ハリウッドスター来襲 2
姉ちゃんが、ハリウッドの動物スターを招待した。その動物は、巨大なサメだ。体長7メートルはあろうかという巨大な体で、空中を優雅に泳ぎながら、僕たちに向って言葉を放つ。
「わたしの事は、気軽にザシャって呼んでね、今日は一日、よろしくね~」
ウインクをしてきた。どうやら見た目とは違い、気さくな人のようだ。
ミサキがいつの間にか色紙を取り出して言う。
「いつも映画を拝見しています。襲いかかるサメ嵐『タイフーン・シャーク』最高でした! 巨大タンカーをひと飲みする『ギガシャーク』とにかく凄かったです! よければサインを下さい!」
「いいわよ。映画を見てくれてありがとうね」
そう言って色紙を受け取ると、ヒレで器用にサインを書く。
ミサキの分が書き終わると、今度はヤン太が色紙を出す。
「『セブン・ヘッド・ジョーズ』見ました、強くてカッコ良かったです!」
『セブン・ヘッド・ジョーズ』とは、頭が7つあるサメが出てくる映画だ。続いてキングも色紙を出す。
「キョウエイゲームの『ジョーズ無双』シリーズ、とても面白いです。次の作品『ジョーズ無双5』も期待しています」
ジミ子もキングに続く。
「『クトゥルフvsジョーズ』を見ました。まさか最後に融合して、完全体に進化するとは思いませんでした」
「見てくれてありがとう。こんなにファンがいたのね。今、サインをあげるわ」
そう言って、次々にサインをしていく。
どうやってペンを持っているんだろうか? 不思議そうに見ていると、ザシャさんが僕にも声をかけてくれる。
「あら、あなたもサインが欲しいの?」
「あっ、はい、お願いします。もちろん、僕も映画を見ています」
「うれしいわね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
僕もついでにサインを貰えた。もしかしたら貰えるかと思って、色紙を用意しておいてよかった。
しかし、ミサキがいつも借りてくる、サメ映画を見ておいてよかった。ミサキの映画の選択は、いつもどうかと思う物が多いのだが、まさかこんな時に役に立つとは……
サインを貰い終わると、姉ちゃんが話を切り出す。
「私はこの後に会議があるから、あとはよろしくね」
ここで僕は重要な事を思い出した。
「あっ、そう言えば、『お忍び』の旅行なんだよね? これだと無理だと思うんだけど……」
ザシャさんは体長7メートルは超える、空飛ぶサメだ。どうやったって隠しきれない。
「ああ、ある程度は大丈夫よ。特別な装置を作動させるから、えいっと。はい、これで大丈夫。あなたたち、隣の部屋から、ちょっとこっちの部屋を覗いて見て」
「えっ? なんで?」
「まあ、いいからいいから」
姉ちゃんの言われるがままに、隣の部屋に行き、ザシャさんのいる部屋を覗く、すると、姉ちゃんの横には、一人の大柄の女性がたたずんでいるだけだった。巨大なサメはどこにもいない。
思わずミサキが声を上げる。
「あれ? ザシャさんが居なくなったわ?」
すると、姉ちゃんが得意気になって解説を始める。
「宇宙人の技術を使って、空中にホログラムで風景の画像を上書きしているの。あまり近くに寄るとバレちゃうけど、ある程度の距離をおけば平気よ。これなら大丈夫でしょ」
ザシャさんが居るはずの空中を見ながら、ゆっくり歩いて近づいて行く。すると、およそ1.5メートルの距離で、いきなり巨大なサメが現われた。なるほど、人混みさえ避ければ、何とかなるかもしれない。
「空飛ぶバスは手配しておいたから、じゃあ、よろしく。ザシャ、夕方くらいには会議が終わるから、その後にでも飲みましょう」
「わかったわ。また後で会いましょう」
姉ちゃんとザシャさんは、手とヒレを振り合って別れた。
僕がおそるおそるザシャさんに聞く。
「どこか見たい場所や、行きたい場所はありますか?」
「そうね。日本の神社やお寺とかは見てみたいわね。落ち着いた雰囲気がよさそう」
「分りました。行き先を相談するので、少々、お待ち下さい」
僕らだけで、どこに行こうかと話し合う。
「神社や仏閣だって、どこが良いかな?」
すると、ヤン太が答える。
「たしか、地元の場所で良いんだろ? 人混みはマズいって話だったし」
ジミ子がザシャさんをチラリと見ながら言った。
「まあ、人混みの中で、ホログラム画像がバレたら大変よね」
「そうね。バレたらハリウッドスターだし、人が殺到してしまうわ」
どうやらミサキは人が寄ってくると考えているらしい、僕は逃げ惑う人々しか思い浮かばないのだが……
「地元の神社や仏閣だったら、ここしかないだろ?」
キングがそう言って、スマフォで地元のお寺のホームページを見せる。
これが普通のお寺だったらよかったのだが、ホームページには、宇宙人をかたどったプレアデス如来の写真が写っていた。地元では、通称『宇宙寺』と呼ばれている、ちょっと変ったお寺だ。
僕がみんなに聞いてみる。
「うーん、他に思い当たる場所もないし…… ここに連れて行こうか?」
「そうだな」「いいわよ」「行こうぜ」
みんなOKをしてくれたが、連れて行く場所は、本当にここで良いのだろうか……




