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犯罪と捜査システム 2

 今日の昼すぎから宇宙人が犯罪の捜査に協力するらしい。

 警察と協力して犯罪者の取り締まりを徹底的に行なうようだ。



 僕はこれまで知らなかったのだが、犯人が自ら警察に(おもむ)き捕まる行為には、出頭と自首という二つの違う扱いがあるようだ。


 事件を起こし、犯人が誰だかわからないうちに警察に赴くと自首。

 事件を起こし、犯人がバレていて、今まで逃げ回っていた人物が警察に赴くと出頭。


 宇宙人のシステムの稼働はこれからなのだが、既に観念(かんねん)をしたのか出頭と自首が相次いている。



 昼の特別番組を前に、僕らは昼食を取りながら雑談をする。


「あの凶悪殺人犯、出頭してきたらしいぜ」


 ヤン太が話題をふると、ジミ子が質問を返す。


「凶悪殺人犯って誰の事?」


 ミサキが思い当たる事を口にする。


「九州のヤツだったっけ?」


 僕は他の犯人が浮かんだ。


「東北の連続殺人事件かな?」


 キングは海外の人物を思い浮かべたようだ。


Arizona(アリゾナ)州のヤツだろ9人を殺害した」


 だが、どれも外れだったらしい、ヤン太が慌てて訂正する。


「違う違う、近畿地方のヤツだよ」


 みんなバラバラの犯人が思い浮かんだようだ。

 まあ、無理もない。ここ3日の出頭と自首の数は、重犯罪者だけで100人を超える。軽犯罪も含めるとうちの国だけで4千人を超えたらしい。


「これ以上、犯罪者の名前はおぼえられないぜ」


 ヤン太がぼやく、もっともな意見だ。


「私は2日目あたりから憶えてないけどね!」


 ミサキが開き直って胸を張って言ってきた。

 まあ、たしかに。犯罪者の名前など、試験に出てくる訳でもないし、いちいち憶えなくても良いのかもしれない。



 そんな事を話していると、時刻は正午を迎える。


 テレビで特別番組の放送が始まった。

 ニュースのスタジオから春藤(はるふじ)アナウンサーが国民に注意事項を伝える。


「皆様、これよりプレアデス星団の犯罪取り締まりのシステムを開始いたします。

 我が国の犯罪率は低く、検挙率は高いのですが、これからは今まで以上に犯罪に対して強く取り締まりがなされます」


 つづいて春藤アナウンサーはテロップを出して解説をする。


「これからは何らかの罪状の犯罪者には以下のような情報を表示されます」


 テロップには人物のイラストの上に、赤い矢印と『犯罪者はここに居ます』という分かりやすいメッセージが書かれている。

 だが、これはイラストでの話だ。このような情報は実際にどうやって表示されるのだろうか?


 そう考えていると、


「これから訓練を行ないます。試しに皆さんにこの表示をしますので、確認をお願いします。くりかえしますが、これは訓練です。では表示します」


 春藤アナウンサーがそう言うと、僕ら全員の頭の上に1メートルはありそうな巨大な赤い光の矢印が現れ『訓練です。犯罪者にはこのような矢印が表示されます』という文字が表示された。


 おそらく日頃使っているプレアデススクリーンの応用だろう。

 これなら犯罪者が人混みに紛れて逃亡する事もできない。



 つづいて春藤アナウンサーは更に説明をする。


「この矢印は車に乗っていても、車の外からでも分かるように表示されます。

 家の中に隠れていても、家の外に現れます。

 森や山に潜伏していても上空に表示されます」


 車や家が描かれたテロップを見せながら、さらに注意を促す。


「犯人の情報は銀色の月から警察へと連絡が行き、やがて警察かプレアデス星団のロボットにより逮捕されますが、この間には犯人にはくれぐれも近づかないようにしてください。非常に危険です」


 ……これは犯人はたまったものではないな。全く隠れられない。

 すぐ全ての犯罪者は警察に捕まるだろう。


「では、訓練の表示を終えます。以上、政府からのお知らせでした」


 こうして特別番組が終わる。



「……これは、犯人が逃げるのは無理だな」


 ヤン太があきれたように言った。それにミサキも同意する。


「まあ、無理でしょうね」


 この意見にはほとんどの人は同意するだろう。もはや逃亡は不可能に近い。



 特別番組が終わると、テレビは普通の番組へと戻る。


『駅前でサラリーマンをつかまえて、その人について行き、いっしょに昼食を食べる』


 という、いつもならグルメ番組のような内容なのだが、カメラが駅前の人混みを写していると、赤い矢印が付いている人が映り込んでいる。

 カメラは当然、その人をズームアップする。すると『オレオレ詐欺、現金受取係』という罪状が表示されていた。


 レポーターはその人物に近づきマイクを向ける。


「あなたは詐欺をやっていますね?」


 なんのひねりの無い質問を浴びせかける。


「なにを言うんですか、私は詐欺をやっていませんよ」


 聞かれた人はそう答えるが、目が泳ぎまくり汗が噴き出してくる。


「またまた、ちゃんと書いてありますよ」


 そういってレポーターは例の文字を指さす。

 どうやら詐欺師の人は今まで気がつかなかったらしい。

 事実を指摘され、顔を真っ赤にしながら今度は怒り始めた。


「私が何をやったというんだ! 証拠があるのなら行ってみる!」


 その言葉を受け、表示されている文字が変わった、レポーターはそれを読み上げる。


「○月X日、Aさんから120万円を受け取る」

「○月△日、Bさんから70万円を受け取る」

「△月△日、Cさんから110万円を受け取る」


「……な、なにを根拠に、そ、そんな」


 そこまで言いかけた時だ、駅前の交番の警官に見つかったらしい。

 あっという間に手錠を掛けられて、その場で逮捕となった。


 詐欺師はうなだれて、大人しく警察の指示に従う。


「ああ、まあ、そうなるよね」


 ジミ子がポツリとつぶやいた。


 これからオレオレ詐欺は無くなるだろう、あんな矢印を付けた人物に現金を渡す人は居ない。

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