欲しいわけでは無いので現状でも問題は無いが、他の人間はどうなる?一番働いている私が給金を貰っていない以上、他の者も給金を貰えないと思われるのではないか?」と、自分が給金を貰わないことで劉備の甲斐性が疑われる可能性に気付くことが出来たのだ。
その為、関羽は立場上劉備の配下であることを強調する為に、公孫瓚に対して「自分は劉備から給金を貰う形にしたいので、己の分の給金は劉備に払って欲しい」と頼んだが、劉備の金遣いの荒さを知る公孫瓚は笑顔でこれを拒否。
書類上は劉備の給金から関羽たちの分を差っ引く形にしているが、実際の支払いは本人に渡すよう主簿に言い含める徹底ぶりをみせていたと言う。
そんな彼らの財政事情はさておき。
「だけどよぉ。俺だって何かしてぇんだよ!」
「「「(((それか)))」」」
関羽・張飛・簡雍の三人は目を合わせ、同時に溜息を吐いた。
彼らの目の前で『何か仕事をしたい!』と嘯く劉備は、先述したように公孫瓚の直属の武官なので決して無職ではない。しかし公孫瓚の直属であるが故に、公孫瓚の命令無くして彼の側から離れることは出来ないし、州牧である公孫瓚の主な仕事はと言えば、言わずと知れた書類仕事なのである。
この為、直属の武官でしかない劉備には現状特に仕事は無く、雇い主である公孫瓚からも「何かあるときは呼ぶから、それ以外は自己鍛練に励んでいてくれ」と言われ、小難しい書物やらなにやらを手渡されただけであった。
普段は仕事なんかめんどくせぇ!と言って好き勝手に振る舞う劉備だが、こうして他の三人がしっかりとした働きをし始めているのに、自分は何もしていないと言うのは後ろめたいモノがあるらしい。
公孫瓚が聞けば「だから真面目に訓練したり、渡した書物を読み込んだり、自己鍛練に励めよ、と言ってるだろうが」と真顔で説教をして来るところだが、劉備の辞書に努力の文字は無いのだ。
「兄ぃの直属の部下ってのも良いんだけどよぉ。俺としちゃどっか適当な県の尉とかにしてもらって、自由にしてぇんだよなぁ」
更に言えば元々劉備は書物を読んだり、地道な訓練などよりも、闘犬を初めとした賭け事や派手な遊びを好む性質でもあるのだが、公孫瓚の目が光ってるところでは自由気ままに振る舞うわけにもいかず、さりとて勝手に離れることも出来ないので、暇潰しも満足にできないという現状にも不満がある。
とは言っても、現状公孫瓚には劉備を野放しにする気は無い。それは何故かと言うと……やはり劉備のこれまでの行いが原因であった。
「いや、そもそも大将が適当な県の尉とかになれるわけねぇだろ」
「あぁん?何でだよ?督郵についての冤罪は晴れただろうが」
「「冤罪?」」
冤罪を強調する劉備に、関羽も張飛も思わず首を傾げてしまう。今では張飛ですら『カッとなってやり過ぎてしまった。今は反省している』と反省の姿勢を見せていると言うのに、主犯がこれでは罪を免じた公孫瓚も浮かばれないと言うものだろう。
「冤罪に関しては深く触れねぇよ。だけど大将にはそれ以外にもあるだろ?」
「はぁ?何があるってんだよ!」
そんな公孫瓚の内心はさて置くとして。劉備の犯した罪は督郵の殺害だけではない。彼は自覚していないだけで、しっかりと罪を犯しているのだ。その罪とはズバリ職務放棄。
「何って大将、流石に職務を投げ棄てて逃げたら駄目だろ」
「いや、投げ棄てたって言ってもよぉ。……あれは仕方ねぇだろ?」
言われて自分のやったことに気付いたのか、劉備は苦い顔をする。
そうなのだ。督郵を殺したことについては、州牧の権限で無罪にすることは出来る。しかし、その後劉備は後任も決めず、引き継ぎもせずに、職務を投げ出して逃げたのだ。督郵殺害は本人や家族だけに迷惑をかける行為でしかなかった(それだって大問題だ)が、職務放棄が周囲に与えた影響はそれどころではない。
何せ一つの県(城壁に囲まれた一定以上の規模の街)の警備を統括する人間がいきなり消えたのだ。劉備の逃亡を耳にした洛陽が後任を決め、派遣するまでの間、どれだけ現場が混乱したかは想像に難くないだろう。
それを『仕方ない』の一言で済まそうとする劉備であったが、それはあくまで劉備の主観でしかない。
「あれを仕方ないって判断するのは大将じゃねぇからなぁ。つまるところ大将には信用が無いんだよ」
「はぁ?信用ってお前、俺と兄ぃの関係だぞ?」
「そりゃ公孫瓚の兄貴としてはともかく、州牧としては違うんじゃね?」
「州牧としては違うってのはどういうこったよ?」
「ん?同じような状況になったら大将は我慢できるのかって話さ」
「……なるほどなぁ」
