犯罪と捜査システム 3
宇宙人の犯罪取り締まりシステムが稼働しても、学校は通常と変わらない。
僕らは午後の授業を受ける。
授業中、スマフォが鳴る。
呼び出し音を消しており、バイブ設定なのだが、至る所でなりまくっているらしく。あちこちからブーブーと音が絶えない。
その原因はニュース速報だ、あのシステムが稼働してから指名手配犯の逮捕が相次いでいるらしい。
あまりのうるささに、現代社会を担当している内中先生が折れた。
「今日は特別だ、逮捕された犯人の解説をしてやろう。これも社会の授業のうちだ」
そういってテレビを付ける。
テレビでは手錠を掛けられて、頭から上着を被り、素顔を隠しながら留置所へと移動させられている人物が次々と写る。
内中先生は名前を確認すると、当時の社会情勢を交えながら犯人の解説をはじめた。
「この時代は就職氷河期といってな、就職が困難な時代に『口利きをして就職先を紹介してやる』って金を集めた詐欺師だ。一人あたりの被害額は小さいが、たくさんの被害者がでた」
「こいつは新しいな。晴れ着のヤツの経営者だ、やはり海外に逃げていたらしい。
しかし、どうせ晴れ着なんて一回しか袖を通さないんだから、あまり親に高いのをせがむなよ」
「この男……、まあ、いまは女だが、殺人を起こして精神鑑定で無罪を勝ち取ったヤツだ。
やはりあれは演技だったんだな。宇宙人の技術で『精神異常は偽物』だと分かったんだろうな」
僕らはこれらの解説を真剣に受け止める。
もしかしたらこの時間が、社会の授業としては一番役に立っているかもしれない。
やがてこの授業も終わると、放課後、僕らはいつものハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥへと向う。
メェクドナルドゥに向う途中、歩きながらヤン太がつぶやいた。
「犯罪者が分かるようになったのは良いけど、滅多に見られるもんじゃねーよな」
「そうだね。何年かに一度、あるかないかかな?」
僕がぼんやりと答えると、ジミ子が具体的な例を示した。
「それだと、交通事故とか見かける確率と同じかな?」
「そう言われると、そうかもしれない」
僕が相づちを打つと、ミサキが顎に指を添えながら、記憶の中から思い出す。
「私が見たのは小学生の時だったかな……」
その時は僕も一緒にいた、たしか車と自転車が接触して、ひざをすりむく程度のケガですんでいたはずだ。
僕らがそんな事を言っていたら、キングが叫び声を上げた。
「おい、あそこに例の矢印の付いた車が走っているぜ」
僕らはキングの指さした方向を一斉に見る。
かなり遠くの方だが、たしかに矢印の付いた車がこちらの方へ走ってきていた。
罪状はまだ遠くて読めない。
「なあ、警察に通報した方がいいのかな?」
ヤン太がそう言うが、僕が反論する。
「たしか警察には通知が行っているはずだよ。
僕らは犯人を刺激しないようにしてれば良いんじゃないかな?」
「そうね、できるだけ普通に振る舞いましょう」
ジミ子の意見を取り入れて、僕らは再び歩き出すのだが、どうも不自然だ。
歩き方はたどたどしいし、気になってチラチラと車の方を見てしまう。
やがてその車とすれ違う時だ。
僕らは罪状をみて愕然とした。
『制限速度12kmオーバー』
僕らの無駄な緊張は何だったのか……
「あせった、ビックリしたよ」
ミサキが胸をなで下ろす。ヤン太があきれながら言う。
「驚かせやがって」
「まあ、普段見かける犯罪なんてそんなものだよね」
ジミ子も安心して愚痴を言う。
このあとメェクドナルドゥに付くまでに、僕らはさらに矢印を4つほど見た。
3つの矢印は、いづれも車についており、
『制限速度14kmオーバー』
『制限速度8kmオーバー』
『一時停止ラインを徐行で通過』
その違反内容は、比較的、常識の範囲内での違反であり。たいていは見過ごされる程度のものだ。
のこり一つの犯罪は歩行者で、
『不法投棄 <タバコのポイ捨て>』
と、実に取るに足らない犯罪だった。
大した事は無いが、犯罪は以外と身近にありふれているらしい。
ハンバーガーチェーンで席に着くと、僕らの会話が始まる。




