ハリウッドスター来襲 3
空飛ぶ巨大ザメ、ザシャさんは、日本の神社かお寺に行きたいらしい。
僕らは行き先の候補を話し合う。すると、地元の『宇宙寺』と呼ばれる、少し変ったお寺が候補にあがった。
本当は普通のお寺の方が良かったのだが、他に思い浮かばないのでしょうがない。
ザシャさんを、その場所に連れて行く事にした。
みんなを代表して、僕がザシャさんに報告する。
「ええと、行き先は決まりました。表に空飛ぶバスが止まっていますので、そちらへ移動をお願いします」
「わかったわ。外のバスね」
ザシャさんはそう言うと、胸ビレで器用に窓を空け、表へと飛び出した。ここは2階なので、普通なら大惨事になるところだが、ザシャさんは空が飛べる。空中をゆったりと泳いで、浮かんでいる空飛ぶバスへと乗り込んだ。ちなみに、空飛ぶバスは天井が開閉式の、オープンカー仕様らしい。天井が大きく空いていた。
「あなたたち、先に待ってるわよ~」
ザシャさんがウインクを飛ばしながら言う。
「は、はい。今すぐ行きます」
僕らは慌てて階段を降りると、空飛ぶバスについている付属のエレベーターで、地上から上空のバスへとあがる。
空飛ぶバスは横幅が5メートルくらいあり、とてもデカいので、道に止めると他の車が通れずに渋滞を起こしてしまう。そこで、バス本体は常に浮いていて、乗り降りする乗客は、この付属のエレベーターを使うのが、定番となっていた。
エレベーターで登っている時に、ヤン太がポツリとつぶやく。
「空が飛べるって良いよな、格好いいぜ」
ミサキもそれに同意する。
「そうね。サメって種族は、本当に便利よね。空も飛べるし、地面の中も移動できるし、まさに生き物の王者って感じよね」
……いや、普通のサメは海の中を泳ぐだけで、そんな事はできない。ミサキは映画の見過ぎだろう。
僕らはバスに乗り込むと、空中バスの管理ロボットに、行き先をを伝える。すると、空いている天井が閉まり、バスは動き出した。
『宇宙寺』は、かなり変っている。宇宙人の如来像を作り、観光客を呼び込み、さまざまなグッズを作って、金稼ぎの為に売っている。
これが日本の一般的なお寺だと思われたくないので、移動中に僕が説明をする。
「ザシャさん、これから行くお寺は、ちょっと変っているんです。宇宙人っぽい仏像とかあるんですよ」
「ふ~ん。お寺って確かブッダが奉ってあるのよね? それはブッタが宇宙人だったって解釈なのかしら?」
「えっ? いや、どうなんでしょう? 住職に聞いてみないと分らないですね」
「それは是非とも、会って聞いてみたいわね。手配をよろしくね」
「あっ、はい。いえ、ちょっと待って下さい」
これは、絶対に会わせる訳には行かない。金儲けの事しか考えて居ない住職に、ハリウッドスターを会わせたら大変な事になる、間違えなく金儲けの道具に使われるだろう。
まあ、巨大なサメを前に、住職がおびえて逃げ出さなければの話だけれど……
住職と会うのを引き留めようと、色々と言い訳を考えていると、バスのロボットがアナウンスが聞えてきた。
「『宇宙寺』につきまシタ。ご乗車、ありがとうございマス」
着くのが早すぎる! 言い訳を考える前に、あっという間に到着してしまった。
「どうやら着いたようね。じゃあ、先に降りているわよ」
空飛ぶバスの天井が開き、ザシャさんが上から飛び出していった。空が飛べない僕らは、あわてて乗降用のエレベータに乗り込み、地上へと降りていく。
駐車場に降りると、人気がほとんどなく、他の人には見られなかったらしい。
まあ、考えてみれば、1.5メートル以上離れると、ホログラムで人の画像に置き換わるので、たとえ遠くから見られても、『宇宙人の新しい道具で飛んでいる』とか、適当な言い訳をすれば、大丈夫だったかもしれない。
僕らはザシャさんを囲むようにして、歩いて行く。
1.5メートル以上離れれば大丈夫という事は、逆に言えば1.5メートル以内に入れば、ホログラムが外れるわけで、そうなるとパニックになるのはまぬがれないだろう。僕らは、他の人を近寄るのを、なんとしても防がなければならない。
