ハリウッドスター来襲 4
「これは、笹吹アヤカの妹さん、よく来てくれました!」
お寺の住職に声をかけられた。この住職は、お金を儲けしか考えていない。ここにハリウッドスターが居ると分れば、大変な事になるだろう。僕が適当な話題を振って、ザシャさんから気をそらす。
「はい、お久しぶりです。グッズの売れ行きの方はどうですか?」
「なかなか好調ですよ。おかげで今年は慈善事業のウニセフへの募金が、最高額に届きそうです。宇宙人さまさまですね」
そう言って、住職はにんまりと笑う。
このお寺の利益のほとんどは、募金されているらしい。この商売も、いちおう善行という事になるのだろう。ただの金儲けという訳でなく、大義名分があるので、余計にタチが悪いきもする……
「こんどまた、ご学友の方との写真を撮らせて下さい。実は、新しいグッズを作る計画がありまして…… おや、そちらの方はどなたでしょう? ただならぬ気品を感じるのですが?」
そう言って、ザシャさんのホログラムの方を見つめる。たしかに彼女は一般人ではなく、大物ハリウッドスターだ。
「あら、気品があるなんて、お世辞でも嬉しいわ。このお寺に、少し寄付をしちゃおうかしら」
「これはありがたいですな。あちらのプレアデス如来さまの前に、『おさい銭箱』がありますよ」
「うーんと『おさい銭箱』って何かしら?」
外国人のザシャさんに、僕が説明をする。
「お願いをする時に、神様にお供えするための、お金を入れる箱の事ですね」
「あら、ブッダは物欲を捨てたと聞いているのだけど、お金を取るの?」
「ええと、それは……」
僕が言葉に詰まると、住職がフォローしてくれる。
「娑婆を生きていくには何かと必要なのですよ。霞を食べて腹が膨れるはずもないですしな」
この説明に、ザシャさんは納得したようだ。
「まあ、それもそうね。教会の神父だって、生きて行くのにお金が必要でしょうから。そうそう、手持ちのお金がドルしかないのだけど、寄付するお金はドルでも平気かしら?」
「ドルでも構いませんが、我が寺のおさい銭箱は、電子マネーにも対応しておりますよ」
「便利ね。じゃあ、電子マネーで決済しましょう」
僕らはプレアデス如来の前に行く。像は3メートルくらいある。座禅を組んだ仏像なのだが、顔だけが例の宇宙人の顔に置き換わっている。はっきり言って、この仏像には違和感しかない。
「どうやってお祈りをささげるのかしら?」
ザシャさんに言われて、ミサキが答える。
「こんな感じで、お金をおさい銭箱に入れて、手を合わせて、願い事を考えます」
ミサキの説明を聞いて、キングが言う。
「あれ?『二礼二拍手一礼』じゃなかったっけ?」
すると、ヤン太が反論をする。
「それは神社だろ? ここはお寺だから違うんじゃないか?」
「そうだな。じゃあ、どうするんだ?」
「そう言われると…… お寺だとどうすれば良いんだろ?」
ヤン太とキングが困惑していると、住職が説明してくれる。
「お寺だと、お賽銭を入れた後に、手を叩かず合掌して祈りをささげ、最後に一礼をするのが一般的です。ただ、うちでは二礼二拍手一礼をしても構いませんよ。どのような様式でも、仏様に対して敬意が伝われば良いんじゃないでしょうか」
ジミ子がみんなに言う。
「せっかく、ちゃんとしたやり方を教わったんだから、正式なやり方でやりましょう」
「そうだな、やってみよう」
ヤン太が小銭を入れて手を合わせる。僕らも、その後に続くように祈りをささげた。
ザシャさんも、僕らの後に続くのだが、おさい銭が電子マネーなので、やり方が違う。
「電子マネーのおさい銭は、どうしたら良いのかしら?」
「おさい銭箱の奥にあるQRコードの画像を読み取ってください。その後に金額を入れていただければ結構です。金額は10万円などでも構いませんよ」
住職が冗談まじりに説明をすると、ザシャさんはまともに受け取ったらしい。スマフォを出して来て、QRコードを読み取り金額を入力する。
「わかったわ。10万円ね。これで良いかしら、さてお祈りをささげましょう」
ザシャさんが祈りをささげている間に、住職はスマフォを出して、何かを確認する。
「ほ、ほんとうに10万円、振り込まれておる……」
さすがハリウッドスターだ、軽い気持ちで10万円を出してしまった。
祈りが終わったザシャさんに、住職が申しわけなさそうに言う。
「あのぅ、10万円は冗談で、さすがにこの金額をもらう訳には……」
すると、ザシャさんが不思議そうに答える。
「10万円じゃ少なかったかしら? 教会への寄付はこのくらいが普通だと思うのだけど?」
「いやぁ、多すぎます。この金額だと生活に支障がでるのでは?」
「気にしないで取っておいて。私、かなり稼げているから大丈夫よ」
住職がしぶしぶ納得をする。
「……そうですか。それでは頂いておきます。そうだ! 何か特別な祈祷をしましょう。厄払いなどどうですか?」
「厄祓いって何かしら?」
僕がザシャさんに説明をする。
「ええと、『厄』とは不幸な出来事で、不幸が身に降りかかってこないように、お祈りを捧げるような儀式の事ですね」
「私に不幸な出来事は降りかかってこないと思うけど、宗教的な儀式は見てみたいわね。お願いできるかしら?」
「はい、ではこちらへどうぞ」
住職につれられて、僕らは本堂の中へと入る。




