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経営者と労働者 3

 ロボットの派遣事業が決まり、数日が経った。


 生徒達の間では、早くもロボットの目撃情報が入り始める。


『隣町のコンビニで見た』とか、『ガソリンスタンドで働いていた』とか、『早朝、新聞を配っていた』などなど。

 早朝に道端でばったりとあのロボットに出会ったら、ビックリしてしまいそうだが、いまのところ僕は見かけたことはない。



 昼休み、僕らはテレビを見ながら食事を取っていた。

 今日は政策発表の日ではないので、ごくごく普通の昼のニュースが流れている。


 流れているニュースは『自動車最大手メーカーのトヲタ、ロボット従業員を採用』という内容だ。

 最近、この手のロボットの採用ニュースが増えている。


 ロボットは大抵は簡単なバイトなどの代わり、もしく単純作業の機械の代わりとして採用される場合が多い。

 同じ作業を飽きることなく続けられるロボットには、こういった作業は向いているだろう。


 トヲタもてっきり組み立て作業の従業員として採用すると思ってニュースを見ていると、どうやら違うらしい。

 かなりの時給を払い、出荷前の最終チェックの要員として、このロボットを採用するようだ。


 あのロボットは宇宙人の高性能のスキャン機能を備えているらしい。

 その技術を使えば、機械の不具合など直ぐに見つける事ができるだろう。


 さすが一流企業。『使い捨ての作業員』と考えている一般企業とは目の付け所が違うと思った。



 ニュース番組ではトヲタの社長の演説のシーンが流れる。


「彼らの技術を有効的に活用すべきです、我が企業はプレアデス星団の技術を全面的に支持します」


 力強く雄弁(ゆうべん)に語る。その後、トヲタの社長は若い女性と握手を交わす。

 その女性はロボット派遣会社の社長。つまり姉ちゃんだった。

 食事中の僕は、盛大にむせた。


「ツカサ、大丈夫?」


 ミサキが心配して僕の背中をさすってくれる。

 どうやらミサキはニュースに気がついていないらしい。


「ご、ごめん、なんでもない」


「突然、どうしたの?」


「な、なんでもないから……」


 そう言いかけると、テレビから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「我が社では単純作業からエキスパート事業まで、様々なニーズにお応えする用意があります。

 ロボット達はまだ人間社会に対して認識不足の部分もありますが、学習機能により直ぐに現場に反映できます。

 料金もお安いプランもご用意しております。一度、気軽にお問い合わせ下さい」


 ミサキが声に気がつき、振り返ってテレビを見た。


「あっ」


「あれ、ツカサの姉ちゃんだよな……」


 ヤン太が僕にたずねる。


「はい、そのようですね……」


「すごいじゃん」


 ジミ子が素直に褒めてくれる。


「いや、名義だけの社長らしいから、大したことないらしいよ」


「従業員700万人のGreat(グレート)な企業じゃないか!」


 キングが情報を調べながら言った。余計な事は調べなくても良いのに……


「ああ、うん。あー、やっぱり別人かも。他人のそら似だよ」


 僕は無理矢理、話題をそらしたいが、ミサキはそんな事を許さない。


「こんど、お姉さんに直接聞いてみても良いかな?」


 僕は周りだけに聞こえるように小さな声で答える。


「……ごめん。あれ、うちの姉ちゃん」


「やっぱり。凄いわねお姉さん」


 ミサキは絶賛するが、アレはそんな良いものではない。僕は小さく反論する。


「ええと、本当に名義だけの社長らしくて権限とか何もないらしいから」


 すると、ジミ子が目を輝かせながら言う。


「それでも凄いよ。……よければ会えないかな?」


「えっ、うちの姉ちゃんと会うの? 会いたいの?」


「そう、お願い。是非あって見たい」


 そいうえばジミ子はうちの姉ちゃんあんまり面識が無いな。

 テレビのあのシーンだけだと、姉ちゃんはやり手の女社長に見えなくもない。

 間違って変な憧れを抱いてしまったのかもしれない。


「わかったよ、こんど聞いてみる」


「絶対にお願いね」


 こんなにジミ子が期待をしているのは初めてだ。

 姉ちゃんの真の姿は、あんな感じだというのに……



 そして、その週の土曜日。僕の家に集まって遊ぶことになった。

 目的の一つは姉ちゃんに会う事らしい……


 ジミ子が幻滅(げんめつ)しそうで心配だ。


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