表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

558/567

ハリウッドスター来襲 6

 お寺の訪問が終り、僕らは空飛ぶバスの中へと戻って来た。

 ハリウッドスターのザシャさんが、次の観光地のリクエストを言う。


「お寺の次は、温泉に行きたいわ。温泉はとてもリラックスができるみたいだから」


「えっ? 温泉ですか?」


 僕が聞き返すと、ザシャさんは当然のように答える。


「そうよ、日本にはどこにでも温泉があるのでしょう?」


「どこにでもある訳ではないのですが、たしかに外国と比べれば多いと思います。ザシャさんがのんびりと入れそうな、大きな温泉がないか、ちょっと調べてみますね」


「頼んだわよ、とても楽しみにしていたの」



 僕たちは集まり、ザシャさんに聞えないように、小さな声で打ち合わせをする。


「温泉だって、どこか良い場所がないかな?」


 僕がみんなに聞くと、ミサキが真っ先に答えた。


「あそこで良いんじゃないかな、私たちが行った人工温泉の施設。ここから近いし、温泉の効能も自由に選べるし」


 すると、ジミ子がそれを否定する。


「いや、無理でしょう。あそこは個人用の小さなバスタブがメインだから、ザシャさんが入れるような湯船は無いわよ」


「そっか。それもそうだわね。他の場所を考えないと」


 ミサキも納得して、提案を引っ込める。

 あの場所は、元は銭湯だったので、3~4メートルくらいの湯船もあるのだが、それでは小さすぎてザシャさんが浸かれない。最低でも7メートルくらいは欲しい所だ。



 ヤン太がスマフォで調べながら言う。


「確か、あの銭湯のそばに、でかい温泉施設があっただろ。あそこはどうかな?」


 僕もスマフォで調べて見ると、その温泉施設が出てきた。地上4階建てで、温泉だけではなく、レストランに広大な休憩所、それに漫画図書コーナーなども備わっている、一日中過(いちにちじゅうす)ごせるような立派な施設だ。

 湯船も10メートルくらいはありそうで、ここなら問題はなさそうだが、僕が致命的な弱点を見つけてしまう。


「あっ、クチコミにいつも混んでいるって書いてあるね。ザシャさんが人混みの中に現われたら、大変な事にならない?」


「そうよね。ハリウッドスターだから、人に見つかったら大混乱になるわよね」


 ミサキが(うなず)きながら答えた。湯船に突然サメが現われたら、みんなパニックになるだろう。この場合、ハリウッドスターかどうかは、関係ない気がする……



「ここなんかどうだろう。あまり人が居なさそうな温泉だぜ」


 キングがそう言いながら、スマフォを差し出す。

 それは海沿いにある温泉だった。岩場の一部をコンクリートで固めて、大きな湯船を作っている。

 波しぶきが掛るほど海に近くに湯船があり、眺めも素晴らしい。海を一望(いちぼう)できるロケーションだ。


 人も居なさそうで、湯船の大きさも問題ないのだが、ポツリとヤン太が言う。


「この湯船に、巨大なサメが入っていたら、色々と問題にならないか?」


「まあ、確かにそうだな…… 場所がリアルすぎる。他を探すか」


 キングがあきらめて、新たな場所を探し始めた。確かに、この場所でザシャさんを他の人に見られたら、全く言い訳ができない気がする。



「そうだ! 貸し切りの温泉の場所はないかな? 貸し切りのお風呂だったら、他の人に見られる心配も無いし」


「それは良いんじゃないか。探してみようぜ」


 僕の提案に、ヤン太が賛同する。こうして、全員で貸し切りの温泉を探し始めるのだが……



「あー、貸し切りのお風呂は、ある事にはあるけど、どれも小さなお風呂ばかりね」


 ジミ子がスマフォを操作しながら言うと、キングも相槌(あいづち)を打つ。


「そうだな。貸し切りというと、家族風呂がメインだから、2~3人くらいの風呂しかないな」


「うーん、ダメか。他に良い場所はないかな?」



 しばらくすると、ミサキが何かを見つけたようだ。


「こんな場所はどうかな? ホテルのお風呂なんだけど、日帰りの温泉もやっているみたいなのよ。人もあまり居なそうよ」


 そう言いながらスマフォの画面を見せてきた。


 そこは、ひなびた温泉街の外れにある、(さび)れたホテルだった。20年くらい前に、素人が作ったようなホームページには、湯船の写真が載っていて、確かにザシャさんが入れそうな大きさがある。



 キングが自分のスマフォで、このホテルの情報を、さらに調べる。


「ええと、名前は『ホテル極楽(ごくらく)』か。 ……クチコミとか、いっさい見つからないんだが、ここは大丈夫なのか?」


 ヤン太も不審な目で見つめる。


「そもそも、ここは営業しているのか怪しいな。もう廃業しているかも?」


「ちょっと、問い合わせてみようか」


 僕が連絡先を見ると、メールやトゥイッターなどの連絡先は無く、電話番号があるだけだった。



 他の連絡手段がなさそうなので、電話をかけてみると、コール音はするのだが、誰も電話に出てこない。


「うーん、留守なのかな?」


 すると、ジミ子が言う。


「いや、ホテルが留守って事はないでしょ」


「それもそうか。じゃあ、もう営業をしていないのかな……」


 そんな事を言っていたら、ガチャリと音がして、電話に人が出た。



「はい、こちら『ホテル極楽』です」


 電話に出たので、僕が慌てて答える。


「あっ、ええと、日帰りの温泉を利用しようと思っていまして……」


「はい、いつ頃、おいでになる予定ですか?」


「あー、今から行こうと思うのですが、けっこう遠いので2時間くらいかかるかもしれません」


「まあ、それなら大丈夫ですね。準備してお待ちしております」


「あっ、はい。それでは失礼します」



 とりあえず確認ができたので電話を切る。すると、ミサキが直ぐに聞いて来た。


「どうだった?」


「えーと、いちおう大丈夫みたい」


「じゃあ、行きましょうか。私が見つけ出したホテルだから、きっと良いホテルよ。運転手のロボットさん、この『極楽ホテル』って場所に向ってちょうだい」


「了解しまシタ。出発しマス」


 目的地を指定されたので、空飛ぶバスはゆっくりと進み出す。

 ミサキの選び出したホテルか…… 本当に大丈夫だろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] … 映画的展開になりそう
[一言] 水棲の生き物は水中に入ったら泳ぎたくならないかな? 10mの風呂でも狭そうだ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