こういった意味で自分に信用が無いと言われてしまえば、再度同じような状況になったときに我慢出来る自信がない劉備としても返す言葉は無かった。
もしも公孫瓚が史実のように劉虞と敵対していたり、青州や冀州で戦をしていて猫の手も借りたいような状況であったならば、劉備を戦術指揮官として使うこともあったかもしれない。しかし現状では無理をしてまで信用できない人間を要職につけるような状況でも無いので、とりあえず彼は劉備を目の届くところに置き、妙な真似をしないように目を光らせているのだ。
これには『関羽や張飛の暴走を抑える』という人質的な意味合いも無いわけでは無い。
「某から長兄に言えることとしては、とりあえず暫くは大人しくして、公孫瓚殿の信用を得ることですな」
しかし普段は劉備の行動を掣肘することが無い関羽であっても、何の展望もなく極貧生活を送るのは嫌なようで、今回ばかりは劉備が暴走しないよう、しっかりと釘を刺すことにしたようだ。
「……暫くっていっても、具体的にはどれくらい我慢しろってんだ」
幽州に来てから十日も経っていないにも関わらず、既にここまで不満が溜まっている劉備は、常識的な意見を言った関羽に対しても噛み付いてくる。
しかし関羽とて劉備の性格は重々承知の上である。
「そうですな。少なくとも半年以内には何かが起こるでしょう。だからそれまでは大人しくしておきなされ」
「は?半年?」
まさか具体的な期間を示されるとは思っていなかったのか、劉備は呆けた顔をしながらオウム返しに確認を取る。そんな劉備に対して関羽は、推測とは言いながらも何かしらの確信があるのか表情を崩さず、張飛や簡雍にも伝わるよう、真顔で頷き、言葉を続けた。
「うむ。あくまで推測でしかありませんが、間違いなく半年以内に何かしらの動きが有るでしょう。だからそれまでは銭を貯めるなり、己を鍛えるなりして備えを怠らないようにするべきでしょうな」
「これから半年って……あぁあなるほどな。そりゃ確かにそうか」
関羽の言葉を受けてその意味を考え、半年以内に何かがあることを確信したのか、簡雍も強く頷いて賛同の意を示す。
「いや、簡雍。一人で頷いてないで俺にも教えてくれよ」
未だに答えが分からない劉備とその横で無言で頷く張飛を見て、簡雍は「しょうがねぇな」と呟いて、関羽の言った『半年』という期間について説明をすることとなった。
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「いいか二人とも、まずこれは半年後っつーか、これから四か月後の話だ」
「「四か月後?」」
半年以内と言うなら確かに半年以内だが、一体何が有ると言うのか?
「そう。四か月後にな?」
「引っ張らなくていいからさっさと教えろぃ!」
焦らされたことに苛立ちを感じ、口調を荒くして詰め寄る劉備だが、簡雍が告げた次の言葉で、強制的に頭を冷やされることになる。
「……先帝陛下の喪が明けるんだよ」
「「あっ!」」
先帝こと霊帝が没したのは三年前の5月。そして今上の帝である劉弁が漢全土に宣言した自身が喪に服する期間は三年間。つまり、今年の5月で先帝の喪が明けることになるのだ。
そうなれば長安に居る丞相の劉協はともかく、王允や楊彪はどう動く?彼らと繋がりが有る袁術は?袁紹の立場は?大将軍の董卓は?
誰がどう動くかは不明だが、間違いなく大きなうねりが発生することになるだろう。
「なるほどねぇ。確かにそうだ。しかしそうか。半年か……」
関羽や簡雍の言いたいことを理解した劉備は、半年後を見据えて自身の不満を抑え込み、雌伏することを決意することとなる。
先帝の喪が明け、弘農の劉弁が表舞台に立ったとき、漢と言う国に何が起こるのか。そして史実では天下の大徳と謳われた英傑に、どのような運命が待ち構えているのか。
それを知る者は未だ居ない。
これにてG=サン回終了。今後暫くは出てきません。(振りじゃない!)
実際コイツ等って逃亡生活中のお金とかどうしてたんでしょうね?
YAMAで動物とか狩ってたり、山賊を襲ってたんでしょうか?
とりあえず、社員の筆頭である関羽すらに給料支払って無かったら、他の社員だって給料を貰い難いし催促も出来ませんよねぇ。これなんてブラック企業?ってお話
あと関さん。彼は春秋左氏伝を暗記していたと言われ、それを以て文武の才が有る!と言う方がいますが、この時代の知識人は兵法書を諳んじる程度のことは当たり前にしてますので、左氏伝だけを暗記しているのってそれほど珍しいことでも無いような気がするのは、作者の気の所為でしょうか?
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