ジミ子がこのお寺の事をスマフォで調べて、ガイドをする。
「このお寺は、かなり昔から存在していたそうです。500年前の和歌集に、このお寺を読んだ句があるそうです」
「あら、歴史のあるお寺なのね。きっと風情があるお寺なんでしょうね」
「そうだと良いですね……」
ジミ子が遠い目をする。そんなに歴史があるお寺なら、もう少し伝統を尊重して欲しかった……
お寺の敷地内は、幸運にも人が少なく、問題なく歩いていけた。
進んでいくと、やがて本堂と、その横に物販をおこなっている売店が見えてくる。
境内の中心に来ると、さすがに人が多い。特に売店の前は、人がごった返していた。
。
ザシャさんが売店の人混みに興味を持つ。
「日本のお寺では何を売っているのかしら? 私、目があまり良く無いから、この距離だと良く分らないの。アメリカの教会だと、聖水とかロザリオとか、碌な物は売っていなんだけど?」
その質問に、キングが答える。
「お寺も同じようなものです。聖水やロザリオの代りに、御守りとか、数珠だとか売ってます」
「へー、御守りとか良いわね。仏教の信者じゃないけど、私も買っていこうかしら」
ザシャさんがそう言って、売店に近づこうとするので、僕が慌てて止める。
「あっ、僕が買ってきます。御守りには種類があるので、その分野の知識が無いと、選ぶのが大変なんですよ」
「あらそうなの、じゃあ、あなたに任せるわ」
適当な言い訳をして、ザシャさんが売店に近づくのを防ぐ。人混みの中で、いきなりザシャさんの正体がバレるのは、絶対に避けなければならない。
店に近づいて行くと、置いてある物が、お寺の売り場とは思えないものが多い。
プレアデス星団の宇宙人のストラップ。どんな味がするか分らない宇宙饅頭。宇宙人と関係のある、姉ちゃんの写真のブロマイド、そして、『笹吹アヤカの妹さんとご学友』いうタイトルで、僕とキングのブロマイドまで売られていた。
とにかく、少しでも宇宙人と関連性があって、売れそうな物はおいてあるという感じだ。
変なグッズは見ない事にして、僕は御守りのコーナーを覗く。
『宇宙お守り』とか、訳が分らない物は候補から外して、一般的な御守りから選んだ方が良いだろう。
説明を見ながら、御守りの端から見て行くと、『健康祈願』や『長寿祈願』が目にとまった。この御守りだと、無難な気がするが、サメって風邪とか引くのだろうか? スマフォで調べると、『およそ400歳のサメが発見される』とか、ニュース記事が出てきたので、あまり健康面を心配しなくてもよさそうだ。
恋愛系、結婚系は、興味があるのか微妙だし、交通安全系も要らないだろう。
なかなか選ぶのが難しいと思っていたら、『千客万来』の御守りが目に止まった。映画の役者さんだし、これが良いだろう。僕はこの御守りを買って、ザシャさんに渡す。
「ザシャさん、御守りを買ってきました。『千客万来』という種類で、『お客さんがたくさん来るように』といった意味あいがあります」
「あら、そんな、お金に直結するような、下世話な御守りもあるのね。宗教だから、もっと崇高なイメージがあったわ」
「そう言われればそうですね。御守りは、個人的な願望に答える物が多いです」
「ふーん、なるほど。少し面白いわね。それもブッダの教えなの?」
「ええと、どうなんでしょうか? 違う気がするんですけど……」
確かに『金運上昇』『財産上昇』といった、剥き出しの金銭欲の御守りは、なんでお寺で売られているのだろうか?
言われるまで気がつかなかったが、考えてみれば、これは、そこにあってはならないアイテム、オーパーツなのかもしれない。
ザシャさんと話し込んでいると、遠くから僕らに声をかけてくる人物がいた。
「これは、笹吹アヤカの妹さん、よく来てくれました!」
振り返ると、そこにこのお寺の住職が居た。この人にザシャさんの正体がバレると、大変な事になる。なんとしても隠し通さなければならない。




