ミステリーサークル講座
何か面白いテレビ番組がないか、番組表を眺めていると、気になるタイトルがあった。
『ミステリーサークル講座! プレアデス星団の宇宙人が出演します!』
どうやら宇宙人が出てきて、ミステリーサークルの謎について語ってくれるようだ。これは見逃せないだろう。
テレビの前で待っていると、やがて番組が始まった。
収録先は、どこか田舎の麦畑のようだ。小太りの人が出てきて、視聴者に問いかけるように言う。
「こんばんは、ジョルジュ・トカロフです。今日はミステリーサークルの謎や、作成方法について、色々と解明をして行きたいと思います。ゲストはこちら、皆さんご存じのプレアデス星団の宇宙人さんです」
「コンバンワー、ヨロシクネ」
いつもの宇宙人が、手を振って答える。
挨拶が済むと、畑の中に用意されている、アウトドア用の椅子に着席をした。
ジョルジュさんが、カメラに向って語りかける。
「さて、皆さんはもちろんミステリーサークルをご存じですよね。麦畑などに描かれた、様々な図形の事です。もちろん、宇宙人さんはご存じですよね?」
「最近、知ったヨ」
「あっ、ええと、宇宙人さんは、とても長生きなので、最近といっても100年とか1000年といった単位ですよね。分ります、では、さっそくミステリーサークルの作成に移りましょう」
宇宙人が致命的な発言をしようとしたので、強引に断ち切るように、ジョルジュさんが番組を進行して行く。
相変わらず、宇宙人はまるで空気を読まない。
「ミステリーサークルには、深い意味が込められています。今から作るミステリーサークルに、このメッセージを込めたいと思います」
そういってテロップを出す。そこには『このままでは人類は滅びる。自戒できない人類には、宇宙人による保護が必要』と書かれていた。
確かに宇宙人が来る前は、人類は自重できていなかった。いかにも宇宙人が送ってきそうなメッセージだ。
「では、このメッセージを元に図案を作成して下さい」
紙のボードとマジックペンを渡し、ジョルジュさんが宇宙人に無茶ぶりをする。
「ウーン、出来たヨ」
宇宙人は意外と早くミステリーサークルを描き上げた。
「早いですね。本物の宇宙人が描くミステリーサークルはどんな図形でしょうか、視聴者の方々に見せて下さい」
ジョルジュさんが少しもったいぶって言うと、宇宙人は手書きのテロップをカメラに見せる。
そこには英語で『このままでは人類は滅びる。自戒できない人類には、宇宙人による保護が必要』と、そのままの文章が書かれていた。
頭を抱えながらジョルジュさんが言う。
「ええと、そうではないんです。文字ではなく、図形で描いて欲しいんです」
すると宇宙人が不思議そうに答える。
「ナンデ? 図形にしてしまうと、メッセージが正確に伝わらないんじゃないカナ? 文字で伝えた方が分りやすくて間違いが無いでショ」
「……確かにそうかもしれませんが、ここは図形でお願いします。宇宙人は地球上の言葉が分らない設定になっていますので」
「ナンデ? 地球の言葉はすぐに翻訳できたケド?」
「……とにかく、地球では、ミステリーサークルは絵や図形や暗号で描くのが、マナーとなっています。マナーを守って下さい」
「マナーなら仕方ないネ。書き直すヨ」
宇宙人が図形を書き直す、今度は大丈夫だろうか……
しばらくすると、宇宙人が声を上げる。
「出来たネ」
「では見せて下さい」
宇宙人が見せると、それは4コマ漫画だった。
「話は聞かせてもらった! 人間は滅亡する」
「な、なんですって~!」
で、おなじみの、MNRのやり取りが描かれていて、その後に宇宙人の自画像が描き加えられていた。
セリフは一応、書かれていないが…… まあ、ネタ知っている人がいるなら、すぐに言いたい事は分るだろう。
ジョルジュさんが、頭を抱えながら言う。
「ええと、そこまで分りやすい表現はダメです。もっと分りにくい表現でお願いします」
「分りやすい表現がダメってナンデ? 分りやすい方がイイんじゃナイノ?」
「ダメです。ミステリーサークルはミステリアスでないとダメなんです。もっと抽象的で、幾何学的な図形でお願いします」
「ム、難しいネ……」
宇宙人が困った顔をする、ここまで困った顔は、もしかしたら初めてみるかもしれない。
筆が止まった宇宙人に対して、ジョルジュさんが救いの手を差し出す。
「難しいですよね。そこで、今回は私らでサンプルを用意しました。今日はこれを元にミステリーサークルを、畑に描いていきましょう」
出してきたテロップには、丸や四角などで描かれた。いわゆる一般的なミステリーサークルの図形があった。
幾何学的で美しいが、『このままでは人類は滅びる~』といったメッセージは、一切、感じられない。
「さて、宇宙人さんの未知の技術で、この図形を畑に描いて下さい」
「分ったヨ。畑にコピーをするネ」
そう言って、手を叩くと、小さなUFOらしき飛行物体が現われた。そこからレーザーのような光線が出てきて、図形を麦畑に描き出す。
こうして、図形は見事に麦畑に写し取られたのだが…… ものすごく小さい。いや、おそらくテロップと同じ、50センチほどの大きさなので、そのままの大きさをコピーしたみたいだ。
これにはジョルジュさんがあきれながら言う。
「いえ、もっと大きな縮尺で描いてください。一辺が30メートルとかでお願いします」
「ナンデ? そんなに大きく描くと、近くから図形が分らないんじゃナイ?」
「近くから把握できない良いんです。上空から眺めて、やっと図形が分る大きさでないと、意味がないんです?」
「意味が分らないネ……」
「良いですか、そもそもミステリーサークルという物は……」
宇宙人を相手に、ジョルジュさんのミステリーサークル講座が始まった。
確かに宇宙人はミステリーサークルの知識が乏しい。ここで、覚えてもらうのが良いのかもしれない。
ジョルジュさんが事細かく伝えていき、番組の最後でミステリーサークルが出来上がった。
「ふう、なんとか出来上がりました。どうですみなさん、完璧なミステリーサークルですよ」
「ルールやマナーが多くて、作るの大変だったヨ。マタネー」
宇宙人とジョルジュさんが手を振って、番組が終わる。無事に出来上がったのは良いのだが、ミステリーサークルは、宇宙人からのメッセージという設定は、番組の途中でどこかに行ってしまったようだ……




