決闘シュミレーター 4
3戦目、姉ちゃんが対戦者を決めるクジを引いた。
「池畑くんとヤン太くん、2人とも前に出て」
畑池くんという人は、身長があり、体格もしっかりとしている。普通に見ると、体格の小さなヤン太が敵う相手ではないのだが……
ヤン太が見上げるようにニラみながら、話しかける。
「下巣高校の池畑か、相手にとって不足はねぇーな」
「おう、この間は負けたが、倍にして返してやるぜ」
2人が近距離でメンチを切り始めた。
「いったん2人とも離れてくれる。すぐに試合を始めるから」
姉ちゃんがいったん距離を取るように言うと、2人とも素直に従った。
「では行くわよ。池畑くんとヤン太くん、ファイト!」
試合開始と共に、池畑くんが大きく振りかぶりながら殴りかかる。
「うりゃあ!」
「甘い!」
ヤン太は大ぶりのパンチをかいくぐるように避けると、池畑くんの脇腹にジャブを2~3発、叩き込んだ。
「うぐっ、なんの!」
池畑くんはジャブをもらいながら、回し蹴りをヤン太に放つ。
「うぉ、やるな!」
ヤン太はとっさにガードをしたが、蹴りをくらって少し後ろによろけた。どうやら完全には受けられずに、少しダメージをもらってしまったようだ。
ちゃんとした戦いに、思わず声をあげるミサキ。
「おお、すごい、格闘ゲームみたい」
その言葉に、キングが突っ込みを入れる。
「ゲームじゃなくてリアルだけどな。でも、こうした戦いをみてると、格闘とかやった事が無い俺とかが、これに参加するのは場違いな気がするな……」
すると、いつの間にか、すぐ横にきていた、白木くんが反論をする。
「そんな事は無いッスよ。キングさんは格闘もイケてますって!」
白木くんは、下巣高校の見方の応援をせず、ほとんどキングしか見ていない。
ジミ子があきれながら言う。
「はいはい、今はヤン太が戦っているから、そちらを見ましょうね」
ヤン太と池畑くんの決闘は、クライマックスに達していた。
池畑くんのボディブローを、ヤン太がガードしようとするが、上手くガードできずにそのまま攻撃をくらう。
「うお、もう左手があがらねぇ。お返しだ」
ヤン太がすかさずアッパーカットで殴り返す。池畑くんはこれを下がって回避しようとするのだが、これも回避ができずに攻撃をくらった。
「足がだいぶ重くなってきたぜ。ろくに歩けねぇ」
姉ちゃんが手元のタブレット端末を見ながら言う。
「2人とも、そろそろ体力ゲージが尽きそうだわ。次の一撃で、勝敗が決まるかもね」
勝負が終盤だと分り、2人は少し距離を取る。しばらく2人の動きが止まり、お互いの出方をうかがう。
「いっけぇ、うぉらぁ」
やがて、池畑くんが無理やり助走をつけて殴りかかった。ヤン太はそれ避けずに、額で受け止めて、腹の部分を肘打ちで打ち返す。
どちらも同じように、大ダメージを受けたように見えたのだが、池畑くんがパタリと倒れてしまった。
「くそう、やられた。立ってられねぇ」
「ふう、どうにか勝ったみたいだぜ」
ヤン太が安堵のため息をつく。勝ったヤン太もフラフラとしているので、かなりギリギリの勝負だったみたいだ。
試合が終わり、ヘルメットを脱いだヤン太が、感想を言う。
「痛みは無いが、ダメージを受けて動けなくなる所は、意外と実践に近いかもな」
「ああ、そうだな。かなり再現度が高いと思うぜ。これは面白い」
池畑くんもニヤけながら答えた。2人とも、かなり評価が高そうだ。これは良いシステムなのかもしれない。
ヤン太と池畑くんの試合が終わったので、姉ちゃんが次の試合のクジを引く。
「では、次の試合を始めるわよ。多田くんとキングくん、前に出て」
多田くんは、中肉中背。キングと比較すると小さく見えるが、僕やミサキより少し背が高い。
キングには格闘経験が無いので、相手にそれなりの経験があれば、簡単に負けるだろう。
試合をする前に、多田くんが姉ちゃんに確認をする。
「このスーツって、関節技も大丈夫なんですよね?」
「ええ、どんなに力を掛けても骨は折れたりしないわ。痛みはそれなりにあるでしょうけど」
「分かりました。じゃあ、試合開始と行きましょう」
多田くんが両手を上げて構えをとる。掴みにかかるような姿勢なので、柔道かレスリングをやっているのかもしれない。
「多田くん、キングくん。じゃあ、試合開始。ファイト!」
姉ちゃんのかけ声と共に、試合が始まった。
試合が始まると、多田くんがキングの前に腕を差し出す。
「キングさん、このスーツの関節技のチェックも必要でしょう。俺に自由に関節技をかけて下さい」
「えっ? 良いのかな?」
キングが不思議そうな顔をするが、多田くんは構わず押しすすめる。
「どうぞどうぞ、好きにやって下さい」
やはり、多田くんはレスリングか何かの経験者で、素人の関節技など効かないという、余裕の表れだろう。
キングは腕をつかむと、確認しながら、たどたどしい感じで関節技をかけていく。
「ええと、プロレスゲームでみた時は、こんな感じでかけてたな」
そう言いながら、有名な関節技、コブラツイストを掛けた。
キングが多田くんの腕とあばらを、胸に押し当てて逆方向に締め上げる。素人の関節技なので、ちゃんと相手に効いているのか分からない。しばらくすると、多田くんから、小さな声が漏れてきた。
「い、イタタ。はぁはぁ、キングさんの胸が当ってる!」
これを聞いて、下巣高校のメンバーが、ボソボソと会話を交わす。
「あの野郎、うまくやりやがったな」
「キングさんと密着できるなんて、うらやましい」
どうやら関節技としての効果はありそうだが、他に色々と問題がありそうな感じだ……




