犯罪と捜査システム 1
放課後、ぼくらはハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥによって、雑談をする。
話題の中心は、先ほど行なわれた『第八回目の改善政策』の内容についてだ。
「今回の改善対策は良いんじゃないかな」
ミサキが勝ち誇ったような笑顔で言う。するとヤン太がそれを認める。
「確かに悪くなさそうだ、犯罪が減りそうだしな」
全くもってその通りだ。僕が具体的な例を言う。
「オレオレ詐欺とかも捕まりそうだね。今まではほとんど検挙できなかったみたいだけど」
すると、キングがスマフォで詳細なデータを調べてくれた。
「どうやら今までは検挙率は30%に満たなかったみたいだぜ」
「宇宙人ならそういう盗聴もお手のものでしょう、今後は減るよ」
ジミ子がニヤリと不適な笑みを浮かべながら言った。するとヤン太が嫌な真実を言う。
「ますますプライベートも覗かれることになると思うけどな」
確かに今以上に僕らは宇宙人に監視され、行動はおおむね把握されているだろう。
「まあ、犯罪が減るならしょうがないよ。宇宙人が来る前も防犯カメラとか街中にあったし」
僕はある程度は必要だと主張する。するとヤン太も納得したようだ。
「そうだな、スマフォとか、ドライブレコーダーとか、カメラ自体増えてるからな」
「カメラだけでなく、これからは音声も監視対象だぜ。
これからは通信元を即座にhackingされるだろうぜ」
キングがそう言うと、
「もう悪いことできないね」
ミサキが腕組みをしてうなずきながら返事をした。
今後は電話での詐欺は無くなるかもしれない。
「まあ、でも俺たちにはあまり関係なさそうだな」
ヤン太があまり関心がなさそうにつぶやく。
たしかに僕らに影響する事はないだろう。
そう思っていたら、ジミ子がチクリと指摘をした。
「気をつけないと、ケンカで逮捕されちゃうぞ」
「……まあ、外で決闘は控えるよ」
ヤン太は渋い顔をしながら言った。
どうやらまだケンカをする事を、あきらめていないらしい。
僕ら高校生には『犯罪の取り締まり』はあまり関心がない。
話題は姉ちゃんの宇宙旅行会社に移った。
「お姉さん、新たな事業開拓をしていたわね」
今回の事業開拓のきっかけとなったジミ子が話しを切り出した。
「そうね、ええと5万円くらいで1時間の旅だったっけ?」
ミサキがなんとなく番組の内容を思い出す。
「詳しい内容を姉ちゃんに聞いてみるよ」
そう言って僕は姉にLnieでメッセージを投げる。
「あれは凄かったよな」
ヤン太が遠い目をしながら、どことなく言った。
僕らも月面での体験の事を思い出す。
「すごかったね」「綺麗だったわ」「素敵だった」「Greatだったぜ」
少し思い出すだけで、いまでも鳥肌が立つ。
あの経験はそれほど貴重で特別なものだった。
みんながしばらく思い出に浸っていると、Lnieからメッセージが飛んできた。姉ちゃんからだ。
僕はさっそく確認をする。
すると、そこには文章と共にチラシのような画像が貼り付けてあった。
「姉ちゃんから画像が送られてきた。概要を言うね」
「うん、お願い」
ジミ子の要請を受け、僕は画像の要点を読み上げる。
「まず、宇宙旅行の出発拠点だね。とりあえず世界8大都市から行けるようにするみたい」
「いきなり大がかりだな……」
ヤン太が驚きながら言う。
「うん、そうだね。けっこう大々的にやるね」
さらに僕は説明を続ける。
「ええと、僕らも使ったガラス張りの『観測室』は銀色の月の表面上に等間隔にあって、合計すると1000以上あるらしいよ。
ただ『地球と月』が同時に見えるのは、そのうちの200~300個くらい。
観光用に使うのは、さらにベストの位置に絞り込んで、稼働させるのは50個ほどらしい」
「あの室内が50個あれば、かなり効率的に回せるね。
一室70人くらいは詰め込めるから、70人×50個×5万円で、時給1億7500万かあ」
ジミ子があの番組と同じくらい低俗な計算をしだした。
「さすがにその金額は無理だろ。でも下手すると1時間で1億円を売り上げそうだな」
ヤン太がそう言うと、キングがすかさず調べる。
「ちょっとsearchしてみる。うちの国の旅行会社のトップはJ丁βで年間売り上げ1兆4700億か。このくらい行ってもおかしくないんじゃないか?」
「え、1兆もいくの?」
ミサキが驚く。
本当にそんな金額いくのだろうか?
僕が試しに計算してみる。
「ざっと計算してみるよ、1兆円に届くためには、一日あたり27.4億円、24時間で割ると、時給1.1億円」
「ロボットで24時間運営すれば行けそうだな……」
ヤン太があきれながらつぶやいた。
「ええと、そんなに人がくるのかな? 一人5万円で1兆円だと2000万人か」
スマフォの電卓を叩くが、桁がおかしな事になっている。
僕がそう言うと、すかさずキングが詳細をしらべる
「東京ピッフサイ卜の年間来場者数が1400万人らしい。
ピッフサイ卜は昼間だけの運営だし、boothの入れ替えで休む場合もある。
365日、24時間だと、これは届きそうだな……」
そう言われてしまうと、それは極めて現実可能な数字に思えてきた。
姉ちゃんの新規事業に僕らがびびっていると、スマフォから緊急速報が流れてきた。
「なんだろう?」
僕がそう言うと、ヤン太は
「どうせ落雷注意とかの情報とかじゃねーの」
といってニュースを見ない。
しょうがないので僕がそのニュースを開くと、
『逃走中の重要指名手配犯、自首』
と見出しがあり、15年近く逃走を続けていた有名なテロリストが、警察に出頭したと書かれていた。
「これは宇宙人の監視システムから逃げられないと思って、自首してきたわね」
ジミ子は冷静に分析する。
この推理は正しかった、その日だけで有名な犯罪者が続々と出頭してきて、ニュースの方が追い付かない。
宇宙人の犯罪の監視システムの正式な実施は3日後だというが、その効果はもう表れていた。
そして日付は3日後の正午、それは本格的に始動する。




