制服とスカート 4
学校に着くと、僕の姿を見たジミ子は一瞬おどろいた様だが、ミサキの姿をみてピンと来たらしい。
ヤン太と同じく、ニタニタと妙な笑顔をしている。
一方、キングはあまり関心が無いようだ。まったく気にしていない。
僕らは結局、着替えること無く1時間目の授業へと突入してしまった。
そして1時間目の授業が終わる。すると、ほかの元男子が僕のそばにやってきた。
てっきりからかわれるかと思いきや、
「お前も大変だな」「頑張れよ」
どちらかというと同情の声をかけてくれた。
クラスの連中は僕とミサキの仲を知っている。
ミサキの学ラン姿を見て状況を察してくれたらしい。
そんな彼らに余裕の全くない無い僕は、
「うん、ありがとう」
と苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。
その後、僕は休み時間ごとにミサキに着替えを強要するのだが、毎回適当な理由をつけて断られた。
結局、この日は一日中、僕は女子の制服のまま過ごした。
授業が終わり放課後、ミサキが
「ファッションセンターしまぬらに寄ろうよ」
と言い出した。
何か目的があるのだろう。特に目的のない僕たちは、それにつきあう事にした。
移動しながら、ミサキは言う。
「今日のツカサの制服はどうだった?」
みんなに意見を求める。
「あんまりfeelingに違いは無かったな」
キングが素直な感想を言う。それにジミ子も賛同した。
「そうね、違和感は感じないわね」
「僕は違和感だらけなんだけど?」
僕が反論すると、珍しくミサキはその意見に同意してきた。
「そうね。私も違和感がある。どうしても許せない事があるんだけど!」
そして、すこしイラッとしたミサキは、次の瞬間、僕のスカートを全力でめくった。
あらわになる僕のパンツ。
「なっ、なにするの?」
「ね、なしでしょ?」
「ないわ」「No goodだね」「たしかに」
僕のパンツを見た全員が僕にノーを突きつけてきた。僕は反論する。
「な、なんでダメなんだよ?」
「ダメでしょ、スカートはいてるときの下着がトランクスは」
ミサキが頭を抱えながら、あきれた調子で言い切った。
「いや、べつに下着はどうでもいいでしょ」
「ダメだよ。授業中、意図的になんども見せてたし、身だしなみとして。お姉さんも『無しだね』って言ってたわよ」
「見せてないよ! それに姉ちゃんにも言ったの?」
「今日の休み時間に報告の電話をいれたら、『無し』だってさ。
『弟ちゃんを何とかして』って頼まれたよ」
姉ちゃんが絡んできた。
……どうしようか。
下手に逆らうと、姉ちゃんは『下着は女性のモノを着用する法律』とか提案しそうだ。
ここは素直に女性用の下着を1枚だけ買って、ミサキに従った方がよさそうだ。
「わかったよ、じゃあそれで」
僕はしぶしぶ承諾すると、ファッションセンターしまぬらへと向かう。
しまぬらへ到着すると、キングは入り口横のベンチに座り、携帯ゲーム機を取り出した。
「俺はここに居るから見て来なよ」
キングは本当にこういった事には興味が無い。
僕たちは店の中へと入り。下着コーナーへと向かう。
「これがいいんじゃないの」「これカワイイ」
女子はあれやこれや物色をしている。だが、元男性に女性用の下着コーナーはやはり恥ずかしい。
前回はブラジャー…… もとい胸サポーターだったが、今回はパンツだ。前にもまして周りを見てられない。
ここで僕はふと考えが浮かんだ。
前回、来たときは『元男性のための胸サポーター』といった専用コーナーが出来ていた。
今なら男性の下着コーナーにそういったコーナーが出来ていてもおかしくない。
僕とヤン太は女子が目を離した隙に、男性用とおぼしきコーナーへと逃げ込んだ。
男性用コーナーには、Yシャツ、ネクタイ、カジュアルな服などが置いてあるのだが、おかしい。
肝心な男性用の下着のコーナーが無くなっている。
一通り見たが探し出せず、僕は店員さんを呼び止めて、こう聞いた。
「すいません。紳士下着とかのコーナーありますか?」
「いえ、もうメーカーが生産していないので、無くなりました」
「えっ、生産中止ですか?」
「ええ、なんでも生産を中止すると減税されるとかいう話で、大手メーカーはこぞって生産を停止しましたね。
それにこのタイプの下着は、これから先細りになると判断したようですよ」
なんてこった。ここに需要があるというのに……
僕たちは愕然としていると、ミサキとジミ子に見つかり、そのまま女性用のコーナーに引きずり戻された。
ここから先は、女性の独擅場だった。
僕から出した条件は、ただ一つ。「合計2000円以内」
するとミサキとジミ子は、「アレが良い」「コレも必要」と、商品をカゴに放り込む。
さらに「これ、カワイイから私が買ってあげるよ」
ミサキがひときわ布面積の小さい下着を、買い物かごに放り込む。
この下着は一番布が少ない割には、値段が一番高かった。
女性の世界の仕組みは難解だ。まるでよく分からない。
僕が女性用の下着を購入し、外で待っていたキングと合流する。
そこで、こんな話題になる。
「男性用の下着、もう製造していないって店員さんが言ってたよ」
キングが驚く。
「マジかよ、ちょっと調べてみる」
キングが大手通販サイトを調べるが、
「本当だ、製造停止になってるわ」
残念な事実が判明するだけだった。
「オークションとかだとまだ有るんじゃねーの」
ヤン太がそう言うと、またキングが調べてくれた。
「有るにはあったが、マジか……
中古のパンツが5000円とか出てるぜ。premium価格だ」
……そんな値段のパンツは買えない。
帰り道、これからの男性用下着の行く末について語りながら、この日は解散となった。
今日、ぼくは女性用の下着を買ってしまったが、これを付ける日は当分、先になりそうだ。
少なくとも今付けている男性用の下着が全滅するまでは出番はないだろう。
ミサキと別れて、僕は自宅に入る。
すると玄関で姉ちゃんが宅急便の人に荷物を渡していた。
「ありがとうございます。またのご利用、お待ちしております」
宅急便の人はそう言って何個か段ボールを持って行った。
「姉ちゃん、何を発送したの?」
僕は姉にたずねる。
「荷物の発送だよ、オークションサイトの。ミサキちゃんから有力な情報を聞いてね」
ミサキから…… どんな情報だろうか?
「いったい何を売ったの?」
「弟ちゃんの下着だよ。メルキャリでかなりの高値が付いたよ。喜んで」
「なんで勝手に売っちゃうの!」
「ミサキちゃんが『これからツカサの女性用の下着を買いに行きます』って報告があったから、もういらないと思って。大丈夫。入ったお金はそのまま渡すから」
「…………」
今日買ってきた下着は、思いのほか出番が早かった。
後日、男性用タイプのトランクスの下着を販売しているサイトを見つけた。
やはり少ないが、需要はあるようだ。
その広告内容は、
「100パーセント、シルク素材を使用した。最高級品です。
ただいま、ご盛況につき、お届けまで3ヶ月掛かります。お値段は37,000円となっています」
……とても高校生の手の届く値段ではない。
僕が37,000円あったら、最新鋭のゲーム機を買っている。
先日届いたプレイディアステーション5のゲームをやりながら、僕はそう思った。




