食糧問題、その後に 3
キングが偽物か本物か、ゲームで決める事となった。
僕らはまず、懐かしいゲームを持ち出す。
有名な格闘ゲーム、ケプコンのストリームファイター4だ。
中学の当時、キングは地元では無敵だった。
もしこのゲームで負けるようなら、この人はやはり偽物だろう。
僕は携帯ゲーム機のネンテンドー3DOSを取り出す。
すると偽キングも鞄から同じ3DOSを取り出した。どうやらゲーマーとしての身だしなみ、携帯ゲーム機は持っているようだ。
「久しぶりだからな、上手くできるか……」
偽キングは早くも負けたときの言い訳を口にする。
「まずは私がチャレンジするよ」
ミサキは僕のゲーム機を手に取ると、対戦を始める。
その腕前は…… まあ、素人に毛が生えたくらいの腕前だ。
そして試合が始まる。
『ファイト!』
「えい!」
ミサキがいきなり大パンチで殴り掛かる。だが、相手までの距離が遠く全く届かない。
適当に大パンチを連打するミサキ、すると敵に捕まった。
大パンチの戻り際、全く無防備なミサキのキャラを偽キングの小パンチが襲う。
その小パンチがペチっとあたった後が酷かった、
中パンチ、キック、蹴り上げ、中パンチ、大パンチと流れるような連続攻撃が続く、
「missった」
偽キングのミスにより連続攻撃が止まりミサキは何とか生き残る、しかし一回の攻撃で体力ゲージの3分の1を持って行かれてしまった。
「ふふふ、勝負はこれからよ!」
ミサキはそれらしいセリフをはいたが、その後も特に良いところはなく、ボコボコにされて負けた。
「ミサキはゲーム四天王の中でも最弱、次は私よ!」
ジミ子はそう言うと、偽キングに挑戦する。
ところで、ゲーム四天王って誰だろう? もしかして僕も含められているのだろうか……
奮闘するかに思えたジミ子は、ほぼ一方的に負けた。
「しょうがねぇな、俺がいっちょもんでやるか!」
そう言って挑んだヤン太は、あっさり負けた。
「みんなの敵は僕が討つ」
僕はこのゲームは少し自信があった。
だが、ほんの少しだけだった、僕も惨敗する。
何とか偽キングの体力ゲージの3分の1は減らせたが、これが精一杯。
ちなみにこれでもクラスの中でも体力ゲージを減らせた方だ。
他にも何人か挑んだが、あっけなく返り討ちにあった。
ハッキリ言って僕らの手に負えない。2~3連続攻撃がやっとのこちら側に対して、向こうは7~10連続ぐらいは平気で繋げてくる。
これ以上、このゲームをやっても無駄だろう。
ここでキングを本物と認めても良いが、やはりあの容姿だと生理的に受け付けない。
そこで僕はキングの得意な銃撃戦のゲームで確かめる事にした。
わざわざキングの得意なゲームを選んだのには二つほど訳がある。
ひとつは、得意分野で負けたら言い訳が聞かない事。
もう一つは、このゲームが多人数に対応している事だ。
この銃撃戦のゲームはゲーム機はもちろんスマフォでもできる。
つまり、インストールさえすればクラスメイト達が同時で全員参加できる訳だ。
その人数差で言うと1対31人の銃撃戦。こちら側が負ける事は無いが、この状況でどこまで偽キングが奮闘できるのかが見所だ。
全員のスマフォにゲームを入れると、初心者に簡単な説明をして、クラスメイトでチームを組む。
舞台なるステージは偽キングに選んでもらった。
やがてゲームを開始すると、僕たちは戦場へと現れた。
それは、鉄パイプなどが複雑に入り組んだ廃工場のような場所だった。
『戦闘開始まで30秒、各自、ポジションに着いて下さい』
ゲームのアナウンスが流れる。
「ねえツカサ、このゲームどうすればいいの?」
初ゲームのミサキが僕に聞いてくる。
「ええと、見晴らしの良い場所に居ると打たれるから、何か身を隠せる場所に潜んだ方がいいかな」
「大丈夫でしょ、むしろ見晴らしがよければ相手の位置も分かりやすいし」
「まあ、それでも良いんじゃ無いかな」
こちら側は人数が多い、なんとでもなるだろう。
そして30秒はあっという間に立つ。
『3、2、1、スタートです』
「see ya」
『ダン、ダン』
直ぐに銃声が響く。
「……撃たれた、もう死んだ」
開幕とほぼ同時にミサキのキャラが死んでしまった。だが犬死にではない、
「どこから打たれたか分かる?」
敵の方向さえつかめば、数で追い詰める事は簡単だろう。
「いや、まったくわからなかった」
……どうやら犬死にだったらしい。
続いて教室内のあちこちからリアルで声が上がる。
「打たれた」「動かなくなった」「死んだ」
僕はみんなに問いかける。
「どこから撃たれてるか分かる?」
「あっちだ」「こっちだ」
と教えてもらうが、情報が多すぎて錯綜する。
「how!こっちだぜ、もらい」
また一人撃たれた。
ゲームは中盤に入り、ヤン太がたまたま偽キングの姿を見つけた。
「居たぞ、中央の倉庫跡地だ、みんなで突っ込むぞ!」
その声を受け、僕らは次々と倉庫へ突入する。
だが、僕らが倉庫に突入すると、待ち伏せされていた。
タイミングが合わず、単独で突入した者はことごとく撃ち抜かれた。
しばらくして倉庫で激しい銃撃戦となる。
こちらは銃を手当たり次第に撃っているのだが、全く当たらない。
「chance! もらった!」
偽キングの声が聞こえ、仲間が被弾する。
向こうは撃つと必ず当たり、見方は徐々に減っていく。
キャラ性能は同じなはずなのに、動きが全く違う。
人数が当初の3分の1程に減ったとき、生き残っていた僕らは逃げ出した。
冷静に考えると、かなり有利な場所を偽キングは最初から確保していた。
ヤン太に姿を見せたのはわざとだった可能性が高い。
そしてゲームは制限時間を迎えた。31人の仲間は6人まで減っていた。
ゲームの『対決』は戦いと呼べるものでは無く、ほぼ蹂躙に近い形で終わってしまった。
「しょうがねえ、キングと認めよう」
ヤン太が潔く負けを認める。
「あれだけ腕前を見せつけられるとね、認めないと」
僕も認めざる終えない。
それに、あんなに楽しそうにゲームをする人を、僕はキング以外には知らない。
「だから俺がキングだって最初から言っただろ」
胸を張ってキングが言うが、どこか照れくさそうだ。
そんなキングにミサキが質問をする。
「その姿は宇宙人の薬のせい?」
「ああ、多分な、痩せ薬みたいなもんじゃないかな、1日半、びちぐそがnon stopだったぜ」
「その姿でびちぐそはマズイと思うよ」
ジミ子が冷静に指摘をする。
たしかに、前の姿だったらなんら問題は無かったが、絶世の美女の口から『びちぐそ』は確かにまずいと思う。




