第39回目の改善政策 2
宇宙人が、『キャラクター・エディット』を出来るようにすると言い出した。初めは何の事だか分らなかったのだが、話を聞いてみると、どうやら容姿をいじれるらしい。
福竹アナウンサーが、宇宙人から詳細を聞き出す。
「容姿を自由に変更できるわけですね。どの程度まで出来るようになるんでしょうか?」
「人間としての限界はあるケド、かなり自由にできるネ。ホログラムで確認もできるカラ、試してみるカネ?」
「おっ、面白そうですね、やってみましょう」
宇宙人が、福竹アナウンサーに質問をする。
「どんな容姿に変えてみたいカネ?」
「えーと、私としては、あまりリクエストは無いんですよね。良くも悪くも、この顔でお茶の間に定着していると思いますし。あまり変更してしまうと、他の仕事にも影響が出るかもしれないので…… そうだ、スタッフの中で、誰か立候補者はいませんか?」
すると、画面の手前の方から手があがった。
福竹アナウンサーが、手招きをしながら、スタッフを呼び寄せる。
福竹アナウンサーが、スタッフの1人を紹介する。
「こちらは、サツキさんです。番組のADとして働いてもらっています」
「はい、サツキです。ADとして、下働きさせてもらっています」
サツキさんは、ガチガチに緊張した様子で答える。いつも放送に立ち会っているハズだが、テレビに出るのは初めてらしい。
続いて、福竹アナウンサーは宇宙人に質問をする。
「『ホログラムで確認』とおっしゃっていましたが、実際の容姿をいきなり変えたりはしませんよね?」
「変えないヨ。変更後のイメージを表示するだけネ。確認してOKなら、その後で遺伝子を書き換える工程に移るネ」
「遺伝子の書き換えですか…… ちょっと怖いですね」
「大丈夫ダヨ。変更前の遺伝子情報も保存しておくカラ、いつでも元の容姿に戻れるネ」
「なるほど、戻れると聞いて、少し安心をしました。とりあえず、今日は遺伝子書き換えは無しで、ホログラム映像の表示だけでやりましょう。どんな変貌ができるか、見られるだけでも、お茶の間には十分に伝わると思いますので」
確かに、映像で確認できるだけで十分だ。実際に遺伝子書き換えまでする必要はないだろう。
「どんな容姿に変えてみたいカネ?」
宇宙人がサツキさんに質問をすると、サツキさんは早口で答える。
「やはり目を大きくしたいですね。くりっとした黒目の大きい目が良いです。鼻は高くなくても良いですが、小鼻がシュッとした感じで。顎もシュッとして、細くて尖った感じが良いですね」
「体型に関しては、要望があるカネ?」
「体型も変えられるんですね。実は二の腕やふとももの太さが気になってまして、細くしてもらえれば理想ですね」
「要望をかなえると、こんな感じになるヨ」
宇宙人が整形後のホログラムを表示する。そこには、白目の無い巨大な目、異様に小さくなった鼻、必要以上に華奢な細い顎、針金のように細い手足。まるでグレイ型の宇宙人のような、変わり果てたサツキさんの姿があった。
「えっ? これは……」
そう言って、言葉を失うサツキさん。まあ、こんな姿が出てきたら、無理もない。
福竹アナウンサーが映像を見ながら、冷静に質問をする。
「ここまで体を変えられるのですね」
「ソウネ、かなりの範囲で変えられると思うヨ」
「体の骨格とかもイジれるようですが、例えば身長とかは、どのくらいまで伸ばせるんですか?」
「230センチメートルくらいまでダネ。それ以上に大きくすると、人としての限界を超えるので、他の部分にも『手直し』が必要になるネ」
「『手直し』を適用すれば、もっと高くなれるのですか?」
「4メートルくらいまでは、問題なく伸ばせるネ。ただし『手直し』をした人物は、もう『人間』としては分類できなくなるかもしれないネ」
「つまり『人間』を辞めるという事ですか、それはそれで新たな社会的な問題が出て来そうですね……」
4メートルの人間と聞いても想像できないが、そんな身長だとバスや電車に乗れそうにもない。色々と考えないといけないだろう。
しばらく画面の端で呆然としていた、サツキさんが、気を取り直したらしい、宇宙人に再びリクエストをする。
「顔の形は今のままで、鼻だけ高くできませんか? できるだけ高い方が良いんですが……」
「分ったヨ。こんな姿になるネ」
再び出てきたホログラムには、国民的な漫画、ウンピースの狙撃手のワソップのような、ありえないほど鼻が突き出た画像が出てきた。
これを見て、福竹アナウンサーが、ポツリと独り言のように言う。
「整形の技術は凄いですが、しっかりとしたイメージを伝えないと、とんでもない姿になるかもしれませんね……」
宇宙人に人類の美的感覚は通用しないらしい。下手をすると大変な事になりそうだ。
福竹アナウンサーが時計をチェックしながら言う。
「そろそろお時間になりました。いつものアンケートのご協力をお願いします」
僕は、整形にはあまり興味が無いが。見た目のコンプレックスを抱えた人が、この政策で解消できるようになるなら、悪くないのかもしれない。
とりあえず、アンケートには『賛成』を入れておく。
しばらくすると、アンケートの結果が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 91%
悪かった 9%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 87%
支持できない 13%』
結果を見て、福竹アナウンサーが感想を言う。
「賛成する意見が、圧倒的に多かったですね。予想以上の賛成票です」
「ソレだけ、容姿で苦労している人々が多いんじゃないカネ?」
「そうですね。想像以上に、外見による格差はあるのかもしれませんね。アナウンサー業界でも、外見重視の傾向は強いです。今回の改善で、無くなると良いですね」
福竹アナウンサーが、しみじみと言う。確かに、芸能界だと見た目が最重要な気がする。
福竹アナウンサー感慨に浸っていると、スタッフから注意される。
「おおっと、もうお別れの時間です。また来週お会いしましょう」
「マタネー」
2人が手を振って番組が終了した。
これからは人類は、外見を自由に変えられるだろう。その気になれば、グレイ型の宇宙人のようにもなれるのだから……




