人体エディット 1
改善政策の発表が終り、自由に容姿が変えられると分ると、教室内がざわつき始めた。
「どう変えようかしら」「顔だけじゃなく、体も変えられるのよね」
あちこちから声があがると、担任の墨田先生が注意をする。
「ほら、お前たち、少し静かにしろ!」
注意を受けると、クラスのみんなの少し声が小さくなるものの、おしゃべりは止まらない。ガヤガヤと話していると、テレビの方からティロン、ティロンと、臨時ニュースのチャイムが聞えてきた。
テレビにニューススタジオが映り、慌ただしい雰囲気の中、アナウンサーが原稿を読む。
「えー、ただ今、国会より緊急発表がありました。今回の改善政策で行なわれる容姿の整形についてですが、実際に施術を行えるようになるまで、5日ほど猶予が欲しいそうです。主な理由は免許証、マイナンバーカードなどの、写真での本人確認ができなくなると予想されるので、何らかの替わりの認証システムを導入したいそうです。宇宙人による整形サービスの開始までは、いましばらくお待ち下さい」
アナウンサーが短い告知をすると、臨時ニュースが終わった。どうやら実際に整形できるようになるまで、もうしばらく時間がかかりそうだ。
しばらく時間がかかるというニュースを聞いて、クラスのみんなが少しだけ冷静になる。
「さっきまでは、整形しなきゃと思っていたけど、無理して直さなくても良いかも?」「そうね、急いでやる必要は全く無いわね。周りの様子をみてからでも遅くないかもね」
確かに、整形などしなくても問題なく生きて行ける。焦る必要はまるで無いだろう。
教室は静けさを取り戻し、気がつけば、いつもの光景になっていた。
やがて授業が終り、放課後が訪れる。僕らはハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに行き、雑談を始めた。話題はもちろん、今週の改善政策についてだ。
「背が高く出来るのは良いよな。俺、試してみようかな……」
ヤン太が言うと、キングが反論をする。
「でも、遺伝子操作をするんだろ、ちょっと怖くないか?」
「怖いけど、いざとなれば元に戻せるとも言ってたぜ、やってみる価値はあるだろう」
ヤン太は身長が低い事を気にしている。体の整形に関して、かなり本気のようだ。
「ふ、ふふふ、これで豊満なバストが手に入るわ。どこまで大きくできるのかしら、とりあえず、できるだけ大きくしてみましょうかしらね」
ジミ子がブツブツと、独り言のようにつぶやいていた。こちらはヤン太以上に本気のようだ。どこか虚空をにらみつけるような目つきが、とても怖い。
ミサキがみんなに問いかける。
「でも、自分のやりたい整形をうまく伝えるのって難しいんじゃない?」
それを聞いて、僕が答える。
「確かにそうだね。番組でやっていたけど、目を大きくしてくれって言ったら、グレイ型の宇宙人みたいになってたし」
「そうね、背を高くしてくれって言ったら、下手すると2メートル以上にされたりするかもよ」
ミサキが冗談っぽく言うと、ヤン太が苦笑いを浮かべながら答える。
「さすがにそのサイズは困る。それだったら、今のままで良いな」
「バストサイズも、Zカップとかにされるかもしれないぜ」
キングがジミ子をからかうように言うと、ジミ子はさらりと答えた。
「私はZカップでもぜんぜん構わないけど」
目がマジだった。ジミ子はとことんやる気なのかもしれない……
僕は話題をそらすために、ミサキに話をふった。
「ミサキは何かやりたい整形とかあるの?」
「私はもう少し、背がほしいかしら。こう、シュッと、格好いい感じになりたいのよね」
「そのリクエストの仕方だと、とんでもない姿にされるかもよ。もっと明確にイメージを伝えないと」
「……そうかもしれないわね。もしかしたらガリガリに痩せた姿にされちゃうかも」
ミサキなら、ガリガリにされてしまっても、すぐに食べて体型を戻せる気がするけど…… まあ、余計な事は言わないでおこう。
「キングは何かやりたい事とかある?」
モデル体型のキングに話をふってみる。パーフェクトなボディのキングには徳に要望など無いと思ったのだが、こんな返事がきた。
「俺は、少し体が小さくても良いかな。バスの座席とか、乗り物の座席を狭く感じる事が多い。まあ、大した話じゃないから、わざわざ整形までして直そうとは思わないけどな。そう言うツカサはどうなんだ?」
実は、できるなら胸を少し軽くしたいのだが。
「いや、僕は特にないかな」
ジミ子の前では絶対に口に出せない内容だ。
この後、顔のパーツの話になる。目はどの女優が良いのか、鼻は、唇は、と、理想を話していると、姉ちゃんから僕のスマフォにメッセージが飛んできた。
『弟ちゃん、友達をさそってバイトをしてみない?』
『どんな内容のバイトなの?』
質問を出すと、すぐに返事がきた。
『整形のユーザーインターフェースのレビューをするお仕事かな。実際に使ってみて、色々と意見が聞きたいのよ』
『ユーザーインターフェースって、どんな感じなの?』
『時間があまり無いから、今回はゲームからの完全移植ね。パラメーターをイジると容姿が変る感じなんだけど。もちろん、実際に整形を実行するわけじゃなくて、整形後のイメージを作り出すだけなんだけど、興味はあるかな?』
僕はスマフォのメッセージを、みんなに見せながら聞く。
「こんなバイトのお誘いが来たんだけど、みんなはやってみる?」
「おう」「興味はあるぜ!」「もちろん」「やってみたいに決まってるじゃない!」
「じゃあ、全員参加で返事をしておくね」
こうして、僕らはレビューのバイトを引き受けた。ゲームのキャラクター作成でも、色々と種類がある。はたして、どんなシステムになっているのだろうか。




