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身だしなみ

 朝の食卓、姉ちゃんが問いかけてきた。


「弟ちゃん、そろそろ女の子としての身だしなみが分かってきたかな?」


「いや、まだ分からないよ」


 女性になってからまだ1月半とちょっと、まだまだ分からない事がたくさんありすぎる。



「ミサキちゃんに教えてもらってないの?」


「ミサキはちょっとズボラだから、身だしなみに関しては参考にならないかな」


「そんな事ないでしょう、ちょっと両手を上げてみて」


「なんで?」


「いいから」


 僕は言われるがままに両手を上げる、すると半袖のパジャマの裾から手を入れてきた。そのまま脇をまさぐる。

 くすぐったくてたまらない、思わず笑い声が口から漏れる。


「ふひゃふひゃふひゃ」


「……やっぱり脇の処理をしてないわね」


 姉ちゃんはそう言ってから、ようやく手を引っ込めた。



 僕は姉に強く抗議をする。


「何するの!」


「女子として、当然のチェックよ。全然駄目じゃない」


「いいんだよ、誰かに見せる訳でもないし」


「これからの季節、水着を着けると見えるわよ。授業とかでもあるでしょう」


「まあ、多分、あるけど」


「姉ちゃんがやり方を教えてあげるから」


「い、いいよ。このままで」


 僕は食事を口の中に放り込むと、逃げる様に家を飛び出し学校へと向った。



 学校で授業を受け、放課後はみんなと喋る。

 その日は何事も無く過ごし、家に帰ってきた。


 家に帰ると、母さんが


「お風呂沸いてるわよ」


 そう言われて僕はお風呂に入る。



 髪の毛をシャンプーで洗いつつ、ボディーソープに手を伸ばし、体も洗おうとした時だ。

 ボディーソープの中が空らしく、ポンプを押してもスカスカと抵抗がなく出てこない。


 たしかこの間、補充したばかりなのに、もう無くなってしまったらしい。

 うちには液体のボディーソープの他に、固形の石けんも使っているのだが、それも見当たらない。


 どうしようかと困っていたら、救いの手が洗われた。


「弟ちゃん、これ使って」


「あっ、うん、ありがとう」


 僕は差し出してもらったボディーソープを使い体を洗った……



 ……差し出されたって誰からだろう?


 あの声は姉ちゃんだった。

 なんで勝手に風呂場に入ってくるのだろう、これは後で強く言っておかないと行けない。


 そう思いながら、僕はゆっくりと湯船につかり、やがて風呂を出る。


 タオルで体を拭いている時に気がついた、無いのである。僕の脇毛が。


「えっ、なんで?」


 慌てて僕は渡されたボディーソープの容器を確認する。

 するとそこには『永久脱毛クリーム<髪と眉とまつげには作用しません!>』との文字が。


 ……やられた。僕の体毛は一本残らず無くなった。



 風呂を上がると、僕はリビングのソファーに座っている姉ちゃんに抗議をする。


「ああ、もう。何をするの!」


「渡したクリームをよく確かめずに使ったのは弟ちゃんでしょ。私は悪くないよ」


 確かに、僕はシャンプーしながらだったので、渡された物を見て居なかった。

 でも、あのタイミングで渡されたら誰だってアレを使ってしまうだろう。


「何であれを渡してくるの?」


「それは決まっているじゃない」


 そういうと、姉ちゃんはTシャツの裾から手を入れ、僕の脇をまさぐる。


「ふひゃひゃ、や、やめて、ふひゃ」


「姉ちゃんは悪くないよね」


 姉ちゃんは脇をくすぐりながら僕に同意を求める。


「ふひゃ、わ、わかった、悪くないから」


「それなら良いんだけど、本当にツルツルね」


 姉ちゃんは一通り僕の脇を堪能してから、ようやく解放してくれた。



「でも、さっぱりしたでしょ、弟ちゃん」


 姉ちゃんが全く悪びれずに僕に言う。


「まあ、脇はいいんだけどさ……」


「なに? 問題でもあった」


「下も……」


 ここで姉が事の重要性に気づいたようだ。


「ご、ごめん。本当にごめんね」


「あ、うん」


「あっそうだ、お父さんの育毛剤を使おう、生えてくるからさ」


「いや、まあ、そうだね」


挿絵(By みてみん)


 姉ちゃんが久しぶりに本気で謝ってきた。やり過ぎたと自覚をしたようだ。

 まあ、これに反省して少しは自重してくれれば、人類にとって有益になるかもしれない……

 僕の散っていった毛も(むく)われる。


 遠くを見つめながら、そう思った。



 後日、こっそりお父さんの育毛剤を確かめてみる。

 すると、サラサラのストレートのロングヘアが生えてきた。

 しょうがないので、また除毛クリームを使って取り除いた。

 エイリアンの技術は万能では無いらしい。


※イラストはseimaセイマ氏に描いていただきました。

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